ゴーレムは恋を知る

キザキ ケイ

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本編

04.冒険者に出会う

 次の日から、日のある時間に目が覚めたらぼくは穴のあった場所まで行くことにした。
 両腕にいっぱい、たくさんの枯れ草や枯れ葉を抱えて向かう。
 あの落とし穴は、ほかにもいくつか掘られていた。
 魔法で無理やり掘ったのか、土の中で生きるいきものたちを掘り起こしたうえ、近くに立っていた木々の太い根まで切ってしまっていた。
 地中のいきものたちは、穴が埋め戻されたことで新しいおうちを作るべく戻っていったけれど、根を切られた木々は傷つき、このままでは枯れてしまうかもしれない。
 ぼくのせいで、ぼくがいたから、こんなことになってしまった。
 悲しむぼくに、みんなが知恵をさずけてくれた。
 木々の根がすべてなくなってしまったわけではない。失われたところをおぎなう元気を与えればよい、と。
 だからぼくは、腐葉土の材料となる枯れ葉や枯れ草を集めてせっせと運んでる。
 この枯れ葉を土にしいて、たっぷり水をまいて微生物の活動をうながしてやると、ふかふかの腐葉土ができあがるらしい。
 長い時間がかかるというけど、山のみんなが協力してくれているから、きっとなんとかなるだろう。

「おはよう、アメトリン。どこへ行くの?」
「おはよう、小鳥さん。根を切られた木のところだよ」

 その日一番にぼくの肩にとまったのは、きれいな青色の羽をもつ小鳥さんだ。
 ほとんどの鳥さんは、ぼくにはわからない言葉でぴちぴちと歌うのだけど、カラスさんやこの青い小鳥さんなど、お話できる鳥さんもいる。

「わたしも見に行くわ。そこまで人間が来たのでしょう?」
「そうだよ。人間が穴を掘って、木の根を切ってしまったんだ。ぼくのせいだよ」
「あら、悪いのは人間よ。アメトリンのせいじゃないわ」
「みんなそう言うけど、でも……」

 自然とうつむいてしまう。
 ぼくがいなければ、人間たちはあんな大きな穴を掘らなかっただろう。大きな穴が掘られなければ、木々も根を傷つけられはしなかった。
 この山にとってぼくは異物だ。
 いつか、いなくならなきゃいけない日が来るかもしれない。

「まぁ、大変。また人間が来たわ」

 青い小鳥さんがぴちちと鳴く。
 頭上の木々でさえずる小鳥さんたちからの知らせらしい。
 ふもとの村から再び人間が山に入った。身なりが猟師や木こりとはちがう、とのこと。

「冒険者かもしれないわ」
「ぼーけんしゃ……」

 落とし穴を掘った人間たちが来たときも、ナマズさんがそう呼んでいた。

「わたしたちのような生き物を殺す人間よ。殺して、羽毛や皮や角を奪って、金に換えるの。恐ろしい連中よ」
「そんな……」

 抱えた枯れ葉がバサバサと落ちる。
 山のみんなが殺されてしまうなんて嫌だ。
 以前やってきた人間たちは、アメトリンを攻撃してきた。
 あれが動物たちに当たれば。
 木々に当たって火事にでもなれば。
 それに、人間はまた穴を掘るかもしれない。また木々が傷ついてしまうかもしれない。

「……変なことをされる前に、帰ってもらう」
「アメトリン、どうする気?」
「穴を掘られたら木が傷つく。魔法を打たれたらどんなひどいことになるかわからない。そうなる前にぼくが行けば、帰ってもらえるかもしれない」
「危険だわ。泉のナマズも大ガラスも、アメトリンにそんなことお願いしなかったでしょ?」
「でも……ぼくはみんなを守りたいんだ」

 ふもとへ向けて歩き出す。
 いつもなるべくゆっくりと動くようにしていた。大きな体でのっしのっしと歩くと、小さないきものたちをびっくりさせてしまうから。
 今はそれを気に掛けられない。

「気を付けて。人間が目撃されたのはこのあたりよ」

 小鳥さんが木の枝へ乗り移り、ぼくは一匹になった。
 心細いけど、みんなを巻き込むわけにいかない。
 集中すると、山のみんなとはちがう気配を持つ、大きめの生物がこの先にいるとわかった。
 歩く速さを上げる。
 ほとんど斜面を転がり落ちるように走って、走って、やや開けた面に出た。

「が、がおーっ!」

 ぼくは吠えた。
 両腕を高く持ち上げて吠えた。
 せいいっぱい、強そうないきものの鳴き声をまねて吠えた。
 朽ちた倒木の作り出す開けた広場には、木に隠れてひとりの人間がいた。
 全体的に黒っぽい。
 ところどころ金属を身にまとっているのは、先日見た人間たちと同じだ。
 でも、あの人間たちとは明らかに違うところがあった。
 刺されそうなほどするどい気配と、きらりと光る目。

「出たか」

 低くつぶやくなり、人間は軽い身のこなしで距離を取る。
 そのまま去ってくれないかというぼくの願いはすぐにかき消される。

「うわぁっ」

 突然、ぼくの周りに炎の壁が吹き上がった。
 あの人間の魔法だ。
 魔法を使うとわかる動きや声がなかった。それにすごい火だ。
 とはいえぼくに魔法は効かない。
 すぐさま足を踏み鳴らして、炎を消しにかかった。
 大地に降り積もった枯れ枝や葉は火が付きやすい。燃え広がれば山火事になってしまう。

「なんてことするんだ! 山で火の魔法を打つなんてひどいよ!」
「まさか……言葉を操るのか?」

 人間は、ぼくが話しかけたことにびっくりしているようだった。
 魔法はもうなさそうだったので、ていねいに地面を踏み固めて火を消していく。
 枯れ草や生木が焦げた煙が立ち上り、消えていく。
 ふと振り向くと、人間はいなくなっていた。

「火つけるだけつけていなくなった……まったくもう」

 火をつけるわ地面を掘るわ、なんて迷惑なのだろう。
 でも、なんとかもう一度、人間を追い払うことができた。
 草木の下にまだ火が埋まっているかもしれない。あとで水を撒きにこなくては。腐葉土作りもしないと。
 忙しくなりそうだと、急いでその場を後にしたぼくは、先ほどの人間がはなれた場所からじっと見つめていたことに気づかなかった。

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