文字の大きさ
大
中
小
9 / 27
第四話 一人じゃできない!
4-1
年下の同居人に毎日ディープキス&好きな時に性欲処理させてます♡
そんなの絶対羨ましいだろ。
男同士じゃなければな!
「はぁー……」
俺しかいないリビングに溜め息混じりの憂鬱な声が響く。
百歩譲って、相手が男なだけなら良かった。
千歩譲って、兄貴がいる思春期男子が入手してきたAVを友人数人で鑑賞するとか、流れで抜き合うとかそういう行為の延長線上と言い訳できる。
でも俺の「年下の同居人」は、人間じゃないのだ。
───触手。
エロマンガと水棲生物の文脈でしか出てこない単語。
俺はまさにその、触手としか表現できない未確認生物と一緒に暮らしていて、嫌だけど毎日ディープキスされていて、嫌だけど数日に一回精液を搾り取られている。「好きな時に」ってのは相手の都合の話だ。
言い方次第で男の憧れから奴隷生活の実態にまで話が変わり、トキメキが霧散した。悲しい。しかし俺の偽らざる日々がこの文言に詰まってしまっている。
なにもかもやる気がなくなるような思考を振り払って自室へ入り、ネクタイをむしり取って放る。
ジャケットとスラックスをハンガーに掛けながら、そろそろクリーニングに出すものを選んでおくかとクローゼットを覗いていたら、自室の扉が開いた。
「あ、失礼しました。ただいま帰りました」
戸口に立つスーツ姿の男こそが、俺を憂鬱にさせる張本人……同居人の深谷だ。
失礼したと言いつつドアを閉める気配がない男の方を振り返る。
あろうことかヤツは部屋に入ってきていた。失礼はどうした。
「おかえり。おまえ、せめてノックくらいしろよ。あと入ってくんな」
「だって新さんがこんな美味しそうな……じゃなくて、あられもない姿でいたら、放っておけませんよ」
言い直してもあんまり意味変わってないぞ。
ワイシャツとパンツと靴下という、深谷いわく「美味しそうであられもない姿」が無数の肌色に覆われ隠されていく。
抵抗することは数日前からやめている。しても無駄だからだ。
この軟体動物的な動きをする触手は、見た目のヒョロさに反して力が強い。がっちりと捕まえられてしまえば、特に鍛えているわけでない俺ごときでは振りほどくことすらできない。
幸い、この触手は俺を傷つけたいわけじゃない。
ヤツにとって俺は食糧だ。
精気という、生き物が多かれ少なかれ持っている生命エネルギーを吸い取り糧にすることができるこの人外生物は、俺の精気が大好物らしい。
双方の合意によって、俺が一定量の精気を定期的に差し出すことになって十日ほどが経っている。
「はぁ、新さん……」
「ん、ぅん……っ」
人間の範囲を逸脱した悍ましい長さの舌に、口腔どころか咽頭まで犯されるキスも慣れてしまった。
俺の環境適応能力には目をみはるものがある。できることなら慣れたくなどなかったが。
器用にも、俺が嘔吐きそうになると触手舌を引っ込め、頃合いを見計らってまた精気を吸うという動きを繰り返されるうち、頭にモヤがかかったように思考が散漫になり体の力が抜けてしまう。
そうなればもう深谷の独壇場だ。
触手によって危なげなく押し倒され、ベッドの上でも貪られる。
ヤツが満足すればそれ以上にはならないが、唾液を啜るだけで足りないと判断されれば、次に目をつけられるのは俺の下半身。
今日はそっちまで行くだろうか。恐怖はもう感じない。諦念だけだ。
俺は既にこいつに穴という穴を犯されてしまった。今さら人外にフェラされるなんてどうってことない。
……いや、できることなら回避したいが、触手に取り囲まれた場所から俺が逃げ出せたことが本当に一度もないので、諦めたフリをしている。
「ふ、ぅん……ふかゃ……」
口を開きっぱなしにしているから顎が疲れてきた。
異常な物体に口腔を蹂躙される行為に何も思わなくなってきている。唾液に含まれるという精気を啜られる行為に快感を見出すことも、もはや日常だ。
ただ早く終わってくれと、それだけ願う。
「ふぅ、ありがとうございました。いつも付き合ってもらってすみません」
「……ぁ……」
口の中から触手が出ていき、体を拘束していた触手も一斉に引いていく。
脱力してすぐには起き上がれない俺をよそに、深谷はてきぱきと箪笥を開け、俺の部屋着を取り出しベッドの端に置いた。
ついでに触手を使って俺の体をころころと左右に転がし、器用にシャツと靴下を脱がせていく。
「これ、洗濯カゴに入れときますね」
「あ、あぁ」
「今日は俺が晩ご飯当番ですから、ゆっくりしてください。お風呂いれときますね」
「……」
深谷が部屋を出ていって、俺はようやく身を起こした。
几帳面に重ね置かれた部屋着を見、閉じられたドアを見て、自身を見下ろす。
(なんでだよ……)
下着を僅かに押し上げる下腹に、深谷は微塵も触れなかった。
熱烈なキスをして、押し倒して、身体中に鬱血や噛み跡を残すくせに、それ以上触れてこない。
入居初日に襲われ、二回目を断りきれず、三度目は挿入はされなかったが性器を嬲り尽くされた。
そうして俺は抵抗を諦めた。暴れることをせず、嫌がる言葉も吐かないのに、深谷は一転してキス以上のことをしてこなくなった。
同居人の男同士、その関係を明らかに逸脱した行為がなくなって十日。
俺は昂った気持ちと下半身が収まるのを待って、部屋着を抱え浴室へ向かった。
(俺の希望も込みで、一番単純に考えるなら、やる必要がなくなったってことだろう)
湯船に肩までつかると蓄積した疲労が滲み出していくようだ。
ほう、と息を吐き出し手足を伸ばして、胸から鎖骨周辺までに散った赤い印に視線が行く。
深谷が俺の体を求めてこなくなった理由。
入浴中というリラックスの場でそんなことを考えるのは業腹だが、俺の貞操と今後に関わることだ。無視も思考停止も良くない。
深谷は元々、人間から精気を得たいとは思ったこともなかったと言っていた。日々の食事で足りる程度で生きていたと。
他の命を直に頂く食事は元より、人の近くにいたり、手を握ったりするだけでも微量の精気を得られるというからには、今までも身近な人間───例えば学校や会社、電車とか、そういう場所でつまみ食いするだけで足りていたのだろうと推測できる。
通勤ラッシュの満員電車でスーツのおっさんに囲まれ細々と食事する深谷という想像になんとも言えない憐憫を覚えそうになり、慌てて頭を振る。未確認生物側に同情してどうする。
髪から滴り落ちた雫の起こす波紋を眺めながら、激動の数日間を振り返る。
思えば深谷からの接触は、初回から減り続けていた。
足腰が立たなくなるほどヤられた初日、それほどでもなかった二回目、三回目は奉仕を受けるのみで済んでいる。「精気を吸う」という根本的な行動原理自体は理解できないものの、同じことを俺たち人類の行動様式で考えてみたらどうだろう。
(味に飽きた、のか?)
それは気分を明るくさせる思いつきだった。
いくら好きな食べ物とはいえ、数日以内に何度も口にしたら味に飽きてしまうこともあるだろう。間に他の食事を挟んだり、味変したり、別の味付けを試したりしない限り、同じものばかり食べ続けるのは難しい。
深谷もそれと同じだとしたら……。
(俺が人外の食糧という立場から脱却できる日も近い、かもしれない!)
この仮定が正しければ、そのうち深谷は別の精気を求めて俺に絡んでこなくなる。
同居人としてあるべき姿で暮らしていけるようになるかもしれない。
だっておかしいだろう、俺達は同居人で男同士で、恋人どころか友人関係ですらないのに、毎日のようにキスして、それ以上までなんて。
ヤツとは適切な距離を置くべきだ。距離さえ置けていれば、本性は触手とはいえ温厚な性格の男だし、人畜無害な部分のほうが多いのだから。
ずっと落ち込んでいた気持ちが上向きはじめ、無意識に鼻歌など口ずさんでしまう。俺は勢いよく湯船から体を起こした。
「新さん、ご機嫌ですね」
「ん、そうか?」
「えぇ。楽しそうに歌ってるのが聞こえてきましたよ」
風呂から上がると夕食の準備ができていた。
浴室の鼻歌がキッチンでも聞こえるというのは新発見だ。いい年して浮かれて恥ずかしい、と言われているような気になったが、実際浮かれているのだから仕方ない。
不思議そうに見つめてくる深谷には「まぁちょっとな」などと濁して、テーブルの上に並べられた皿を見下ろす。
俺が風呂に入っている間に深谷が作ってくれたのは、素朴な洋風の食事だった。
分厚いベーコンを炒めたカルボナーラは若干ダマっぽくなっているし、ミネストローネは具材がだいぶ無骨かつ大きめにカットされている。唯一問題ない見た目のピクルスは俺が作った常備菜だ。
それでも、料理をほとんどしてこなかったという男の作ったものにしては上出来、十分及第点と言えるだろう。
「ど、どうでしょう」
「いただきます。……んん、美味いよ」
「あぁ、よかった……」
心底ほっとした表情を見せる深谷の様子に、俺は自然と笑みを浮かべていた。
俺を食糧扱いする危険生物であるという部分を除けば、彼は年下でかわいげのある気のいい同居人だ。
「もうちょっとコショウ入れてもおいしいかもな」
「コショウかぁ……次回気をつけてみます」
カップルおよびファミリー向け物件であるこの部屋は、俺一人で家賃を払い続けていくのが難しい。給料と少ない貯金のことを考えれば、あと一年はここに住んで引越し費用を貯めたいところだ。
俺と深谷の関係が正常化すれば、それも難しくはないだろう。
「新さんのピクルスおいしくて好きです。今度作り方教えてください」
「おう。つってもほとんど酢だけから簡単だぞ」
俺以外に対する「好き」は、こんなに素直に響くのにな。
ヤツが俺の精気を必要としなくなるまで耐える。そして晴れてその日が訪れたら、俺は笑って今までのことを水に流してやるのだ。
そんなの絶対羨ましいだろ。
男同士じゃなければな!
「はぁー……」
俺しかいないリビングに溜め息混じりの憂鬱な声が響く。
百歩譲って、相手が男なだけなら良かった。
千歩譲って、兄貴がいる思春期男子が入手してきたAVを友人数人で鑑賞するとか、流れで抜き合うとかそういう行為の延長線上と言い訳できる。
でも俺の「年下の同居人」は、人間じゃないのだ。
───触手。
エロマンガと水棲生物の文脈でしか出てこない単語。
俺はまさにその、触手としか表現できない未確認生物と一緒に暮らしていて、嫌だけど毎日ディープキスされていて、嫌だけど数日に一回精液を搾り取られている。「好きな時に」ってのは相手の都合の話だ。
言い方次第で男の憧れから奴隷生活の実態にまで話が変わり、トキメキが霧散した。悲しい。しかし俺の偽らざる日々がこの文言に詰まってしまっている。
なにもかもやる気がなくなるような思考を振り払って自室へ入り、ネクタイをむしり取って放る。
ジャケットとスラックスをハンガーに掛けながら、そろそろクリーニングに出すものを選んでおくかとクローゼットを覗いていたら、自室の扉が開いた。
「あ、失礼しました。ただいま帰りました」
戸口に立つスーツ姿の男こそが、俺を憂鬱にさせる張本人……同居人の深谷だ。
失礼したと言いつつドアを閉める気配がない男の方を振り返る。
あろうことかヤツは部屋に入ってきていた。失礼はどうした。
「おかえり。おまえ、せめてノックくらいしろよ。あと入ってくんな」
「だって新さんがこんな美味しそうな……じゃなくて、あられもない姿でいたら、放っておけませんよ」
言い直してもあんまり意味変わってないぞ。
ワイシャツとパンツと靴下という、深谷いわく「美味しそうであられもない姿」が無数の肌色に覆われ隠されていく。
抵抗することは数日前からやめている。しても無駄だからだ。
この軟体動物的な動きをする触手は、見た目のヒョロさに反して力が強い。がっちりと捕まえられてしまえば、特に鍛えているわけでない俺ごときでは振りほどくことすらできない。
幸い、この触手は俺を傷つけたいわけじゃない。
ヤツにとって俺は食糧だ。
精気という、生き物が多かれ少なかれ持っている生命エネルギーを吸い取り糧にすることができるこの人外生物は、俺の精気が大好物らしい。
双方の合意によって、俺が一定量の精気を定期的に差し出すことになって十日ほどが経っている。
「はぁ、新さん……」
「ん、ぅん……っ」
人間の範囲を逸脱した悍ましい長さの舌に、口腔どころか咽頭まで犯されるキスも慣れてしまった。
俺の環境適応能力には目をみはるものがある。できることなら慣れたくなどなかったが。
器用にも、俺が嘔吐きそうになると触手舌を引っ込め、頃合いを見計らってまた精気を吸うという動きを繰り返されるうち、頭にモヤがかかったように思考が散漫になり体の力が抜けてしまう。
そうなればもう深谷の独壇場だ。
触手によって危なげなく押し倒され、ベッドの上でも貪られる。
ヤツが満足すればそれ以上にはならないが、唾液を啜るだけで足りないと判断されれば、次に目をつけられるのは俺の下半身。
今日はそっちまで行くだろうか。恐怖はもう感じない。諦念だけだ。
俺は既にこいつに穴という穴を犯されてしまった。今さら人外にフェラされるなんてどうってことない。
……いや、できることなら回避したいが、触手に取り囲まれた場所から俺が逃げ出せたことが本当に一度もないので、諦めたフリをしている。
「ふ、ぅん……ふかゃ……」
口を開きっぱなしにしているから顎が疲れてきた。
異常な物体に口腔を蹂躙される行為に何も思わなくなってきている。唾液に含まれるという精気を啜られる行為に快感を見出すことも、もはや日常だ。
ただ早く終わってくれと、それだけ願う。
「ふぅ、ありがとうございました。いつも付き合ってもらってすみません」
「……ぁ……」
口の中から触手が出ていき、体を拘束していた触手も一斉に引いていく。
脱力してすぐには起き上がれない俺をよそに、深谷はてきぱきと箪笥を開け、俺の部屋着を取り出しベッドの端に置いた。
ついでに触手を使って俺の体をころころと左右に転がし、器用にシャツと靴下を脱がせていく。
「これ、洗濯カゴに入れときますね」
「あ、あぁ」
「今日は俺が晩ご飯当番ですから、ゆっくりしてください。お風呂いれときますね」
「……」
深谷が部屋を出ていって、俺はようやく身を起こした。
几帳面に重ね置かれた部屋着を見、閉じられたドアを見て、自身を見下ろす。
(なんでだよ……)
下着を僅かに押し上げる下腹に、深谷は微塵も触れなかった。
熱烈なキスをして、押し倒して、身体中に鬱血や噛み跡を残すくせに、それ以上触れてこない。
入居初日に襲われ、二回目を断りきれず、三度目は挿入はされなかったが性器を嬲り尽くされた。
そうして俺は抵抗を諦めた。暴れることをせず、嫌がる言葉も吐かないのに、深谷は一転してキス以上のことをしてこなくなった。
同居人の男同士、その関係を明らかに逸脱した行為がなくなって十日。
俺は昂った気持ちと下半身が収まるのを待って、部屋着を抱え浴室へ向かった。
(俺の希望も込みで、一番単純に考えるなら、やる必要がなくなったってことだろう)
湯船に肩までつかると蓄積した疲労が滲み出していくようだ。
ほう、と息を吐き出し手足を伸ばして、胸から鎖骨周辺までに散った赤い印に視線が行く。
深谷が俺の体を求めてこなくなった理由。
入浴中というリラックスの場でそんなことを考えるのは業腹だが、俺の貞操と今後に関わることだ。無視も思考停止も良くない。
深谷は元々、人間から精気を得たいとは思ったこともなかったと言っていた。日々の食事で足りる程度で生きていたと。
他の命を直に頂く食事は元より、人の近くにいたり、手を握ったりするだけでも微量の精気を得られるというからには、今までも身近な人間───例えば学校や会社、電車とか、そういう場所でつまみ食いするだけで足りていたのだろうと推測できる。
通勤ラッシュの満員電車でスーツのおっさんに囲まれ細々と食事する深谷という想像になんとも言えない憐憫を覚えそうになり、慌てて頭を振る。未確認生物側に同情してどうする。
髪から滴り落ちた雫の起こす波紋を眺めながら、激動の数日間を振り返る。
思えば深谷からの接触は、初回から減り続けていた。
足腰が立たなくなるほどヤられた初日、それほどでもなかった二回目、三回目は奉仕を受けるのみで済んでいる。「精気を吸う」という根本的な行動原理自体は理解できないものの、同じことを俺たち人類の行動様式で考えてみたらどうだろう。
(味に飽きた、のか?)
それは気分を明るくさせる思いつきだった。
いくら好きな食べ物とはいえ、数日以内に何度も口にしたら味に飽きてしまうこともあるだろう。間に他の食事を挟んだり、味変したり、別の味付けを試したりしない限り、同じものばかり食べ続けるのは難しい。
深谷もそれと同じだとしたら……。
(俺が人外の食糧という立場から脱却できる日も近い、かもしれない!)
この仮定が正しければ、そのうち深谷は別の精気を求めて俺に絡んでこなくなる。
同居人としてあるべき姿で暮らしていけるようになるかもしれない。
だっておかしいだろう、俺達は同居人で男同士で、恋人どころか友人関係ですらないのに、毎日のようにキスして、それ以上までなんて。
ヤツとは適切な距離を置くべきだ。距離さえ置けていれば、本性は触手とはいえ温厚な性格の男だし、人畜無害な部分のほうが多いのだから。
ずっと落ち込んでいた気持ちが上向きはじめ、無意識に鼻歌など口ずさんでしまう。俺は勢いよく湯船から体を起こした。
「新さん、ご機嫌ですね」
「ん、そうか?」
「えぇ。楽しそうに歌ってるのが聞こえてきましたよ」
風呂から上がると夕食の準備ができていた。
浴室の鼻歌がキッチンでも聞こえるというのは新発見だ。いい年して浮かれて恥ずかしい、と言われているような気になったが、実際浮かれているのだから仕方ない。
不思議そうに見つめてくる深谷には「まぁちょっとな」などと濁して、テーブルの上に並べられた皿を見下ろす。
俺が風呂に入っている間に深谷が作ってくれたのは、素朴な洋風の食事だった。
分厚いベーコンを炒めたカルボナーラは若干ダマっぽくなっているし、ミネストローネは具材がだいぶ無骨かつ大きめにカットされている。唯一問題ない見た目のピクルスは俺が作った常備菜だ。
それでも、料理をほとんどしてこなかったという男の作ったものにしては上出来、十分及第点と言えるだろう。
「ど、どうでしょう」
「いただきます。……んん、美味いよ」
「あぁ、よかった……」
心底ほっとした表情を見せる深谷の様子に、俺は自然と笑みを浮かべていた。
俺を食糧扱いする危険生物であるという部分を除けば、彼は年下でかわいげのある気のいい同居人だ。
「もうちょっとコショウ入れてもおいしいかもな」
「コショウかぁ……次回気をつけてみます」
カップルおよびファミリー向け物件であるこの部屋は、俺一人で家賃を払い続けていくのが難しい。給料と少ない貯金のことを考えれば、あと一年はここに住んで引越し費用を貯めたいところだ。
俺と深谷の関係が正常化すれば、それも難しくはないだろう。
「新さんのピクルスおいしくて好きです。今度作り方教えてください」
「おう。つってもほとんど酢だけから簡単だぞ」
俺以外に対する「好き」は、こんなに素直に響くのにな。
ヤツが俺の精気を必要としなくなるまで耐える。そして晴れてその日が訪れたら、俺は笑って今までのことを水に流してやるのだ。
感想
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー