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第3章 goodbye、goodnight
第3話 交差点
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ユキのライブ(?)が終わると、さっきの部屋に戻っていた。
「あれ?」
「パソコン……消えてる……ってアッツ⁉︎」
パソコンのディスプレイを触った美鈴が、大声出しながら手を引かせた。
「うわ……やっぱりさっきの現実だったんだ」
『美鈴~っ! ご飯できてるから降りてきなさーい! いつまで昼寝してるの~っ!』
え、昼寝? 僕達、寝てたの?
「ヤバっ、もうこんな時間じゃん!」
「私帰らないと。怒られる」
「僕もそろそろ帰らないと。家族、心配するし」
恵奈と僕はささっと身支度を済ませて、美鈴の家を後にした。美鈴のお母さん、僕達の分までご飯作ってくれてたみたいで、パックに詰めてお裾分けしてくれた。
正直、すごく嬉しかった。
「ただいま~……」
カバンを一旦床に置いて、僕は靴を脱いだ。真暗な廊下の電気をつけて、カバンを持ち直す。
居間を開けても、誰もいない。分かりきっていることなのに、なんでこうも寂しく思えるんだろう。
「ふぅ……これ、温めないと」
電子レンジに貰い物のおかずを入れて、加熱する。その間に、炊飯器から黄色くなったご飯を茶碗によそう。
ピー! ピー! ピー!
温め終わったという電子レンジのアラームで、僕は貰ったおかずとお茶碗を並べて、口に運ぶ。
その間、美鈴のお母さんの顔が頭から離れなかった。
「……親、欲しいな」
翌日、僕は学校へと向かった。少し寝坊したせいで、時間がない。
そう思って走っていたら、目の前の細道からブワッとたくさんの羽が飛び出してきた。
「うわぁ⁉︎」
「えっ……あ、ごめんなさい!」
どうやら、この弱々しいどこかの男子学生が散らかしたらしい。そのせいで尻餅ついたんだけど。
「ケガ、してる。絆創膏……!」
「い、いいから。遅刻しちゃうから、これで--」
「っ!」
気にせず行こうと思ったら、男子生徒が僕の袖を引っ張った。
「すり傷でも……その、絆創膏したほうが……」
「何なの、お前。僕急いでるの、分かる?」
ようやく分かったのか、それ以上に男子生徒は何も言わなかった。
「それじゃ、これで」
「……? 僕も、こっち」
え、もしかして同じ学校なの? でもこの制服、うちのじゃない。高等部のでもない。別の学校、だよね。
「羽丘だから……こっち」
「そう。僕は朝日華だから!」
これ以上付き合ってたら次の電車まで遅れちゃう。羽丘だから良いだろうけど、こっちは朝日華。7駅先なんだから、一緒にしないでよね。
ギリギリ電車に間に合って、学校に着いた。もちろん、駅から学校まで猛ダッシュ。息も絶え絶えで、倒れるように席に着いた。
「ハァ、ハァ、ハァ~……」
「お疲れ様。てか格好考えな?」
「へ……?」
息を切らしてるのに、美鈴が近づいてきた。ていうか、格好考えなって、どういう……?
なんか、下半身がスースーするような……⁉︎
「イヤァァァァ⁉︎」
「アッハハ! ここまで気付かなかったの⁉︎」
スカートが思い切り落ちていた。幸い、下にハーフパンツを着ているから良かったけど、それも少し下がっていて、少しだけだけど下着が見えていた。
「う、うそ……全然気付かなかった」
「はぁ~、面白かった!」
「あれ、小山、コイツと仲良かったっけ?」
「そうそう。前まで嫌いとか言ってなかった?」
美鈴のとりまきが、僕を指差しながら美鈴にそう聞く。めっちゃムカつく。
「うーん……あれ、嘘!」
「「えぇ⁉︎」」
キッパリと嘘と言う美鈴に、とりまきは目を見開いて驚いていた。
「あれね。みんなと仲良くなるために言っただけ。だって、みんなが麻那ちゃんを嫌ってるだけでしょ?」
「いや……美鈴が嫌ってるなら、相当なやつなのかとばかり……」
「てか、小山さんゲスくない? 他人利用して好かれようとか」
「ちょっと引くわ……」
えっ、どゆこと。もしかして、美鈴、それ本音なの?
「別にあたしをどうこう言っても良いけど……その代わり、麻那ちゃんにはこれ以上何も言わないでね」
「……そっか。それで、僕を分かった気にでもなった?」
美鈴の言いたいことが分かった。僕のことを知ったと思って、今更認めようと思ったんだね。
でも、何も分かってない。僕が望んだのは、同情じゃない。理解されることでもない。
「え、麻那ちゃん?」
「僕はね、お前みたいなのが大っ嫌いなんだよ! 知った気になって、それで仲間思い? そんなので許されるのは、ドラマか戯曲だけ。今言ったこと、撤回して!」
私でいることを忘れて、僕は叫んでしまった。すぐ我に帰り、僕は教室から飛び出した。
そして、図書室の前辺りでスマホから、あの歌が流れた。歌っているのは、ユキだった。
「ユキ……」
「♪~……。ナーサ、オチツイテ」
「落ち着きたいよ! でも……!」
分かってた。僕は僕になっちゃいけないって。僕は生きちゃいけないんだって。ずっと私を演じてなきゃいけなかったって。でも、やっぱり苦しくて。僕でない誰かを生きれば生きるほど、本当の僕が分からなくなってしまう。
「otomi.モ、ヒトリ」
「え?」
「otomi.ハ、ヨロコンデタ。キノウ、ミンナキテ」
鈴音もひとり? バカ言わないで。親もいて、友達もいて。僕とは大違いじゃないか。
「otomi.、ホントノオヤ、イナイ。ズットマエニ、シンダ」
「へ……」
本当の親がいないって、僕と同じだ。でも友達はいる。まだ良いじゃん……。
いやでも、もし僕みたいに誰かを演じて手に入れた友達なら?
だって、さっきの美鈴の言葉……そういうことか。
「ありがとう、ユキ。教えてくれて」
「ウウン。カンシャサレルノハ、ナーサ。ワタクシノコエヲシンジ、カンガエ、コタエヲダシタ」
そう言われればそうだけど、なんか納得できないな。
キーンコーンカーンコーン
「ヤバっ! 朝のショートホームルーム!」
僕は急いで教室へと戻った。でも既に担任の先生は教壇にいて、出席名簿をつけていた。
「おう、トイレだったな。席つけ」
「え……?」
1人の男子生徒が僕にウィンクした。どうやら、彼が僕はトイレに行っていると言ってくれたらしい。
「それで、だ。麻那、お前の件、話したほうがいいんじゃないか?」
「っ! そ、それは……」
僕の件、というのは家族の件だ。学校側は把握してくれている。でも僕の一存で、生徒には話してほしくないと伝えていた。
だけど今日の一件がある以上は、伝えるほかないだろう。そう考えて、僕は先生に向かって首を縦に振った。
「分かった。君たちには伝えてないが、実は麻那には親がいない」
僕の事実が伝えられ、クラスはざわついた。
「だがな、麻那は立派な生徒だ。ひとりで衣食住している。だから先生達も、麻那の制服については特別に許可している」
「……先生! その件ですが、実は俺達も知ってます」
僕がトイレに行ったと言ってくれたであろう男子生徒が、手を大きく挙げてそう弾糾した。
「ほう、本人から聞いたのか?」
「いえ……えっと、……から……」
「すまん、聞こえんかった。もう一回頼む」
「……美鈴さんからですっ!」
バッと男子生徒は美鈴のことを睨み、指差しながら先生に報告した。
「そうか。美鈴、本当か?」
「……はい」
「……美鈴、後で相談室へ来なさい」
「あ、あの! 僕からも、良いですか?」
さっきのユキの言葉を信じて、僕も勇気を出して声を出した。
「なんだ麻那?」
「その……美鈴さんを、責めないでください。僕も、正直ムカついたけど……でも、人間ってそういうものじゃないですか! 誰かを犠牲にして、幸せになる。みんなだって同じだった! 僕を愚弄して笑って……だから、美鈴だけを責めないで!」
僕の声が、ざわついていたクラスに滝を落とすが如く、一瞬で静かにさせた。
「……そう、だな。先生も大人げなかった。だけど、2度目はない。君たちもそろそろ他人の心を思いやれるように。それじゃあ朝のショートホームルームは終わりだ」
僕の一喝で、美鈴も、誰もが責められずに済んだ。僕だって、正直なところ許したくはない。でも、これから先一緒にいるというのなら、割り切って考えなくちゃ。
だって、美鈴もまたひとりなんだから。仲間が欲しくなるのも当然。非条理だけど、これが当然の現実だもんね。
「あれ?」
「パソコン……消えてる……ってアッツ⁉︎」
パソコンのディスプレイを触った美鈴が、大声出しながら手を引かせた。
「うわ……やっぱりさっきの現実だったんだ」
『美鈴~っ! ご飯できてるから降りてきなさーい! いつまで昼寝してるの~っ!』
え、昼寝? 僕達、寝てたの?
「ヤバっ、もうこんな時間じゃん!」
「私帰らないと。怒られる」
「僕もそろそろ帰らないと。家族、心配するし」
恵奈と僕はささっと身支度を済ませて、美鈴の家を後にした。美鈴のお母さん、僕達の分までご飯作ってくれてたみたいで、パックに詰めてお裾分けしてくれた。
正直、すごく嬉しかった。
「ただいま~……」
カバンを一旦床に置いて、僕は靴を脱いだ。真暗な廊下の電気をつけて、カバンを持ち直す。
居間を開けても、誰もいない。分かりきっていることなのに、なんでこうも寂しく思えるんだろう。
「ふぅ……これ、温めないと」
電子レンジに貰い物のおかずを入れて、加熱する。その間に、炊飯器から黄色くなったご飯を茶碗によそう。
ピー! ピー! ピー!
温め終わったという電子レンジのアラームで、僕は貰ったおかずとお茶碗を並べて、口に運ぶ。
その間、美鈴のお母さんの顔が頭から離れなかった。
「……親、欲しいな」
翌日、僕は学校へと向かった。少し寝坊したせいで、時間がない。
そう思って走っていたら、目の前の細道からブワッとたくさんの羽が飛び出してきた。
「うわぁ⁉︎」
「えっ……あ、ごめんなさい!」
どうやら、この弱々しいどこかの男子学生が散らかしたらしい。そのせいで尻餅ついたんだけど。
「ケガ、してる。絆創膏……!」
「い、いいから。遅刻しちゃうから、これで--」
「っ!」
気にせず行こうと思ったら、男子生徒が僕の袖を引っ張った。
「すり傷でも……その、絆創膏したほうが……」
「何なの、お前。僕急いでるの、分かる?」
ようやく分かったのか、それ以上に男子生徒は何も言わなかった。
「それじゃ、これで」
「……? 僕も、こっち」
え、もしかして同じ学校なの? でもこの制服、うちのじゃない。高等部のでもない。別の学校、だよね。
「羽丘だから……こっち」
「そう。僕は朝日華だから!」
これ以上付き合ってたら次の電車まで遅れちゃう。羽丘だから良いだろうけど、こっちは朝日華。7駅先なんだから、一緒にしないでよね。
ギリギリ電車に間に合って、学校に着いた。もちろん、駅から学校まで猛ダッシュ。息も絶え絶えで、倒れるように席に着いた。
「ハァ、ハァ、ハァ~……」
「お疲れ様。てか格好考えな?」
「へ……?」
息を切らしてるのに、美鈴が近づいてきた。ていうか、格好考えなって、どういう……?
なんか、下半身がスースーするような……⁉︎
「イヤァァァァ⁉︎」
「アッハハ! ここまで気付かなかったの⁉︎」
スカートが思い切り落ちていた。幸い、下にハーフパンツを着ているから良かったけど、それも少し下がっていて、少しだけだけど下着が見えていた。
「う、うそ……全然気付かなかった」
「はぁ~、面白かった!」
「あれ、小山、コイツと仲良かったっけ?」
「そうそう。前まで嫌いとか言ってなかった?」
美鈴のとりまきが、僕を指差しながら美鈴にそう聞く。めっちゃムカつく。
「うーん……あれ、嘘!」
「「えぇ⁉︎」」
キッパリと嘘と言う美鈴に、とりまきは目を見開いて驚いていた。
「あれね。みんなと仲良くなるために言っただけ。だって、みんなが麻那ちゃんを嫌ってるだけでしょ?」
「いや……美鈴が嫌ってるなら、相当なやつなのかとばかり……」
「てか、小山さんゲスくない? 他人利用して好かれようとか」
「ちょっと引くわ……」
えっ、どゆこと。もしかして、美鈴、それ本音なの?
「別にあたしをどうこう言っても良いけど……その代わり、麻那ちゃんにはこれ以上何も言わないでね」
「……そっか。それで、僕を分かった気にでもなった?」
美鈴の言いたいことが分かった。僕のことを知ったと思って、今更認めようと思ったんだね。
でも、何も分かってない。僕が望んだのは、同情じゃない。理解されることでもない。
「え、麻那ちゃん?」
「僕はね、お前みたいなのが大っ嫌いなんだよ! 知った気になって、それで仲間思い? そんなので許されるのは、ドラマか戯曲だけ。今言ったこと、撤回して!」
私でいることを忘れて、僕は叫んでしまった。すぐ我に帰り、僕は教室から飛び出した。
そして、図書室の前辺りでスマホから、あの歌が流れた。歌っているのは、ユキだった。
「ユキ……」
「♪~……。ナーサ、オチツイテ」
「落ち着きたいよ! でも……!」
分かってた。僕は僕になっちゃいけないって。僕は生きちゃいけないんだって。ずっと私を演じてなきゃいけなかったって。でも、やっぱり苦しくて。僕でない誰かを生きれば生きるほど、本当の僕が分からなくなってしまう。
「otomi.モ、ヒトリ」
「え?」
「otomi.ハ、ヨロコンデタ。キノウ、ミンナキテ」
鈴音もひとり? バカ言わないで。親もいて、友達もいて。僕とは大違いじゃないか。
「otomi.、ホントノオヤ、イナイ。ズットマエニ、シンダ」
「へ……」
本当の親がいないって、僕と同じだ。でも友達はいる。まだ良いじゃん……。
いやでも、もし僕みたいに誰かを演じて手に入れた友達なら?
だって、さっきの美鈴の言葉……そういうことか。
「ありがとう、ユキ。教えてくれて」
「ウウン。カンシャサレルノハ、ナーサ。ワタクシノコエヲシンジ、カンガエ、コタエヲダシタ」
そう言われればそうだけど、なんか納得できないな。
キーンコーンカーンコーン
「ヤバっ! 朝のショートホームルーム!」
僕は急いで教室へと戻った。でも既に担任の先生は教壇にいて、出席名簿をつけていた。
「おう、トイレだったな。席つけ」
「え……?」
1人の男子生徒が僕にウィンクした。どうやら、彼が僕はトイレに行っていると言ってくれたらしい。
「それで、だ。麻那、お前の件、話したほうがいいんじゃないか?」
「っ! そ、それは……」
僕の件、というのは家族の件だ。学校側は把握してくれている。でも僕の一存で、生徒には話してほしくないと伝えていた。
だけど今日の一件がある以上は、伝えるほかないだろう。そう考えて、僕は先生に向かって首を縦に振った。
「分かった。君たちには伝えてないが、実は麻那には親がいない」
僕の事実が伝えられ、クラスはざわついた。
「だがな、麻那は立派な生徒だ。ひとりで衣食住している。だから先生達も、麻那の制服については特別に許可している」
「……先生! その件ですが、実は俺達も知ってます」
僕がトイレに行ったと言ってくれたであろう男子生徒が、手を大きく挙げてそう弾糾した。
「ほう、本人から聞いたのか?」
「いえ……えっと、……から……」
「すまん、聞こえんかった。もう一回頼む」
「……美鈴さんからですっ!」
バッと男子生徒は美鈴のことを睨み、指差しながら先生に報告した。
「そうか。美鈴、本当か?」
「……はい」
「……美鈴、後で相談室へ来なさい」
「あ、あの! 僕からも、良いですか?」
さっきのユキの言葉を信じて、僕も勇気を出して声を出した。
「なんだ麻那?」
「その……美鈴さんを、責めないでください。僕も、正直ムカついたけど……でも、人間ってそういうものじゃないですか! 誰かを犠牲にして、幸せになる。みんなだって同じだった! 僕を愚弄して笑って……だから、美鈴だけを責めないで!」
僕の声が、ざわついていたクラスに滝を落とすが如く、一瞬で静かにさせた。
「……そう、だな。先生も大人げなかった。だけど、2度目はない。君たちもそろそろ他人の心を思いやれるように。それじゃあ朝のショートホームルームは終わりだ」
僕の一喝で、美鈴も、誰もが責められずに済んだ。僕だって、正直なところ許したくはない。でも、これから先一緒にいるというのなら、割り切って考えなくちゃ。
だって、美鈴もまたひとりなんだから。仲間が欲しくなるのも当然。非条理だけど、これが当然の現実だもんね。
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