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1章 昇竜
第3話 スカウト
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講義を終えて、僕は電話受付のアルバイトに行っていた。
「では、担当の者に申し伝えます。はい、失礼いたします」
最後の電話応対を終えて、退勤を入力して僕は先に外へ出た。ちょうど外は陽が降りようとしているところで、頬に眩しい茜が差し込む。
「ん~っ! 疲れた」
『きみ、ちょっと良いかな?』
「え?」
コールセンターの入り口である門の前に黒い車が停められていて、ボサっとしているオレンジ色の髪をした、メガネをかけている男性が僕に手を上げていた。
「僕ですか?」
「あぁ。お昼の事件にとき、すごいことしてくれたね。あれ、犯罪だよ?」
「えぇぇっ⁉︎ バレてたんですか⁈」
「当たり前だよ、きみの後ろの席にいたからね。それにあの竜の子の声丸聞こえだったし」
テイラのバカでかい声じゃ、ヒソヒソと話していても後ろの席まで聞こえていたらしい。
「で、えっと……もしかして警察とか?」
「まさか。立派な正当防衛だよ」
正当防衛扱いされて、とりあえずは一安心した。あんなに精一杯やったことを犯罪扱いされては僕のメンツがズタボロになるところだった。
「じゃあ、何の用ですか?」
「そうだね。じゃあ単刀直入に言うよ。きみを、是非我が社にスカウトしたい」
男性は僕に名刺を渡してきた。そこには
[地球防衛放送局所属ディレクター
コレトコ・モスイ]
と書かれていた。地球防衛放送局と言えば、バンファイTVを放送しているところだ。
それに、バンファイTVの担当者の名前って、たしかモスイだったような……。
「もしかして、バンファイTVの?」
「そうだよ。きみみたいな異能力を放っておくのはもったいない!」
そう言われても、僕の胸は嬉しくならなかった。僕の力を見る人は、皆そう言う。もちろん、スカウトされることもたびたびあった。その度に断ってきた。
だって、この力の事実は誰も知らないから。
「あの……僕の力は、ヒーローには不向きです。だって--」
「スキルアップ不可能、だろう?」
僕の弱点をすっぱりと言い切るモスイさんに、僕は返す言葉をなくすほど驚いた。
今までスカウトしてきた人達は、誰もそれを知らなかったから。
「異能力はスキルアップあってこそのもの。でもきみの能力は危険すぎて縛られている。おそらく、きみが受精卵の頃からだろうけどね」
そう。今の時代なら、受精卵のうちに産まれてくる子供が異能力を持っているかどうかだけじゃなくて、その異能力がどういったものかも分かる。
僕の力は、あまりに危険と判断され、スキルレベルが上げられないように改造された。
「だからきみを、ヒーローじゃなくて総指揮としてスカウトしたい」
「総指揮って……もしかして、プロデューサーってことですか⁉︎」
現場の指揮をとる。つまりそれはプロデューサーとして働くことと同意義であった。
「ちょっと、ちょっと待ってください⁉︎ あの、僕のどこを判断しての……?」
「きみの、冷静さかな?」
そう言われても、僕は納得できなかった。あれくらいの冷静さなら、ほとんどとは言わないけれど、少なからず持っている人はいくらでもいる。それだけの理由で僕をスカウトするはずがないだろう。
「それ、嘘ですよね?」
「あぁ、そうだとも。でも、今だって冷静だろう? きみじゃなければ、嬉しさで歓喜して嘘にも気付かないよ」
「……あの、申し訳ないですけどお断りします。僕にはメリットがないので」
僕が断っても、モスイさんは顔を歪ませはしなかった。それどころか、計画通りとでも言いたげなほど余裕のある顔のままだった。
「まあ、そう言うとは思ってたよ。でも、きみは必ずぼくのところへ来るだろうね。楽しみにしているよ」
それだけ告げると、モスイさんは車に乗り込んで、どこかへと走り去って行った。
「……行かない。僕なんかが、プロデューサーになんかなれるわけないし」
僕は念の為に写真だけ撮っておくと、名刺をグシャグシャに握りしめて、芝生の上に破り捨ててから寮へと戻った。
緊急事態の起こるまで、残り6日ということをすっかり忘れて。
「では、担当の者に申し伝えます。はい、失礼いたします」
最後の電話応対を終えて、退勤を入力して僕は先に外へ出た。ちょうど外は陽が降りようとしているところで、頬に眩しい茜が差し込む。
「ん~っ! 疲れた」
『きみ、ちょっと良いかな?』
「え?」
コールセンターの入り口である門の前に黒い車が停められていて、ボサっとしているオレンジ色の髪をした、メガネをかけている男性が僕に手を上げていた。
「僕ですか?」
「あぁ。お昼の事件にとき、すごいことしてくれたね。あれ、犯罪だよ?」
「えぇぇっ⁉︎ バレてたんですか⁈」
「当たり前だよ、きみの後ろの席にいたからね。それにあの竜の子の声丸聞こえだったし」
テイラのバカでかい声じゃ、ヒソヒソと話していても後ろの席まで聞こえていたらしい。
「で、えっと……もしかして警察とか?」
「まさか。立派な正当防衛だよ」
正当防衛扱いされて、とりあえずは一安心した。あんなに精一杯やったことを犯罪扱いされては僕のメンツがズタボロになるところだった。
「じゃあ、何の用ですか?」
「そうだね。じゃあ単刀直入に言うよ。きみを、是非我が社にスカウトしたい」
男性は僕に名刺を渡してきた。そこには
[地球防衛放送局所属ディレクター
コレトコ・モスイ]
と書かれていた。地球防衛放送局と言えば、バンファイTVを放送しているところだ。
それに、バンファイTVの担当者の名前って、たしかモスイだったような……。
「もしかして、バンファイTVの?」
「そうだよ。きみみたいな異能力を放っておくのはもったいない!」
そう言われても、僕の胸は嬉しくならなかった。僕の力を見る人は、皆そう言う。もちろん、スカウトされることもたびたびあった。その度に断ってきた。
だって、この力の事実は誰も知らないから。
「あの……僕の力は、ヒーローには不向きです。だって--」
「スキルアップ不可能、だろう?」
僕の弱点をすっぱりと言い切るモスイさんに、僕は返す言葉をなくすほど驚いた。
今までスカウトしてきた人達は、誰もそれを知らなかったから。
「異能力はスキルアップあってこそのもの。でもきみの能力は危険すぎて縛られている。おそらく、きみが受精卵の頃からだろうけどね」
そう。今の時代なら、受精卵のうちに産まれてくる子供が異能力を持っているかどうかだけじゃなくて、その異能力がどういったものかも分かる。
僕の力は、あまりに危険と判断され、スキルレベルが上げられないように改造された。
「だからきみを、ヒーローじゃなくて総指揮としてスカウトしたい」
「総指揮って……もしかして、プロデューサーってことですか⁉︎」
現場の指揮をとる。つまりそれはプロデューサーとして働くことと同意義であった。
「ちょっと、ちょっと待ってください⁉︎ あの、僕のどこを判断しての……?」
「きみの、冷静さかな?」
そう言われても、僕は納得できなかった。あれくらいの冷静さなら、ほとんどとは言わないけれど、少なからず持っている人はいくらでもいる。それだけの理由で僕をスカウトするはずがないだろう。
「それ、嘘ですよね?」
「あぁ、そうだとも。でも、今だって冷静だろう? きみじゃなければ、嬉しさで歓喜して嘘にも気付かないよ」
「……あの、申し訳ないですけどお断りします。僕にはメリットがないので」
僕が断っても、モスイさんは顔を歪ませはしなかった。それどころか、計画通りとでも言いたげなほど余裕のある顔のままだった。
「まあ、そう言うとは思ってたよ。でも、きみは必ずぼくのところへ来るだろうね。楽しみにしているよ」
それだけ告げると、モスイさんは車に乗り込んで、どこかへと走り去って行った。
「……行かない。僕なんかが、プロデューサーになんかなれるわけないし」
僕は念の為に写真だけ撮っておくと、名刺をグシャグシャに握りしめて、芝生の上に破り捨ててから寮へと戻った。
緊急事態の起こるまで、残り6日ということをすっかり忘れて。
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