ゴーレムは恋を知る

キザキ ケイ

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本編

22.冒険者仲間と会う

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 いろいろなところを見てまわっているうちに、日が暮れてきた。
 昨日のように宿へ帰るのかと思いきや、ラグナは行き先を変えた。

「俺の仲間に会ってくれないか? 今回の件でもいろいろと力になってくれたんだ。アメトリンを紹介したい」
「うん、いいよ。でもいきなり会ったら、ギルドちょーみたいにびっくりされないかな?」
「多少驚くくらいでいいさ」

 以前立ち寄った町で送った手紙で、今夜ここに仲間を呼んだのだという。
 ぼくにとっては、ラグナの仲間に会うのも、手紙が無事に届くと知ることができるのも、どきどきだ。
 念のため、フードをかぶって髪を隠しておく。
 はたして、ラグナの仲間はそこにいた。
 お昼の間は素通りしていた、食事をだすところだ。
 ちなみにオオカミさんもぼくらについて歩いてきたけど、どこのお店にもいっしょに入った。
 狭いお店や、金属がガンガンとうるさい鍛冶屋などには入ってこなかったけど。

「おーラグナ。生きて戻れたか」

 飲み物のはいった器をかかげてラグナを呼んだのは、細身で小柄な男の人間。
 いや、人間ではないかも。

「精霊……?」
「ハーキンはエルフの血を引いている。どちらに近いかと言えば、人間だ」

 ラグナが小声で補足してくれるのを、もうひとりの人間がニヤニヤ見ている。

「おやぁラグナ、そのかわいこちゃんは、もちろん紹介してくれるんだろうね?」

 ぼくはあまり、人間の女を見たことがないけれど、きれいな見た目だと思う。
 長い髪を編んで肩からたらしているのも、ひきずりそうなほど長い服も、腰にくくりつけている木の杖も、なにもかも初めて見る。
 じろじろ見ていたせいか、目が合う。
 にっこりと笑顔を向けられて、やっぱりきれいだなと思う。

「おい、見つめ合うんじゃない」

 目の前に手のひらがにゅっと出てきて、なにも見えなくなった。
 ついでに肩を引き寄せられて、ラグナとくっつく形になる。

「嘘だろ……生身の人間に全然興味なしだったあのラグナが」
「こりゃたまげた。あの朴念仁がねぇ」

 ぼくらが妙にくっついているから、ラグナがなにやら言われている。
 目の上にのっている手をぺちぺち叩くと、目と体がはなれた。
 うっすらと白んでいる視界をまばたきで払って見上げると、ラグナはなんとも言えない顔をしていた。

「仲間の人間、紹介してくれないの?」
「あ、あぁ。座ろう」

 さっきより興味が強くなったように思える、二匹の人間の目を感じながら、余っている椅子に腰掛ける。

「紹介する。そこの尖り耳はハーキン。弓矢やナイフを使うのが得意で、エルフの血は引いているが、肉は食うし魔法も使えない」
「おい、初手ディスりやめろ」
「こっちの髪の長いのはウルザ。魔法が得意な『魔女』で、男だ」
「魔女の性別を明かすなんて無粋だねぇ」

 やいやい言われているが、ラグナは気にしてなさそうだ。
 ぼくは「魔女」と紹介された人間が男でびっくりした。
 人間は言葉も奥が深いらしい。
 それから、とぼくに注目が集まる。

「アメトリンだ。クリスタルゴーレムの核」
「は?」
「えっ」

 一瞬テーブルは静まり返って、二匹がぱっと立ち上がった。
 ハーキンは腰のナイフに手を当て、ウルザは杖をかまえる。とても素早い動きだった。
 野生動物のような警戒感。
 こういう気配を出せるのはラグナだけじゃないんだなぁ。
 ぴんと張り詰めた空気の中で、オオカミさんがのっそりと起き上がる。
 ぼくは灰色の毛皮に触れて、大丈夫と伝えた。

「落ち着け二人とも。俺が危険な魔物をそのまま二人に会わせるわけがないだろう」

 ラグナが言う。席を立ってもいない。
 やがて空気がゆるんで、オオカミさんが座り直した。
 人間二匹も座席に戻った。
 表情はかたいままだけれど武器からは手をはなしてる。

「ゴーレムって……例のゴーレム?」
「そうだ」
「核って……でもこの子、ただの人間だよな?」

 ハーキンが言って、ウルザが首を振った。
 長い毛がぱさぱさと動いて、足元で寝そべっていたオオカミさんが目で追っている。

「ただの人間にしちゃ魔力が多すぎる。てっきり魔女仲間かと思ったけど……ゴーレムの核だなんて」
「ウルザくらいの魔女になると、隠していても魔力がわかるんだな」
「まぁ一般人はわからないだろうね」

 ハーキンがむっと口をひん曲げたけれどラグナたちは気にしていない。

「というか、この子が魔女じゃないならこのワンコも使い魔じゃないよね?」
「あぁ。アメトリンの部下……いや友だち、かな? フェンリルだ」

 ハーキンとウルザがそろってテーブルの下をのぞきこむ。
 オオカミさんは二匹の興味しんしんな目をあびても、くあっと大きなあくびをしただけだった。

「いやいや……ギルド御用達の食堂にフェンリルを連れ込まないでよ」
「だからこそだ。ここならフェンリルが暴れても、誰かが身を挺して制圧してくれる」
「自分でやんなよ!」
「てかほんとにこのイヌがフェンリルなの?」

 オオカミさんが注目を集めているあいだに、ぼくはラグナの服のすそをつんつん引っ張った。

「ねぇラグナ、人間の男と女はどうやって見分けたらいいの?」
「……あとで教える」

 ラグナの仲間たちは、それぞれいろんな理由をつけつつ、わかってくれた。
 そして、お酒を飲み始めた。

「めでたい。ラグナにもついに春が来たか」

 ウルザはお酒をかぱかぱ飲んで、顔を真っ赤にしている。
 季節はまだ春じゃないけど、春が来たって、どんな意味だろう。あとで聞いてみなきゃ。

「相手が男でもいいのか?」

 ラグナがつつくと、ウルザはからからと笑った。

「魔女には男も女も関係ない。魔法に対する姿勢がすべてさ」
「相手がゴーレムでもいいのか?」
「それはちょっと気になるけど、まぁ、人型だししゃべれるし、いいんじゃないかい」
「大雑把だなぁ」

 そこで、別の人間が近づいてきた。
 ウルザたちが持っている木製の器を、新しく二個テーブルにおいてはなれていく。
 ぼくの前にも一個きたので、のぞきこむと、液体がなみなみと入っていた。
 黄色っぽくて、お花みたいに甘いにおいがする。

「これ、なに?」
「酒だよ、蜂蜜酒」

 ハーキンがそう言って、同じものをぐっとあおった。
 のどが大きく動いて、器が空っぽになるまで飲んでしまった。
 それから満足そうに息を吐き出す。
 おいしそうだ。

「あ、おい」

 ぼくも器に口をつける。
 まるでお花を食べたみたいに甘くてふしぎな味がした。口の中に味と香りが広がって、全身甘くなってしまいそう。
 ふう、と空気を吐くとそれまで甘い。
 もうひとくち飲んでみようか、と器をのぞきこんだら、横から取られてしまった。

「酒はやめとけ、まだ早い」

 器はラグナの手にある。
 ラグナの前にも同じものがあるのに、ぼくだけ取られてしまった。
 手を伸ばすと、すいっとはなされる。
 手が届かない高さに持っていかれてしまうとどうしようもない。

「おいおい、過保護だなラグナ。蜂蜜酒くらい子どもでも飲むぞ」
「アメトリンはずっと飲食をせずにきたんだ。いきなり酒なんて、どんな影響がでるかわからないだろう」
「酔わせてみりゃいいじゃねーか。かわいいところが見られるかもだぜ」
「……」

 目の前に器が戻ってきた。

「飲んでいいの?」
「……少しだけだぞ」

 ぼくはもう一度、口の中にお花の香りを迎え入れた。
 そこからの記憶がない。
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