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3節 謎を紐解けば

第6話 ドラゴンの飼い方

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 目を覚ますと、外はいい天気だった。いくつかの雲が流れ、眩しいほどに太陽が輝いている。
 その光が俺の瞼を細めさせ、まだ眠っているエルゴの頬に差さっていた。
 どうやらドラゴンの回復力は強いらしく、昨日の傷はほぼ治っていた。だが、破れている翼はだけ、何も変わっていなかった。

「フラットさんの創造術でもダメか…。こりゃ参ったな」
「ギャ? ギャギャッ!」
「ん、おはようさん。朝から元気だな」
「ギャッス!」

 にしても、ドラゴンって人間サイズなんだな。これ以上は大きくならねぇし。ただ、目立っちまうんだよな…。どうしたものか。

「まあ考えても仕方ねぇか。よし、帰るぞ!」
「ギャ!」
『ここにいたっすか』
『もう、探したよ』

 エルゴの手を引いていると、ほら穴の入り口から、いつも通りらしい声がした。
 振り返ると、並んで俺たちを見つめるダチ達がいた。

「ファイター専用アプリの中に、発信機機能があるからな。で、途中で電池切らしただろ」
「あっ…いや…アッハハ。あのモンスターとの戦闘で壊しちまって」

 実は、あのデビルモンスターに思い切りぶつかった衝撃で、俺のウォッチフォンは壊れていた。

「えぇ~…じゃあ、1週間くらいは向こうに帰っても戦闘できないじゃん」
「別にいい。それより、なんかエルゴが目立たなくて済む方法はねぇのか?」
「あるっすよ。大昔から使われてる魔法で、自分そっくりに擬人化できる魔法っす」

 擬人化か。コイツがもし俺みたいになったら……。でへへへ。

「ドンボ、気色悪い妄想するな」
「うげっ、読むな!」
「もうツッコまないとか言ってたくせに」
「今のはツッコむだろうが!」

 って、こういう馴れ合いをしたいわけじゃなかった。エルゴを目立たせない飼い方だ。

「話戻すっすけど…その魔法を使うにも、ドンボの神力が戻らないことには、どうしようもないっすよ」
「ん? それなら大丈夫だぜ。魔法ってのは魔力なんだろ? だったら、こうするまでだぜ」

 俺は昨夜に退治したデビルモンスターに魔法道具の剣を刺して、中に残っている魔力を引き出した。
 そうすれば、俺の体内には何の影響も受けねぇし、楽な方法だぜ。

「で? どうすりゃ良いんだ?」
「いやいや! えっと、大掛かりな魔法っすから、魔法陣が必要なんすけど……絵心あるやつとか、いるっすかね?」

 その質問に対して、名乗りあげるやつは誰もいなかった。そういう俺に至っては、絵の1つも描いたことはない。

「…仕方ないっすね。俺が描くっすよ。ただ…魔法陣の描かれた本があるかどうかが問題っすよね」
「それなら問題ねぇと思うぜ。アテがいるしな」

 ドラゴンを研究していたあの爺さんなら、何か知ってるに違いねぇ。
 
「街に戻るのか?」
「あぁ、問題ねぇだろ?」
「…ハッキリ言っちゃうとね。ドンボが戻ったら捕まるだけだよ」
「そうっすよ! あの騒ぎ起こしたせいで、今じゃ多分お尋ね者っす」

 別にお尋ね者扱いには慣れてるし、なにより俺が正しいんだ。胸を張っていれば良いだけだぜ。

『≪ふぉっふぉっふぉ。お前さんら、安心せい。ドンボと言ったな。お前さんのおかげで、わしの実験結果が出せたわい。これで、軍のやつらも理解を示したぞよ≫』
『≪ジジイ、早く帰らせてくれ! オラァこういう場所興味ねぇ!≫』

 また入り口から、朗報を告げる声がした。
 振り返ると、昨夜に出会った爺さんと、青いウロコをした、口の悪い竜人がいた。

「≪お前さん、可愛いドラゴンを連れておるのう。わしのとは大違いじゃ≫」
「≪あぁ? 俺より弱っちいだけだろうが。オラァ!」
「ギャ⁉︎」

 爺さんの連れている竜人が、エルゴに殴りかかろうとした。まっ、その手くらいは俺が受け止められたがな。

「≪な、なんだテメェ⁉︎≫」
「≪エルゴの親だ。にしてもダセェやつだな。弱いやつを殴ろうとするなんてな≫」
「≪ダサいだと⁉︎   この俺を愚弄したな⁉︎≫」
「≪当たり前だろ。弱いやついじめる以上にダセェことがあるかよ≫」

 俺に言わせれば、強えやつほど弱えやつには手を出さねぇ。強えほど、弱えやつを守るんだよ。

「≪そんなに戦いてぇなら、俺が相手になるぜ? エルゴの代わりによ≫」
「≪いい度胸だな、ただの放浪人のくせによ≫」
「≪言っとくが、お前みたいなやつをかなり相手にしてきたんだ。簡単に勝ってやるぜ≫」
「≪とんだ負けフラグだな。弱えやつほどよく吠える。典型例だな、こりゃ傑作だ≫」

 おうおう、威勢が良いこって。だが、その減らず口、いつまで持つかが楽しみだ。

「ちょっとドンボ! 今はそんなことしてる場合じゃ-」
「≪ふぉっふぉっふぉ。良いじゃないか、アイツがあんなにやる気満々な姿、久しぶりじゃ≫」
「だそうだ。少し時間貰うぜ。≪おいテメェ、ド派手にケンカといこうぜ!≫」
「≪売られたケンカは買うだけだぜ!≫」
「いや、売ったのはあっちだと思うんだけど…」

 キールはケンカ好きの考えが分かってないな。言葉なんかお飾りなんだよ。俺たちにとっては、拳が言葉なんだぜ。
 だから俺は拳を交えるぜ。まっ、こんな弱えやつに負ける俺じゃねぇしな。
 さてと。久々にケンカといこうか。なんで爺さんがコイツを連れてきたのかは、分からねぇけどよ。
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