ゴーレムは恋を知る

キザキ ケイ

文字の大きさ
29 / 31
本編

29.ゴーレムは愛を得る

しおりを挟む
 
 それから、ひたすら待った。
 洞窟のおうちには帰らずに、苔の広場に寝床をうつした。
 寝転がると、もふもふの葉っぱを敷いても痛いので、背中を結晶でおおうと、ちょっとだけゴーレムの見た目に戻った。
 どっちかというとカメさんかな?

 この山にはいま、ぼくしかいない。
 みんなみんな、新しい場所で暮らしはじめてる。
 人間とぶつからないやりかたは、これしか思いつかなかった。
 ふもとの人間たちは、山からいきものがいなくなったことにすぐ気づいたけれど、見に来たところでどうしようもなかった。
 ぼくはもう人間たちを追い返すことはなかった。
 やがて山の木々が切られて、土を切り崩されはじめたけれど、止めなかった。
 大好きな山が荒れていくのを見るのはつらかったけれど、みんなでもう決めたことだ。

 そうして過ごして数日。
 やっと待ち望んだ日がおとずれた。
 がさがさと急ぐ足音。まっすぐぼくのところへやってくる足取りは、あの人間だけのもの。

「待ってたよ。ラグナ」
「アメトリン……」

 よっぽど急いで来たんだね、ラグナは肩で息をしていた。
 汗をかいていて、信じられないという顔をしている。
 ぼくは苔の広場で一番座り心地のいい古木のベンチへ、ラグナをつれていった。

「ヤタガラスが知らせに来た。アメトリンたちは山を去ると……ここに来るまで、生き物の気配を感じなかった。どうなっているんだ?」
「言葉通りだよ」

 クリスタルゴーレムの体のかけらは、ものすごい量の魔力がふくまれている。
 結晶が大きければ大きいほど、その量は増える。
 取れてしまったぼくの体のかけらをたくさん持っている水龍の泉には、とてつもない量の魔力があった。
 水龍はかけらの魔力を使って、世界中の水脈をたどって新天地を探したんだ。
 それこそ、海を超えて彼方まで探しに行ってくれた。

「それで、見つけた。魔物もいきものもいない、魔力が尽きて枯れかけている山を」

 水龍がその地を見つけ出したとき、山には生き物の気配がなく、死にかけていた。
 かつて争いがあって、焼かれてしまったからだという。
 山を再生させるのにはたくさんの時間がいる────本来なら。

「クリスタルゴーレムがいろんな魔物の上に立てるのは、たくさん魔力を持っているからと、もうひとつ。魔力を分け与えるからなんだって」

 ぼくがなにげなくやっていた毎日の「おさんぽ」は、魔物や土地に魔力を振りまく行動だったらしい。
 もともと魔物は水龍とヤタガラスしかいない山だったここは、ぼくが現れたことで草木が生い茂り、いろんなきのみがなって、たくさんの魔物といきものを引き寄せた。
 同じことをすれば、死にかけた山でもきっと元に戻せる。
 そして、今誰もいない場所なら、ぼくたちがたくさんで移住しても大丈夫とわかった。

「移住? まさか……」
「へへ。みんなのお引っ越し、大変だったんだよ?」
「どうやって? 魔物だけならともかく、動物たちまでとなると……」
「これ見て」

 苔の広場のまんなかには、「門」がまだある。

「転移ゲート……そんなことまでできるのか」

 ラグナがぽかんとつぶやくのを、ぼくはいたずらが成功したような気持ちで聞いた。

「この門は危ないから、人間や事情を知らないいきものが通ってしまわないように、閉じるまでここで見張ることにしたんだ。門を閉じるまでに来てくれるかわからなかったけど……間に合ったね」
「……なにを……」
「待ってたんだ、ラグナ、きみを」

 まっすぐに差し伸べた手は、緊張でふるえてる。
 ひさしぶりに会うラグナはいつもどおりかっこよくて、霧の色の目を丸くしている。

「ぼくと────結婚してください!」

 苔の広場はこずえが広くてこもった場所なので、ぼくの大声がやけに響いてしまった。
 返事がない。
 あぁ、だめだった。
 ここにはぼくらしかいないから、しぃんと静まるこのいたたまれない空間でぼくを助けてくれるものもいない。

「えへ、へへ……やっぱだめか」
「いや、ダメじゃない。結婚しよう」
「へ?」

 ひっこめかけた手をにぎられる。
 霧の色の目はまんまるを通り越して、黒目が開いてなんかちょっと怖い。

「それより、え、結婚? 俺が想像している結婚と同じか? 血痕か?」
「えと、あの、前にウルザたちと話したときに聞いて……」

 ラグナが酔って寝てしまった、あのとき。
 ぼくはウルザたちに聞いた。
 どうしても手に入れたい人間がいるとき、人間たちはどうしているの、と。
 ウルザはびっくりしながら、ハーキンはニヤニヤしながら教えてくれたのが「結婚」だ。

「結婚すると、その二匹はずっといっしょにいられるって聞いたよ。いっしょに住んだり、ごはんを食べたり、いっしょに寝たりするのに一番いいって」
「あー……まぁ、間違ってはいない、か?」

 変なことを吹き込まれただけかと不安になったけれど、ラグナもそれで合っていると言うのなら大丈夫そうだ。

「ぼく、ラグナといっしょにいたくて……」

 つながれたままの手が急にあったかく感じられた。
 ラグナといるとあったかい。
 手をつないだり、いっしょに眠ったりすると気持ちいい。
 楽しくて、なんでも知りたくて、振り返ると笑顔のラグナがいるのがいい。
 ラグナと出会ってぼくは、今までずっと寒くてこごえていたんだと知った。

「アメトリン」

 あったかい手がぎゅっとにぎられて、顔を上げると強いまなざしにさらされる。

「俺はおまえが好きだ。だが、俺の好きはアメトリンのものと違うとも言った。それを考えてきてくれた、ということなんだな?」
「うん……」

 にぎられた手をちょっとだけにぎりかえす。

「ほんとはね、ラグナの『好き』とぼくの『好き』のちがいはよくわかんなかった。でも、ぼく、ラグナが一番好き。山のみんなも、この山も、同じ好きだけど、一番はラグナだよ。これじゃあ足りないかなぁ……」
「いや、じゅうぶんだ。ありがとう、アメトリン」

 手の代わりに体をぎゅっと抱きしめられて、あたたかさにほっとする。
 ラグナのにおいだ。
 肩に埋めていた顔をあげるようにうながされ、ほんのり赤い顔のラグナが近づいてくる。
 口同士がくっついて、はなれた。

「これ、前もしてたよね」
「あのときは許しも得ずに悪かった」
「ううん。気持ちいいから、これ好き」
「じゃあ、もう一回しよう」
「うん」

 ちゅ、ちゅと音がするたびうれしい。
 もう一回が、もう二回、三回となって、ぼくたちは何度も口をくっつけあった。
 やがて日がかたむいて気温がさがってきた。
 寒さがきびしい季節には、ぼくの結晶の体はきしきしと音を立てることがある。
 そうなるとあまり動けなくなってしまう。

「ラグナ、行こう」
「あぁ」

 苔の広場に浮かんでいる門は、ぼくが魔力をそそいでいる間はそのままだけれど、魔力がなくなればあまり持たない。
 ラグナが来なければ、ぼくが閉じて、一匹で歩いていくつもりだった。
 でもラグナが来てくれたから、新しい山には門で行く。

「じゃあ、ヤタガラス、あとをお願いね」
「もとよりそのつもりだ。なぁに、空からならすぐに着く」
「うん、待ってるよ」

 ぼくの結晶にツルを巻きつけたものをヤタガラスの真ん中の足に結びつける。
 ヤタガラスは誇らしそうに胸を張って、ラグナに向かってしゃがれた声でぐわっとひとつ鳴いて、空へ飛び立った。
 ラグナはへんてこな顔をして「絶対なにか悪口を言われた」と言うので、ぼくはくすくす笑った。
 姿や生き方がちがっても、言葉がわからなくても、通じあえることもある。

「手を離さないでね」
「あぁ、二度と離さない」
「向こうについたら離していいよ?」

 ぼくが首をかしげると、ラグナはぼくの大好きな笑顔になった。

「離さないさ」

 しっかりと地面を踏みしめるように、一歩ずつ進む。
 門を通り抜けるときも、ぼくたちの手はしっかりとつながれていた。
 やがて、空で待っていたヤタガラスがぼくの結晶の力を使って門を閉じてくれた。
 つながりは途絶え、ぼくたちは新しい場所で生きていく。

「わぁ……」
「これはまた、開拓し甲斐がありそうだ」

 草木すらまばらな、なんにもない山に降り立っても、不安な気持ちは浮かんでこなかった。
 つないだ手をそのままに、見回りのため歩き出す。
 大好きなラグナと、みんなといっしょなら、この先もきっと大丈夫。


おわり
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

処理中です...