7 / 31
本編
07.冒険者ギルドにて
しおりを挟む
行方不明となっていたA級冒険者が帰ってきたという知らせを受け、冒険者ギルド統括本部長は泡を食って本部を飛び出した。
知らせを出したのは、彼が向かった山岳地域に一番近いギルド支部だ。
果たして、くだんの冒険者はけろりとした様子でそこにいた。
「あぁラグナ! 無事だったのか!」
支部ギルドの応接間でソファに座っていたラグナは、気安く手を上げて本部長を迎えた。
「無事ではないが、帰還した」
「無事じゃないのか!?」
ラグナは帰還時、足を負傷していた。
それ以外にも全身に打撲や擦過傷があったが、ただちに治癒魔法を施されたため、今はどこも痛みはない。
足も捻挫程度だったため、すっかり治っていた。
ただ、室内が妙ににおう。
雨上がりの青草のようなにおいに首を傾げつつ、本部長は身を乗り出す。
「帰還を心から歓迎する。よく戻ってきてくれた。それで、例のゴーレムは確認できたか?」
「交戦しそうになった」
「偵察だけって言ったよね!?」
比喩ではなく泡を吹きそうになりつつ聞き取ったところによると、山に入ったところで魔物に襲われ、交戦中にクリスタルゴーレムが出現、広範囲魔法によって戦闘不能にさせられたという。
その前にも、気配を消していたのに場所を悟られたことがあった。
単騎かつ準備が不十分だったとはいえ、A級冒険者をいとも簡単に発見し倒すクリスタルゴーレムという魔物の恐ろしさに、第一線を離れて久しい統括本部長は震えあがった。
「やはり危険なゴーレムのようだな……」
「いや、そうでもない」
「根拠は?」
「奴のねぐらで看病された。なんなら添い寝もした」
「何してんの!?」
あまりの衝撃に気絶しそうに思いながら聞き取ったところによると、クリスタルゴーレムは信じられないほど温厚で、自ら傷つけたラグナに治療を試み、命を奪うことはしないと言ったという。
「ん? 『言った』って……」
「あぁ、クリスタルゴーレムは話せる。人間の言語だった」
「まさか……!」
言葉を操り、人を惑わす魔物は存在するが、みな高位に位置づけられている危険な存在だ。
言語を解するゴーレムはこれまで確認されていない。
それどころか、話すゴーレムなど。
極めて危険な魔物と邂逅したというのに、ラグナは相変わらずあまり危機感を抱いていないようだ。
「そもそも最初に交戦したのも、高位魔物『ヤタガラス』だ。クリスタルゴーレムがしゃべってもあまり驚かなかった」
「ヤタガラスがいるのか!?」
「クリスタルゴーレムのそばには『フェニックス』もいた。魔大陸由来の、青い炎の不死鳥だ」
「青いフェニックス……目撃例が一件しかない伝説の魔物じゃないか!」
「伝説なのはクリスタルゴーレムも同じだがな」
つまり例のゴーレムはやはり、他の魔物と群れている。
頭を抱える本部長を後目に、ラグナは山の植生自体に変わったところはないこと、クリスタルゴーレムはじめいくつかの高位魔物を見かけた以外に生態の変化も見受けられなかったことをのんびりと報告した。
「高位魔物が三種類もいる時点で異常事態だと思うがな……」
「まぁそうだな。ほかにもいないか見てくる」
「あぁ……えっ、また偵察に行くということか?」
本部長は驚いて二度見した。
ラグナは気性の荒い冒険者たちの中でも、比較的話のできる相手ではあるが、彼の理念に反する仕事は受けてもらえないし、断る権限も持っている。
それが最上級冒険者というものだ。
そんな彼が、嫌々受けた依頼を継続してくれるとは。
「偵察というか、あいつに会いに行く」
「あいつって……」
「知ってるか、魔物にも名前があるらしい。あいつは『アメトリン』と名乗っていたぞ」
ラグナにとって聞き覚えのないその単語の意味を、彼はわざわざ調べたという。
ほうぼう聞きまわり、やっと見つけた情報源は旅の宝石商だった。
「名前の通り、透き通った紫色と黄色の、きれいな結晶だった。魔物にもネーミングセンスがあるやつがいるんだと驚いたもんだよ」
「……ラグナ。魔物に入れ込むのは危険だ」
「わかってるさ。だが言葉が通じるなら、人間と魔物、双方が納得できる落としどころを見つけられるかもしれない。このままでは鉱山村に勝ち目はない。……あのゴーレムは、強い」
ラグナの足元を丸ごと削り取って鋭利な石と化したあの魔法、そして豊富な魔力は、敵に回せば多くの死者が出るだろう。
群れているほかの魔物も高位で、かつデータがほとんどない点も脅威だ。
しかし魔物たちを統べていると思しきクリスタルゴーレム・アメトリンは穏健で、十分に対話が可能そうだった。
場合によってはラグナが人間側の表に立ち、山の魔物を仲裁する立場になるかもしれない。
そんな面倒極まる立場になるとしても……悪くないと思った。
人のように話し、人のようにふるまうアメトリンに、自分は今、不思議な魅力を感じている。
もう一度話をしたい。
ギルド本部を出たラグナは、その足で野営の準備のために市場へ向かったのだった。
知らせを出したのは、彼が向かった山岳地域に一番近いギルド支部だ。
果たして、くだんの冒険者はけろりとした様子でそこにいた。
「あぁラグナ! 無事だったのか!」
支部ギルドの応接間でソファに座っていたラグナは、気安く手を上げて本部長を迎えた。
「無事ではないが、帰還した」
「無事じゃないのか!?」
ラグナは帰還時、足を負傷していた。
それ以外にも全身に打撲や擦過傷があったが、ただちに治癒魔法を施されたため、今はどこも痛みはない。
足も捻挫程度だったため、すっかり治っていた。
ただ、室内が妙ににおう。
雨上がりの青草のようなにおいに首を傾げつつ、本部長は身を乗り出す。
「帰還を心から歓迎する。よく戻ってきてくれた。それで、例のゴーレムは確認できたか?」
「交戦しそうになった」
「偵察だけって言ったよね!?」
比喩ではなく泡を吹きそうになりつつ聞き取ったところによると、山に入ったところで魔物に襲われ、交戦中にクリスタルゴーレムが出現、広範囲魔法によって戦闘不能にさせられたという。
その前にも、気配を消していたのに場所を悟られたことがあった。
単騎かつ準備が不十分だったとはいえ、A級冒険者をいとも簡単に発見し倒すクリスタルゴーレムという魔物の恐ろしさに、第一線を離れて久しい統括本部長は震えあがった。
「やはり危険なゴーレムのようだな……」
「いや、そうでもない」
「根拠は?」
「奴のねぐらで看病された。なんなら添い寝もした」
「何してんの!?」
あまりの衝撃に気絶しそうに思いながら聞き取ったところによると、クリスタルゴーレムは信じられないほど温厚で、自ら傷つけたラグナに治療を試み、命を奪うことはしないと言ったという。
「ん? 『言った』って……」
「あぁ、クリスタルゴーレムは話せる。人間の言語だった」
「まさか……!」
言葉を操り、人を惑わす魔物は存在するが、みな高位に位置づけられている危険な存在だ。
言語を解するゴーレムはこれまで確認されていない。
それどころか、話すゴーレムなど。
極めて危険な魔物と邂逅したというのに、ラグナは相変わらずあまり危機感を抱いていないようだ。
「そもそも最初に交戦したのも、高位魔物『ヤタガラス』だ。クリスタルゴーレムがしゃべってもあまり驚かなかった」
「ヤタガラスがいるのか!?」
「クリスタルゴーレムのそばには『フェニックス』もいた。魔大陸由来の、青い炎の不死鳥だ」
「青いフェニックス……目撃例が一件しかない伝説の魔物じゃないか!」
「伝説なのはクリスタルゴーレムも同じだがな」
つまり例のゴーレムはやはり、他の魔物と群れている。
頭を抱える本部長を後目に、ラグナは山の植生自体に変わったところはないこと、クリスタルゴーレムはじめいくつかの高位魔物を見かけた以外に生態の変化も見受けられなかったことをのんびりと報告した。
「高位魔物が三種類もいる時点で異常事態だと思うがな……」
「まぁそうだな。ほかにもいないか見てくる」
「あぁ……えっ、また偵察に行くということか?」
本部長は驚いて二度見した。
ラグナは気性の荒い冒険者たちの中でも、比較的話のできる相手ではあるが、彼の理念に反する仕事は受けてもらえないし、断る権限も持っている。
それが最上級冒険者というものだ。
そんな彼が、嫌々受けた依頼を継続してくれるとは。
「偵察というか、あいつに会いに行く」
「あいつって……」
「知ってるか、魔物にも名前があるらしい。あいつは『アメトリン』と名乗っていたぞ」
ラグナにとって聞き覚えのないその単語の意味を、彼はわざわざ調べたという。
ほうぼう聞きまわり、やっと見つけた情報源は旅の宝石商だった。
「名前の通り、透き通った紫色と黄色の、きれいな結晶だった。魔物にもネーミングセンスがあるやつがいるんだと驚いたもんだよ」
「……ラグナ。魔物に入れ込むのは危険だ」
「わかってるさ。だが言葉が通じるなら、人間と魔物、双方が納得できる落としどころを見つけられるかもしれない。このままでは鉱山村に勝ち目はない。……あのゴーレムは、強い」
ラグナの足元を丸ごと削り取って鋭利な石と化したあの魔法、そして豊富な魔力は、敵に回せば多くの死者が出るだろう。
群れているほかの魔物も高位で、かつデータがほとんどない点も脅威だ。
しかし魔物たちを統べていると思しきクリスタルゴーレム・アメトリンは穏健で、十分に対話が可能そうだった。
場合によってはラグナが人間側の表に立ち、山の魔物を仲裁する立場になるかもしれない。
そんな面倒極まる立場になるとしても……悪くないと思った。
人のように話し、人のようにふるまうアメトリンに、自分は今、不思議な魅力を感じている。
もう一度話をしたい。
ギルド本部を出たラグナは、その足で野営の準備のために市場へ向かったのだった。
58
あなたにおすすめの小説
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!
木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。
この話は小説家になろうにも投稿しています。
炎の精霊王の愛に満ちて
陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。
悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。
ミヤは答えた。「俺を、愛して」
小説家になろうにも掲載中です。
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる