ゴーレムは恋を知る

キザキ ケイ

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本編

07.冒険者ギルドにて

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 行方不明となっていたA級冒険者が帰ってきたという知らせを受け、冒険者ギルド統括本部長は泡を食って本部を飛び出した。
 知らせを出したのは、彼が向かった山岳地域に一番近いギルド支部だ。
 果たして、くだんの冒険者はけろりとした様子でそこにいた。

「あぁラグナ! 無事だったのか!」

 支部ギルドの応接間でソファに座っていたラグナは、気安く手を上げて本部長を迎えた。

「無事ではないが、帰還した」
「無事じゃないのか!?」

 ラグナは帰還時、足を負傷していた。
 それ以外にも全身に打撲や擦過傷があったが、ただちに治癒魔法を施されたため、今はどこも痛みはない。
 足も捻挫程度だったため、すっかり治っていた。
 ただ、室内が妙ににおう。
 雨上がりの青草のようなにおいに首を傾げつつ、本部長は身を乗り出す。

「帰還を心から歓迎する。よく戻ってきてくれた。それで、例のゴーレムは確認できたか?」
「交戦しそうになった」
「偵察だけって言ったよね!?」

 比喩ではなく泡を吹きそうになりつつ聞き取ったところによると、山に入ったところで魔物に襲われ、交戦中にクリスタルゴーレムが出現、広範囲魔法によって戦闘不能にさせられたという。
 その前にも、気配を消していたのに場所を悟られたことがあった。
 単騎かつ準備が不十分だったとはいえ、A級冒険者をいとも簡単に発見し倒すクリスタルゴーレムという魔物の恐ろしさに、第一線を離れて久しい統括本部長は震えあがった。

「やはり危険なゴーレムのようだな……」
「いや、そうでもない」
「根拠は?」
「奴のねぐらで看病された。なんなら添い寝もした」
「何してんの!?」

 あまりの衝撃に気絶しそうに思いながら聞き取ったところによると、クリスタルゴーレムは信じられないほど温厚で、自ら傷つけたラグナに治療を試み、命を奪うことはしないと言ったという。

「ん? 『言った』って……」
「あぁ、クリスタルゴーレムは話せる。人間の言語だった」
「まさか……!」

 言葉を操り、人を惑わす魔物は存在するが、みな高位に位置づけられている危険な存在だ。
 言語を解するゴーレムはこれまで確認されていない。
 それどころか、話すゴーレムなど。
 極めて危険な魔物と邂逅したというのに、ラグナは相変わらずあまり危機感を抱いていないようだ。

「そもそも最初に交戦したのも、高位魔物『ヤタガラス』だ。クリスタルゴーレムがしゃべってもあまり驚かなかった」
「ヤタガラスがいるのか!?」
「クリスタルゴーレムのそばには『フェニックス』もいた。魔大陸由来の、青い炎の不死鳥だ」
「青いフェニックス……目撃例が一件しかない伝説の魔物じゃないか!」
「伝説なのはクリスタルゴーレムも同じだがな」

 つまり例のゴーレムはやはり、他の魔物と群れている。
 頭を抱える本部長を後目に、ラグナは山の植生自体に変わったところはないこと、クリスタルゴーレムはじめいくつかの高位魔物を見かけた以外に生態の変化も見受けられなかったことをのんびりと報告した。

「高位魔物が三種類もいる時点で異常事態だと思うがな……」
「まぁそうだな。ほかにもいないか見てくる」
「あぁ……えっ、また偵察に行くということか?」

 本部長は驚いて二度見した。
 ラグナは気性の荒い冒険者たちの中でも、比較的話のできる相手ではあるが、彼の理念に反する仕事は受けてもらえないし、断る権限も持っている。
 それが最上級冒険者というものだ。
 そんな彼が、嫌々受けた依頼を継続してくれるとは。

「偵察というか、あいつに会いに行く」
「あいつって……」
「知ってるか、魔物にも名前があるらしい。あいつは『アメトリン』と名乗っていたぞ」

 ラグナにとって聞き覚えのないその単語の意味を、彼はわざわざ調べたという。
 ほうぼう聞きまわり、やっと見つけた情報源は旅の宝石商だった。

「名前の通り、透き通った紫色と黄色の、きれいな結晶だった。魔物にもネーミングセンスがあるやつがいるんだと驚いたもんだよ」
「……ラグナ。魔物に入れ込むのは危険だ」
「わかってるさ。だが言葉が通じるなら、人間と魔物、双方が納得できる落としどころを見つけられるかもしれない。このままでは鉱山村に勝ち目はない。……あのゴーレムは、強い」

 ラグナの足元を丸ごと削り取って鋭利な石と化したあの魔法、そして豊富な魔力は、敵に回せば多くの死者が出るだろう。
 群れているほかの魔物も高位で、かつデータがほとんどない点も脅威だ。
 しかし魔物たちを統べていると思しきクリスタルゴーレム・アメトリンは穏健で、十分に対話が可能そうだった。
 場合によってはラグナが人間側の表に立ち、山の魔物を仲裁する立場になるかもしれない。
 そんな面倒極まる立場になるとしても……悪くないと思った。
 人のように話し、人のようにふるまうアメトリンに、自分は今、不思議な魅力を感じている。
 もう一度話をしたい。
 ギルド本部を出たラグナは、その足で野営の準備のために市場へ向かったのだった。
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