ゴーレムは恋を知る

キザキ ケイ

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本編

21.町を散策する

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 ギルドちょーのところから出て、建物の入口に戻ってきた。
 ラグナが人間のいるところへ寄っていって、ぼくを手招きする。

「なに?」
「身分証を発行してもらえたぞ」

 木のかけらを削ってつくったような、小さな板を渡された。
 ぼくの名前と、このへんのギルドに所属しているという意味の文字がきざまれているらしい。
 革製のヒモがついていて、首にかけられるようになっている。

「ちっちゃいねぇ。これ、ラグナも持ってるの?」

 ラグナは服の中から首かけのヒモを引っ張り出して見せてくれた。
 ヒモも板も金属でできていて、ぼくのものより重くて厚い。

「冒険者としてのランクが上がると、身分証も上等なものになっていくんだ。危険な依頼を任されることが増えるから、壊れにくい素材になる」
「ラグナは、ランクが上ってこと?」
「そういうことだ。おまえも高ランク冒険者を目指してみるか?」
「それ、楽しいかも」

 さっそくヒモを首に通してかけた。
 ラグナはうんうんうなずいて、似合っているといってくれた。
 ギルドを出ると、ラグナがいっとき住んでいるという宿屋に向かう。
 ここはギルドと提携てーけーしていて、泊まる人間がなかなか帰ってこなくてもいいようになっているのだとか。
 ふつうの宿でそんなことをしたら、次の日には荷物が外に放り出されている、とラグナは笑った。

「いろいろわかってる宿屋だから、フェンリルもいっしょに入れる。ただ部屋は変わらず俺と相部屋だが、構わないか?」
「うん」
「ちなみに俺一人の部屋だからベッドも一台しかないんだが、構わないか?」
「うん?」

 前の宿には二つあったベッド。
 ラグナの部屋にはひとつしかなかった。
 元々ここはラグナ一匹のお部屋だったのだから、他に寝るところがないというのはわかる。
 でも、山の洞窟でもないのに、ぼくたち二匹で並んで寝ることあるだろうか。

「アメトリンも知っているだろう。人間の肌はやわらかいから、硬いところではよく眠れないんだ。アメトリンの肌は俺より薄いし、ベッドに寝なくてはならない」
「え、でも、このベッドはラグナのなんだよね? ラグナが使ったほうがいいんじゃない?」
「そう、俺もベッドで寝たい。硬いところだと寝にくいし。だから二人でベッドを使おう。どうだ、まちがったことを言っているか?」
「うーん……まちがってないかも……?」

 肌がやわやわになってしまったぼくと、元々やわやわな肌のラグナがひとつしかないベッドを取り合うより、いっしょに使うほうがよい気がする。
 ただ、オオカミさんがしきりに吠えてる。
 主にラグナのほうにうぉんうぉんと吠えて、ぼくのほうには控えめに服のすそをくわえて、きゅんきゅんと吠えて。
 この姿だと言葉が通じなくて、オオカミさんが言いたいことがほとんどわからないのは少しさみしい。
 でも、ぼくはなんとなく、オオカミさんの思うところを察することができた。

「わかった。ラグナ、ベッドはみんなで使おう」
「えっ?」
「オオカミさんもベッドで寝たいんだよ。そう言いたいんだと思う」

 そうだよね、とオオカミさんを見ると、灰色のオオカミはなんともへんてこな顔をして、首をひねって、反対側にひねってから……大きく何度もうなずいた。
 やっぱり! 言葉がなくても仲よしなら通じ合うことができるんだ。
 ぼくはオオカミさんをだっこしてベッドに上がった。
 自然と、ぼく、オオカミさん、ラグナの順番で寝そべることになる。
 オオカミさんが端っこで寝たらおっこちちゃうかもしれないからね。

「えへへ。せまいね」
「そうだな」
「山の洞穴みたいだね」
「……そうだな」

 おっこちないようにしようと思うと、ベッドの内側を見るように横向きで寝ることになる。
 そうすると、ちょうど真ん中にいるオオカミさんの体がお腹にあたって、とってもあたたかい。
 きもちよくて灰色の毛をなでていたら、オオカミさんの寝息が聞こえてきた。

「ふぁあ……」

 ぼくも眠くなってきた。
 眠いと、空気がたくさん出る。

「おやすみラグナ……」
「おやすみ、アメトリン」

 ぼくはすうっと眠りに落ちた。
 そのあとで、ラグナがうらめしそうな顔で見ていたこととか、オオカミさんをどかそうとつんつんしたら、しっぽでぶたれたことなどは、あとから聞いた話だ。

 次の日、ぼくはラグナとオオカミさんといっしょに町へ出た。
 ラグナはいろんなところに連れて行ってくれた。
 鍛冶屋さん、大工さんの工房、雑貨屋さん。
 どこに行っても人間だらけで、はじめはびくびくした。
 けれど、あまりにも人間だらけなうえに、誰もぼくを怪しんだりしないから、そのうち慣れてしまった。
 これはなに、あれはなにをするの、ってたくさん話しかけてしまったけれど、みんなやさしく教えてくれた。
 わからない言葉をさらに聞いて、逆に人間のほうが説明できなくて困ってしまうこともあった。

「ずいぶん物知らずなのねぇ。よくここまで生きてこれたわね。ギルドの新入りなんでしょう?」
「まぁ、そのようなもので」
「そうだ、これ、役に立つんじゃないかしら」

 雑貨屋の人間が出してきたのは、紙が糸で束ねられたものだった。

「文字の絵本よ。たくさんの言葉や物が載っているから、子どもにぴったりでしょう」

 差し出されたそれは、お古なので代価はいらないとのことだった。
 なにかをもらえばなにかを差し出す。山でもしていることが、人間同士では成り立たないことがあるなんて、びっくりした。

「ラグナ、対価がいらないなんて、どうすればいい?」
「お礼を言えばいい」

 ぼくは「人間、ありがとう」と言ったが、雑貨屋の人間は目を見開いて困ってしまった。
 ラグナに小声で耳打ちされ、別の言い方をする。

「えーと、こころやさしいおねえさん、ありがとうございます」
「あらやだ、もうおねえさんなんてトシじゃないよ。まったくこの子らは」

 とたんに「おねえさん」は顔を赤くして、うれしそうに、でも言葉では嫌そうにした。
 結局ぼくのお礼の言葉だけで、絵本をもらってしまった。

「ほんとうによかったのかな」
「いいさ。あのままじゃホコリをかぶるだけだと彼女もわかっている。こういう本は読むものがいてこそだからな」
「でも、嫌がってなかった?」
「あれは照れ隠しだ」

 人間のコミュニケーションというものはフクザツだ。
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