ゴーレムは恋を知る

キザキ ケイ

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後日譚

ゴーレムと新天地

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 新しい場所での生活は、毎日が大変ばっかりだ。
 山は荒れ果て、木どころか草花すらまばら。
 当然いきものもほとんどいなくて、やせ細ったモグラさんが土を掘る力もなく死にそうになっているのを見つけたときは、ひどい様子に胸が痛くて仕方なかった。
 モグラさんには魔力を渡して、元気になったけれど、食べるものがなければいきものたちは生きていけない。
 まずは近くの山から恵みをわけてもらいつつ、山の再生をがんばった。
 といってもぼくは、魔力を分け与えるためにひたすら歩き回ることしかできないのだけれど。

「今日も見回りか、アメトリン」

 最近やっと緑が生えてきた茂みから、フェンリルが顔を出した。
 すると次々に灰色の子オオカミが茂みから飛び出してくる。
 フェンリルのツガイさんが今年も元気な子どもを産んで、やんちゃまっさかりだ。
 オオカミの王なのに、たてがみを子オオカミにかじられているフェンリルには王様の威厳なんて全然なくて、ぼくは笑ってしまった。

「笑い事じゃないぞアメトリン。今日はおまえに子守りをしてもらう」
「えっ」

 フェンリルは子オオカミたちをぼくにあずけて、さっさとどこかへ行ってしまった。
 ぽかんとするぼくにじゃれつく子オオカミたち。
 腕に飛びついたり、指をかじったりとやりたい放題だ。
 ぼくは固い腕を持っているから、かじられても平気だけれど、こんな調子だと両親は大変だろうなぁ。

「よーし、みんな、今日はぼくと遊ぼう!」
「わーっ」
「あそぼ、おうさま」
「おうさま~!」

 子オオカミたちに「王様」と呼ばれると、くすぐったい気持ちになる。
 ぼくはみんなに認められて王様になった。
 この山の王様だ。
 ぼくは正直、王様とかよくわからないし、みんなの上に立つとか土地をおさめるなんてもっとわからないから、やらないって言ったんだ。
 でもみんなに「王様が必要」と押し切られてしまった。
 今のぼくの胸には、首にかけた王様のペンダントがゆれて光っている。
 前の山からお引っ越しするとき、「門」を開けるのに使ったぼくの結晶だ。
 ぼくの体から取れた結晶は、中に入っている魔力を使うと削れてなくなってしまうのだけど、このかけらは「門」に使っても残った、強くてよい結晶だという。
 今後、ぼくが王様じゃなくなったら、新しい王様もこの結晶を首から下げることになる。
 絶対になくしたりしちゃいけない、のに。

「ほらほら~、とってこ~い」
「わーっ」

 首にかける革ヒモを振って投げると、結晶がぴゅーんと飛んでいく。
 それを子オオカミたちが競ってとりに走って、奪い合いながら持ってくる。
 子オオカミたちはこの遊びに夢中で、首飾りはヒモがぼろぼろ。今にもちぎれてしまいそうだ。

「ふふ、かわいい。寝ちゃった」

 しばらく遊んであげていると、暴れ疲れた子オオカミたちは腕の中で眠ってしまったので、ぼくは起こさないようにゆっくりと歩いた。
 手に持った王様の証はヒモがぎりぎりで、ぷらぷらゆれていたけど、ついにぷつりと切れて落ちてしまった。
 草の間に落ちた結晶をすぐに拾い上げたはいいけれど、もう首にはかけられない。

「うーん、次は草のツルで作ろうかな?」

 若木の生え始めた森を歩いていると、梢から見慣れた細い影がにゅっと出てきた。
 ヘビさんだ。にょろにょろと肩に乗ってくる。

「やぁヘビさん。子どもたちが寝てるから気をつけてね」

 オトナのオオカミさんたちは大丈夫だけれど、子オオカミたちはヘビさんをおもちゃのようにかじってしまうかもしれない。
 ひやひやするぼくを尻目に、ヘビさんは子オオカミを素通りして、ぼくの手にある結晶を赤い舌でちろちろつついた。

「気になる? ヘビさんにあげよっか?」

 結晶を差し出すと、ヘビさんはぱくりと結晶をくわえ、くるりとぼくの首を巻いて丸くなった。
 ヒモが切れてしまったのを気にして、持ってくれたんだと思う。
 でもぼくは、それ以上のものを感じた。
 今のヘビさんって、すてきな首かざりみたいじゃない?

「あわわ……」

 動けずに立ち尽くしていると、さくさくと草を踏んで近づいてくる足音。
 ぼくはごく小声で、彼を呼んだ。

「ラグナ、ラグナ」
「ただいま、アメトリン。どうかした……」

 現れたラグナも、ぼくを見て立ち尽くした。

「すごいな。なんというか……王様みたいだ」
「だよね、そうだよね、すごいよね? ぼく見えないけど」
「あぁ、鏡があればよかったんだが……すごく良い光景だよ」
「うぅ~見たい……」

 ふとラグナが、腰に下げていた筒を取り外す。

「そうだ、ここに水がある。魔法で鏡を出して見ればいい」
「むむ……」
「何事も練習だ」

 ラグナの大きな手のひらが、筒の中の水を受け止めて差し出される。
 ぼくはそこめがけて、そうっと魔力を流す。
 水を立ち上がらせて、平たく伸ばして、表面をなめらかに。
 あぁ、泡がたっちゃう……。

「うまいぞ、よくできてる」

 ラグナの声に顔を上げると、透明な鏡があった。
 水の量が少ないから、泉に映るようにはものを映せないけれど、うっすらとぼくの姿を反射する水鏡。
 見慣れたぼくに、見慣れない豪華な首かざり。

「うぅん……これはもう、王様だね」
「そうだな。王様だ」
「へへ……」

 ラグナが髪を整えるように頭をなでてくれる。
 王様というものは、みんなを助けて、みんなをまとめて、みんなよりえらいものらしい。
 でもぼくはみんなよりえらいと思っていなかった。
 みんなが頭をさげるのを、どこかむずがゆく思っていたんだ。
 でも、鏡に映るぼくはとっても王様めいていて、これなら胸を張って名乗れる気がする。

「偉大な王、アメトリン。ご案内したい場所がございます。ついてきていただけますか?」

 ラグナものりのりで、王様につかえるものっぽく大げさに頭を下げて、かしこまった言葉を使ってる。

「いいよ。どこに行く?」
「こっちだ」

 腕の中で眠っている子オオカミたちを起こさないようにそっと歩いて、ラグナについていく。
 行きついたのは、山の中では数少ない平たい土地。

「わぁ……」

 これまでなんにもなかったそこを、いろんないきものの手を借りて拓いてきたけれど、今日はまたとびきりだ。
 家があった。
 木と石でできた大きな家だ。
 丈夫な石をいくつも積んでつくった土台に、木で柱を立てて、その周りを板と泥とレンガと石で固めたおうち。
 三角の屋根から煙突が飛び出ている。薪を置くための棚はまだ空っぽ。玄関前には階段があって、ラグナはそこを上っていく。

「やっと完成したんだ。中も見てくれ」
「うん!」

 おそるおそる階段を上がって、玄関をくぐる。
 指先が石でできているぼくでも開けられるドア。押し開くと、広いお部屋がある。
 正面には大きな暖炉、その横にテーブルや椅子、別の部屋へ続く扉がふたつ、奥にはキッチンもある。
 キッチンは石造りで、真新しいかまどや作り付けの棚、煙を追い出すための窓。町で見たおうちそのものだ。

「こっちの部屋も見てくれ。力作だ」

 ラグナにうながされて入った部屋は、半分外だった。
 屋根の先は外につながっていて、簡単に押し開けられるドアがあるだけ。
 部屋の中にはいくつか仕切りがあって、丈夫そうな布がいくつも敷かれている。

「アメトリンの洞窟には、生き物が逃げ込んでくることがあったんだろう。この家にもそういう場所が必要だと思ってな」
「すごい、すごいよラグナ! これならケルヌンノスが泊まりに来ても大丈夫だね!」
「あぁ……ケルヌンノスのツノの高さを測る経験はもうしたくないからな……」

 この山には、前の山から連れてきたいきものがいっぱいいるけれど、いちばん背が高いのは、立派なツノを持つシカさん魔物のケルヌンノスだ。
 ラグナは悩みに悩んで、ケルヌンノスの地面からツノ先までの高さを測って、ツノが天井にひっかからない高さをもたせたという。
 前に「ケルヌンノスの身体測定をしたい」と頼まれたときはなにごとかと思ったけれど……この部屋のためだったんだ。
 ぼくはさっそく、眠ったままの子オオカミたちを分厚い布に下ろした。
 全然起きる気配がない。寝心地がよさそうだ。

「それで……どうだろうか」

 身軽になったぼくにラグナがうかがってくる。
 心なしかもじもじしている気がする。

「うん、ぼくここ好きだ」
「じゃあ」
「ここに住むよ」

 そう言った途端、膝をすくい上げられた。
 抱っこされて、くるくる回る。

「あぁよかった! やっとアメトリンを迎えられる」
「ぼくはラグナといっしょなら、どこでもいいんだけどね」
「いや、そうはいかない。王様を迎え入れるんだからな」

 とてもうれしそうなラグナにぼくも笑みを返す。
 きっかけは、ぼくとラグナの仲に反対なみんなの意見だった。
 ほとんどのみんなは、ぼくの好きにすればいいと言ってくれるけれど、前から過保護っぽかった水龍とヤタガラスが反対して、なにかと引き離そうとする。
 だから話し合って、ラグナがぼくにふさわしい立派な「巣」を用意することができれば認める、ということになった。
 ちなみにはじめは、「立派な巣」の判定も水龍たちがするつもりだったみたいだけど、水と空に住む二匹に陸で生きるぼくのための巣がわかるの? と詰め寄ったら、そこは譲ってもらえた。
 つまり、ラグナが、ぼくも住めるおうちを建てられたら、ラグナは正式にみんながみとめる「王様のツガイ」になる。
 それが今日ついに完成したんだ。

「大工さんたちは?」
「さっさと帰っていったよ。こんな変なところに家を立てるような大仕事の疲れは、うまい飯と酒でないと流せないと言って」
「そうなんだ。ぼくからもお礼したかったのに」

 ラグナはなんでもできる器用な人間だけれど、家を立てるのは無理で、一番近くの町から大工さんを呼んでいた。
 彼らは事あるごとに「酒」「メシ」と言っていたので、水龍に頼んでお酒を譲ってもらってあったのだけれど。
 あのお酒どうしよう。

「水龍の秘蔵酒? とんでもないものをせしめたな。あいつらきっと涙を流して喜ぶぞ」
「よろこぶのに、泣いちゃうの?」
「あぁ、人間はそういうこともある」

 おうちの横には大きな木が立っていた。
 ぼくらがお引っ越しをしてきたときから立っていて、前は元気がなくしおれかけだったけれど、山が再生されるにつれてどんどん元気を取り戻した、丈夫な木だ。
 横にはテーブルとベンチが置かれている。
 ラグナがお茶をいれてくれて、二匹でのんびり飲むことにした。

「静かだね」
「あぁ」
「おうち、完成してよかったね」
「あぁ、本当に」

 屋根にさっそく小鳥さんたちが飛んできた。
 ぴちぴちちと鳴き交わしているのは、おうちの出来を評価しているのかもしれない。
 隣にあるラグナのぬくもりと、首に巻かれたヘビさんのひんやりが気持ちいい。
 いつしかぼくはうたた寝していたらしい。

「あれ……」

 ベンチから体を起こすと、毛布がずり落ちた。
 ヘビさんも、ラグナもいない。
 毛布を拾っておうちのほうへ行く。
 オレンジ色の光が灯って、中には気配があった。

「ラグナ」
「起きたのか、アメトリン」
「うん。おはよう」
「もう日暮れだぞ」

 ラグナはおうちの中で食事をしていたようで、食器を片付けている。
 キッチンの水道は、魔力を流すと貯めてある水がいきおいよく流れるようになっている。
 明かりも、暖炉の火起こしにも魔石が使われている。
 ちなみに魔石は床の下にあって、歩き回るだけで魔力を振りまくぼくがいれば、魔力が切れても魔石を交換する手間はかからない。
 ゴーレムってべんりなのだ。

「ちょうどよかった。風呂に入るか」
「おふろ?」

 たしか以前、ここに家を建てると決めた理由がお風呂だと言っていたような。
 ラグナにうながされて家の裏に行く。
 少し沢を下ったところに、うねうねと蛇行する川があり、ラグナはその川と平行して流れている支流へやってきた。
 曲がりくねっているために、一部がくぼんで水たまりになっている。
 そのうちのひとつは、近くの草がかられて、石で階段までできている。

「ここは水温が高いんだ。ほら」
「わぁ。ほんのりあったかい」
「風呂にするにはちょっと冷たいんだが、ここに魔石を入れると……」

 金属のかごに入れられた魔石が熱を生み、ぬるい水がお湯になっていく。
 やがてぽかぽかと湯気まで立ってきた。

「天然の風呂だ。ここに体をつけるとあたたまるし、疲れが取れる」
「すごい……なんでも知ってるね、ラグナ」
「冒険者の知恵袋ってやつだ。魔石を入れなくてもあたたかい水は、有毒なガスが溜まる場所のことがある。気をつけるように」
「はぁい」

 ラグナはふかふかのタオルを置いて、おうちに戻ろうとする。
 ぼくはラグナの服をつまんで引き止めた。

「いっしょに入ろうよ」
「……」

 ラグナはなにか言いたそうにしたけれど、なにも言わずに服を脱いでお風呂に入った。
 ぼくも近くの岩の上に服を置いて、そっとお湯に足からはいる。

「ふわぁ……あったかい……」

 結晶の指の先まであたたまるような心地よさ。自然と手足がのびる。
 ラグナも気持ちよさそうにしているけれど、ぼくほどのびのびしていなかった。

「ラグナはのびないの?」
「俺はこれでいい」
「そうなの?」

 ラグナの横に行くと、近づいたぶんはなれた。
 近づくと、またはなれていく。

「勘弁してくれアメトリン……」

 ラグナの顔は真っ赤だ。
 いきものはお湯につかると、体が熱くなって顔も熱くなって、顔が赤くなるらしい。
 熱くなりすぎちゃったのかな。
 ラグナのほっぺにぺたりと手をくっつけると、その手を取られた。

「アメトリン」

 あ。
 山の霧の色をした目がうるんで、熱を持ってる。
 こういうときのラグナのためにぼくができるのは、力を抜いて、目を閉じること。

「……ん、」

 やわらかいくちびるの肉が触れ合って、こすれ合って、やわく噛まれる。
 少しだけ口を開くと、ぬるりとしたラグナの肉が口の中に入ってくる。いろいろなところをぬるぬるこすられて、ぼくは呼吸がうまくできなくなる。
 お湯にしずんでしまいそう。
 ラグナにくっつくと、ぎゅっと強く抱きしめてくれた。
 あったかいより熱いくらいの肌がふれて、いつもよりずっと早い胸の音がひびいてくる。

「先に、家へ戻っていてくれ」

 ぎゅっとしていたのをはなしたラグナはつらそうに言う。
 ぼくは言われた通りに体を拭いて服を着て、沢をのぼっておうちへ戻った。
 なんだか頭がぽやんとしている。
 ラグナにぎゅっとされて、くちびるを触られると、いつもこうだ。
 ぼーっとしていたらラグナが戻ってきて、腕を触られた。
 ラグナの手はとてもあたたかい。

「冷えてしまうから、先にベッドに入っていてくれ」
「うん。ラグナもいっしょ?」
「……あぁ」

 さっきは案内されなかった寝室にはいると、大きなベッドがひとつあった。
 魔石のランプに魔力を通して、ベッドに乗る。
 ふわふわで分厚くて、今までで一番寝心地がよさそうなベッドだ。
 隣に小さなテーブルがあって、そこに王様の証が置いてあった。
 あとでヒモをつけなおさなきゃ。
 毛布にくるまると、すぐにうとうとしてしまうので、ベッドに乗るだけにして、窓の近くの魔石に魔力をこめる。
 こうすると、魔力が窓からしのび入ってくる寒さをやわらげて、部屋をぽかぽかあたためてくれる。
 やがてラグナが入ってきた。
 まだ少し毛がぬれてる。
 横に座ったラグナの頭に両手をかざして、春のあたたかな風を思い起こす。

「ありがとう、気持ちいいよ」
「へへ。ラグナ乾かしならぼくが一番だよ」
「俺乾かしか」

 濡れたラグナを乾かすのはぼくの特別なおしごとだ。
 すっかり乾いたラグナの灰色っぽい毛をさわさわなでていると、目が合って、くちびるが触れ合う。
 ちゅ、ちゅっと何度もくっつけていたら、いつのまにかベッドに寝そべっていた。
 ラグナがぼくの上にいる。
 ベッドとラグナの間に押し込められるみたいに、ぎゅっとされてちゅっとされる。

「ん、ぁ……らぐな……」
「アメトリンに触りたい。いいか?」
「いいよ……」

 服を脱いでも魔石があたたかいから、寒くない。
 さえぎるもののない体を、ラグナがじっと見下ろしている。
 硬くてかさついた指先になでられると、体がびくっとふるえてしまうのがふしぎだ。

「ぁ……」

 くちびるや首にくちづけられたり、胸にぽつんとある赤いところをくにくにされたりすると、声が出てしまう。
 それから、じんわりと気持ちいいが体中に広がる。
 ぼくもラグナを気持ちよくしたくて、同じことをしようとしたけれど、ラグナは胸を触られてもあんまり気持ちよくないらしいので、代わりに頭や背をなでなでする。
 たまにぎゅっとつかんでしまうことがあって、あわてて力をゆるめるけれど、ラグナは怒ったりせず、むしろ笑ってぼくをもっともっと触る。
 やがてラグナの手は下のほうに行く。
 足の間の子作りをするところをすりすりされると、ぼくは気持ちよさでどうにかなってしまいそうになる。

「あぁっ、ラグナ、きもちい……」
「こっちも触るぞ」
「ん……、んぁあ……っ」

 ラグナの手は後ろに回って、ぼくのおしりに触れてくる。
 ぼくはオスだけど、子作りするようなこともできると知ったのはつい最近のことだ。
 おしりの肉の間にある穴に指をいれられると、どこを触られるより激しく体が跳ねる。

「あ、あっ、ぁっ」

 声が押さえられなくなって、ラグナを気持ちよくしたくてもできなくて、ただすがりつくだけになる。
 涙が出てくることもある。
 それでもラグナは穴を広げるのをやめない。

「アメトリン。中に入ってもいいか……?」

 汗でかすむ目をぱちぱちまたたいて見上げると、大好きなラグナがいる。
 遠山色の目が熱でうるんで、ぼくはそれを見るたびに胸がどきどきして、なんでも「いいよ」ってうなずいてしまうんだ。
 うれしそうに微笑んだラグナが、ぼくの中に入ってくる。
 指とは全然ちがう太くて熱いものが、じわじわとぼくを押し広げていく。

「んぅ……ラグナ、入った?」
「あぁ。痛かったり苦しかったりしないか?」
「ちょっとじんじんするけど、へいき。ねぇこれって、子作りだよね? ぼくとラグナでも子ども作れるのかな?」

 熱でぼんやりとゆらいでいたラグナの目に、冷静さが戻った。

「ない、とは言い切れないな……アメトリンの『核』は人間の男だが、ほとんど魔物の体でもある。魔物には雌雄同体もいるし、単為生殖も……」
「……」

 こうなるとラグナってば、自分の考えに夢中になっちゃって戻ってこなくなる。
 でもぼくのほうは、ラグナが入ってるところがじんじんから、じわじわと気持ちよさに変わってきてて、それどころじゃない。

「んっ……」

 おまけに体中が敏感になってて、汗が流れるだけでびくびくとふるえてしまう。
 考え事をしていたラグナもぼくの様子に気づいて、熱い手のひらで頬や頭をなでてくれた。

「なぁ、アメトリン。俺と子どもを作れるとしたら、産んでくれるか?」
「いいよ」

 すぐにうなずくと、ラグナは拍子抜けたようでぽかんとした。
 ぼくにとっては、いまさらな質問だ。

「ぼくとラグナはツガイになったんだから、子どもを作ってもいいんだよ。それに、魔物もみんなも、体が大きいほうが産むのがいいって言ってた。体の負担がちがうからって」
「アメトリンのほうが体が大きいことになるのか……?」
「そうだよ? この体は『核』だもん。ラグナも知ってるでしょ? ほんとのぼくはずっと大きいんだから!」
「そう、だな。はは」

 お腹をなでると、奥にラグナの存在を感じるような気がする。
 山のみんなはしきりに「人間と魔物はちがう」と言うから、きっと子どもはできないと思う。
 でも、魔物だって動物とはちがう形で子を産むことがあるとも聞く。
 だから絶対にないとは言えないって、ぼくもそう思う。

「ラグナの子ども、できたらいいなぁ」
「……っ、アメトリン、動くぞ」
「うん、……ぅ、あ、あっ」

 お腹の中を何度もこすられて、変な声がたくさん出てしまう。
 気持ちいい。
 ラグナも気持ちよさそう。
 お互いに求める気持ちが高まるのを感じて、ぎゅっとラグナに抱きつく。
 ラグナもぎゅっとしてくれて、まるでひとつのいきものになったみたいにくっついて、ぼくらは熱を与えあった。



 なにかが鳴く声が聞こえて目が覚める。
 ぼくはベッドで眠っていたみたいだ。
 そんな目覚めはとても久しぶり。
 ラグナといっしょに人間の町へ行ったときぶりだ。

「らぐな……?」

 ベッドにはいない。部屋の中にも。
 服を着てから部屋を出て、きゃんきゃんという鳴き声が聞こえるほうへ行くと、昨日案内された半分外のお部屋で、ラグナが子オオカミたちにもみくちゃにされていた。

「おはよう、ラグナ。なにしてるの?」
「アメトリン、助けてくれ……」

 子オオカミは見慣れない人間に大興奮で、肩にのぼったり、髪をかじったり、指にかみついている……と思いきや、指をちゅぱちゅぱ吸ってるみたいだ。
 かわいいいたずらばかりだけど、ラグナはどうしたらいいかわからないのか、困りはてて身動きできないらしい。
 子オオカミをラグナからはなして抱っこする。

「ラグナはおもちゃじゃないから、かじっちゃだめだよ」
「えーっ」
「おいしそうなのに」
「ママどこ~」

 不満そうな子オオカミたちにごはんを出してあげると、いやいや言っていたのがウソみたいにみんなごはんに夢中になった。

「この子たちをフェンリルのところに返しに行くけど、ラグナも行く?」
「いや、今日はギルドに用があるから町へ下りる」
「そっか。気をつけていってきてね」
「アメトリンもな」

 ラグナはすっかり出かける支度を終えていたようで、ぼくのおでこにちゅっとして出かけていった。
 この山は、ラグナが暮らしていた場所から遠くはなれている。
 ラグナいわく、ここは国がちがうらしい。
 冒険者は国が変わっても冒険者のまま過ごせるけど、仲間のウルザやハーキンとはなかなか会えなくなるし、ギルドちょーも泣いて嫌がったらしい。
 幸い、人里が近くにあったので、ラグナはそこのギルドに通うようになった。
 山のみんなと同じように、元いたところから引きはなしてしまったけれど、ラグナは「結婚したんだから当然だ」と笑ってくれた。

「おうさま、ぼくたちかえる」

 子オオカミたちが、口のまわりをベタベタにしながら言いにきた。
 食べかすをぬぐってやると、わちゃわちゃと暴れて、これがまたかわいい。

(子どもをもつって、こういうかんじなのかなぁ)

 それがラグナとの子だったら、きっとかわいくてしかたがない。

「よぉし、おうちまで走るよ。誰が一番のりかな?」
「わーい!」
「わぉ~ん!」

 転がるように走りだす子オオカミたちの後ろについていく。
 出かけたばかりのラグナがもう待ち遠しくて、ぼくは駆けだした。
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