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触れる手
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永遠かと思えるほどの長い沈黙。
ルー様の両手は相変わらず俺の肩に乗せられて動く気配がないし、俺の方も完全に思考回路が停止していて動けなかった。
「だめですか?」
ルー様の追撃。
俺はその一言ではっと我に返った。
さっきの、やっぱり幻聴じゃなかった。
なるほどルー様は即物的なアプローチではなく、ある程度情を通わせてから体も頂くというタイプの人だったか。
一度目にそういった色を匂わせても来なかったので完全に油断していた。
やっぱりそういう意味で部屋に呼んだんだよな、と納得する裏で、落胆している自分も確かにいた。
ルー様はそういう方じゃないって、よく知りもしないのに勝手に思い込んでいた。
でも身分などあってないような俺がどう思ったって、これは現実なんだ。
「だめじゃ、ないです」
「よかった」
俯いて許可を出すと、ルー様はほっとしたようだった。
言葉遣いを気にする余裕はもはやない。
顔を上げると、穏やかに微笑んで俺を見つめるルー様と目が合う。肩にあった手が滑り降りて俺の手を優しく取る。
立ち上がるよう促されて、たくさんのクッションが重ねられた場所に導かれた。
俺はここで、初めて客と夜を過ごすのか───。
悔しいような、悲しいような気持ちで諦めるしかなかった、というのに。
それがまさか。
まさかこんなことになるとは。
「あの、ルー様……」
「あ、すみません。髪をひっぱってしまいましたか?」
「いえその、えーと……」
ルー様は「触れたい」と言った。
俺はごく一般的な庶民の常識に照らし合わせて「体を差し出せ」という意味に捉えた。そしてそれを許した。
まさかあれから延々と、手や腕や顔をすりすりと撫でられて、ただそれだけだなんて誰が思う!?
子供だってそうは思わないだろ!
服を脱がそうという気配すらない。
腕についたしなやかな筋肉を指で辿るようになぞられたり、首筋を大きな手のひらで覆われたり、指先を持ち上げてまじまじと眺められたり、ただそれだけだ。
触り方に色気すらない。まるで学者の研究対象にでもなった気分だ。
そりゃあ俺ほどの意識高い踊り子となれば、体だけでなく顔や指先、髪の一本に至るまで高級香油で日夜整えている。
体中どこをとっても綺麗に見せられるよう努力は怠っていないつもりだ。
でもそれは舞台の上で舞う時に必要な処置だと思っているだけで、煌々とした明かりの下で隅々まで舐めるように見られるのが恥ずかしくないわけじゃない。
というかいっそ実際に舐められるほうがまだマシかもしれない。
いたたまれない……!
なにより問題なのは、性的な色が一切ないルー様の触り方によって、俺の体の奥の方がむずむずしはじめたことだ。
相手にその気がないのに俺の方が盛り上がっちゃったらどうすればいいんだ!
「あ、あの、ルー様……ぁっ」
「どうしました、アリス」
二の腕の裏側をゆっくり滑った指先に、漏れそうになった変な声を必死で抑える。
俺の顔はたぶん真っ赤になっていると思うが、ルー様はどこまでも平常心な微笑みで問い返してきた。
意地悪で言ってるんじゃない。本当にどうしたのか聞いてるだけだ。
もしかしてそういう拷問か?
「どうして俺……私に触れたいとおっしゃったのか、聞いても?」
「あぁ……」
片方の手で俺の肩を撫で、もう片方の手で俺の髪を梳きながら、ルー様は遠くを見るような目をした。
耳朶をくすぐられて肩が跳ねたが、ルー様は頓着していない。
「今朝、あなたが村人たちと交流しているのを見ました」
話し始めたのは、俺の昨日の素晴らしい舞に感動して押し寄せた今朝の村人たちとのことだった。
俺がもみくちゃにされたときの。
あれをルー様は見ていたのか。大人の男が女子供の大群に埋もれきっているのを見られていたとは、誇らしい反面やや恥ずかしい。
「皆があなたの背中や肩や髪に触れていました。アリスもそれを拒んでいないように見えました」
「まぁ……喜んでもらえるのは嬉しいですから」
「村人たちがあなたに触れるのが、なんだかずっと気になってしまって……わたしも同じように触れたいと思ったのです」
こ、これは……。
少し、いやかなり恥ずかしいことを言われているのでは?
というかもはや告白ではないのか?
本人には自覚がないようだが。
俺が他人に触られているのを見てモヤモヤして、痕跡を消すように入念に触る……そんな説明を聞いたら十人が十人、それは嫉妬だと言うだろう。
しかし、彼は俺の体に文字通り触れるだけで満足しちゃいそうだ。
どさくさにまぎれて鎖骨とか腰とか尻とか太ももとか触られたあの時のことを思い出す。
あれは絶対に大人の悪ふざけだった。振り払うわけにもいかないから無視したが。
そう告げたら、この男はどうするのだろう。
穏やかで上品な彼が、その余裕を崩す瞬間を、見たくなってしまった。
「あの時、俺は体中触られましたよ。……この服の中の肌も」
魔が差したとしか言いようがない。軽率だったなぁと思う。
余計な一言とはまさにこれだ。
だって俺はこの言葉で、無垢だったルー様の心に火をつけてしまったのだから。
どれほど甘い声を上げたかもう覚えていない。
過ぎた快感に意識を失いそうになって、止むことのない愛撫にまた引き戻される。
「あぁ……っ、ルーさま……もう、やめ……」
さっきから懸命にやめるように懇願しているが、聞き届けられる様子はなかった。
俺の服は膝のあたりに布の端が引っかかっているだけで、もはや用をなさない。
体中、触れられていない場所がないほど、大きな掌に全身を撫で上げられる。どこを触られても魚のようにびくびくと反応してしまう。
見つめられ、手が触れ、時折舌が触れる。首元に唇を寄せられ、ちりっと痛みが走ることもあった。
それすらきつい快楽として変換される。
もう何時間こうしているかわからない。
頭の芯がしびれていた。気持ちいい、もっと触ってほしい。それしか考えられない。
身分のこと、待たせている仲間、自分の立場……何もかも忘れるほどの時間だった。
「ルーさま……ここも、触って……」
もどかしい愛撫しか与えてくれない目の前の男に、直接的な快感を与えてほしくて、手を取り下肢へと導く。
息を呑む気配があって、少しごつごつとした男らしい指が俺の下腹に触れた。
そこはもう先走りでどろどろになってしまっている。
大きな掌で包み込まれると、それだけで目の前が真っ白になった。
「ぁ、ぁああっ……!」
「アリス……アリス」
苦しそうに俺の名を呼ぶ声がどうしようもなく体の内に響く。
ルー様の片手は俺の体のすべてを余すところなく触れようと蠢き、脇腹をなぞり、背中を滑り、胸の飾りを摘む。
もう片方の手が背筋がしびれるほどの直接的な刺激を与えてくれる。
腕に力が入らなくて、目の前の男に縋り付くのが精一杯だ。
何度も頂に上り詰めさせられ、許容範囲を完全に越えた快楽は、もはや苦しいほどだった。
それでもルー様が手を止めることはない。鎖骨のくぼみに押し当てられていた口唇が、気まぐれに口付けに変わる。
「っふ、ん、んぅ……あっ! ルーさま、ぁあ、あ……!」
「アリス……っ」
もう出すものも尽きたはずなのに上り詰める感覚が止まらない。
脳がぐずぐずに溶けてしまいそうな錯覚に陥る。苦しい、怖い。────きもちいい。
「も、やめて……ルー様、ぁ……」
「ごめんね、アリス。……やめてあげられそうにない」
先程から指が掠めるその場所のことを、まったく意識していないわけではなかった。
普段は意識することのないその場所がずっと熱を持っていて、なにかを待ち望んでいるということも。
それでもそこに、何かの液体で濡れそぼった指が入り込んでくるまでは、この行為はどこか現実感のない幻惑のように思っていた。
「うぁっ、……やめて、ルーさま、抜いて……いた、ぅう」
「ごめん」
「ぃや、あ、あぁ……」
液体の滑りを借りて、ルー様の指が少しずつ侵入してくる。
深い口付けを与えられて、異物感に悲鳴をあげることもできなくなった。
じれったいほど長い時間をかけて、そこが解されていく。抱え上げられた足が震える。液体が足され、中の異物感が二本、三本と増えた。
「はぁ、はぁ……ルー様……」
「……アリス」
指が引き抜かれたときには、物欲しそうな顔をしてしまっていたと思う。
こんな感情は、情動はおかしいとわかっているのに止められない。
体の奥の疼きがひどくなってる。
この熱をどうにかしてくれるのはこの男しかいない。
「おねがい、来て……」
「っ、ごめんねアリス、なるべく痛くしないから……」
「……うっ、ぐ、あぁ、ぁあああっ」
それは指とは比べ物にならないほどの圧迫感だった。
今まで与えられていたのとは違う異物の存在に喉が詰まる。
それとは別に、今まで決定的に与えられなかったものが、体の奥で燃えさかっていたなにかを満たして埋めてくれる充足も確かに感じていた。
ずっとこうしてほしかったのだと思い知らされる。
苦しい息を吐く俺を、ルー様は根気強く待ってくれていた。
ルー様は一度も達していない。きっと苦しいだろうに、俺の髪を梳き、額に口付けて苦痛と違和感が薄れるのを待ってくれた。
「だいじょうぶ……?」
「ん……もう平気、です」
ルー様のつややかな黒髪に指を差し込み、親指の腹で目尻に触れる。
金朱の瞳にはっきりと情欲が揺らいでいる。
それでいて、眉の下がった情けない顔で懸命に自らの欲望を抑えようとしている男の様子に、俺は思わず笑った。
それがまずかったんだろう。ルー様がぐっとなにかを堪える表情に変わった直後、腰が引かれ、ゆっくりと戻される。
「っひ、うぁ、あっ」
太いものが内壁を擦り上げたとき、先端がなにかを掠めた。
今まで以上のとてつもない快感が駆け上がる。
「あぁっ! ルーさま、ぅ、ぁふ……」
「アリス……!」
「あっ、ああ……そこ、や……ぁ、あっ!」
感覚のすべてが快感に染まる。無意識に体が逃げを打ったが、引き戻されてより深く抉られる。
ルー様が俺の中心に再び触れ、背が弓なりに撓った。
目の前がちかちかと点滅して、体の最奥に燻る疼きが満たされ、何度目かわからない極まる感覚にすべての思考が霧散する。
「アリス、────」
ルー様が優しくなにか囁くのを聞き取ることができないまま、俺の意識は薄明かりの向こうへ沈んでいった。
ルー様の両手は相変わらず俺の肩に乗せられて動く気配がないし、俺の方も完全に思考回路が停止していて動けなかった。
「だめですか?」
ルー様の追撃。
俺はその一言ではっと我に返った。
さっきの、やっぱり幻聴じゃなかった。
なるほどルー様は即物的なアプローチではなく、ある程度情を通わせてから体も頂くというタイプの人だったか。
一度目にそういった色を匂わせても来なかったので完全に油断していた。
やっぱりそういう意味で部屋に呼んだんだよな、と納得する裏で、落胆している自分も確かにいた。
ルー様はそういう方じゃないって、よく知りもしないのに勝手に思い込んでいた。
でも身分などあってないような俺がどう思ったって、これは現実なんだ。
「だめじゃ、ないです」
「よかった」
俯いて許可を出すと、ルー様はほっとしたようだった。
言葉遣いを気にする余裕はもはやない。
顔を上げると、穏やかに微笑んで俺を見つめるルー様と目が合う。肩にあった手が滑り降りて俺の手を優しく取る。
立ち上がるよう促されて、たくさんのクッションが重ねられた場所に導かれた。
俺はここで、初めて客と夜を過ごすのか───。
悔しいような、悲しいような気持ちで諦めるしかなかった、というのに。
それがまさか。
まさかこんなことになるとは。
「あの、ルー様……」
「あ、すみません。髪をひっぱってしまいましたか?」
「いえその、えーと……」
ルー様は「触れたい」と言った。
俺はごく一般的な庶民の常識に照らし合わせて「体を差し出せ」という意味に捉えた。そしてそれを許した。
まさかあれから延々と、手や腕や顔をすりすりと撫でられて、ただそれだけだなんて誰が思う!?
子供だってそうは思わないだろ!
服を脱がそうという気配すらない。
腕についたしなやかな筋肉を指で辿るようになぞられたり、首筋を大きな手のひらで覆われたり、指先を持ち上げてまじまじと眺められたり、ただそれだけだ。
触り方に色気すらない。まるで学者の研究対象にでもなった気分だ。
そりゃあ俺ほどの意識高い踊り子となれば、体だけでなく顔や指先、髪の一本に至るまで高級香油で日夜整えている。
体中どこをとっても綺麗に見せられるよう努力は怠っていないつもりだ。
でもそれは舞台の上で舞う時に必要な処置だと思っているだけで、煌々とした明かりの下で隅々まで舐めるように見られるのが恥ずかしくないわけじゃない。
というかいっそ実際に舐められるほうがまだマシかもしれない。
いたたまれない……!
なにより問題なのは、性的な色が一切ないルー様の触り方によって、俺の体の奥の方がむずむずしはじめたことだ。
相手にその気がないのに俺の方が盛り上がっちゃったらどうすればいいんだ!
「あ、あの、ルー様……ぁっ」
「どうしました、アリス」
二の腕の裏側をゆっくり滑った指先に、漏れそうになった変な声を必死で抑える。
俺の顔はたぶん真っ赤になっていると思うが、ルー様はどこまでも平常心な微笑みで問い返してきた。
意地悪で言ってるんじゃない。本当にどうしたのか聞いてるだけだ。
もしかしてそういう拷問か?
「どうして俺……私に触れたいとおっしゃったのか、聞いても?」
「あぁ……」
片方の手で俺の肩を撫で、もう片方の手で俺の髪を梳きながら、ルー様は遠くを見るような目をした。
耳朶をくすぐられて肩が跳ねたが、ルー様は頓着していない。
「今朝、あなたが村人たちと交流しているのを見ました」
話し始めたのは、俺の昨日の素晴らしい舞に感動して押し寄せた今朝の村人たちとのことだった。
俺がもみくちゃにされたときの。
あれをルー様は見ていたのか。大人の男が女子供の大群に埋もれきっているのを見られていたとは、誇らしい反面やや恥ずかしい。
「皆があなたの背中や肩や髪に触れていました。アリスもそれを拒んでいないように見えました」
「まぁ……喜んでもらえるのは嬉しいですから」
「村人たちがあなたに触れるのが、なんだかずっと気になってしまって……わたしも同じように触れたいと思ったのです」
こ、これは……。
少し、いやかなり恥ずかしいことを言われているのでは?
というかもはや告白ではないのか?
本人には自覚がないようだが。
俺が他人に触られているのを見てモヤモヤして、痕跡を消すように入念に触る……そんな説明を聞いたら十人が十人、それは嫉妬だと言うだろう。
しかし、彼は俺の体に文字通り触れるだけで満足しちゃいそうだ。
どさくさにまぎれて鎖骨とか腰とか尻とか太ももとか触られたあの時のことを思い出す。
あれは絶対に大人の悪ふざけだった。振り払うわけにもいかないから無視したが。
そう告げたら、この男はどうするのだろう。
穏やかで上品な彼が、その余裕を崩す瞬間を、見たくなってしまった。
「あの時、俺は体中触られましたよ。……この服の中の肌も」
魔が差したとしか言いようがない。軽率だったなぁと思う。
余計な一言とはまさにこれだ。
だって俺はこの言葉で、無垢だったルー様の心に火をつけてしまったのだから。
どれほど甘い声を上げたかもう覚えていない。
過ぎた快感に意識を失いそうになって、止むことのない愛撫にまた引き戻される。
「あぁ……っ、ルーさま……もう、やめ……」
さっきから懸命にやめるように懇願しているが、聞き届けられる様子はなかった。
俺の服は膝のあたりに布の端が引っかかっているだけで、もはや用をなさない。
体中、触れられていない場所がないほど、大きな掌に全身を撫で上げられる。どこを触られても魚のようにびくびくと反応してしまう。
見つめられ、手が触れ、時折舌が触れる。首元に唇を寄せられ、ちりっと痛みが走ることもあった。
それすらきつい快楽として変換される。
もう何時間こうしているかわからない。
頭の芯がしびれていた。気持ちいい、もっと触ってほしい。それしか考えられない。
身分のこと、待たせている仲間、自分の立場……何もかも忘れるほどの時間だった。
「ルーさま……ここも、触って……」
もどかしい愛撫しか与えてくれない目の前の男に、直接的な快感を与えてほしくて、手を取り下肢へと導く。
息を呑む気配があって、少しごつごつとした男らしい指が俺の下腹に触れた。
そこはもう先走りでどろどろになってしまっている。
大きな掌で包み込まれると、それだけで目の前が真っ白になった。
「ぁ、ぁああっ……!」
「アリス……アリス」
苦しそうに俺の名を呼ぶ声がどうしようもなく体の内に響く。
ルー様の片手は俺の体のすべてを余すところなく触れようと蠢き、脇腹をなぞり、背中を滑り、胸の飾りを摘む。
もう片方の手が背筋がしびれるほどの直接的な刺激を与えてくれる。
腕に力が入らなくて、目の前の男に縋り付くのが精一杯だ。
何度も頂に上り詰めさせられ、許容範囲を完全に越えた快楽は、もはや苦しいほどだった。
それでもルー様が手を止めることはない。鎖骨のくぼみに押し当てられていた口唇が、気まぐれに口付けに変わる。
「っふ、ん、んぅ……あっ! ルーさま、ぁあ、あ……!」
「アリス……っ」
もう出すものも尽きたはずなのに上り詰める感覚が止まらない。
脳がぐずぐずに溶けてしまいそうな錯覚に陥る。苦しい、怖い。────きもちいい。
「も、やめて……ルー様、ぁ……」
「ごめんね、アリス。……やめてあげられそうにない」
先程から指が掠めるその場所のことを、まったく意識していないわけではなかった。
普段は意識することのないその場所がずっと熱を持っていて、なにかを待ち望んでいるということも。
それでもそこに、何かの液体で濡れそぼった指が入り込んでくるまでは、この行為はどこか現実感のない幻惑のように思っていた。
「うぁっ、……やめて、ルーさま、抜いて……いた、ぅう」
「ごめん」
「ぃや、あ、あぁ……」
液体の滑りを借りて、ルー様の指が少しずつ侵入してくる。
深い口付けを与えられて、異物感に悲鳴をあげることもできなくなった。
じれったいほど長い時間をかけて、そこが解されていく。抱え上げられた足が震える。液体が足され、中の異物感が二本、三本と増えた。
「はぁ、はぁ……ルー様……」
「……アリス」
指が引き抜かれたときには、物欲しそうな顔をしてしまっていたと思う。
こんな感情は、情動はおかしいとわかっているのに止められない。
体の奥の疼きがひどくなってる。
この熱をどうにかしてくれるのはこの男しかいない。
「おねがい、来て……」
「っ、ごめんねアリス、なるべく痛くしないから……」
「……うっ、ぐ、あぁ、ぁあああっ」
それは指とは比べ物にならないほどの圧迫感だった。
今まで与えられていたのとは違う異物の存在に喉が詰まる。
それとは別に、今まで決定的に与えられなかったものが、体の奥で燃えさかっていたなにかを満たして埋めてくれる充足も確かに感じていた。
ずっとこうしてほしかったのだと思い知らされる。
苦しい息を吐く俺を、ルー様は根気強く待ってくれていた。
ルー様は一度も達していない。きっと苦しいだろうに、俺の髪を梳き、額に口付けて苦痛と違和感が薄れるのを待ってくれた。
「だいじょうぶ……?」
「ん……もう平気、です」
ルー様のつややかな黒髪に指を差し込み、親指の腹で目尻に触れる。
金朱の瞳にはっきりと情欲が揺らいでいる。
それでいて、眉の下がった情けない顔で懸命に自らの欲望を抑えようとしている男の様子に、俺は思わず笑った。
それがまずかったんだろう。ルー様がぐっとなにかを堪える表情に変わった直後、腰が引かれ、ゆっくりと戻される。
「っひ、うぁ、あっ」
太いものが内壁を擦り上げたとき、先端がなにかを掠めた。
今まで以上のとてつもない快感が駆け上がる。
「あぁっ! ルーさま、ぅ、ぁふ……」
「アリス……!」
「あっ、ああ……そこ、や……ぁ、あっ!」
感覚のすべてが快感に染まる。無意識に体が逃げを打ったが、引き戻されてより深く抉られる。
ルー様が俺の中心に再び触れ、背が弓なりに撓った。
目の前がちかちかと点滅して、体の最奥に燻る疼きが満たされ、何度目かわからない極まる感覚にすべての思考が霧散する。
「アリス、────」
ルー様が優しくなにか囁くのを聞き取ることができないまま、俺の意識は薄明かりの向こうへ沈んでいった。
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