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第二性選択編
13.波乱の幕開け
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アルファに生まれ早16年。
こんなにも男にモテたことがあっただろうか。いやない。
「やめろって! 冗談にしちゃタチ悪い……」
「すげーいい匂いする。これ、オメガのフェロモンだろ?」
廊下の壁に追い詰められて、首筋に鼻先を埋められて、耳元でそんなことを囁かれて。
あぁそうだ、今俺はオメガなんだった。
俺はごく平凡なアルファの高校生、香川 雪。
放課後一人で住宅街をぶらついていたら、ネコだらけの怪しげな空き地を発見した。
ネコの脱糞にげんなりしていた俺は、背後から近づいてきた謎の少年に気づかなかった。
俺はその少年(自称神)に謎の光を浴びせられ、目を開いたら────オメガになってしまっていた!
オメガだと周囲にバレたら、貞操を狙われ、両親にも迷惑がかかる。
友人である椿 颯真の助言で第二性を隠すことにした俺は、今まで通りアルファとして何食わぬ顔で学校に通うことにしたのだった……。
本当は数日前に、神様に会って体を元に戻してもらえることになってた。
でも、友人でしかないと思っていた颯真から思いとどまるよう言われ、神様から猶予をもらったこともあって、俺のオメガ生活は最長で三ヶ月ほど延びることに。
その流れで颯真と俺は大いに盛り上がってしまって、発情期でもないのにベッドにこもってアレコレやってしまった。
しばらくは己の痴態を思い出して恥ずかしく、颯真の顔をまともに見られなかったけど、数日もすれば慣れる。
「じゃあ、行ってくる」
「いってら~」
「……」
「ん? 何?」
机にだらりと寝そべって手だけをひらひら振った俺に、颯真は物言いたげな視線を向けてきた。
仕方ないので顔を上げてやると、くしゃくしゃ髪を撫でられる。
「なんだよ~んふふ」
「なんでもない」
手が離れるとき見た颯真は、眉がちょっぴり下がった優しい笑顔だった。
もう一度手を振って、机と仲良しに戻る。
以前に比べ明らかに接する時間と回数が増えた。
髪に触られることが増え、誰も見てないところでは手を繋いだりキスをしたり。人目が全くないお互いの自室などでは、匂いを嗅がれたり体を触られたり、それ以上の触れ合いもある。
もう今更、颯真のことを「友達」だなんて生ぬるく称する気はない。
だからといって恋人とか、そういうものかといえば……。
「もしかして俺って、颯真にひどいことしてるのかな」
伸ばした腕をぷらぷら振りながら物思いに耽る。
恋人ではないのにキスしてセックスして、こうして委員会の集まりに参加している颯真を待ったりもしている。
いかにも恋人っぽいし、颯真からも好意を伝えられているけど、俺から何か返事したりはしていない。
……絶対ひどい。
これじゃオメガとかアルファとか関係なく、ただの尻軽ビッチだ。
「よし。もうちょっと真面目に考えよう」
受け身セックスが気持ち良すぎて思考停止してたけど、こんなこといつまでも続けていいわけがない。
決意して、しかし姿勢はだらけたまま悶々と考え込んでいると。
「あれ、香川?」
廊下から俺を呼ぶ、聞き慣れない声がした。
「何してんの? 帰んないのか?」
「あぁ、大島。おひさ~」
「久しぶりってほどじゃないだろ。こないだ数学の教科書貸したじゃん」
落書きして返すのやめろよな、なんて言いながら教室に入ってきたのは、隣のクラスの友人である大島だ。
同じ中学からこの公立高校に進学してきた一人で、アルファ。
中高共にクラスが同じになったことはないけど、お互い公立校には珍しいアルファということで自然と接点ができ、仲良く過ごした相手だ。今でもそこそこ交流がある。
「誰か待ってんの?」
「うん。颯真が委員の会議行ってるから」
「ソウマ……って、椿のことか。おまえホントにアルファと仲良くなるの得意な」
大島は俺の前の席の椅子を引いて座った。どうやら彼も暇しているようだ。
アルファ同士が仲良くなるのはレアケースであることを俺が知ったのは、大島と、中学の交友関係のためだった。
中学には三学年全部で常に5人くらいアルファがいた。
在校生は三百人弱くらいだったから、人口割合から考えるとめちゃくちゃ少ないんだけど、アルファは大体小中学から名門とか伝統とか枕詞のつく立派な私立に行くものらしい。
そんな既定路線を外れている奇特なアルファたちの仲が良かったかといえば、否。
学年が違うアルファ同士は接点を持たないよう明らかに避け合っていたし、同学年のアルファも同じクラスにならないよう明らかに配慮されていた。
でも俺は大島と友人関係だ。
いがみ合ったり縄張り争いしたことは一度もない。
それを大島がしみじみと「珍しいことだ」と教えてくれて、そこから俺は「同族に敵視されることすらない地味アルファ」という地位を確立してしまったのだった。悲しい。
「三組にアルファが二人いるって聞いて学級崩壊でもさせる気かと思ったもんだけど、片方が香川だって知って納得したわ。案の定椿も籠絡してるし、ホント魔性だよな~」
ため息交じりにあんまりなことを言われる。
「誰が魔性だ。アルファろーらくしたって何の得もないじゃん」
「いやいや。俺みたいな庶民ならともかく、椿は由緒正しき上位アルファじゃん。お近づきになれるならその方が断然いいし」
「ふーん。じゃあ大島も颯真と仲良くすれば?」
「冗談。あんなやつに近づくアルファの気が知れない」
それは遠回しどころか直球で俺をディスってるのか?
目の前にあった大島の肩をパンチしたが、特に痛がりもせず笑われた。
「椿が来る前に退散するわ。またな、香川」
「ん。じゃーね」
「あのおっかない野郎に泣かされたら俺んとこ来いよ。仲良くやろうぜ」
去り際にくしゃりと髪を撫でられる。
本当に俺の髪は男女アルファベータ問わずよく触られる。そんなに良い髪質だろうか。
視界に落ちかかってきた前髪を引っ張ってみる。
細くてうねっていて、俺はあまり好きじゃないんだけど。雨の日とかありえないくらい爆発するし。
それにしても大島はいつも意味深なことを言う。
俺が何を泣かされることがあるというのか。イジメられてると勘違いしてんのかな。
颯真ほど懐が深くて誰に対しても優しいアルファは見たことがない。
アルファって多かれ少なかれ、偉そうで強そうで孤高の雰囲気を持ってるものだけど、颯真はそうじゃない。ついでに俺にもそんなオーラはない。
だからベータの友達とつるむし、アルファ同士でも友情を結べるし、争うことなんてないのに。
「ユキ」
「あ、おかえり」
ゆっくりと夕暮れていく窓の外を眺めていたら、颯真が戻ってきた。
待たせたことを詫びながら俺の隣まで来て、なぜかぴたりと立ち止まる。
「……さっきまでここに誰かいた?」
「ん? うん。大島が……隣のクラスのやつだよ」
「そうか。ユキはそいつと仲良いんだっけ?」
「同中だからね」
颯真はいつになく硬い声だった。
ふと何かを探すように彷徨った視線がとても冷たくて、思わず肩が揺れる。
いつも目尻をゆるめて微笑んでくれる目が、酷薄に細められて、やがて俺を見下ろした。
「颯真、なんか怒ってる?」
恐る恐るそう聞くと、はっとしたように開かれた瞳にいつもの颯真が戻ってきた。
「あ、ごめん。なんでもない。帰ろうか」
「うん……」
いやどう考えてもなんでもなくない。
でも聞いてもはぐらかされそうな空気を感じる。伊達に颯真の一番の友人やってない。
なんとなく気まずい気持ちのまま、俺は颯真の後ろについて教室を後にした。
二人で帰路につくのも慣れたものだ。
近頃颯真は休止していた放課後の部活動を再開させたので、毎日一緒ではない。
でも互いに用事がないときとか、今日みたいに委員会の集まり程度の短時間なら教室で待って、なるべく一緒に帰るようにしている。
抑制剤をきちんと飲んでいるから、身の危険を感じることはもうないけど、颯真がいない帰り道はなんだか寂しいし、その後のことも考えての行動だ。
「今日、うち寄ってく?」
これが合図。
最初は見栄張ってラブホになんか行ったけど、そうそうお小遣いが続かないし、単純に高校生の利用は本来ダメなのでアレ以来行ってない。
代わりにお互いの家……特に両親ともに夜まで不在がちな俺の家にしけこむことが多い。
「……行く」
「うん」
颯真も意味をちゃんとわかってる。
言葉少なに頷く彼の目元が少し赤い。多分俺も同じような顔してると思う。
家の前の駐車場に車が停まっていないので父さんは不在。
玄関を開けて、どこにも人の気配がなく明かりも点いていないので母さんもいない。
お互いに手早くシャワーを浴びて、いそいそと小走りで自室に向かう頃には、勝手に気持ちが高ぶってしまう。
「ユキ……」
「ん」
全裸で抱き合って唇を突き出すと、望んだものが与えられた。
舌を絡めていると下半身が勝手に揺れて、颯真の体に擦り寄る。早く刺激が欲しい。
今まで快楽を与える立場だったとは思えないほど、俺は受け身にすっかり慣れた。
正直もうオメガとかベータの女子とかを抱く自分が想像できない。
最初は恐る恐る、探り探りだった颯真もやり方を心得てきて、ちょっと触られるだけで俺はすぐにとろけてしまう。
「あっ……そーま、もういいから……っ」
「大丈夫か?」
「ん、早く、きて」
ごく浅い部分をぐちゅぐちゅとかき混ぜていた颯真の指が抜けて、もっと大きくて熱いものが押し当てられる。
すっかり「入り口」扱いされることに慣れてしまった後孔に、颯真のものが入ってくる瞬間が好きだ。
全身を走り抜ける悪寒に似た快感が、脳髄を焼き焦がして痺れさせてしまう。
俺は本当はアルファなのに。同じアルファに組み敷かれることなんて、考えもしていなかったはずなのに。
ちょっと触られただけで後ろを濡らしてしまう今の俺が、アルファ性を主張しても全然説得力ないんだろうな。
「そ、ま……かんで、首噛んでっ」
自分からアルファを誘って、腰をくねらせて脚を開いて、感極まると泣きながら番契約の真似事をねだる俺のどこが、アルファだったというのだろう。
颯真は一瞬ぎゅっと眉根を寄せて、でも俺の求めに応じてくれる。
汗ばんだうなじを噛む力はそれほど強くない。でも跡が残るくらいには歯の感触があって、噛まれながら突き上げられるとあり得ないくらい気持ち良くなってしまう。
「ひあ、ぁ、あーっ……!」
前を触られていないのに、オメガの体は敏感に刺激を拾って最大化させる。
後ろだけでイった俺の体は勝手にがくがく震えて、中の颯真をきつく締め付けた。
色っぽい声が漏れて、ゴム越しに颯真も達したことがわかる。
うなじを差し出すためにぴったりと抱き合っていた姿勢を解くと、すぐ近くにある顔を覗き込む。
紅潮した頬、滲む汗を乱雑に拭う仕草、漏れ出す吐息は未だ熱い。
品行方正で禁欲的な美形は、今や見る影もなく肉欲の気配を強く残していて、俺はこの顔を見るとなぜだかすごく満足するんだ。
「へへ……気持ち良かった?」
「聞くなよ……わかるだろ、これで」
「んっ、うん」
まだ繋がったままの下半身を揺すられて苦笑う。
アルファの射精は長いし、量が多い。
以前ふざけて「いっぱい出たね」とあやしてやったら怒られたのでもう言わないけど、まだ中で出続けているのが感じられる。
気持ち良く満足できなければこうはならない。男というものは意外と繊細なのだ。
「おばさん帰ってくるの何時頃?」
「あー……そろそろヤバいかも」
「マジか。シャワー先に借りるな」
「うん。……抜ける?」
見下ろした俺の腹には、俺が出した白濁とくったり力を失った俺の息子、そして未だ突き刺さったままの颯真のブツ。
だいぶ勢いは弱まったけど、腹の中の異物感はまだ健在で、十分な質量を保っていることが伺える。
「……もうちょっと」
「んふふ。いいよ」
戯れにキスしながら体を触り合っていれば、また兆してしまうのは仕方ない。
第二ラウンドに突入するのも自然な流れだった。
こんなにも男にモテたことがあっただろうか。いやない。
「やめろって! 冗談にしちゃタチ悪い……」
「すげーいい匂いする。これ、オメガのフェロモンだろ?」
廊下の壁に追い詰められて、首筋に鼻先を埋められて、耳元でそんなことを囁かれて。
あぁそうだ、今俺はオメガなんだった。
俺はごく平凡なアルファの高校生、香川 雪。
放課後一人で住宅街をぶらついていたら、ネコだらけの怪しげな空き地を発見した。
ネコの脱糞にげんなりしていた俺は、背後から近づいてきた謎の少年に気づかなかった。
俺はその少年(自称神)に謎の光を浴びせられ、目を開いたら────オメガになってしまっていた!
オメガだと周囲にバレたら、貞操を狙われ、両親にも迷惑がかかる。
友人である椿 颯真の助言で第二性を隠すことにした俺は、今まで通りアルファとして何食わぬ顔で学校に通うことにしたのだった……。
本当は数日前に、神様に会って体を元に戻してもらえることになってた。
でも、友人でしかないと思っていた颯真から思いとどまるよう言われ、神様から猶予をもらったこともあって、俺のオメガ生活は最長で三ヶ月ほど延びることに。
その流れで颯真と俺は大いに盛り上がってしまって、発情期でもないのにベッドにこもってアレコレやってしまった。
しばらくは己の痴態を思い出して恥ずかしく、颯真の顔をまともに見られなかったけど、数日もすれば慣れる。
「じゃあ、行ってくる」
「いってら~」
「……」
「ん? 何?」
机にだらりと寝そべって手だけをひらひら振った俺に、颯真は物言いたげな視線を向けてきた。
仕方ないので顔を上げてやると、くしゃくしゃ髪を撫でられる。
「なんだよ~んふふ」
「なんでもない」
手が離れるとき見た颯真は、眉がちょっぴり下がった優しい笑顔だった。
もう一度手を振って、机と仲良しに戻る。
以前に比べ明らかに接する時間と回数が増えた。
髪に触られることが増え、誰も見てないところでは手を繋いだりキスをしたり。人目が全くないお互いの自室などでは、匂いを嗅がれたり体を触られたり、それ以上の触れ合いもある。
もう今更、颯真のことを「友達」だなんて生ぬるく称する気はない。
だからといって恋人とか、そういうものかといえば……。
「もしかして俺って、颯真にひどいことしてるのかな」
伸ばした腕をぷらぷら振りながら物思いに耽る。
恋人ではないのにキスしてセックスして、こうして委員会の集まりに参加している颯真を待ったりもしている。
いかにも恋人っぽいし、颯真からも好意を伝えられているけど、俺から何か返事したりはしていない。
……絶対ひどい。
これじゃオメガとかアルファとか関係なく、ただの尻軽ビッチだ。
「よし。もうちょっと真面目に考えよう」
受け身セックスが気持ち良すぎて思考停止してたけど、こんなこといつまでも続けていいわけがない。
決意して、しかし姿勢はだらけたまま悶々と考え込んでいると。
「あれ、香川?」
廊下から俺を呼ぶ、聞き慣れない声がした。
「何してんの? 帰んないのか?」
「あぁ、大島。おひさ~」
「久しぶりってほどじゃないだろ。こないだ数学の教科書貸したじゃん」
落書きして返すのやめろよな、なんて言いながら教室に入ってきたのは、隣のクラスの友人である大島だ。
同じ中学からこの公立高校に進学してきた一人で、アルファ。
中高共にクラスが同じになったことはないけど、お互い公立校には珍しいアルファということで自然と接点ができ、仲良く過ごした相手だ。今でもそこそこ交流がある。
「誰か待ってんの?」
「うん。颯真が委員の会議行ってるから」
「ソウマ……って、椿のことか。おまえホントにアルファと仲良くなるの得意な」
大島は俺の前の席の椅子を引いて座った。どうやら彼も暇しているようだ。
アルファ同士が仲良くなるのはレアケースであることを俺が知ったのは、大島と、中学の交友関係のためだった。
中学には三学年全部で常に5人くらいアルファがいた。
在校生は三百人弱くらいだったから、人口割合から考えるとめちゃくちゃ少ないんだけど、アルファは大体小中学から名門とか伝統とか枕詞のつく立派な私立に行くものらしい。
そんな既定路線を外れている奇特なアルファたちの仲が良かったかといえば、否。
学年が違うアルファ同士は接点を持たないよう明らかに避け合っていたし、同学年のアルファも同じクラスにならないよう明らかに配慮されていた。
でも俺は大島と友人関係だ。
いがみ合ったり縄張り争いしたことは一度もない。
それを大島がしみじみと「珍しいことだ」と教えてくれて、そこから俺は「同族に敵視されることすらない地味アルファ」という地位を確立してしまったのだった。悲しい。
「三組にアルファが二人いるって聞いて学級崩壊でもさせる気かと思ったもんだけど、片方が香川だって知って納得したわ。案の定椿も籠絡してるし、ホント魔性だよな~」
ため息交じりにあんまりなことを言われる。
「誰が魔性だ。アルファろーらくしたって何の得もないじゃん」
「いやいや。俺みたいな庶民ならともかく、椿は由緒正しき上位アルファじゃん。お近づきになれるならその方が断然いいし」
「ふーん。じゃあ大島も颯真と仲良くすれば?」
「冗談。あんなやつに近づくアルファの気が知れない」
それは遠回しどころか直球で俺をディスってるのか?
目の前にあった大島の肩をパンチしたが、特に痛がりもせず笑われた。
「椿が来る前に退散するわ。またな、香川」
「ん。じゃーね」
「あのおっかない野郎に泣かされたら俺んとこ来いよ。仲良くやろうぜ」
去り際にくしゃりと髪を撫でられる。
本当に俺の髪は男女アルファベータ問わずよく触られる。そんなに良い髪質だろうか。
視界に落ちかかってきた前髪を引っ張ってみる。
細くてうねっていて、俺はあまり好きじゃないんだけど。雨の日とかありえないくらい爆発するし。
それにしても大島はいつも意味深なことを言う。
俺が何を泣かされることがあるというのか。イジメられてると勘違いしてんのかな。
颯真ほど懐が深くて誰に対しても優しいアルファは見たことがない。
アルファって多かれ少なかれ、偉そうで強そうで孤高の雰囲気を持ってるものだけど、颯真はそうじゃない。ついでに俺にもそんなオーラはない。
だからベータの友達とつるむし、アルファ同士でも友情を結べるし、争うことなんてないのに。
「ユキ」
「あ、おかえり」
ゆっくりと夕暮れていく窓の外を眺めていたら、颯真が戻ってきた。
待たせたことを詫びながら俺の隣まで来て、なぜかぴたりと立ち止まる。
「……さっきまでここに誰かいた?」
「ん? うん。大島が……隣のクラスのやつだよ」
「そうか。ユキはそいつと仲良いんだっけ?」
「同中だからね」
颯真はいつになく硬い声だった。
ふと何かを探すように彷徨った視線がとても冷たくて、思わず肩が揺れる。
いつも目尻をゆるめて微笑んでくれる目が、酷薄に細められて、やがて俺を見下ろした。
「颯真、なんか怒ってる?」
恐る恐るそう聞くと、はっとしたように開かれた瞳にいつもの颯真が戻ってきた。
「あ、ごめん。なんでもない。帰ろうか」
「うん……」
いやどう考えてもなんでもなくない。
でも聞いてもはぐらかされそうな空気を感じる。伊達に颯真の一番の友人やってない。
なんとなく気まずい気持ちのまま、俺は颯真の後ろについて教室を後にした。
二人で帰路につくのも慣れたものだ。
近頃颯真は休止していた放課後の部活動を再開させたので、毎日一緒ではない。
でも互いに用事がないときとか、今日みたいに委員会の集まり程度の短時間なら教室で待って、なるべく一緒に帰るようにしている。
抑制剤をきちんと飲んでいるから、身の危険を感じることはもうないけど、颯真がいない帰り道はなんだか寂しいし、その後のことも考えての行動だ。
「今日、うち寄ってく?」
これが合図。
最初は見栄張ってラブホになんか行ったけど、そうそうお小遣いが続かないし、単純に高校生の利用は本来ダメなのでアレ以来行ってない。
代わりにお互いの家……特に両親ともに夜まで不在がちな俺の家にしけこむことが多い。
「……行く」
「うん」
颯真も意味をちゃんとわかってる。
言葉少なに頷く彼の目元が少し赤い。多分俺も同じような顔してると思う。
家の前の駐車場に車が停まっていないので父さんは不在。
玄関を開けて、どこにも人の気配がなく明かりも点いていないので母さんもいない。
お互いに手早くシャワーを浴びて、いそいそと小走りで自室に向かう頃には、勝手に気持ちが高ぶってしまう。
「ユキ……」
「ん」
全裸で抱き合って唇を突き出すと、望んだものが与えられた。
舌を絡めていると下半身が勝手に揺れて、颯真の体に擦り寄る。早く刺激が欲しい。
今まで快楽を与える立場だったとは思えないほど、俺は受け身にすっかり慣れた。
正直もうオメガとかベータの女子とかを抱く自分が想像できない。
最初は恐る恐る、探り探りだった颯真もやり方を心得てきて、ちょっと触られるだけで俺はすぐにとろけてしまう。
「あっ……そーま、もういいから……っ」
「大丈夫か?」
「ん、早く、きて」
ごく浅い部分をぐちゅぐちゅとかき混ぜていた颯真の指が抜けて、もっと大きくて熱いものが押し当てられる。
すっかり「入り口」扱いされることに慣れてしまった後孔に、颯真のものが入ってくる瞬間が好きだ。
全身を走り抜ける悪寒に似た快感が、脳髄を焼き焦がして痺れさせてしまう。
俺は本当はアルファなのに。同じアルファに組み敷かれることなんて、考えもしていなかったはずなのに。
ちょっと触られただけで後ろを濡らしてしまう今の俺が、アルファ性を主張しても全然説得力ないんだろうな。
「そ、ま……かんで、首噛んでっ」
自分からアルファを誘って、腰をくねらせて脚を開いて、感極まると泣きながら番契約の真似事をねだる俺のどこが、アルファだったというのだろう。
颯真は一瞬ぎゅっと眉根を寄せて、でも俺の求めに応じてくれる。
汗ばんだうなじを噛む力はそれほど強くない。でも跡が残るくらいには歯の感触があって、噛まれながら突き上げられるとあり得ないくらい気持ち良くなってしまう。
「ひあ、ぁ、あーっ……!」
前を触られていないのに、オメガの体は敏感に刺激を拾って最大化させる。
後ろだけでイった俺の体は勝手にがくがく震えて、中の颯真をきつく締め付けた。
色っぽい声が漏れて、ゴム越しに颯真も達したことがわかる。
うなじを差し出すためにぴったりと抱き合っていた姿勢を解くと、すぐ近くにある顔を覗き込む。
紅潮した頬、滲む汗を乱雑に拭う仕草、漏れ出す吐息は未だ熱い。
品行方正で禁欲的な美形は、今や見る影もなく肉欲の気配を強く残していて、俺はこの顔を見るとなぜだかすごく満足するんだ。
「へへ……気持ち良かった?」
「聞くなよ……わかるだろ、これで」
「んっ、うん」
まだ繋がったままの下半身を揺すられて苦笑う。
アルファの射精は長いし、量が多い。
以前ふざけて「いっぱい出たね」とあやしてやったら怒られたのでもう言わないけど、まだ中で出続けているのが感じられる。
気持ち良く満足できなければこうはならない。男というものは意外と繊細なのだ。
「おばさん帰ってくるの何時頃?」
「あー……そろそろヤバいかも」
「マジか。シャワー先に借りるな」
「うん。……抜ける?」
見下ろした俺の腹には、俺が出した白濁とくったり力を失った俺の息子、そして未だ突き刺さったままの颯真のブツ。
だいぶ勢いは弱まったけど、腹の中の異物感はまだ健在で、十分な質量を保っていることが伺える。
「……もうちょっと」
「んふふ。いいよ」
戯れにキスしながら体を触り合っていれば、また兆してしまうのは仕方ない。
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