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本編
08.冒険者は山と話し合う
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人間ラグナとの出会いは、夢だったんじゃないかと思う。
時間にしてたった半日ほどのことだった。
ラグナがいなくなって数日は、彼のことを思い出すこともあったけれど、日課のさんぽをしてこれまで通りの生活を続けているうち、思い出さない時間が増えてきた。
一方で、ぼくは近頃ふしぎな夢をみるようになった。
(またあの夢だ)
ぼくは夢の中で、人間になっているようだった。
視界に毛のない手足が映るので、人間になっているようなのだけれど、自分がどんな人間なのかはわからない。
ただ見ているだけのような夢。
ぼくは夢の中で、走っていたり、空を見上げていたり、なにかを食べていたりする。
軽やかな走りはゴーレムにできないことだし、食事もそう。
そんな夢をみるのはふしぎなことだ。
ふしぎに思うのに、ふしぎと、変だとは思わなかった。
今日はいっしょに暮している犬と遊ぶ夢だった。
どういうわけか、ぼくはその犬と「いっしょに暮している」とわかるのだ。
(ふしぎだなぁ)
とはいえ、夢は夢だ。
目覚めると岩の体で、夢で見たことはどんどん薄れて消えていく。
今日も山の様子を見て回るため、ぼくはのっそりと洞穴から出た。
「鳥さんたちがいっぱい鳴いてる……」
おさんぽをはじめてすぐに気づいた。
歩くぼくの上の空を、たくさんの鳥さんたちが飛び回って鳴いている。
もしかして、また人間が来たのだろうか。
人間といえば。
「ラグナ……?」
鳥さんたちの多いほうへ向かうと、カァカァと見知った声が聞こえてきた。
「カラスさん? なにしてるの?」
「助けてくれ~アメトリン!」
仲よしのカラスさんがなんと、木の枝から逆さまに吊り下げられていた。
網に入れられ、足を枝に紐で結ばれ、ばたばたもがくカラスさんにいそいで走り寄る。
「誰がこんな……また人間が来たの?」
「アメトリン、やっと会えたか」
「ラグナ?」
ぼくがカラスさんの元へたどり着くと、木陰から人間が現れた。
ラグナだ。
「ラグナ、どうしてこんなことを。カラスさんを放してあげて」
「山に入ったらそいつが現れて、山に入るなとうるさく襲いかかってくるから、邪魔されないよう捕まえただけだ。傷つける意図はない」
「そうなの?」
カラスさんはガァガァと、いろんな種類の文句を並べ立ててラグナをののしったけれど、おおむねラグナの言った通りであることがわかった。
網の紐をほどいてやりながら、今度はラグナへ聞く。
「ラグナはどうしてここへ?」
「おまえに会いに来た」
「ぼく?」
絡まった網と紐をすっかりほどくと、カラスさんはカァカァと嫌そうな声を出しながらぼくの肩にとまった。
「命知らずな人間め。お山の次はアメトリンが狙いか!」
「狙っているわけじゃない。……いや、狙っているのか……?」
「そうれ見たことか! アメトリン、人間は危険すぎる。ここは任せて逃げろ!」
その人間にさっきまで捕まっていたというのに、カラスさんはぼくを守るように翼を広げる。
「誤解だ。話を聞いてくれ」
「カラスさん。ラグナが話したいって」
「これは罠だ。人間が魔物相手に対話を望むわけがない」
「俺はそういう変わり者なんだよ。アメトリン。話を聞いてくれないか」
ラグナの目は、山のいきものたちと同じくらい澄んでまっすぐだった。
ぼくたちをだまそうって気持ちは感じられない。
「……ぼく、ラグナとお話するよ」
「なにを言う、アメトリン!」
「カラスさんもいっしょに来てほしい。ラグナ、それでいい?」
「もちろん構わないとも。歓迎しよう、ヤタガラス。もう少し静かにしていてくれるとありがたいけどな」
「ふんっ、内容次第ではすぐさまおまえの目玉をえぐり出してやるからな!」
やたらと怖いことを言うカラスさんをなだめつつ、ぼくらは場所を移した。
お話をするなら座る場所があるといい。
移動中にオオカミさんと青い小鳥さんも合流した。
オオカミさんを見たラグナが「フェンリル? まさかな……」とつぶやいていたけれど、それだけだった。
歩いている間、ぼくの肩にはいつも通り小さないきものがたくさん乗ってきた。
ラグナはそれを興味深そうに見ていたけど、手を伸ばすことはしなかった。
「まずはこの山の現状からだな」
ラグナをつれてきたのは、ぼくのお気に入りの場所だ。
一面ふかふかの苔と下草で覆われているので、とても静かできれい。
見上げるほどに大きな木が梢を広げているので、適度に日差しがさえぎられて涼しい。
古木のベンチで休むこともできる。
ぼくは「苔の広場」と呼んでる。
ラグナは倒木に座って、ぼくたちも苔をつぶさないようそれぞれ落ち着いた。
「この山のふもとに人間の村があるのは知ってるか?」
「ふんっ、やつらが後から入ってきて勝手に群れ始めたのだ」
けんか腰のカラスさんと、冷静なラグナの話を合わせると、村の人間は山にクリスタルゴーレムがいることを知っていて、おそれているとのことだった。
「クリスタルゴーレムは人間にとって脅威だ。アメトリンがどれだけ穏やかで優しい魔物だと訴えても、聞き入れてはもらえないだろう。村の者たちはこの山を拓いて、鉱山や村を拡大したいと考えているから、クリスタルゴーレムの存在は邪魔なんだ」
ラグナの言葉が冷たく響いた。
ぼくの存在が、みんなを危険にさらしている。
ひゅう、と息が漏れて、青い小鳥さんがぼくの頭にぴったりと身を寄せてくる。
「勝手だわ。ここは以前からずっと、アメトリンとわたしたちの山だったのに、後から入ってきて、都合が悪いから邪魔だなんて」
「アメトリン、気にすることはない。人間とはかように身勝手な存在なのだ。この男とて、いつわれらに牙剥くかわからん」
小鳥さんは悲しそうにうつむき、カラスさんはラグナに威嚇し、オオカミさんはなりゆきを見守っている。
ラグナは静かに座って、なにも言わない。
ぼくはどうすればいいかわからなくなってしまった。
「ラグナは、どうして戻ってきたの? この山を、ぼくを、どうしたいの?」
人間側の話はラグナがしているだけで、本当かどうかわからないところが多い。
それにラグナは人間だから、山の味方じゃない。
なのに戻ってきた。
ぼくには意味があると思える。
ならまずは、ラグナの気持ちを確認しなきゃ。
ラグナは雨の日の遠山のような色の目をしずかにゆらめかせてから、話し始めた。
「……ギルドには、魔物を説得して穏便にことを済ませられるかもしれないと言って来た。だがそれは建前だ。俺は、アメトリンのことをもっと知りたいと思った」
「ぼくのことを、知るため?」
「討伐対象の魔物としてではなく、対話ができる相手として、もっときちんと話をして……鉱山村の問題のことは、その過程で解決できれば儲けもの、って程度だ」
すると、これまで静かになりゆきを見守っていたオオカミさんがすっと立ち上がり、ぼくの前に立ちふさがった。
「これまでも、アメトリンを御そうと近寄ってきたものがいた。邪な考えを持つものは、みなで追い出してきた。おまえもそうなりたいか」
「えっ」
そんな話をぼくは初めて聞いた。
きょろきょろと辺りを見ると、カラスさんも小鳥さんも沈んだ表情をしている。
「クリスタルゴーレムは魔大陸でも希少で、狩られることがあるのだ」
「大きくて強くて、美しいクリスタルゴーレムは、いろんな魔物にとって喉から手が出るほど欲しい存在なの。何度か、そういう輩を追い払ったわ」
そうだったの?
ぼくのせいで、みんなを危険な目にあわせていたの?
「あなたは知らなくていいのよ、アメトリン。みんなあなたが大事だから、勝手にやったことなのよ」
青い翼がぼくの頭を守るようにかぶせられる。
ぼくがみんなを守っているんだと思ってた。
でも本当は違った。
ヒナを守る親鳥のように、みんなが守ってくれていたんだ。
「ありがとう、みんな……」
青い羽に触れると、さらさらしていて、思いのほか固い芯が通っている。
きれいな羽はあたたかくて、ぼくの冷たい結晶の頭にもじんわりとぬくもりが伝わってくる。
ぼくを守って立つ灰色の毛並みも柔らかくはない。
きびしい風雨を走り抜けるための強い毛皮だ。
まるで「自分も」と言うように、黒い翼もぼくの肩に止まって寄り添った。
不ぞろいな黒い羽は、ラグナに切られたところがすっぱりなくなっていて痛々しい。
そっと撫でると、ばさばさ羽ばたく。
ぼくは、守られている。
だからこそみんなを守りたい。
決意をもってラグナを見つめる。
「ラグナは、ぼくをどうしたい? 答えによっては、みんなでラグナを追い出さなきゃいけない」
するとラグナはぐっとなにかを飲み込むようにして、それから深く息を吐き出した。
「配慮が足りなくて悪かった。クリスタルゴーレムが魔物からも狙われるような存在とは知らなかったんだ。ヤタガラスたちが過剰に警戒していたのはそのためだったんだな」
「アメトリンは強いから、われらが守るのは過保護だとでも思ったか」
「思った。すまん」
ラグナは短い頭の毛をがしがし掻いてから向き直る。
「俺はクリスタルゴーレムの体質や能力に興味はない。いや興味はあるが、それ以上にアメトリンという一個人のことが気になる。仲間たちに慕われ、魔物なのに穏やかなおまえのことが気になる。このままではこの山と鉱山村の人間たちとの衝突は避けられないが、アメトリンがいればやりようがあるのではないかと思っている。おまえのことを知りたいし、協力もしてほしい。そう思っている」
短い付き合いなのに、ふしぎとラグナの言葉に嘘はないように思えた。
肩に乗っているカラスさんが、わざとらしく「ふんっ」と鳴く。
「アメトリンのことを知りたいし、協力もしてほしいなどと、欲深いことだ」
「本心だ。隠し事は許してもらえなさそうだからな」
「ふんっ、まぁ嘘つきや腹黒よりは、欲深のほうがマシだな」
「元々好奇心を追い求めて冒険者になったんだ。鉱山村への協力のほうはついでだ」
「本音を開けっぴろげすぎだぞ人間!」
わぁわぁ言い争うわりに、カラスさんにはさっきまでの緊張がなかった。
オオカミさんも警戒を解き、ラグナはみんなの同意を得て、山にいてもよいということになった。
時間にしてたった半日ほどのことだった。
ラグナがいなくなって数日は、彼のことを思い出すこともあったけれど、日課のさんぽをしてこれまで通りの生活を続けているうち、思い出さない時間が増えてきた。
一方で、ぼくは近頃ふしぎな夢をみるようになった。
(またあの夢だ)
ぼくは夢の中で、人間になっているようだった。
視界に毛のない手足が映るので、人間になっているようなのだけれど、自分がどんな人間なのかはわからない。
ただ見ているだけのような夢。
ぼくは夢の中で、走っていたり、空を見上げていたり、なにかを食べていたりする。
軽やかな走りはゴーレムにできないことだし、食事もそう。
そんな夢をみるのはふしぎなことだ。
ふしぎに思うのに、ふしぎと、変だとは思わなかった。
今日はいっしょに暮している犬と遊ぶ夢だった。
どういうわけか、ぼくはその犬と「いっしょに暮している」とわかるのだ。
(ふしぎだなぁ)
とはいえ、夢は夢だ。
目覚めると岩の体で、夢で見たことはどんどん薄れて消えていく。
今日も山の様子を見て回るため、ぼくはのっそりと洞穴から出た。
「鳥さんたちがいっぱい鳴いてる……」
おさんぽをはじめてすぐに気づいた。
歩くぼくの上の空を、たくさんの鳥さんたちが飛び回って鳴いている。
もしかして、また人間が来たのだろうか。
人間といえば。
「ラグナ……?」
鳥さんたちの多いほうへ向かうと、カァカァと見知った声が聞こえてきた。
「カラスさん? なにしてるの?」
「助けてくれ~アメトリン!」
仲よしのカラスさんがなんと、木の枝から逆さまに吊り下げられていた。
網に入れられ、足を枝に紐で結ばれ、ばたばたもがくカラスさんにいそいで走り寄る。
「誰がこんな……また人間が来たの?」
「アメトリン、やっと会えたか」
「ラグナ?」
ぼくがカラスさんの元へたどり着くと、木陰から人間が現れた。
ラグナだ。
「ラグナ、どうしてこんなことを。カラスさんを放してあげて」
「山に入ったらそいつが現れて、山に入るなとうるさく襲いかかってくるから、邪魔されないよう捕まえただけだ。傷つける意図はない」
「そうなの?」
カラスさんはガァガァと、いろんな種類の文句を並べ立ててラグナをののしったけれど、おおむねラグナの言った通りであることがわかった。
網の紐をほどいてやりながら、今度はラグナへ聞く。
「ラグナはどうしてここへ?」
「おまえに会いに来た」
「ぼく?」
絡まった網と紐をすっかりほどくと、カラスさんはカァカァと嫌そうな声を出しながらぼくの肩にとまった。
「命知らずな人間め。お山の次はアメトリンが狙いか!」
「狙っているわけじゃない。……いや、狙っているのか……?」
「そうれ見たことか! アメトリン、人間は危険すぎる。ここは任せて逃げろ!」
その人間にさっきまで捕まっていたというのに、カラスさんはぼくを守るように翼を広げる。
「誤解だ。話を聞いてくれ」
「カラスさん。ラグナが話したいって」
「これは罠だ。人間が魔物相手に対話を望むわけがない」
「俺はそういう変わり者なんだよ。アメトリン。話を聞いてくれないか」
ラグナの目は、山のいきものたちと同じくらい澄んでまっすぐだった。
ぼくたちをだまそうって気持ちは感じられない。
「……ぼく、ラグナとお話するよ」
「なにを言う、アメトリン!」
「カラスさんもいっしょに来てほしい。ラグナ、それでいい?」
「もちろん構わないとも。歓迎しよう、ヤタガラス。もう少し静かにしていてくれるとありがたいけどな」
「ふんっ、内容次第ではすぐさまおまえの目玉をえぐり出してやるからな!」
やたらと怖いことを言うカラスさんをなだめつつ、ぼくらは場所を移した。
お話をするなら座る場所があるといい。
移動中にオオカミさんと青い小鳥さんも合流した。
オオカミさんを見たラグナが「フェンリル? まさかな……」とつぶやいていたけれど、それだけだった。
歩いている間、ぼくの肩にはいつも通り小さないきものがたくさん乗ってきた。
ラグナはそれを興味深そうに見ていたけど、手を伸ばすことはしなかった。
「まずはこの山の現状からだな」
ラグナをつれてきたのは、ぼくのお気に入りの場所だ。
一面ふかふかの苔と下草で覆われているので、とても静かできれい。
見上げるほどに大きな木が梢を広げているので、適度に日差しがさえぎられて涼しい。
古木のベンチで休むこともできる。
ぼくは「苔の広場」と呼んでる。
ラグナは倒木に座って、ぼくたちも苔をつぶさないようそれぞれ落ち着いた。
「この山のふもとに人間の村があるのは知ってるか?」
「ふんっ、やつらが後から入ってきて勝手に群れ始めたのだ」
けんか腰のカラスさんと、冷静なラグナの話を合わせると、村の人間は山にクリスタルゴーレムがいることを知っていて、おそれているとのことだった。
「クリスタルゴーレムは人間にとって脅威だ。アメトリンがどれだけ穏やかで優しい魔物だと訴えても、聞き入れてはもらえないだろう。村の者たちはこの山を拓いて、鉱山や村を拡大したいと考えているから、クリスタルゴーレムの存在は邪魔なんだ」
ラグナの言葉が冷たく響いた。
ぼくの存在が、みんなを危険にさらしている。
ひゅう、と息が漏れて、青い小鳥さんがぼくの頭にぴったりと身を寄せてくる。
「勝手だわ。ここは以前からずっと、アメトリンとわたしたちの山だったのに、後から入ってきて、都合が悪いから邪魔だなんて」
「アメトリン、気にすることはない。人間とはかように身勝手な存在なのだ。この男とて、いつわれらに牙剥くかわからん」
小鳥さんは悲しそうにうつむき、カラスさんはラグナに威嚇し、オオカミさんはなりゆきを見守っている。
ラグナは静かに座って、なにも言わない。
ぼくはどうすればいいかわからなくなってしまった。
「ラグナは、どうして戻ってきたの? この山を、ぼくを、どうしたいの?」
人間側の話はラグナがしているだけで、本当かどうかわからないところが多い。
それにラグナは人間だから、山の味方じゃない。
なのに戻ってきた。
ぼくには意味があると思える。
ならまずは、ラグナの気持ちを確認しなきゃ。
ラグナは雨の日の遠山のような色の目をしずかにゆらめかせてから、話し始めた。
「……ギルドには、魔物を説得して穏便にことを済ませられるかもしれないと言って来た。だがそれは建前だ。俺は、アメトリンのことをもっと知りたいと思った」
「ぼくのことを、知るため?」
「討伐対象の魔物としてではなく、対話ができる相手として、もっときちんと話をして……鉱山村の問題のことは、その過程で解決できれば儲けもの、って程度だ」
すると、これまで静かになりゆきを見守っていたオオカミさんがすっと立ち上がり、ぼくの前に立ちふさがった。
「これまでも、アメトリンを御そうと近寄ってきたものがいた。邪な考えを持つものは、みなで追い出してきた。おまえもそうなりたいか」
「えっ」
そんな話をぼくは初めて聞いた。
きょろきょろと辺りを見ると、カラスさんも小鳥さんも沈んだ表情をしている。
「クリスタルゴーレムは魔大陸でも希少で、狩られることがあるのだ」
「大きくて強くて、美しいクリスタルゴーレムは、いろんな魔物にとって喉から手が出るほど欲しい存在なの。何度か、そういう輩を追い払ったわ」
そうだったの?
ぼくのせいで、みんなを危険な目にあわせていたの?
「あなたは知らなくていいのよ、アメトリン。みんなあなたが大事だから、勝手にやったことなのよ」
青い翼がぼくの頭を守るようにかぶせられる。
ぼくがみんなを守っているんだと思ってた。
でも本当は違った。
ヒナを守る親鳥のように、みんなが守ってくれていたんだ。
「ありがとう、みんな……」
青い羽に触れると、さらさらしていて、思いのほか固い芯が通っている。
きれいな羽はあたたかくて、ぼくの冷たい結晶の頭にもじんわりとぬくもりが伝わってくる。
ぼくを守って立つ灰色の毛並みも柔らかくはない。
きびしい風雨を走り抜けるための強い毛皮だ。
まるで「自分も」と言うように、黒い翼もぼくの肩に止まって寄り添った。
不ぞろいな黒い羽は、ラグナに切られたところがすっぱりなくなっていて痛々しい。
そっと撫でると、ばさばさ羽ばたく。
ぼくは、守られている。
だからこそみんなを守りたい。
決意をもってラグナを見つめる。
「ラグナは、ぼくをどうしたい? 答えによっては、みんなでラグナを追い出さなきゃいけない」
するとラグナはぐっとなにかを飲み込むようにして、それから深く息を吐き出した。
「配慮が足りなくて悪かった。クリスタルゴーレムが魔物からも狙われるような存在とは知らなかったんだ。ヤタガラスたちが過剰に警戒していたのはそのためだったんだな」
「アメトリンは強いから、われらが守るのは過保護だとでも思ったか」
「思った。すまん」
ラグナは短い頭の毛をがしがし掻いてから向き直る。
「俺はクリスタルゴーレムの体質や能力に興味はない。いや興味はあるが、それ以上にアメトリンという一個人のことが気になる。仲間たちに慕われ、魔物なのに穏やかなおまえのことが気になる。このままではこの山と鉱山村の人間たちとの衝突は避けられないが、アメトリンがいればやりようがあるのではないかと思っている。おまえのことを知りたいし、協力もしてほしい。そう思っている」
短い付き合いなのに、ふしぎとラグナの言葉に嘘はないように思えた。
肩に乗っているカラスさんが、わざとらしく「ふんっ」と鳴く。
「アメトリンのことを知りたいし、協力もしてほしいなどと、欲深いことだ」
「本心だ。隠し事は許してもらえなさそうだからな」
「ふんっ、まぁ嘘つきや腹黒よりは、欲深のほうがマシだな」
「元々好奇心を追い求めて冒険者になったんだ。鉱山村への協力のほうはついでだ」
「本音を開けっぴろげすぎだぞ人間!」
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