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第4章〜不死〜
38話
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「廃墟の前で花を添えていたレギオンがいたと?」
「はい。何か知ってると思うんですけど・・・名前がわからないので」
「・・・ふむ」
シオンの話の中で辺境伯が最も関心を持ったのは、例の日記を入手した廃墟・・・の前で戦友の弔いをしていた傭兵団レギオンについてだった。
ガルムの話によれば、レギオン率いる団長プロドディス・ドミニクはホールワード辺境伯と良好な関係を築いているとのこと。
なので辺境伯が依頼で彼らを招いたり、レギオンが旅路の足休めに滞在したりしてるのも多いらしい。
「君たちは・・・そのレギオンの団員が関わってると思うかね?」
「・・・どうだろ?悪い人には見えませんでした」
一昨日のことを思い出しながら、小首を傾げてサエラが答えた。
「心当たりとかあるんですか?」
逆に質問し返すシオン。
辺境伯は口元に手を当てて考えると「うむ」と頷いた。
そして急に立ち上がり、本棚のある部屋の隅まで歩いて行くと、一冊の本を手にとって持ってきた。
黒い裏表紙だ。辺境伯と我らの間を挟むようにしてあるテーブルにそれを置くと、見やすいようにページを開く。
「これは・・・事件の記録?」
確かめるようにシオンが呟いた。辺境伯はそれを否定しない。我らは食い入るようにして資料の内容を覗き込む。
内容からして、事件といってもリメットで起きた「怪」事件の名簿らしい。
「メイズで行方不明の事件が起きたのは15年前。当時、アンデット出現の原因究明のためレギオンと衛兵の混合隊で捜査していた」
辺境伯の読み上げた情報は、廃墟の前にいた男が言っていた通りではある。
名簿には人間の共通文字で事細かに事件の詳細が記されているが、必要でない情報は省かれた。
「行方不明者はユーリという花屋の女性、そしてレギオン所属のルーデスの二人だ。二人は過去のアンデッド出現事件の最後の日に行方をくらましている」
その後足取りはつかめず、死亡扱い・・・か。やはり15年前に何かあったのは間違い無いようだ。
「ルーデスさん・・・ですか」
シオンはその人物名をかみしめるように呟いた。顔はわかっていても正体のつかめなかった黒い影がようやく実体化したのか、名前と情報で肉付けされる。
間違いなく、このルーデスという青年があのバンパイアロードなのだろう。我らの予想を肯定するように、辺境伯も頷いた。
「日記の内容やその他の情報からして、彼がバンパイアロードなのは間違い無い。なぜ彼が吸血鬼化・・・それもバンパイアロードとなったのかはわからないが・・・ともかく、彼の目的は膨大な魔力を使った死者蘇生・・・ユーリを復活させることだ」
死者蘇生だと?辺境伯が何でもないように呟いた単語に、我ら一同目をパチパチとさせた。
「死んだ人を生き返らせるって、そんなことできるんですか?」
呆然としたシオンの質問に辺境伯は頷く。
「うちの魔術師によれば、膨大な生命エネルギー。つまり大地の魔力をつぎ込めば、理論上可能だそうだ。それこそこのリメットを荒廃させるほどの魔力量が必要となるが」
「・・・だから笛を集めてたんだ」
サエラが納得したのか、そんな呟きを漏らす。あの笛は自身で吸収するのが目的ではなく、生前愛していた女性の命を救うために集めていたものだったということか。
一人の女性にそこまでできるのは美談かもしれんが、やり方が過激すぎる。そんなことをしたらユーリという女性が蘇った後、この地には何も残らないぞ。
「我々としても見逃すつもりは毛頭ない。レギオンとともに、彼の首を取る」
「・・・あの」
辺境伯の言葉と被せるように、シオンが口を動かした。普通なら失礼すぎる行為なのだが、辺境伯はそれに激昂するわけでもなくその視線をシオンに落とした。
武人特有の鋭い目だ。それでも今度はひるむ様子もなく、シオンはまるで対等の立場にいるかのように辺境伯を見つめ返した。
「レギオンの・・・花を添えていた人に会えますか?」
シオンの申し出に辺境伯は心を読むかのように赤い瞳を覗き込むが、ふっと目を閉じる。
「何か考えがあるのかね?」
「いえ、ただの好奇心です」
おい。
「ね、姉さん」
流石にふざける場面じゃないとサエラがシオンの服を引っ張るが、シオンは頑なに辺境伯を見上げている。
辺境伯は自身を見上げるエルフの少女の何を見たのか、感心するように目を細めると「いいだろう」と言って執事を呼んだ。
ドアの前にずっといたのか、辺境伯の呼び声で執事が現れる。
「如何致しましたか。閣下」
「リント、彼女たちをレギオンに貸し出してる駐屯地へ案内してやれ」
「よろしいのですか?」
「構わん。私からの命令だとプロドディスに伝えろ」
「承知致しました。さ、お三方こちらへ」
我も人数に入っているとは、配慮のできる執事である。
どうやらシオンのお願いは聞き届けられたらしい。いったいどんなテクニックを使ったのやら、思わず呆れたため息を吐いた。
シオンは執事から辺境伯へクルリと向きを戻すと「ありがとうございます!」と元気よく頭を下げ、つられたようにサエラもお辞儀する。
辺境伯は何も言わず、ただ面白いものを見るかのような目でシオンを見て「気にするな」とだけ言った。執事によって、重々しい扉が閉められ、辺境伯の姿が見えなくなる。
「はい。何か知ってると思うんですけど・・・名前がわからないので」
「・・・ふむ」
シオンの話の中で辺境伯が最も関心を持ったのは、例の日記を入手した廃墟・・・の前で戦友の弔いをしていた傭兵団レギオンについてだった。
ガルムの話によれば、レギオン率いる団長プロドディス・ドミニクはホールワード辺境伯と良好な関係を築いているとのこと。
なので辺境伯が依頼で彼らを招いたり、レギオンが旅路の足休めに滞在したりしてるのも多いらしい。
「君たちは・・・そのレギオンの団員が関わってると思うかね?」
「・・・どうだろ?悪い人には見えませんでした」
一昨日のことを思い出しながら、小首を傾げてサエラが答えた。
「心当たりとかあるんですか?」
逆に質問し返すシオン。
辺境伯は口元に手を当てて考えると「うむ」と頷いた。
そして急に立ち上がり、本棚のある部屋の隅まで歩いて行くと、一冊の本を手にとって持ってきた。
黒い裏表紙だ。辺境伯と我らの間を挟むようにしてあるテーブルにそれを置くと、見やすいようにページを開く。
「これは・・・事件の記録?」
確かめるようにシオンが呟いた。辺境伯はそれを否定しない。我らは食い入るようにして資料の内容を覗き込む。
内容からして、事件といってもリメットで起きた「怪」事件の名簿らしい。
「メイズで行方不明の事件が起きたのは15年前。当時、アンデット出現の原因究明のためレギオンと衛兵の混合隊で捜査していた」
辺境伯の読み上げた情報は、廃墟の前にいた男が言っていた通りではある。
名簿には人間の共通文字で事細かに事件の詳細が記されているが、必要でない情報は省かれた。
「行方不明者はユーリという花屋の女性、そしてレギオン所属のルーデスの二人だ。二人は過去のアンデッド出現事件の最後の日に行方をくらましている」
その後足取りはつかめず、死亡扱い・・・か。やはり15年前に何かあったのは間違い無いようだ。
「ルーデスさん・・・ですか」
シオンはその人物名をかみしめるように呟いた。顔はわかっていても正体のつかめなかった黒い影がようやく実体化したのか、名前と情報で肉付けされる。
間違いなく、このルーデスという青年があのバンパイアロードなのだろう。我らの予想を肯定するように、辺境伯も頷いた。
「日記の内容やその他の情報からして、彼がバンパイアロードなのは間違い無い。なぜ彼が吸血鬼化・・・それもバンパイアロードとなったのかはわからないが・・・ともかく、彼の目的は膨大な魔力を使った死者蘇生・・・ユーリを復活させることだ」
死者蘇生だと?辺境伯が何でもないように呟いた単語に、我ら一同目をパチパチとさせた。
「死んだ人を生き返らせるって、そんなことできるんですか?」
呆然としたシオンの質問に辺境伯は頷く。
「うちの魔術師によれば、膨大な生命エネルギー。つまり大地の魔力をつぎ込めば、理論上可能だそうだ。それこそこのリメットを荒廃させるほどの魔力量が必要となるが」
「・・・だから笛を集めてたんだ」
サエラが納得したのか、そんな呟きを漏らす。あの笛は自身で吸収するのが目的ではなく、生前愛していた女性の命を救うために集めていたものだったということか。
一人の女性にそこまでできるのは美談かもしれんが、やり方が過激すぎる。そんなことをしたらユーリという女性が蘇った後、この地には何も残らないぞ。
「我々としても見逃すつもりは毛頭ない。レギオンとともに、彼の首を取る」
「・・・あの」
辺境伯の言葉と被せるように、シオンが口を動かした。普通なら失礼すぎる行為なのだが、辺境伯はそれに激昂するわけでもなくその視線をシオンに落とした。
武人特有の鋭い目だ。それでも今度はひるむ様子もなく、シオンはまるで対等の立場にいるかのように辺境伯を見つめ返した。
「レギオンの・・・花を添えていた人に会えますか?」
シオンの申し出に辺境伯は心を読むかのように赤い瞳を覗き込むが、ふっと目を閉じる。
「何か考えがあるのかね?」
「いえ、ただの好奇心です」
おい。
「ね、姉さん」
流石にふざける場面じゃないとサエラがシオンの服を引っ張るが、シオンは頑なに辺境伯を見上げている。
辺境伯は自身を見上げるエルフの少女の何を見たのか、感心するように目を細めると「いいだろう」と言って執事を呼んだ。
ドアの前にずっといたのか、辺境伯の呼び声で執事が現れる。
「如何致しましたか。閣下」
「リント、彼女たちをレギオンに貸し出してる駐屯地へ案内してやれ」
「よろしいのですか?」
「構わん。私からの命令だとプロドディスに伝えろ」
「承知致しました。さ、お三方こちらへ」
我も人数に入っているとは、配慮のできる執事である。
どうやらシオンのお願いは聞き届けられたらしい。いったいどんなテクニックを使ったのやら、思わず呆れたため息を吐いた。
シオンは執事から辺境伯へクルリと向きを戻すと「ありがとうございます!」と元気よく頭を下げ、つられたようにサエラもお辞儀する。
辺境伯は何も言わず、ただ面白いものを見るかのような目でシオンを見て「気にするな」とだけ言った。執事によって、重々しい扉が閉められ、辺境伯の姿が見えなくなる。
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