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第3章 迷いし風
第8話 偽りの悪役
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何段も続く階段。そこに立ち入る手前にある、和風の門。そこに村長邸と書かれていることから、この先にクレアがいることは簡単に分かった。
「……にしても……長くない?」
階段の終わり。それしか見えない。その先が見えない。ここを登るなんて、たどり着く前にヘトヘトになるオチしか見えないんだけど。
てか、見えない見えないシツコイか。
「でも、行くしかなさそう」
「だよね……」
『ハァ、立入禁止と警告したはずだが……』
背後から、呆れたように僕達に向けてそう言い放つ声がした。
その言葉から察するに、ひとりしか該当しない。
「いつの間に後ろに? クレア」
「……俺はどこに行ってもクレアかよ」
「で、何の用? 私達の前に堂々と姿を現せるのもすごいと思うけど」
「立ち入ったから殺すとでも言いに来たんじゃねぇか?」
ナックルさんの煽り。でもそれに、クレアは一瞬瞼を大きく見開いた。
だけどすぐに冷静になり、右手の親指と人差し指だけを立てながら、顎に当てていた。何かをブツブツと呟きながら。
「……? クレア?」
「……言わずとも俺のやり方知ってるみてぇだし? 賭けで勝負でもすっか?」
「どうせお前の有利になるよう細工済みだろ?」
「特に神力を感じない……うん、少なくともお手製での小細工ならフラットお得意でしょ」
どういう意味で言ってるのかな。反射神経の話なのか、小細工に更に改造を重ねるって話なのか。
ていうか、僕の有無を聞かずにやる流れなのこれ。いややるけどさ。
「やるならガチで、だ。お互いにハンデがないよう、3つの競技で勝負だ」
「……ん? まあ、良いけど……ちなみに何やるの?」
クレアの性格が、思ってたのとちょっと違ったから、念のため神力で罪があるかどうかを調べた。
反応こそしているけれど、聞いていた話と比べるとだいぶ軽い反応。どんな罪を犯したのかが分かれば良いけど、そこまで僕の神力は強くない。
まあ、勝って問いただせば良いかな。
「この階段、登るの辛いだろ。先に、行ってろ!」
「「うわぁっ⁉︎」」
神力を発動するのに詠唱もせず、クレアは風を操って僕達3人を階段の向こうへと吹き飛ばした。
「あやべ、ちょい調整ミスったわ……まあ良いか、ケガさえしなけりゃノーカンノーカン!」
手をパンパンと叩いて、クレアは風となって3人のところへと辿り着いた。
「ふぃ~! やっぱ爽快……?」
だが、クレアの目の前には3人の姿はなかった。だが、小屋の扉と壁が、何かにぶつかったかのように壊されていた。
「ありゃりゃ、あそこまで飛んで行っちまったかぁ」
小屋――
「イッタタタ……なにこれ、ギロチン……だけど、着いてるのは血糊?」
「あっちこっちに紙が散乱してる……借用書に、土地管理書?」
「こっちはめっちゃリアルな頭した人形だぜ?」
ナックルさんが掴んでる人形の頭は、さっきの男性の奥さんの顔にすごく似ている。
もしかして……。クレアの罪、少しだけわかった気がする。
「いやぁ悪い。ぶっ飛ばしすぎたわ、バトろうや!」
「はいはい、バトりましょっか!」
さっきまで僕の中にグツグツと煮えていた憤りはスッカリ消え失せて、クレアとの勝負が楽しみで仕方なくなっていた。
「僕が勝ったら、正直になってよ」
「良いけどよ、俺が負けることなんてありえねぇって!」
「そういうのを、ちまたじゃ――
フラグって言うみたい」 「フラグって言うみたいだぜ」
わざとセリフを被せてきたナックルさんに、ノールがナイフ型の神器を太ももに突き刺す。
「太ももだから死にはしない」
「い、いやそうだけどよっ⁉︎ 痛いのに変わりねぇぜ⁉︎」
「……クレア?」
いきなり無口になって羨ましそうにノールとナックルさんのやりとりを見つめるクレア。
何を感じて、本当はどうしたいのか。僕はそれが分かった気がする。
「クレア、絶対正直にさせるから!」
「……やれるもんなら、な」
フッと笑みを浮かべて、クレアは隣の屋敷の方へと先に向かっていく。
その瞼は、少しだけ震えていたような……そんなふうに見えた。
「……にしても……長くない?」
階段の終わり。それしか見えない。その先が見えない。ここを登るなんて、たどり着く前にヘトヘトになるオチしか見えないんだけど。
てか、見えない見えないシツコイか。
「でも、行くしかなさそう」
「だよね……」
『ハァ、立入禁止と警告したはずだが……』
背後から、呆れたように僕達に向けてそう言い放つ声がした。
その言葉から察するに、ひとりしか該当しない。
「いつの間に後ろに? クレア」
「……俺はどこに行ってもクレアかよ」
「で、何の用? 私達の前に堂々と姿を現せるのもすごいと思うけど」
「立ち入ったから殺すとでも言いに来たんじゃねぇか?」
ナックルさんの煽り。でもそれに、クレアは一瞬瞼を大きく見開いた。
だけどすぐに冷静になり、右手の親指と人差し指だけを立てながら、顎に当てていた。何かをブツブツと呟きながら。
「……? クレア?」
「……言わずとも俺のやり方知ってるみてぇだし? 賭けで勝負でもすっか?」
「どうせお前の有利になるよう細工済みだろ?」
「特に神力を感じない……うん、少なくともお手製での小細工ならフラットお得意でしょ」
どういう意味で言ってるのかな。反射神経の話なのか、小細工に更に改造を重ねるって話なのか。
ていうか、僕の有無を聞かずにやる流れなのこれ。いややるけどさ。
「やるならガチで、だ。お互いにハンデがないよう、3つの競技で勝負だ」
「……ん? まあ、良いけど……ちなみに何やるの?」
クレアの性格が、思ってたのとちょっと違ったから、念のため神力で罪があるかどうかを調べた。
反応こそしているけれど、聞いていた話と比べるとだいぶ軽い反応。どんな罪を犯したのかが分かれば良いけど、そこまで僕の神力は強くない。
まあ、勝って問いただせば良いかな。
「この階段、登るの辛いだろ。先に、行ってろ!」
「「うわぁっ⁉︎」」
神力を発動するのに詠唱もせず、クレアは風を操って僕達3人を階段の向こうへと吹き飛ばした。
「あやべ、ちょい調整ミスったわ……まあ良いか、ケガさえしなけりゃノーカンノーカン!」
手をパンパンと叩いて、クレアは風となって3人のところへと辿り着いた。
「ふぃ~! やっぱ爽快……?」
だが、クレアの目の前には3人の姿はなかった。だが、小屋の扉と壁が、何かにぶつかったかのように壊されていた。
「ありゃりゃ、あそこまで飛んで行っちまったかぁ」
小屋――
「イッタタタ……なにこれ、ギロチン……だけど、着いてるのは血糊?」
「あっちこっちに紙が散乱してる……借用書に、土地管理書?」
「こっちはめっちゃリアルな頭した人形だぜ?」
ナックルさんが掴んでる人形の頭は、さっきの男性の奥さんの顔にすごく似ている。
もしかして……。クレアの罪、少しだけわかった気がする。
「いやぁ悪い。ぶっ飛ばしすぎたわ、バトろうや!」
「はいはい、バトりましょっか!」
さっきまで僕の中にグツグツと煮えていた憤りはスッカリ消え失せて、クレアとの勝負が楽しみで仕方なくなっていた。
「僕が勝ったら、正直になってよ」
「良いけどよ、俺が負けることなんてありえねぇって!」
「そういうのを、ちまたじゃ――
フラグって言うみたい」 「フラグって言うみたいだぜ」
わざとセリフを被せてきたナックルさんに、ノールがナイフ型の神器を太ももに突き刺す。
「太ももだから死にはしない」
「い、いやそうだけどよっ⁉︎ 痛いのに変わりねぇぜ⁉︎」
「……クレア?」
いきなり無口になって羨ましそうにノールとナックルさんのやりとりを見つめるクレア。
何を感じて、本当はどうしたいのか。僕はそれが分かった気がする。
「クレア、絶対正直にさせるから!」
「……やれるもんなら、な」
フッと笑みを浮かべて、クレアは隣の屋敷の方へと先に向かっていく。
その瞼は、少しだけ震えていたような……そんなふうに見えた。
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