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【ハッピーBL】
バカな彼氏のしつけ方
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俺の恋人アキラは、バカだ。
いきなり「嫌いになったから別れる」と言い出して走り去ったかと思えば、すぐに戻ってきて家に入れろと騒ぐ。その態度は恋人だったときとなんら変わらず、俺は混乱するしかなかった。
それでも俺はアキラのことが好きで、それなりに性欲が溜まっている。だからこの無防備な「元」恋人を、強姦することにした。
【キーワード】
溺愛攻め / アホ受け / 学生 / アホエロ / 性描写あり
◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆
「今日からおまえのこと嫌いだから!」
「は?」
「もうコイビトじゃないから! じゃーな!」
自宅の玄関先で、出迎えた俺に投げつけられたのはそんな言葉。
そして、俺はフラれた。
■ バカな彼氏のしつけ方 ■
俺の恋人、アキラは、はっきりいってバカだ。
勉強ができないという意味ではない。いや、勉強もできないのだが、彼のおつむはあらゆる点でスカスカだ。
カタカナ語はだいたい間違えて覚えているし、故事や四字熟語の類は意味が伝わった試しがない。足し算と引き算はできるが掛け算以降は微妙だ。だいたいのことにおいて応用というものが効かず、一回教えてもすぐ忘れる。
それなのに他人を信じやすく、間違った知識を教えられて疑いもしない。
まぁ、アキラの頭の悪さにつけこんで丸め込み、恋人にした俺も、あいつのことを馬鹿にする連中とそう変わらないのかもしれないが。
そんなアキラに受験勉強などできるはずもなく、地域でも有名な馬鹿高に進学した。
いわゆる、名前さえ書けば入れるタイプの高校だ。
運動神経は人並み以上にあったので、不良だらけの高校でもアキラが虐げられることはなかった。
それどころか、バカで素直だがケンカが強いアキラはそこそこ人気があって、先輩に気に入られ後輩に慕われ、悪くない高校生活を送っている。
たぶんそこで、なにか吹き込まれたんだろう。
俺が毎日指折り数えて待つ週末のデート、よりによってそんな日に俺に別れを突きつけて、アキラは駆け去ってしまった。
「なんで急に……」
俺はアキラと違う高校に進学したので、あいつの近況を知ることができるのは週末の二日間だけだ。
家が隣同士というテンプレな幼馴染を少しずつ洗脳───もとい、口説き続けて、やっと恋人という立場に収まることができてから一年。
アキラへの想いを自覚してから数えれば十年という歳月を、奴はものの20秒くらいで無に帰した。
「そう簡単に逃がしてたまるかよ」
無意識に握った拳が小刻みに震える。
やっとこの手に落ちてきて、掌中の珠として大事にしてきたものを手放す気はない。
俺は真相を究明すべく、行動を開始した。
一番に俺が取れる行動は、隣の家のインターホンを押しておばさん───アキラの母親に話を聞くことだ。
幸い彼女は在宅していた。すんなりリビングへ通される。
「やぁねぇ。昔っからべったりのあの子が龍二くんのこと嫌いになるわけないでしょう?」
おばさんが淹れてくれたお茶を啜りながら話を切り出した俺の疑問は、笑い混じりの一言で否定され片付けられてしまった。
それどころかアキラはつい昨日の朝まで、週末の俺とのデートをソワソワしながら楽しみにしていたという。
それが昨日の夕方、妙にしょんぼりと沈んだ様子で帰ってきて、今朝俺の家に向かったかと思えば泣きそうな顔で飛び出し、そのまま外出したとか。
「なんなんだ……?」
「ごめんねぇ龍二くん、いつまでもあの子の面倒見てもらっちゃって」
「いえ、俺の趣味なので」
「そう言ってもらえるとありがたいわぁ」
俺のことも我が子のように可愛がってくれるおばさんは、特に事態を深刻に考えていないようで、からからと明るく笑った。
自分の息子の世話をするのが趣味だと言い放つ幼馴染の存在に、危機感のカケラすらないようだ。
これも長年の努力の賜物である。
貰い物が余っているからとお菓子の山を持たされ、家に戻ると玄関ドアの前に人影が蹲っていた。
先ほど自分から飛び出していったアキラだ。
俺が前に立つとアキラはパッと顔を上げ、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「おかえりリュージ!」
「あ、あぁ……ただいま?」
「おばさん今日仕事? 早くいれてよ、先週見たドラマの続き見よーぜ!」
勝手知ったる俺の家に入ろうとして、家人不在で入れずここで待っていたらしい。
さっき別れを告げた事実などなかったかのようにいつも通りのアキラに、俺は首を傾げた。
まさか別れ話をしたことも三歩歩いて忘れてしまったのか?
「リュージ、これ飲みたいって言ってたろ? サイダー買ってきた」
そう言ってアキラが掲げたコンビニの袋には、スナック菓子と一緒に新発売の炭酸飲料が入っていた。
勉強どころか日常生活も覚束ないレベルのバカであるアキラは、なぜか俺の言ったことや好きなもの、嫌いなものや誕生日といったことだけは忘れない。
そういうところが最高に可愛くて、俺は玄関先でキュンとなったのだが、アキラの言を信じるなら俺達は破局しているはずだ。
ドアを開けた途端慣れた足取りで俺の部屋に入っていってしまったアキラを追いかけると、早くもテレビの前に陣取ってくつろごうとしている姿が目に入る。
「おいアキラ」
「な~DVDここ? 先週何話まで見たっけ?」
「おい」
しゃがんで肩を掴み、目を合わせるとアキラはきょとんとした。
俺がなぜ不機嫌そうに眉間にシワを寄せているのか、まったくわからないといった顔だ。
「何?」
「なにじゃないだろ……俺たち別れたんだよな?」
「おう。オレはもうリュージのコイビトはやめたんだ」
「それなのになんで堂々と俺の部屋でダラけようとしてるんだ?」
「なんでって? 先週もその前もそうしてただろ?」
「ん~……?」
アキラが突拍子もない行動・発言をするのはもはや日常茶飯事だが、今回ばかりは俺にも解読できそうにない。
困惑して頭を抱えた俺をよそに、アキラはさっさとラックを漁ってDVDを見始めた。
挙げ句、なぜ座って見ないのかと言わんばかりに自分の横のスペースをぱたぱた叩いて示してくる。
迷ったが、結局隣に腰掛けた。
俺が望み通りの位置に座ったことで満足したのか、アキラは再びテレビ画面に顔を向けた。俺は全く納得できていなかったので、線の細い横向きの顎をぐっと掴んでこちらへ向けさせる。
「なにすんだよリュージ!」
「おまえさ。先週そうやってDVD見てて寝落ちしたよな?」
「んあ? そだっけ」
「そうだ。俺はせっかくおまえが俺のベッドで寝てるってのにお預け食らって……もう三週間我慢してる」
「へ?」
「今日こそはと思ってたのに、おまえ訳わかんねぇこと言うし、なのにまた無警戒に俺のベッドに座ってるし。誘ってんだよな、そうだよな?」
掴んだままの肩をベッドに押し付ける。
アキラにとっては珍しくもない、俺が慣れさせるために何度もしてきた行為なので、抵抗が遅れているようだ。まだぽかんとした顔をしている。
「そういえばおまえ、俺のこと嫌いになったんだよな」
「そ、そうだ……オレはリュージのこと嫌い、になった!」
「ふーん。じゃあ今からするのは強姦だから」
「え?」
「嫌なら抵抗しろよ?」
呆然とされるがままになっているアキラの耳元に囁いて、俺は慣れた手順でアキラの服を脱がし始めた。
「あぁぁっ……リュージ、そこ、やっ……」
「ここか?」
「ぅあっ」
赤く色づいて立ち上がっている胸の飾りを執拗に舐めてやると、アキラの体は面白いくらいにびくびくと跳ねる。
年月をかけて快感をいちから教え込んだ肉体は、すっかり俺好みに仕上がっている。
のしかかる俺の体を押し返すアキラの腕は形ばかりのもので、震えて力など入っていなかった。
アキラは細身の見た目と裏腹にかなり腕力があり、体術にも優れている。
その能力はもっぱらケンカに生かされているようだが、彼が本気で嫌がれば俺のことなど一瞬で制圧できるはずだ。
実際、アキラの寝込みを襲ったりするととんでもない返り討ちに遭う。下手すれば腕の一本、歯の数本は覚悟しなければ夜這いなどできない相手だということは、経験から理解している。
ことさらゆっくり服を脱がせ、手足を縛ることも急所である股間を掴むこともしていない。
本当に嫌ならとっくに突き飛ばされているところだ。
それなのにアキラは終始熱に浮かされた、恋人だったときと同じ目をして俺の愛撫を受け入れていた。
「リュージ、下、さわって……」
「嫌いな相手におねだりするなんて、アキラは淫乱だな」
「やっ、ちが……」
胸元への刺激だけで勃ち上がり、先走りを零しているアキラのものには敢えて触れずに、腕を背中側に回して指先で腰を辿る。
尻の割れ目を這う指にアキラの体がびくんと反応した。
それが期待からくる反応であることは承知している。同時に、今すぐ直接的な刺激を与えられないことを理解したのかアキラの両目が一気に潤んだ。
「あぅっ、リュージ、もっと触って───おねがい」
「十分触れてるじゃないか」
「やっ、もっと前の……こっちも触って……」
アキラが俺の腕を掴んで、可哀想なほど震えている自らの下腹へ誘導する。
仕方がないのでそれを握りこんでやると、期待と歓びに染まった喘ぎ声が上がった。
「おまえ強姦って意味わかってるか……?」
「あぁ、もっと強くして……ん、あっあ、あぁ」
俺が与える刺激では物足りないのか、アキラは腰を揺らして体を擦り付けてくる。
快楽に染まりきった瞳は滲んでいて、だらしなく開かれた唇が何を欲しているか明確に理解できた。
しかし今はそれを与えてやる気はない。
「リュージぃ、ちゅーしたい……」
「ダメだ。キスするのはどんな相手か教えただろ?」
「あっん、ん……リュージと、だけ……」
「違う。恋人とだけ、だ。俺はおまえに嫌われてるし恋人じゃないから、キスはしない」
「そんなぁ、リュージ……っは、あっ!」
寄せられる唇はすげなく押し戻して、物欲しそうにヒクつく下腹の蕾に触れた。これから起こることに期待する気持ちと、求めたキスが得られなかったことに対する不安に震えるアキラと目が合う。
普段なら優しく微笑んでキスをして、とろけさせてから挿入の準備を進めるが、今日は心を鬼にして熱視線を無視した。
慎重に指を一本潜り込ませると、ローションの力を借りているからというだけでなく、抵抗のない内壁の感触に違和感を覚える。
「おい、なんでちょっと柔らかいんだ?」
「んぅ……し、知らない……」
「淫乱なアキラくんは俺と別れてもすぐ新しい彼氏ができるってわけか。もう他の男を咥え込んだのか?」
「ちがっ、オレはリュージだけ、」
「他の男に慣らされてるなら遠慮はいらねーな」
いつもはアキラが根をあげて強請るようになるまでじっくりと解す後孔を、今日は手早く指を増やして拡げ、すぐに抜き取った。
「な、んかリュージ、いつもと違う……こわいよぉ……」
あまりに違う俺の様子にやっと危機感が湧き上がってきたのか、弱々しい抵抗に遭った。
尚も背中に縋り付こうとする手を乱雑に一纏めにし、アキラの頭上でシーツに押し付ける。
「あっ! っひ、ぃ……あぁ……」
隙間を塞いで欲しそうにひくひくと疼く蕾に怒張を押し込むと、行為に慣れたアキラの体は勝手に快感を拾って背を仰け反らせた。
貪欲に蠢く肉壁が俺を奥へ奥へと誘う動きを見せる。
「嫌いな男に体を好き勝手される気分はどうだ?」
「ひっ、ひ……やだ……いじわるしない、で……」
「あーあー泣いちゃって。そんなに嫌なのかよ」
恐怖からかぼろぼろと大粒の涙を流し始めたアキラの双眸を、ついいつものように親指で拭ってしまった。
そんな俺の指に濡れた頬を擦り寄せてくるアキラは、いつになく扇情的だ。
「いやじゃない……でもリュージ、こわい」
「嫌いな男にこんなことされてんだ、ちょっとは嫌がれよ」
「っ、リュージいやじゃない、いつもみたいにゆっくりして、ほし……」
「はいはい、仕方ねーなぁ」
拘束していた両手を解放して、流れる涙を唇で吸い取ってやると、それまで不安に揺れていた色の薄い瞳が綻ぶように笑みに細められる。
そのまま朱く染まった口唇を重ねてやれば、俺の背中に両手で縋って吸い付いてきた。
俺だってアキラの「嫌い」宣言がなければ、こんな無体な真似はしたくなかった。あくまで彼の真意を探るために無理を強いているのであって、途中から楽しくなってしまったなんてことはない。
「ふ……ん、んぅ、動いて、リュージ」
「こら、腰が揺れてるぞ。本当にエロいなアキラは」
「なんでもいい……リュージがほしい……」
「わかったよ、まったく……」
腰を掴んでがつんと奥に叩きつけると、たったそれだけでアキラは一度達してしまったようだ。搾り取るような腸壁の蠕動になんとか耐えて、知り尽くしているアキラの中を味わうように抉る。
「あっあっあっ、今イッてる、からぁ!」
「俺はまだだ。付き合って」
「やぁあっ、ひ、あっ、あぁああっ!」
絶頂の波に溺れるアキラを煽りながら攻め立てて、俺は三週間分の空白をゆっくりと埋めていった。
アキラが本気で音を上げるまで繋がり続け、ぐったりとしてしまった体を抱き上げて口笛を吹きながら浴室で世話した。
横抱きで運んだアキラの体を清潔なシーツの上にそっと下ろし、俺もその隣に寝転ぶ。
久しぶりの情事でぼうっとしているアキラの髪を指先でいじっていると、その手を取られた。
「オレ……リュージ以外に触らせたりしてないから」
どうやら不貞の追求をしたことは覚えていたらしい。
焦ったような、真剣な目で見つめるアキラは妙に嗜虐心を唆る。
俺だって、隠し事など到底できないアキラが浮気したなどとは考えていない。後ろが慣らされていた様子だったのは、大方自分で慰めたからだろう。
しかし今日はとことん意地悪く接してやることにする。
俺はにやりと笑みを浮かべて、必死な様子のアキラに握られていた手をさっと取り返した。
「どーだか。嫌いな男に抱かれて悦ぶ淫乱アキラくんが他所でなにしてようが俺にはわかんねーし」
「嘘じゃない! オレにはリュージだけだし……!」
「でも俺のこと嫌いなんだろ?」
今日何度目かになる問いを返すと、アキラは下を向いて小声で言う。
「だってそう言わないと、コイビトやめられないから……」
「ふぅん。アキラは俺の恋人をやめたかったのか」
そんなことを考えていたとは初めて知った。
アキラの横を陣取ったままうつ伏せに体勢を変化させると、俺の態度に突き放すものを感じたのかアキラは慌てて言い募ってくる。
「だってコイビトは……ダメなんだ……友達でなきゃ」
「俺と友達に戻りたかったのか、アキラ?」
「うん」
「でもお前、俺のこと嫌いなんだろ? 俺のこと嫌ってる奴とは友達にはなれねーよ」
「えっ!」
よほど驚いたのか、上半身を跳ね起こしたアキラは目をまん丸にして声を上げた。
アキラはマルチタスクができない。
ひとつのことに集中させれば最低限、人として生きるくらいにはなんとか生活できるのだが、並行して別々のことを考えると知能が動物未満になりがちだ。
なにか「恋人」と「友達」という二つのものについて、アキラにとっては難題な事柄を同時に考えたせいで思考がこんがらがってしまっているようだ。
呆然と固まっているアキラをベッドの上にきちんと座らせ、裸の体にシーツを巻いてやって、俺も対面に胡座をかく。
「アキラ、お前一人で考え事したって良い案が浮かぶわけないだろう。どうすればいいかわからなくなったら、誰に何するんだっけ?」
「リュージに相談する……」
「わかってるじゃないか。覚えてる限りでいいから、いちから話してみ?」
とても無理やり性的暴行があった後とは思えない和やかな空気の中、俺は要領を得ないアキラの話を根気強く聞き取り続けた。
「───大体わかった。まず山中が、今まで友達だった女に告白して恋人になったんだな。そして数ヶ月で破局したと」
「ハキョクってなに?」
「それはまたあとで」
山中というのは、アキラの高校の同級生である。
一度紹介されたが、いかにもチャラくて軽そうな男だった。生粋の女好きだ。
アキラから聞く限り取っ替え引っ替えな奴だったようだが、どうやら本命には奥手なタイプだったらしい。
「そこで山中が、『恋人になって失敗したらなにもかも失う』と嘆いていたのを聞いて、俺とのことを考えたと」
「うん……」
「そして今度は全く別の文脈で、田口から、恋人にフられたときの言い訳が酷かったと愚痴られた。そんなに理由を捏ね回すくらいなら、一思いに『嫌いになった』と言ってほしかったと」
「ブンミャクってなに?」
「それは……知っててほしかったけど、あとで辞書引こうな」
田口というのもアキラの友人だ。見た目が怖いがあまりケンカは強くなく、純情な男子高校生らしい。
山中と田口が恋破れた時期は微妙にズレているのだが、アキラの低容量脳みそはこんなときだけ妙に回転したらしく。
かつて友人関係だった俺とアキラの恋人関係が、いつか終わってしまう。そうしたら山中のように、なにもかも失ってしまう。
そのためには恋人をやめて友人に戻りたい。
そして恋人をやめるには、「嫌いになったと言ってほしかった」と田口が言った───と。
「どうしてお前のアタマはこういうときだけよく回るんだろうなぁ」
目の前の柔らかい頬肉を両手でつまみ上げると、似合わない顰め面のアキラが俺の手をぺちぺち叩いて抵抗してくる。
「痛いよリュージ」
「これは、俺に相談もせず早とちりしてなにもかも台無しにしそうになったアキラへのお仕置きだ」
「だって……」
「急に不安になっちゃったか?」
「……ん……」
頬をつねられたまま小さく頷くアキラのことを、俺はこんなにも好きで好きで堪らないというのに。
許されるなら腕の中に抱え込んで片時も離さず、疑う気力もなくなるくらい抱き潰して愛を囁いて、一生誰にも見せないで俺だけがこいつを見つめられるようにしたいくらいだというのに。
俺の気持ち自体が疑われていたようで、どうにも虚しい。
黙ってしまった俺のことを、小動物に似た瞳が上目遣いで見つめてくる。
俺はそっとアキラの肩を引き寄せて、シーツごと抱き締めた。
「アキラ、好きだよ。大好きだ」
「りゅ、リュージ……」
「お前に嫌いって言われても、俺はお前を絶対嫌いにならない。嫌いになれない」
「……うん」
「アキラは? 俺のこと本当に嫌いになっちゃいそうか? 無理やり、怖い思いさせたし」
「オレだってリュージのこと嫌いになんてならない! そう思ったことも一度もない……さっきのだって、無理やりじゃないし……ちょっと怖かったけど、嫌じゃないし」
シーツのなかでもぞもぞ動いていたアキラが俺の背に手を回して抱き締め返してくれる。
あの言葉を信じていたわけではないが、アキラに嫌われたという事実がひとつも無かったということに俺は改めて安堵した。
密着していた体を少し離して、さっきは避けた甘いキスをいくつもアキラに贈る。
くすぐったそうに身を捩る彼が嫌がったりしていないことは、長い付き合いの俺にはすっかりお見通しだ。
「もうこれで別れるってのはナシだな」
「うん」
「じゃあ仲直りエッチでもしますか」
「えっ」
再びベッドにシーツの塊を押し倒すと、アキラの両目は真ん丸に見開かれた。
「さっきしたのに?」
「さっきのは強姦だから。これは和姦。それに一回で気が済むわけないだろ?」
「ひっ……リュージのゼツリンめ……!」
「お、難しい言葉知ってるな」
なおも文句を言いたそうな唇をねっとりと塞いで、俺はさっき足りなかった分を補うようにアキラの肌をなぞる。
次はどんなふうに乱れさせてやろうか。
決して本心では嫌がっていないアキラの微弱な抵抗に遭いながら、俺達はいつも通り幸福な週末を過ごした。
おわり
いきなり「嫌いになったから別れる」と言い出して走り去ったかと思えば、すぐに戻ってきて家に入れろと騒ぐ。その態度は恋人だったときとなんら変わらず、俺は混乱するしかなかった。
それでも俺はアキラのことが好きで、それなりに性欲が溜まっている。だからこの無防備な「元」恋人を、強姦することにした。
【キーワード】
溺愛攻め / アホ受け / 学生 / アホエロ / 性描写あり
◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆
「今日からおまえのこと嫌いだから!」
「は?」
「もうコイビトじゃないから! じゃーな!」
自宅の玄関先で、出迎えた俺に投げつけられたのはそんな言葉。
そして、俺はフラれた。
■ バカな彼氏のしつけ方 ■
俺の恋人、アキラは、はっきりいってバカだ。
勉強ができないという意味ではない。いや、勉強もできないのだが、彼のおつむはあらゆる点でスカスカだ。
カタカナ語はだいたい間違えて覚えているし、故事や四字熟語の類は意味が伝わった試しがない。足し算と引き算はできるが掛け算以降は微妙だ。だいたいのことにおいて応用というものが効かず、一回教えてもすぐ忘れる。
それなのに他人を信じやすく、間違った知識を教えられて疑いもしない。
まぁ、アキラの頭の悪さにつけこんで丸め込み、恋人にした俺も、あいつのことを馬鹿にする連中とそう変わらないのかもしれないが。
そんなアキラに受験勉強などできるはずもなく、地域でも有名な馬鹿高に進学した。
いわゆる、名前さえ書けば入れるタイプの高校だ。
運動神経は人並み以上にあったので、不良だらけの高校でもアキラが虐げられることはなかった。
それどころか、バカで素直だがケンカが強いアキラはそこそこ人気があって、先輩に気に入られ後輩に慕われ、悪くない高校生活を送っている。
たぶんそこで、なにか吹き込まれたんだろう。
俺が毎日指折り数えて待つ週末のデート、よりによってそんな日に俺に別れを突きつけて、アキラは駆け去ってしまった。
「なんで急に……」
俺はアキラと違う高校に進学したので、あいつの近況を知ることができるのは週末の二日間だけだ。
家が隣同士というテンプレな幼馴染を少しずつ洗脳───もとい、口説き続けて、やっと恋人という立場に収まることができてから一年。
アキラへの想いを自覚してから数えれば十年という歳月を、奴はものの20秒くらいで無に帰した。
「そう簡単に逃がしてたまるかよ」
無意識に握った拳が小刻みに震える。
やっとこの手に落ちてきて、掌中の珠として大事にしてきたものを手放す気はない。
俺は真相を究明すべく、行動を開始した。
一番に俺が取れる行動は、隣の家のインターホンを押しておばさん───アキラの母親に話を聞くことだ。
幸い彼女は在宅していた。すんなりリビングへ通される。
「やぁねぇ。昔っからべったりのあの子が龍二くんのこと嫌いになるわけないでしょう?」
おばさんが淹れてくれたお茶を啜りながら話を切り出した俺の疑問は、笑い混じりの一言で否定され片付けられてしまった。
それどころかアキラはつい昨日の朝まで、週末の俺とのデートをソワソワしながら楽しみにしていたという。
それが昨日の夕方、妙にしょんぼりと沈んだ様子で帰ってきて、今朝俺の家に向かったかと思えば泣きそうな顔で飛び出し、そのまま外出したとか。
「なんなんだ……?」
「ごめんねぇ龍二くん、いつまでもあの子の面倒見てもらっちゃって」
「いえ、俺の趣味なので」
「そう言ってもらえるとありがたいわぁ」
俺のことも我が子のように可愛がってくれるおばさんは、特に事態を深刻に考えていないようで、からからと明るく笑った。
自分の息子の世話をするのが趣味だと言い放つ幼馴染の存在に、危機感のカケラすらないようだ。
これも長年の努力の賜物である。
貰い物が余っているからとお菓子の山を持たされ、家に戻ると玄関ドアの前に人影が蹲っていた。
先ほど自分から飛び出していったアキラだ。
俺が前に立つとアキラはパッと顔を上げ、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「おかえりリュージ!」
「あ、あぁ……ただいま?」
「おばさん今日仕事? 早くいれてよ、先週見たドラマの続き見よーぜ!」
勝手知ったる俺の家に入ろうとして、家人不在で入れずここで待っていたらしい。
さっき別れを告げた事実などなかったかのようにいつも通りのアキラに、俺は首を傾げた。
まさか別れ話をしたことも三歩歩いて忘れてしまったのか?
「リュージ、これ飲みたいって言ってたろ? サイダー買ってきた」
そう言ってアキラが掲げたコンビニの袋には、スナック菓子と一緒に新発売の炭酸飲料が入っていた。
勉強どころか日常生活も覚束ないレベルのバカであるアキラは、なぜか俺の言ったことや好きなもの、嫌いなものや誕生日といったことだけは忘れない。
そういうところが最高に可愛くて、俺は玄関先でキュンとなったのだが、アキラの言を信じるなら俺達は破局しているはずだ。
ドアを開けた途端慣れた足取りで俺の部屋に入っていってしまったアキラを追いかけると、早くもテレビの前に陣取ってくつろごうとしている姿が目に入る。
「おいアキラ」
「な~DVDここ? 先週何話まで見たっけ?」
「おい」
しゃがんで肩を掴み、目を合わせるとアキラはきょとんとした。
俺がなぜ不機嫌そうに眉間にシワを寄せているのか、まったくわからないといった顔だ。
「何?」
「なにじゃないだろ……俺たち別れたんだよな?」
「おう。オレはもうリュージのコイビトはやめたんだ」
「それなのになんで堂々と俺の部屋でダラけようとしてるんだ?」
「なんでって? 先週もその前もそうしてただろ?」
「ん~……?」
アキラが突拍子もない行動・発言をするのはもはや日常茶飯事だが、今回ばかりは俺にも解読できそうにない。
困惑して頭を抱えた俺をよそに、アキラはさっさとラックを漁ってDVDを見始めた。
挙げ句、なぜ座って見ないのかと言わんばかりに自分の横のスペースをぱたぱた叩いて示してくる。
迷ったが、結局隣に腰掛けた。
俺が望み通りの位置に座ったことで満足したのか、アキラは再びテレビ画面に顔を向けた。俺は全く納得できていなかったので、線の細い横向きの顎をぐっと掴んでこちらへ向けさせる。
「なにすんだよリュージ!」
「おまえさ。先週そうやってDVD見てて寝落ちしたよな?」
「んあ? そだっけ」
「そうだ。俺はせっかくおまえが俺のベッドで寝てるってのにお預け食らって……もう三週間我慢してる」
「へ?」
「今日こそはと思ってたのに、おまえ訳わかんねぇこと言うし、なのにまた無警戒に俺のベッドに座ってるし。誘ってんだよな、そうだよな?」
掴んだままの肩をベッドに押し付ける。
アキラにとっては珍しくもない、俺が慣れさせるために何度もしてきた行為なので、抵抗が遅れているようだ。まだぽかんとした顔をしている。
「そういえばおまえ、俺のこと嫌いになったんだよな」
「そ、そうだ……オレはリュージのこと嫌い、になった!」
「ふーん。じゃあ今からするのは強姦だから」
「え?」
「嫌なら抵抗しろよ?」
呆然とされるがままになっているアキラの耳元に囁いて、俺は慣れた手順でアキラの服を脱がし始めた。
「あぁぁっ……リュージ、そこ、やっ……」
「ここか?」
「ぅあっ」
赤く色づいて立ち上がっている胸の飾りを執拗に舐めてやると、アキラの体は面白いくらいにびくびくと跳ねる。
年月をかけて快感をいちから教え込んだ肉体は、すっかり俺好みに仕上がっている。
のしかかる俺の体を押し返すアキラの腕は形ばかりのもので、震えて力など入っていなかった。
アキラは細身の見た目と裏腹にかなり腕力があり、体術にも優れている。
その能力はもっぱらケンカに生かされているようだが、彼が本気で嫌がれば俺のことなど一瞬で制圧できるはずだ。
実際、アキラの寝込みを襲ったりするととんでもない返り討ちに遭う。下手すれば腕の一本、歯の数本は覚悟しなければ夜這いなどできない相手だということは、経験から理解している。
ことさらゆっくり服を脱がせ、手足を縛ることも急所である股間を掴むこともしていない。
本当に嫌ならとっくに突き飛ばされているところだ。
それなのにアキラは終始熱に浮かされた、恋人だったときと同じ目をして俺の愛撫を受け入れていた。
「リュージ、下、さわって……」
「嫌いな相手におねだりするなんて、アキラは淫乱だな」
「やっ、ちが……」
胸元への刺激だけで勃ち上がり、先走りを零しているアキラのものには敢えて触れずに、腕を背中側に回して指先で腰を辿る。
尻の割れ目を這う指にアキラの体がびくんと反応した。
それが期待からくる反応であることは承知している。同時に、今すぐ直接的な刺激を与えられないことを理解したのかアキラの両目が一気に潤んだ。
「あぅっ、リュージ、もっと触って───おねがい」
「十分触れてるじゃないか」
「やっ、もっと前の……こっちも触って……」
アキラが俺の腕を掴んで、可哀想なほど震えている自らの下腹へ誘導する。
仕方がないのでそれを握りこんでやると、期待と歓びに染まった喘ぎ声が上がった。
「おまえ強姦って意味わかってるか……?」
「あぁ、もっと強くして……ん、あっあ、あぁ」
俺が与える刺激では物足りないのか、アキラは腰を揺らして体を擦り付けてくる。
快楽に染まりきった瞳は滲んでいて、だらしなく開かれた唇が何を欲しているか明確に理解できた。
しかし今はそれを与えてやる気はない。
「リュージぃ、ちゅーしたい……」
「ダメだ。キスするのはどんな相手か教えただろ?」
「あっん、ん……リュージと、だけ……」
「違う。恋人とだけ、だ。俺はおまえに嫌われてるし恋人じゃないから、キスはしない」
「そんなぁ、リュージ……っは、あっ!」
寄せられる唇はすげなく押し戻して、物欲しそうにヒクつく下腹の蕾に触れた。これから起こることに期待する気持ちと、求めたキスが得られなかったことに対する不安に震えるアキラと目が合う。
普段なら優しく微笑んでキスをして、とろけさせてから挿入の準備を進めるが、今日は心を鬼にして熱視線を無視した。
慎重に指を一本潜り込ませると、ローションの力を借りているからというだけでなく、抵抗のない内壁の感触に違和感を覚える。
「おい、なんでちょっと柔らかいんだ?」
「んぅ……し、知らない……」
「淫乱なアキラくんは俺と別れてもすぐ新しい彼氏ができるってわけか。もう他の男を咥え込んだのか?」
「ちがっ、オレはリュージだけ、」
「他の男に慣らされてるなら遠慮はいらねーな」
いつもはアキラが根をあげて強請るようになるまでじっくりと解す後孔を、今日は手早く指を増やして拡げ、すぐに抜き取った。
「な、んかリュージ、いつもと違う……こわいよぉ……」
あまりに違う俺の様子にやっと危機感が湧き上がってきたのか、弱々しい抵抗に遭った。
尚も背中に縋り付こうとする手を乱雑に一纏めにし、アキラの頭上でシーツに押し付ける。
「あっ! っひ、ぃ……あぁ……」
隙間を塞いで欲しそうにひくひくと疼く蕾に怒張を押し込むと、行為に慣れたアキラの体は勝手に快感を拾って背を仰け反らせた。
貪欲に蠢く肉壁が俺を奥へ奥へと誘う動きを見せる。
「嫌いな男に体を好き勝手される気分はどうだ?」
「ひっ、ひ……やだ……いじわるしない、で……」
「あーあー泣いちゃって。そんなに嫌なのかよ」
恐怖からかぼろぼろと大粒の涙を流し始めたアキラの双眸を、ついいつものように親指で拭ってしまった。
そんな俺の指に濡れた頬を擦り寄せてくるアキラは、いつになく扇情的だ。
「いやじゃない……でもリュージ、こわい」
「嫌いな男にこんなことされてんだ、ちょっとは嫌がれよ」
「っ、リュージいやじゃない、いつもみたいにゆっくりして、ほし……」
「はいはい、仕方ねーなぁ」
拘束していた両手を解放して、流れる涙を唇で吸い取ってやると、それまで不安に揺れていた色の薄い瞳が綻ぶように笑みに細められる。
そのまま朱く染まった口唇を重ねてやれば、俺の背中に両手で縋って吸い付いてきた。
俺だってアキラの「嫌い」宣言がなければ、こんな無体な真似はしたくなかった。あくまで彼の真意を探るために無理を強いているのであって、途中から楽しくなってしまったなんてことはない。
「ふ……ん、んぅ、動いて、リュージ」
「こら、腰が揺れてるぞ。本当にエロいなアキラは」
「なんでもいい……リュージがほしい……」
「わかったよ、まったく……」
腰を掴んでがつんと奥に叩きつけると、たったそれだけでアキラは一度達してしまったようだ。搾り取るような腸壁の蠕動になんとか耐えて、知り尽くしているアキラの中を味わうように抉る。
「あっあっあっ、今イッてる、からぁ!」
「俺はまだだ。付き合って」
「やぁあっ、ひ、あっ、あぁああっ!」
絶頂の波に溺れるアキラを煽りながら攻め立てて、俺は三週間分の空白をゆっくりと埋めていった。
アキラが本気で音を上げるまで繋がり続け、ぐったりとしてしまった体を抱き上げて口笛を吹きながら浴室で世話した。
横抱きで運んだアキラの体を清潔なシーツの上にそっと下ろし、俺もその隣に寝転ぶ。
久しぶりの情事でぼうっとしているアキラの髪を指先でいじっていると、その手を取られた。
「オレ……リュージ以外に触らせたりしてないから」
どうやら不貞の追求をしたことは覚えていたらしい。
焦ったような、真剣な目で見つめるアキラは妙に嗜虐心を唆る。
俺だって、隠し事など到底できないアキラが浮気したなどとは考えていない。後ろが慣らされていた様子だったのは、大方自分で慰めたからだろう。
しかし今日はとことん意地悪く接してやることにする。
俺はにやりと笑みを浮かべて、必死な様子のアキラに握られていた手をさっと取り返した。
「どーだか。嫌いな男に抱かれて悦ぶ淫乱アキラくんが他所でなにしてようが俺にはわかんねーし」
「嘘じゃない! オレにはリュージだけだし……!」
「でも俺のこと嫌いなんだろ?」
今日何度目かになる問いを返すと、アキラは下を向いて小声で言う。
「だってそう言わないと、コイビトやめられないから……」
「ふぅん。アキラは俺の恋人をやめたかったのか」
そんなことを考えていたとは初めて知った。
アキラの横を陣取ったままうつ伏せに体勢を変化させると、俺の態度に突き放すものを感じたのかアキラは慌てて言い募ってくる。
「だってコイビトは……ダメなんだ……友達でなきゃ」
「俺と友達に戻りたかったのか、アキラ?」
「うん」
「でもお前、俺のこと嫌いなんだろ? 俺のこと嫌ってる奴とは友達にはなれねーよ」
「えっ!」
よほど驚いたのか、上半身を跳ね起こしたアキラは目をまん丸にして声を上げた。
アキラはマルチタスクができない。
ひとつのことに集中させれば最低限、人として生きるくらいにはなんとか生活できるのだが、並行して別々のことを考えると知能が動物未満になりがちだ。
なにか「恋人」と「友達」という二つのものについて、アキラにとっては難題な事柄を同時に考えたせいで思考がこんがらがってしまっているようだ。
呆然と固まっているアキラをベッドの上にきちんと座らせ、裸の体にシーツを巻いてやって、俺も対面に胡座をかく。
「アキラ、お前一人で考え事したって良い案が浮かぶわけないだろう。どうすればいいかわからなくなったら、誰に何するんだっけ?」
「リュージに相談する……」
「わかってるじゃないか。覚えてる限りでいいから、いちから話してみ?」
とても無理やり性的暴行があった後とは思えない和やかな空気の中、俺は要領を得ないアキラの話を根気強く聞き取り続けた。
「───大体わかった。まず山中が、今まで友達だった女に告白して恋人になったんだな。そして数ヶ月で破局したと」
「ハキョクってなに?」
「それはまたあとで」
山中というのは、アキラの高校の同級生である。
一度紹介されたが、いかにもチャラくて軽そうな男だった。生粋の女好きだ。
アキラから聞く限り取っ替え引っ替えな奴だったようだが、どうやら本命には奥手なタイプだったらしい。
「そこで山中が、『恋人になって失敗したらなにもかも失う』と嘆いていたのを聞いて、俺とのことを考えたと」
「うん……」
「そして今度は全く別の文脈で、田口から、恋人にフられたときの言い訳が酷かったと愚痴られた。そんなに理由を捏ね回すくらいなら、一思いに『嫌いになった』と言ってほしかったと」
「ブンミャクってなに?」
「それは……知っててほしかったけど、あとで辞書引こうな」
田口というのもアキラの友人だ。見た目が怖いがあまりケンカは強くなく、純情な男子高校生らしい。
山中と田口が恋破れた時期は微妙にズレているのだが、アキラの低容量脳みそはこんなときだけ妙に回転したらしく。
かつて友人関係だった俺とアキラの恋人関係が、いつか終わってしまう。そうしたら山中のように、なにもかも失ってしまう。
そのためには恋人をやめて友人に戻りたい。
そして恋人をやめるには、「嫌いになったと言ってほしかった」と田口が言った───と。
「どうしてお前のアタマはこういうときだけよく回るんだろうなぁ」
目の前の柔らかい頬肉を両手でつまみ上げると、似合わない顰め面のアキラが俺の手をぺちぺち叩いて抵抗してくる。
「痛いよリュージ」
「これは、俺に相談もせず早とちりしてなにもかも台無しにしそうになったアキラへのお仕置きだ」
「だって……」
「急に不安になっちゃったか?」
「……ん……」
頬をつねられたまま小さく頷くアキラのことを、俺はこんなにも好きで好きで堪らないというのに。
許されるなら腕の中に抱え込んで片時も離さず、疑う気力もなくなるくらい抱き潰して愛を囁いて、一生誰にも見せないで俺だけがこいつを見つめられるようにしたいくらいだというのに。
俺の気持ち自体が疑われていたようで、どうにも虚しい。
黙ってしまった俺のことを、小動物に似た瞳が上目遣いで見つめてくる。
俺はそっとアキラの肩を引き寄せて、シーツごと抱き締めた。
「アキラ、好きだよ。大好きだ」
「りゅ、リュージ……」
「お前に嫌いって言われても、俺はお前を絶対嫌いにならない。嫌いになれない」
「……うん」
「アキラは? 俺のこと本当に嫌いになっちゃいそうか? 無理やり、怖い思いさせたし」
「オレだってリュージのこと嫌いになんてならない! そう思ったことも一度もない……さっきのだって、無理やりじゃないし……ちょっと怖かったけど、嫌じゃないし」
シーツのなかでもぞもぞ動いていたアキラが俺の背に手を回して抱き締め返してくれる。
あの言葉を信じていたわけではないが、アキラに嫌われたという事実がひとつも無かったということに俺は改めて安堵した。
密着していた体を少し離して、さっきは避けた甘いキスをいくつもアキラに贈る。
くすぐったそうに身を捩る彼が嫌がったりしていないことは、長い付き合いの俺にはすっかりお見通しだ。
「もうこれで別れるってのはナシだな」
「うん」
「じゃあ仲直りエッチでもしますか」
「えっ」
再びベッドにシーツの塊を押し倒すと、アキラの両目は真ん丸に見開かれた。
「さっきしたのに?」
「さっきのは強姦だから。これは和姦。それに一回で気が済むわけないだろ?」
「ひっ……リュージのゼツリンめ……!」
「お、難しい言葉知ってるな」
なおも文句を言いたそうな唇をねっとりと塞いで、俺はさっき足りなかった分を補うようにアキラの肌をなぞる。
次はどんなふうに乱れさせてやろうか。
決して本心では嫌がっていないアキラの微弱な抵抗に遭いながら、俺達はいつも通り幸福な週末を過ごした。
おわり
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