ゴーレムは恋を知る

キザキ ケイ

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本編

28.みんなを見送る

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「アメトリン。決行だ」
「うん」

 ラグナと別れて、何日もたった頃。
 その日、ぼくらは水龍の泉に集まっていた。
 水龍、ヤタガラス、フェンリル、フェニックスに加え、いつもは姿を見せない魔物にも、今日は集まってもらった。

「ケルヌンノス、ハヌマーン、来てくれてありがとう」

 みんなと静かに肩を並べているのは、シカの姿の魔物ケルヌンノスと、サルの姿の魔物ハヌマーンだ。
 あまりおしゃべりしないけれど、仲が悪いわけじゃない。
 二匹とも静かなのが好きなだけだ。

「本当に人間になったのだな、アメトリン」

 ケルヌンノスが、落ち葉をふれあわせたような声で話すのに、首を振る。

「ううん、ぼくはゴーレムだよ。これまでもこれからも、ずっとそう」

 もしかしたらぼくは、人間だったかもしれない。
 人間として生きることができるのかもしれない。
 それでもぼくはその道を────選ばない。

「みんなといっしょにいたいから、ぼくはゴーレムのままだし、これからすることも、みんなといっしょにいるためだよ」

 ぼくの気持ちを、ケルヌンノスは受け入れてくれた。
 ハヌマーンも静かにうなずいている。

「サラマンダー、準備はどう?」

 見上げると、大きな翼を打ち鳴らして飛んでいた赤い影がぼくの前に降り立った。

「万事問題ないぞ、アメトリン」

 かつてトカゲさんと呼んでいた赤いトカゲは、火を吹き翼で飛ぶサラマンダーという名を教えてくれた。
 サラマンダーにはヤタガラスといっしょになって、空を担当してもらってる。

「じゃあ、行こうか」

 みんながうなずくのを見て、ぼくは振り返った。
 寒い季節にあって、青々とした緑で埋め尽くされた場所がある。
  「苔の広場」と呼んでいたそこは、ぼくが長い間手をかけていた特別な地。
 そこにはぼくの魔力がたっぷりあって、「こういうこと」をするには一番いいらしい。

「だいじょうぶよ、アメトリン。みんなで支えるから」
「あぁ、なるべく大きくな。あまり酔わないようにしてもらえると助かるんだが」
「ちょっと、いろいろ注文出さないで!」

 ぼくの両隣でフェニックスと水龍がわいわいやっている。
 それですとんと体のこわばりがなくなった。
 緊張、というものをしていたのだと思う。

「まずはなるべく大きく、だね」

 あらかじめ苔の広場に置いておいたものに手を当てた。
 水龍の泉で預かってもらっていた、ぼくの腕だ。
 やわらかな苔を踏みながら近づいて、もう動かない腕を持ち上げる。

「ぼくの腕よ、道を開いて」

 魔力をこめて腕をささげると、胸のあたりが熱くなった。
 クリスタルゴーレムも協力してくれてる。
 魔力のかたまりである石の腕が、光を放ちながら、さらさらと崩れていく。
 腕がなくなった空間には、淡く光り輝くまるいものが浮かんでいた。
 魔力によって時空をゆがめ、ここと、もう片方の石の腕の場所をつないでくれている、「ゲート」と呼ばれる魔法だ。
 もう片方の腕はみんなが運んでくれて、遠い地にある。
 ぼくは少しだけ魔力を操って、門を大きくして、不意に消えてしまわないよう安定させる。

「もういいよ。準備ができたら入って」

 ゆがみが安定したのを確認して、みんなを振り返る。
 誰も動かない。
 やっぱり本能的に、ふしぎすぎるものを嫌がっているのだろうか。

「えぇい、誰も行かぬならわれが先陣を切ってしまうぞ! みなのもの、続け~!」

 水龍が雄叫びを上げて、水のうねりとともに門へ飛び込んだ。
 掘って引いた川の流れで待っていた魚さんたちが、水龍の起こした波に乗って門へ吸い込まれていく。
 飛沫が散ってきらきら輝き、虹がかかった。

「わぁ」

 小さな魚さんも、大きな魚さんも、にょろにょろした魚さんも、エビさんもカニさんも、ほんもののナマズさんも、みんな門に消えた。
 ゆがみは安定していて、門が消えるようすもない。
 それを見て、フェニックスが動いた。
 ケルヌンノスといっしょに、大地を歩くいきものたちと門へ歩いていく。
 小鳥さんやリスさんたちも続き、まだちいさい子ジカさんは一生懸命歩いていて、とてもかわいらしい。

「先に行ってるわね」

 ケルヌンノスのツノにとまったフェニックスがのみこまれ消えて、草木を食べるいきものたちがゆっくりと続いていく。
 順番を待っていられないとばかりにハヌマーンもつづいた。
 樹上で生きるいきものたちがついていく。
 手先が器用な彼らは、地中や樹上で冬を越すいきものをその手に乗せていった。
 まだふわふわの毛が生えているフクロウさんの子や、木の葉っぱで夜を越すトカゲさん。いろんな大きさの貝さんを持って慎重に二足歩行しているサルさんもいる。
 気が早いヤマネさんはもう眠っている。揺れにも目を覚まさなくて、ちょっと心配。
 ぼくの肩に乗っておさんぽをしていたヘビさんも、にょろりとあいさつをしていってくれた。

「しんがりをつとめる」

 フェンリルは大仰に頭を下げてから門に飛び込んでいった。
 そのあとを銀オオカミの群れや、クマさん、キツネさんなど肉を食べるいきものがつづく。
 みんな大きくて、りっぱな毛がふわふわと生えている。
 門に消えていくみんなへ、ぼくはずっと手を振った。
 最後のいきものが門に消えて、残っているのは木にとまって待っている鳥さんたちだけだ。
 ヤタガラスがふわりと下りてきて、ぼくの石の腕にとまる。

「本当に行かないのか?」
「うん」

 するとヤタガラスは一声鳴き、近くの枝のカラスさんに指示を出した。
 鳥さんたちが一斉に飛び立っていく。
 色とりどりの羽が舞い散って、とてもきれいだ。
 ぼくは空にも手を振って、一匹だけ残ってくれたヤタガラスを見た。

「ヤタガラスこそ、行かなくていいの?」
「おまえ一匹残して行くわけにいかないだろう。それに『前触れ』とは飛んでくるものなのだ」
「そうなの?」
「応。稲光のごとく千里を翔けて見せよう! ……とはいえ、あやつはそれほど遠くにはおらぬがな」

 ふわりと飛び立ったヤタガラスも見送って、ぼくは苔の広場を出た。
 この門は危険だ。
 誰かが門を閉じなきゃいけない。ぼくはそのために残った。
 そして、目的はもう一つある。
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