34 / 36
大学受験編
03.ニアミス蜜日
しおりを挟む
「香耶ちゃん時間ある? どこか寄っていこうか」
「まじ? やった~。じゃあさ、行きたいとこあってぇ」
香耶ちゃんを連れて商店街の通りを歩く。
夕暮れに差し掛かる町は人通りが多くなってきて、車や自転車も通る。
すぐ横を自転車がかすめて行ったので、慌てて香耶ちゃんの体を引き寄せたら、香耶ちゃんは嬉しそうに腕にくっついてきた。
「へへ、いまのかっこよかったよ、お義兄ちゃん」
「おにいちゃん呼びはまだちょっと早くない?」
「じゃあ練習ってことで~」
腕に女の子をくっつけたまま歩くなんていつぶりだろう。
こうしてみると、もう全然女の子に興味がないんだなって実感する。
いくら前からよく知っている友人の妹だとしても、女の子がぴったり横にいたら癒されるし、ふわふわした気持ちになる。それが男子というものだ。
でも今の俺は全然そんな気持ちにならない。
だからといって男がいいというわけでもなくて……俺はすっかり颯真専用ってことだ。
なんだか自分で自分が恥ずかしくて、意味もなく頭をぱりぱり掻いた────そのとき。
肩をぐっと後ろに引かれた。
「ぅぇ?」
半回転するような勢いで振り向かされた先には────今思い描いていたその人。
「颯真?」
「そいつ、何」
「え?」
颯真は見たこともない険しい表情をしていた。
久しぶりの実物颯真に会えたというのに、鋭い視線に射抜かれて俺はフリーズしてしまう。
それを疾しさと捉えたのか、颯真はますます眉根を寄せた。
「ユキ……!」
「あれ、おにぃじゃん。おつかれ~」
なにかを言いかけた颯真に、俺の影からひょっこり顔を出した香耶ちゃんがのんびり挨拶した。
途端に、颯真の顔から表情がストンとなくなる。
「ぇ、あ、香耶?」
「そこで雪ちゃんと偶然会ってねぇ、これからお茶するとこだったんだけど、」
香耶ちゃんがちらっと俺を見て、にんまりと笑った。
「いっしょに行く? って言おうと思ったけど、今おにぃ雪ちゃん断ちしてるんだもんね、それにこれから塾だもんね、残念だねぇ。雪ちゃん行こっか?」
「え、いや、えーと……颯真?」
颯真は無表情で俺たちを見つめたまま、俺の肩を掴んだまま動かない。
どうすればいいのやら……あぁでも久しぶりの颯真、変わらず元気そうだ、なんてぼんやり見返していたら、再び肩を引かれて、香耶ちゃんから引き離された。
「香耶、一人で帰れ」
「え~、雪ちゃんとお茶するチャンスだったのにぃ」
「お茶なら今度俺が奢るから」
颯真がそう言うと、香耶ちゃんはあっさり引き下がった。
軽い調子で「そっか~じゃーね~」なんて手を振りながら去っていく姿に俺も手を振って、それから、俺の肩を抱いたままの男を見上げる。
「颯真、久しぶり」
「うん」
「あのさ、さっきさ」
「言うな」
「俺が浮気してると思った?」
「だから言うなって……」
香耶ちゃんは今朝塾に行く前に髪を切ったようで、髪型が全然違ったから、後ろ姿で妹だとわからなかったらしい。
顔を覆ってしまった颯真を遠慮なく笑ったら、今度は睨まれてしまった。
そのままずるずると引きずられて影に入る。
一階が空いている古いビルは人気がなく、横の雑居ビルとの間の暗がりに連れ込まれた。
「ユキ……」
正面から抱きしめられて髪のにおいを嗅がれている。
さっき走って汗くさいと思うけど、不思議と「そういうもん」と思ってしまって拒否できない。
代わりに俺も颯真の肩に顔を埋めて、遠慮なくにおいを嗅ぐ。
あぁ、颯真だ。
「……ユキの横に女がいるのが見えて、血の気が引いた」
「くっつきすぎだったよね、ごめん」
「どうせ香耶のほうからくっついたんだろ。いいよ。でもできれば、あんまり他のアルファとくっつかないでくれ」
「ん……」
自然と顔が近づいて、俺は条件反射で目を閉じたのに、触れ合うはずの熱がない。
薄目を開けると、颯真がなんとも言えない渋い顔をしていた。
「しないの?」
「したい。けど……」
なにやら色々と葛藤しているらしい。
俺は含み笑って、背伸びして唇を奪った。ほんの一瞬だけ。
それからぱっと体を離す。
「これから予備校だろ? がんばってな」
「あ、ユキ……」
「これ以上くっついてたらもっとしたくなるからダメ! じゃーね」
本当はもっともっとくっついてたい。
公共の場所ではできないくらい濃密に触れ合って、絡み合って、勉強も進路もなにもかも忘れていっしょにいたい。
けどそれじゃお互いのためにならない。今は我慢だ。
振り返らずに走ったので颯真がどんな顔をしてたかはわからなかったけど、きっと俺の気持ちはわかってくれてる。
「でも久しぶりの颯真……癒されたなぁ」
軽快に走り終え、帰ってきた自室でストレッチをして、ふと脱いだジャージのにおいを嗅ぐ。
ほんのわずかだけど、颯真の残り香があった。
思わずくんくんとしつこく嗅いでしまい、我ながら変態感があってへこむけど、背に腹はかえられない。
ジャージの上着以外は洗濯かごに出したけど、これだけはベッドの横にかけておくことにした。
……やっぱちょっと変態になってきてるな、俺。
「まじ? やった~。じゃあさ、行きたいとこあってぇ」
香耶ちゃんを連れて商店街の通りを歩く。
夕暮れに差し掛かる町は人通りが多くなってきて、車や自転車も通る。
すぐ横を自転車がかすめて行ったので、慌てて香耶ちゃんの体を引き寄せたら、香耶ちゃんは嬉しそうに腕にくっついてきた。
「へへ、いまのかっこよかったよ、お義兄ちゃん」
「おにいちゃん呼びはまだちょっと早くない?」
「じゃあ練習ってことで~」
腕に女の子をくっつけたまま歩くなんていつぶりだろう。
こうしてみると、もう全然女の子に興味がないんだなって実感する。
いくら前からよく知っている友人の妹だとしても、女の子がぴったり横にいたら癒されるし、ふわふわした気持ちになる。それが男子というものだ。
でも今の俺は全然そんな気持ちにならない。
だからといって男がいいというわけでもなくて……俺はすっかり颯真専用ってことだ。
なんだか自分で自分が恥ずかしくて、意味もなく頭をぱりぱり掻いた────そのとき。
肩をぐっと後ろに引かれた。
「ぅぇ?」
半回転するような勢いで振り向かされた先には────今思い描いていたその人。
「颯真?」
「そいつ、何」
「え?」
颯真は見たこともない険しい表情をしていた。
久しぶりの実物颯真に会えたというのに、鋭い視線に射抜かれて俺はフリーズしてしまう。
それを疾しさと捉えたのか、颯真はますます眉根を寄せた。
「ユキ……!」
「あれ、おにぃじゃん。おつかれ~」
なにかを言いかけた颯真に、俺の影からひょっこり顔を出した香耶ちゃんがのんびり挨拶した。
途端に、颯真の顔から表情がストンとなくなる。
「ぇ、あ、香耶?」
「そこで雪ちゃんと偶然会ってねぇ、これからお茶するとこだったんだけど、」
香耶ちゃんがちらっと俺を見て、にんまりと笑った。
「いっしょに行く? って言おうと思ったけど、今おにぃ雪ちゃん断ちしてるんだもんね、それにこれから塾だもんね、残念だねぇ。雪ちゃん行こっか?」
「え、いや、えーと……颯真?」
颯真は無表情で俺たちを見つめたまま、俺の肩を掴んだまま動かない。
どうすればいいのやら……あぁでも久しぶりの颯真、変わらず元気そうだ、なんてぼんやり見返していたら、再び肩を引かれて、香耶ちゃんから引き離された。
「香耶、一人で帰れ」
「え~、雪ちゃんとお茶するチャンスだったのにぃ」
「お茶なら今度俺が奢るから」
颯真がそう言うと、香耶ちゃんはあっさり引き下がった。
軽い調子で「そっか~じゃーね~」なんて手を振りながら去っていく姿に俺も手を振って、それから、俺の肩を抱いたままの男を見上げる。
「颯真、久しぶり」
「うん」
「あのさ、さっきさ」
「言うな」
「俺が浮気してると思った?」
「だから言うなって……」
香耶ちゃんは今朝塾に行く前に髪を切ったようで、髪型が全然違ったから、後ろ姿で妹だとわからなかったらしい。
顔を覆ってしまった颯真を遠慮なく笑ったら、今度は睨まれてしまった。
そのままずるずると引きずられて影に入る。
一階が空いている古いビルは人気がなく、横の雑居ビルとの間の暗がりに連れ込まれた。
「ユキ……」
正面から抱きしめられて髪のにおいを嗅がれている。
さっき走って汗くさいと思うけど、不思議と「そういうもん」と思ってしまって拒否できない。
代わりに俺も颯真の肩に顔を埋めて、遠慮なくにおいを嗅ぐ。
あぁ、颯真だ。
「……ユキの横に女がいるのが見えて、血の気が引いた」
「くっつきすぎだったよね、ごめん」
「どうせ香耶のほうからくっついたんだろ。いいよ。でもできれば、あんまり他のアルファとくっつかないでくれ」
「ん……」
自然と顔が近づいて、俺は条件反射で目を閉じたのに、触れ合うはずの熱がない。
薄目を開けると、颯真がなんとも言えない渋い顔をしていた。
「しないの?」
「したい。けど……」
なにやら色々と葛藤しているらしい。
俺は含み笑って、背伸びして唇を奪った。ほんの一瞬だけ。
それからぱっと体を離す。
「これから予備校だろ? がんばってな」
「あ、ユキ……」
「これ以上くっついてたらもっとしたくなるからダメ! じゃーね」
本当はもっともっとくっついてたい。
公共の場所ではできないくらい濃密に触れ合って、絡み合って、勉強も進路もなにもかも忘れていっしょにいたい。
けどそれじゃお互いのためにならない。今は我慢だ。
振り返らずに走ったので颯真がどんな顔をしてたかはわからなかったけど、きっと俺の気持ちはわかってくれてる。
「でも久しぶりの颯真……癒されたなぁ」
軽快に走り終え、帰ってきた自室でストレッチをして、ふと脱いだジャージのにおいを嗅ぐ。
ほんのわずかだけど、颯真の残り香があった。
思わずくんくんとしつこく嗅いでしまい、我ながら変態感があってへこむけど、背に腹はかえられない。
ジャージの上着以外は洗濯かごに出したけど、これだけはベッドの横にかけておくことにした。
……やっぱちょっと変態になってきてるな、俺。
28
あなたにおすすめの小説
白い結婚だと思っていたら、(溺愛)夫にガブガブされて、番になっていたようです
まんまる
BL
フレア王国の第3王子シルティ(18歳.Ω)は、王宮騎士団の団長を務める、キーファ侯爵家現当主のアリウス(29歳.α)に、ずっと片想いをしている。
そんなシルティは、Ωの成人王族の務めとして、自分は隣国のαの王族に輿入れするのだろうと、人生を半ば諦めていた。
だが、ある日突然、父である国王から、アリウスとの婚姻を勧められる。
二つ返事でアリウスとの婚姻を受けたシルティだったが、何もできない自分の事を、アリウスは迷惑に思っていないだろうかと心配になる。
─が、そんなシルティの心配をよそに、アリウスは天にも登る気持ち(無表情)で、いそいそと婚姻の準備を進めていた。
受けを好きすぎて、発情期にしか触れる事ができない攻めと、発情期の記憶が一切ない受けのお話です。
拗らせ両片想いの大人の恋(?)
オメガバースの設定をお借りしています。ぼんやり設定です。
Rシーンは※つけます。
1話1,000~2,000字程度です。
【完結済】「理想の恋人 〜タイムリープしたので、全財産貢いだダメ猫と別れます
かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中
BL
30歳の警察官、オメガの貴弘(たかひろ
)は、猫獣人の不実な恋人・アルファの猫井司(ねこいつかさ)に裏切られたショックで家出をした矢先、埼玉山中の交通事故で事故死してしまう。
ところが、気付けば猫井と出会う前に時間が戻っていた。
今度の人生では猫井に振り回されるのをやめようと決心するが……。
本編「理想の結婚 俺、犬とお見合いします」のスピンオフです。
全く話が繋がっていないので、単体で問題なく読めます。
(本編のコミカライズにつきましては、日頃より有難うございます)
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する
竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。
幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。
白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる