ゴーレムは恋を知る

キザキ ケイ

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本編

02.ゴーレムは水晶でできている

 ずしん、ずしんと地面が揺れる。
 自分が歩くと大きな音が鳴ると気づいてからは、なるべくゆっくり、そっと足を下ろして歩くように心がけているけれど、どうしても大きな音がしてしまうので最近はちょっとあきらめてる。

「今日もいい天気だなぁ」

 梢の隙間から青い空を見上げると、小鳥さんたちがぴぴぴと挨拶しながら飛び立っていった。
 飛んでいく群れを見送って、ずしん、ずしんと歩く。
 小さな川のところまで来た。
 ちょろちょろと細い水の流れは、太い倒木がほどよく置いてある。
 現在のおだやかさからは思いも寄らないほど、雨が降ると強く流れるようになるこの川は、小さないきものたちの困りだねになっていた。
 そこへ力持ちの「ぼく」が手を上げて、苔むした倒木を持ってきて横たえた。
 倒木には隙間があるので川の流れを止めることなく、水の量をへらす。でこぼこした木の皮を伝っていけば、小さないきものたちも安心して渡れる。
 今もリスさん親子が倒木の上を走っていった。

「くずれたり、流されたところはないみたい」

 いくつかの枯れ木の橋を見て回ってから、川にかがみ込む。
 川にはところどころ、水が渦巻いているところがあって、そういうとこにはリスさんよりさらに小さないきものたちが暮らしている。
 こうした生命のいとなみを眺めるのが、日々のおさんぽの楽しみのひとつだ。

「お魚さんだ」

 水中には小さな魚さんたちが、銀色のうろこをきらめかせて泳いでいる。
 水面には、「ぼく」が映っている。
 ぼくは、大きな岩にしか見えない。
 光を通す透明で大きな岩のかたまり。それが動いて歩いてしゃべってる。
 自分でもふしぎだけれど、これがぼくなんだ。

 ぼくには大きな岩の胴体と、小さな岩の頭がある。
 水鏡で見る限り、ぼくに目や鼻はないけれど、周囲の景色を見ることはできているし、草花のかおりをかぐこともできる。
 口もないけれど、頭の近くに亀裂のようなところがあって、ここからひゅうひゅうと、洞窟に抜ける風のように声を出すことができる。
 平たい肩からは大きな岩のかたまりがごろっとくっついて伸びていて、これが腕。
 胴のおわりにも岩のかたまりがごろごろっとくついていて、これが足。
 ぼくの体はいくつもの岩のくっつきあいでできていて、だからとっても重くて、歩いても寝転がっても音と振動がひびいてしまう。

 はじめ、うるさいぼくは小さなものたちに嫌われていた。
 とても悲しかった。
 でもぼくはめげなかった。
 小さないきものたちのために、できることをせいいっぱいがんばった。
 いきものたちの住むところが荒れていたら整えて、ごはんを食べるところへ行きやすようにした。さっき通った倒木の橋もそのひとつ。地面がくずれてしまったところや、転がり落ちそうな大岩をとりのぞいたりもした。
 それから、見かけたみんなに「こんにちは」とあいさつしてまわった。
 なるべく怖くみえないように、明るい声で大きな声で。
 そうしたら、だんだん逃げられなくなって、いきものが近づいてきてくれるようになって。
 今ではぼくの頭の上で休んだり、ぼくの肩にのぼっては降りていったり、仲よくなれたと思う。
 ぼくのおさんぽルートはいつもだいたい同じだから、川から平原へ、平原から森へと行きたいいきものたちが、ぼくの肩や背中を「のりもの」として使っている。
 嫌なら振り払えばいいと言われたけれど、ぼくは全然嫌じゃない。
 むしろうれしいんだ。
 小さなものたちがぼくによじ登って、つぶらな目でぼくをじっと見つめるとき、この上なく幸せだと思う。

「こんにちは、小鳥さん」
「ぴちちっ」
「こんにちは、オオカミさん」
「あぁ、こんにちは」

 この山にはときどき、お話ができるいきものがいる。
 この灰色の毛のオオカミさんもその一匹だ。

「今日も見回りか、アメトリン」

 ぼくはこっくりうなずいて、谷を横切って川上まで行くというオオカミさんといっしょに歩くことにした。
 いつの頃からか、ぼくは「アメトリン」と呼ばれるようになった。
 誰がそう呼びはじめたのかは知らない。
 ぼくの体が、黄色と紫色の石でできていることが由来なのだと教えてもらった。
 それってとってもすてきだ。
 だからぼくは「アメトリン」という名前を気に入っている。

 頭の上で羽をつくろっている小鳥さんと、ぼくの横を歩くオオカミさんと、泉を目指して歩く。
 山の木々は放っておくとたくさん生えすぎてしまって、よくないことが起きるというので、ときどき木や枝を切りながらおさんぽする。
 ぼくの体はどうしてか、とっても力持ちで、木を切ったり岩をどかしたり、なんでもできてしまうのだ。
 ぼくのような力持ちがいると、山はすこやかに過ごすことができるという。
 ぼくはこの大地の役にもたてているのだ。

「こんにちは、ヘビさん」

 木の枝から身を乗り出していたヘビさんに腕を差しだすと、しゅるしゅると器用に乗り移ってきた。
 そのまま肩のあたりにおさまる。
 頭の上では、小鳥さんがぴちぴちおしゃべりしているけれど、ヘビさんとケンカすることはない。
 このヘビさんは鳥さんを食べないし、この鳥さんもヘビさんを食べない。
 やがて鳥さんは飛び立っていき、ヘビさんは川の手前で肩から降りていった。
 オオカミさんとも川の上流で別れた。

「ふもとに人間が来ていたらしい。気をつけろ、アメトリン」

 迎えにきたツガイさんとともに去っていくオオカミさんを見送って、ぼくは考える。
 人間というのは、山のみんなが怖がっている、おそろしいいきもののことだ。
 人間はそれほど大きくないけれど、群れで行動していて、とても凶暴で凶悪で、残酷だという。
 ぼくはまだ見たことがない。
 ぼくみたいなものがいない場所には、決まって人間がやってくるらしい。
 人間はたくさんの木を切ってしまう。水を汚してしまう。いきものたちを殺して、追いやってしまう。
 幸い、ここにはぼくがいて、人間はぼくが怖くて山に入ってこないらしい。
 ぼくのどこが怖いのかはわからないけど、ぼくがいるだけで山が平和でいられるのなら、よいことだと思う。
 みんなは人間の見分け方を教えてくれた。
 人間はいつも群れでいて、ぼくと同じように二本の足で立って、毛があまり生えてないらしい。

「毛が生えてないもの同士、仲よくできないかなぁ」

 ぼくはそんなふうに思うけれど、人間たちはどうだろう。
 ゆっくりと山をめぐったあと、寝床に帰った。
 山の中ほどにある、ぽっかり空いた洞穴がぼくのおうちだ。
 洞穴はぼくがすっぽり入るほど広いので、ケガをしたいきものが逃げ込んできたり、巣にいられなくなった小動物の親子が子育てをしたりすることもある。
 そういうとき、ぼくはじっと動かずに、同居相手をそっと守ってあげるんだ。
 手足をちぢめて眠って、目が覚めたときに明るかったら、のそのそ起きて山を散歩する。
 目が覚めたときに暗かったら、洞の中から星空を眺めて過ごす。
 ぼくはのんびりと、マイペースに暮らしている。

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