プライド・オブ・ディスティニー

朝日 翔龍

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プロローグ 僕の居場所

第2話 一歩

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 ロアリングに連れてこられたのは、浅草のど真ん中に聳え立つ大きな総合ビルだった。子供からお年寄りまで、幅広い世代の雑踏が響き渡る。

「ここは……?」
「俺様の職場、デ・ロアーっていうんだ。ロアーは大きな笑い声、デは出発点を意味する。大きな笑いの出発点。そんな意を込めて、そう名付けられた」
「大きな笑いの出発点、か……スゲェカッコいいな!」

 たしかにカッコいいとは思うけど、声をあげて言うほどかなぁ。それに、そんな大きな目標掲げたところで、どうせ夢で終わっちゃうわけだし……。

 ――本当に終わってほしいのは、こんな風にしか物事を考えられない僕だけど。

「……キミ、生まれは?」
「へ?」

 ロアリングから突然そう聞かれて、すっとんきょうな声を出すしかできなかった。

「生まれ……は……」
「……富士山の近く、とだけ言っとくぜ」

 ファイターでさえも犠牲になった、富士山のアリジゴクによる寄生。今はエサとなるものが増えないように、特殊なバリアが張られている。

「ほう……それなら、どうして東京に? あの惨劇は、10年前だ。キミたちはまだ子供だろう? それに、あの惨劇の生き残りはいないはずだが……」
「それは内緒です。2人だけの秘密ですから」

 僕とナックルさんだけの、誰にも話せない秘密。傷つかないためにって決めた、約束だから。

「そうか。まあ、内緒の1つや2つ、あって当たり前だしな。よし、行くとすっか!」

 ビルの中へと入るなり、その中身に僕は驚いた。外観と大きく異なり、たくさんの施設で詰まっていた。
 図書館やら病院やら児童館やらジムやらと。通りで、子供からお年寄りまでいたわけだ。総合ビルとデカデカ書いてあるだけはある。

「すごい……!」
「だろ? 俺様たちは、夢の空間って呼んでる。年代問わず楽しめる場所。そんな場所にしようってな」

 誰もが楽しめる場所……。うん、そんな感じがする。みんな、笑ってる。この笑顔を、守るのがファイター。
 だけど、だけど……。

 『フラット、なんとかしてよ~!』
 『このままじゃ食べられちゃうよ!』
 
 僕は、守れなかった。笑顔も、友達も。

「……生きている以上、何か理由がある。探してみる価値はあるだろう?」
「え? 生きている、理由を……?」
「とりあえず、フラットは無理に戦わなくてもいい。ただ、これだけは言わせてくれ。俺は、もう2度と迷わないために戦ってる。お前まで、失いたくねぇんだ」

 迷わないために、戦う。そっか、だからナックルさんは僕より先に行っちゃってるんだ。
 だけど、分かった。僕もまだ、追いつくチャンスがあるってことを。

「あの……僕、ファイターやります! 僕も、失いたくないから!」
「よしきた。それじゃあ、こっちだ」
「……あぁ⁉︎」

 何かを思い出したのか、ナックルさんが大声をあげた。

「ど、どうしたの⁉︎」
「大学じゃねぇか! どうすんだよ⁉︎」

 ……あ。朝っぱらから大騒動のせいで、忘れてた。

「ハハハハハハ、マジメだなぁ! いいことだ」
「とにかく大学に連絡入れないと!」
「だな、今日の講義はレポートの提出もあったわけだし、無断欠席なんてしたらレポートもんだぞ⁉︎」
「……レポート?」

 あれ、レポートを提出するのって、前回の講義までじゃなかったっけ。なんなら、ナックルさんがレポート書いてるそぶりさえなかったし……。

「……ウゲッ⁉︎ 教授から鬼電かかってきてるんだが……」
「もー! また留年するよ?」

 ナックルさんは僕より2つ上。それなのに、高校で1回、大学で1回と留年したせいで僕と同じ学年。しかも2回とも提出物関係って。

「ファイターになっちまえば問題なしだ! 行くぞ」
「え、あ、はい……?」

 ファイターになれば問題なしって、本当かな。よく分からないけど、ロアリングは嘘をついていないことは分かる。
 それなら、ついていく価値はある。

 ロアリングとエレベーターに乗って、地下へと案内された。
 ただ、関係者以外立入禁止と書かれた扉があちこちにあって、僕たちみたいな無関係者が来てしまってもいいのか不安になった。

「……あの、ここって……」
「ロアーに配備されている、ファイター関係の施設だ。この奥に、キミたちを待ってるやつがいるぞ」
「俺たちを待ってる……?」

 僕もナックルさんも、そんな人物に心当たりがない。
 そうなると、誰だろう。考えても、全然思い浮かばない。

「さぁ、ここだ」

 この廊下の奥。そこには、指紋認証と顔認証、パスコード認証と厳重にロックされている扉があった。
 ただ、ロアリングは板のような何かをスキャンさせただけで扉の施錠を解除した。

「おーい。連れてきたぞー!」
『今行くよ。少し中で待っててくれ』

 僕たちはその声に言われるがまま、扉の向こうへと足を踏み入れた。

「わぁ……!」

 まるで、家の居間と思えるような空間が、その先に広がっていた。
 フカフカで柔らかそうなソファに、冷凍機能付きの冷蔵庫。キッチンにシャワー室と満足この上ない部屋だ。

「いやー、ごめんね。ちょうどシャワー中でね」

 金髪でメガネをかけた、半裸の男性が僕たちに優しく微笑みながらそう声を掛けてきた。

「おい、客人の前だぞ。着替えてこい」
「ハハハ、分かってるよ。悪いね、見苦しいとこ見せて」
「いえいえ! あ、あの……もしかして……」

 メガネがあるから、不確かだけれどその顔には見覚えがあった。
 僕たちの故郷を救おうとしてくれた、あのファイターとそっくりだった。

「……君、もしかして⁉︎」

 僕の顔をじっと見るなり、男性は動揺を隠せず瞳を揺らがした。

「はい。富士山のアリジゴク化に巻き込まれた者です。あの……」

 ずっと伝えたかった。あの背中が、僕に教えてくれた言葉を。

「あのときは、ありがとうございました!」
「……いや、礼なんていらないよ。俺たちは守れなかったんだ」

 そう言われると……何も、言えない。たしかに、僕たちの故郷はもうない。だけど、今こうして生きていられるのはファイターたちのおかげなんだ。

「……とりあえず服。これでいいか?」
「あぁ、ありがとう」

 ロアリングが男性の上着を手渡す。そのおかげで、この重苦しい雰囲気が少し晴れた。

「……さて、本題に入ろうか。君たちの戦闘映像、見させてもらったよ」

 君、たち? それって、もしかして僕の能力も見られてたってことだよね……。

「凄かったよ。配信系でもあんな戦闘ができるなんて。あ、遅れてすまない。俺はペーター・クリフト。今はここで課長をしている」

 ペーターさん、か。あのときは酷い怪我をして、名前なんて聞ける状態じゃなかった。名前を知れて、なぜだか嬉しい。

「あ、フラット・クラリオです! ほら、ナックルさんも」
「言われなくても分かってるっての! 俺はナックル・バトラー、身体強化の能力だぜ」

 そこまで聞かれてないよ。聞かれてから答えればいいのに。フライングっていうか一方通行の会話になっちゃうって。

「身体強化、か。それで、君は?」
「ぼ、僕ですか? えぇ~と、説明しづらいんですけど……」
「簡単に言えば、細胞修復とか細胞破壊だよな?」

 簡単に言い過ぎだよ。だけど、正直助かった。それは僕が扱える力のでしかないから。本当の能力は、もっと別。
 直したり破壊するこの力は、本当の能力に付随しているだけ。

「へぇ……それで? 主となる能力はなんだい?」
「えっ?」

 もしかして、勘づかれてる? だけど、言えない。ナックルさんと約束したから。絶対秘密だって……。

「……ハァ。秩序を守る能力だぜ」
「やっぱりね。君たち、禁忌を犯したってことかい?」

 うっ……バレてる。でも、そうだよね。富士山のアリジゴク化による惨劇で生き残った人はいない。
 そう言われてきたのに、今こうして生きている。それが何よりの証拠だから。

「……話すときが来たんじゃねぇか? もう隠せねぇぜ?」
「だね。ファイターになる前に、汚れは落としちゃったほうがいいかも」

 あの日、何があったのか。全ての真実を語る日が来た。後戻りできない、全てが始まったあの日のことを――
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