中堅地味破壊神は世界を平和にしたいだけ

キザキ ケイ

文字の大きさ
8 / 44
本編

08.同僚との距離

しおりを挟む
 創造神がおとなしい。

 今朝は目が覚めても目の前に顔があるということはなかったし、鬱陶しいくらいくっついてくる日課もなかった。
 リビングに行くといつも通り創造神はソファに座っていたが、いわゆる体育座りで小さくなっていた。
 おはようと声をかければ小さく「おはよ」と返ってきたものの、明らかにいつもの元気さはない。
 それどころか悲しげに眉を下げて、吐息のような溜息をいくつもついていて、こっちの調子まで狂ってしまう。

「なぁ、創造神」
「っ!」

 おまけに、俺から声をかけようとすると、創造神は目をそらしたり立ち上がって別室に移動したりと……あからさまに避けられている。
 溜息を吐きたいのはこっちだって同じだ。

 やっぱり原因は、昨日俺が「創造神とは友達じゃない」と言ったことだと思う。
 実際に創造神がどう思っていたかはわからないが、向こうは俺を友達だと思っていたとして、それを本人から否定されたら嫌な気持ちになるだろう。
 でも俺は本当に奴をただの同僚としか思っていなくて、もう一度よく考えてみてもやっぱり同じだった。

 このトシになって思春期の少年のようなことを悩むとは思いもしなかったが……いつまでも目を背けているわけにはいかないだろう。
 仕事仲間と友達の境界線ってどこにあるのか、という命題から。

(いいトシの神が二柱、なんて馬鹿馬鹿しい悩みだ……)

 向こうが俺のことを友達と思っているから、こちらも友達だと思わなきゃいけない、ということはないだろう。嫌いな同僚に粘着されるというパターンもあるし。
 では俺は創造神のことが嫌いかと言えば、そんなことはない。
 ただどちらかと言えば、すべてのモノに対して好きとか嫌いとか考えたことがなかった。
 日常生活を送る上でなにが好きでなにが嫌いかなんて、考えることがほぼないのでこの思考回路自体が新鮮だ。

 例えば、家事は好きだ。
 掃除や洗濯、料理は楽しいし、俺でもなにかを成し遂げることができているという達成感から毎日やっても苦にならない。
 この家も気に入っているし、見渡す限りの雲海も好きだ。
 地上と、そこに暮らす生き物はみんな可愛い我が子のように思っている。子供ができたことがないから想像だけど。
 仕事も好きだ。
 事務員さんも、いつも穏やかな笑顔を向けてくれるので照れくさいこともあるけど好きな人だ。
 一方で、事務員さんのことが好きだから友達か、と言われると───それはどうも違う気がする。
 ただ友達になれるなら、嬉しいとは思う。

 創造神のことはどうだろうか?
 毎日ひっついてきてウザいこともある。でも嫌いなわけじゃない。
 どうも仕事仲間という範囲を逸脱した振る舞いをしてくると思っていたが、向こうが俺を友達だと思っていたのであれば───だいぶ過剰な気はしないでもないが───なるほどと納得できた。
 確かに、初対面から馴れ馴れしかったわけじゃない。いつのまにかあんなセクハラ野郎になっていたが。
 それを受けて、創造神と友達になれる、友達になると考えたらどうだろう。

「……ん?」

 胸に手を当てて感覚を確認する。
 なんだかすごく違和感があって、嫌だと思った。今の変な感じはどこから来たんだろうか……?
 俺、創造神と友達になりたくないのか?

「俺ほんとは創造神のことかなり嫌いだったのか?」

 自分でも知らなかった事実……!
 なんだか自分が、表面上は取り繕っているけど腹の中がドス黒い嫌な奴に思えて狼狽える。
 いやでも、ちょっと待て。
 さっき脳内会議では創造神が嫌いなわけではないって結論出てたよな? 嫌いなわけじゃないけど友達にはなりたくないってどういう気持ち?

(生理的に無理ってやつ?)

 思春期の少年どころか女子みたいなことを考えている自分にムズムズしてしまうけど、要はそういうことなんだろう。
 友達はいいけど恋人には無理、のさらに低い階層の話ってことか。

 こうなると俺のことを避け始めている創造神との関係がこの上なくこじれそうで、俺は再び重い溜息を吐いた。
 「友達にはなれそうもないけど、元気だしてくれ」なんて声を掛けられるほど俺は鬼畜野郎じゃない。向こうが悪からず思ってくれているのを知っていてそんな仕打ち、絶対無理だ。どんな最低野郎だ。
 しかし俺が無理してあいつに合わせるっていうのも、対等な仕事相手への適切な態度ではない気がする。
 どうすればいいものか……。

 考え事をしながらの上の空でも、俺の手元はしっかり動いていて昼食が出来上がっていた。今日は持ち運びの便を考えて握り飯。

「創造神。俺今日事務所行ってくるわ。お前も来るか?」
「……ッ!」

 自室に籠もってしまった創造神へ扉越しに声を掛けると、小さく息を呑む音が聞こえてきた。
 いつも事務所に行くときは同行しているし、かといって今日は気まずい。色々と逡巡しているんだろう。

「……行かない。気をつけて」
「おう」

 予想通り、今日は無理に付いてくることはないようだった。
 たまには別行動で仕事に当たることも必要だろう。
 俺がいない間に創造神が仕事をするかどうかは疑問だが……。

 本当は全休の日に荷物を取りに事務所へ行くつもりだったが、事務所に顔を出す行為自体は問題はないはずだ。
 本来は事務所こそが職場のはずなんだし。誰かさんのせいで自宅勤務を余儀なくされているだけで。
 提出する書類と仕事道具一式を抱えて俺は一人で家を出た。
 いつも纏わりついてくる奴が横にいないだけで、ずいぶんと静かで短い時間の移動だった。




「おはようございま~す」
「おや? おはようございます」
「あの……今日、ここで作業してもいいですか?」
「もちろん。この建物は仕事をするための場所ですから」

 まるですべてお見通しとでもいうように事務員さんが微笑んで、事務所内に導いてくれる。
 あの家で仕事をするのが気まずいと、ひと目で見抜かれてしまったんだろうか。

「すみません、今時期は書類仕事忙しいのに」
「大丈夫ですよ。提出ぶんはもうまとめ作業だけです。ここに来たからには、仕事手伝ってくれるんですよね?」
「それはもちろん」
「では問題ありません」

 いつも案内される応接セットの場所ではなく、いくつかある事務机のほうに席を用意してもらった。
 この事務所にはいつも事務員さん一人しかいないのに、なぜか事務机が4つある。そしてすべてがすぐに使える状態になっていて、埃も積もっていない。有能さが伺い知れる。

「いきなり雑用で申し訳ないのですが、この資料をAからEまで一枚ずつ綴じてこちらの箱にいれてもらえますか? 全部で80部です」
「了解、なんでもやるので遠慮しないで振ってください」
「それは頼もしい」

 ダンボールいっぱいに詰められた書類に向き合う。
 単純作業は好きだ。なにも考えなくていいから。
 ふつうに考えて、二日と置かず事務所に向かった俺の意図を創造神も理解してしまっただろう。
 気まずくて、顔を合わせられないという行動だ。
 たぶんお互いに同じ状態に陥っている。
 これが「決定的な拒絶」と取られるかどうかは、俺の行動に掛かっている……今はそんな状況だろう。最悪このままギスギスするパターンもあり得る。

 事務所に向かう途中、歩きながら改めて考えてみたが、俺が創造神を嫌いだと思う決定的な部分は確かになかった。
 嫌いだったらさすがにキスは拒否する。ハグも嫌だ。
 でも俺にとって創造神は、友達という感覚ではない。
 こちらも喉の奥から湧き上がってくるような、確実な思いだった。
 この合理的じゃない思考回路、いかにも人間っぽいよな……。俺どうしちゃったんだろう。

 今考えても埒が明かなそうだ。
 俺は黙々と書類の端をクリップで止める作業を開始した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~

水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった! 「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。 そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。 「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。 孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...