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第4章〜不死〜
39話
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全く何を考えているのやら。首を曲げ、シオンの表情を伺おうとしてみるが、彼女の浮かべているのはニコニコとした笑顔だけである。
レギオンからも話がしたいとは、重大な情報の確証を得るためか、それとも本当に好奇心か・・・あるいはシオンにとって大事というだけかもしれない。
サエラもシオンの本心がわからないのか、目を細めて探ろうとしている。
ある意味、シオンのニコニコ顔は鉄壁のポーカーフェイスなのかもしれない。
そんなこんなで屋敷を離れ、けれどもそう離れていない広場に到着すると、そこでは結構な人数の男たちが走っていたり筋トレをしていたりしていた。
この空間だけ夏場であるようだ。熱気がすごい。外なのにむわっとしたのは気のせいだと思いたい。
「こちらが閣下がレギオンに貸し出している広場になります」
執事がそう紹介してくれる。
以前世界最強の傭兵団として名高いと聞いたが、たしかにそう言われるだけの実力があるように思えた。
我は人間の筋肉での強さはよくわからんが、魔力を見ることはできる。
彼らは戦士でありながら体内の魔力の流れが綺麗だ。剣を振るったりする際に体を強化することができるのだろう。サエラの肉体強化スキルの下位互換とも言える。
中には同じようにスキルとして確立した者もいるかもしれない。否、いる筈だ。
「まずは分隊長の方々から話を聞きましょう。その間、私はプロドディス様に話を・・・」
執事が言葉を言い切る前に、彼は影に包まれた。
ヌッと現れたそれは成人男性をはるかに超える巨体で、執事の真後ろに立つ。
見上げてみると、それは蛮族のように爆発的に広がっているモジャモジャヒゲが目立つ。ドワーフなのだろう。身長がおかしいくらい大きいが。
執事が振り返る前に大男は口を開いた。
「ようリント。おめぇーがここに来るのは珍しいな。うちの団員に何か用か?」
「えぇ、その通りでございます。しかし、用があるのはこちらの方々ですよ」
執事が流れるようにドワーフの視線を我らに移した。執事が身を引くと、ドワーフの目に我らが映る。
「おぉ、エルフか。見た感じ入団希望ってわけじゃあ無さそうだが」
「当然でしょう。あのようなむさ苦しい野生感ある職場に女性が希望するはずないでしょう」
この執事急に毒を吐きおった。真正面から言われたドワーフの男はヒクヒクと口元を引きつらせて青筋を浮かべていた。
血管の流れが速くなる。
「て、てめぇ・・・」
「では私の案内はここまでですので。プロドディス様、あとはよろしくお願いします」
畳み掛けるように執事が言うと、サササっと風のように去っていってしまった。
事情を知らぬ「ちょ、待て・・・っ」と反射的に手を伸ばしたドワーフ・・・プロドディスの腕が虚しく空を切る。
周囲では訓練に精を出す兵士たちの掛け声があるにもかかわらず、ここだけが時が止まったかのように静まりかえった。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
なんとも言えない空気が流れ、静寂が空気を満たす前にシオンがコホンとひとつ咳を鳴らした。
「こほん!えっと・・・えっと?」
しかし、言葉が続かない。何を言おうとしたのか忘れたらしい。助けを求めるようにしてシオンはサエラは見つめるが、サエラはふいっと顔を背けてしまった。
「聞きたいことがあるって言ったの、姉さんでしょ」
「あ、そうでした!すいません、レギオンの人に話が聞きたいんですけど・・・」
それでも見捨てることができない。目的は知らないが、手段は知っている。
シオンはサエラの助け舟に乗っかった。そして、改めてシオンはプロドディスを見上げて頼み込む。
見知らぬエルフの少女に顔を覗き込まれたドワーフの戦士は、少々苦手そうに顔を歪めたが大きなため息を吐くと乱雑に頭をかき乱した。
「チッ。ってことはホールワードの野郎か・・・」
一連の流れで全てを察してしまったらしい。隠すこともせず表情に怒りを浮かばせるが、その矛先を我らに向けることはしない。
ただ何処かで発散はしたいらしく、足元の地面にヒビが走っているのを確認した。
「フゥ、あぁ、俺はプロドディス・ドミニク・・・ここのリーダーをやってる。聞きたいことがあるんなら・・・まぁ言ってみろ、無碍にはしねぇよ」
そう言いつつ、彼はたたずまいを直した。
正直、彼がここの戦士たちを率いている長だというのは予想はついていた。この男に宿る魔力が辺境伯やガルムに並ぶ、あるいは超えるほどの濃密で洗練された気配を感じ取ったからだ。
おそらくドワーフの半生の大半を戦って生きてきたのだろう。下手したら我の全盛期にいた勇者クラスかもしれない。
「シオンです!よろしくお願いします!」
「サエラ・・・です」
自己紹介もほどほどに、プロドディスは我らをテントの張られた場所まで移動させた。簡易的に設置してあるこのテントには医療器具も置いてあることから、おそらく訓練中に怪我をしたらここに運ばれてくるのだろう。
そんな目的を持つテントでも、良いことなのか悪いことなのかバンパイアロードの襲撃に遭ったゴードンの宿のように閑古鳥が鳴いている。
一応、プロドディスによる配慮なのだろう。まぁざわざわと人に集まられても困る。
規律が強いのか兵士たちの何人かが我らに注目していたのは見たが、さすがにあの場で傭兵団の団長と話していれば野次馬ができない保証はない。
別に聞かれても良いのだが・・・まぁ聞いてて気持ちの良い話にはならないだろう。
「ホールワードから話は聞いてる。お前らがバンパイアロード・・・ルーデスに襲われた被害者なんだろ」
折りたたみ式の椅子にどかっと座り、一般の椅子より脆いそれから悲鳴を出す。
一応辺境伯から情報はもらっていたらしい。バンパイアロードが元レギオンの団員で、エルフが被害に遭っていたということを。
執事に連れられていたのを見て察したらしい。シオンが肯定した。
「はい、襲われたのはわたしです。呪いを消すために、情報を集めてます」
「ほぅ、バンパイアロード相手にか?」
呪いを消すためにはバンパイアロードを倒さなければいけないというのは・・・おそらく知っているのだろう。挑発的な言動に、シオンはにっこりと微笑んで見せる。
「友人と知り合いが手伝ってくれますので」
そう言いながら我とサエラの頭を交互に撫でた。
「俺はレギオンの団長だ。知っていることはできるだけ答えよう」
プロドディスが言うと「言質とったり」と、シオンは早速といった様子で話を切り出した。三日前、メイズで行方不明になった同僚のために花を添えた男について、心当たりがないか尋ねる。
一介の兵士の特徴など言ったところでわかってもらえるのか不安だったが、その心配は杞憂に終わった。
「・・・ティムか」
そう言って、プロドディスは大きな声で彼の名を呼ぶと、ガシャガシャと鎧の擦れる足音が近寄ってくるのが聞こえた。
レギオンからも話がしたいとは、重大な情報の確証を得るためか、それとも本当に好奇心か・・・あるいはシオンにとって大事というだけかもしれない。
サエラもシオンの本心がわからないのか、目を細めて探ろうとしている。
ある意味、シオンのニコニコ顔は鉄壁のポーカーフェイスなのかもしれない。
そんなこんなで屋敷を離れ、けれどもそう離れていない広場に到着すると、そこでは結構な人数の男たちが走っていたり筋トレをしていたりしていた。
この空間だけ夏場であるようだ。熱気がすごい。外なのにむわっとしたのは気のせいだと思いたい。
「こちらが閣下がレギオンに貸し出している広場になります」
執事がそう紹介してくれる。
以前世界最強の傭兵団として名高いと聞いたが、たしかにそう言われるだけの実力があるように思えた。
我は人間の筋肉での強さはよくわからんが、魔力を見ることはできる。
彼らは戦士でありながら体内の魔力の流れが綺麗だ。剣を振るったりする際に体を強化することができるのだろう。サエラの肉体強化スキルの下位互換とも言える。
中には同じようにスキルとして確立した者もいるかもしれない。否、いる筈だ。
「まずは分隊長の方々から話を聞きましょう。その間、私はプロドディス様に話を・・・」
執事が言葉を言い切る前に、彼は影に包まれた。
ヌッと現れたそれは成人男性をはるかに超える巨体で、執事の真後ろに立つ。
見上げてみると、それは蛮族のように爆発的に広がっているモジャモジャヒゲが目立つ。ドワーフなのだろう。身長がおかしいくらい大きいが。
執事が振り返る前に大男は口を開いた。
「ようリント。おめぇーがここに来るのは珍しいな。うちの団員に何か用か?」
「えぇ、その通りでございます。しかし、用があるのはこちらの方々ですよ」
執事が流れるようにドワーフの視線を我らに移した。執事が身を引くと、ドワーフの目に我らが映る。
「おぉ、エルフか。見た感じ入団希望ってわけじゃあ無さそうだが」
「当然でしょう。あのようなむさ苦しい野生感ある職場に女性が希望するはずないでしょう」
この執事急に毒を吐きおった。真正面から言われたドワーフの男はヒクヒクと口元を引きつらせて青筋を浮かべていた。
血管の流れが速くなる。
「て、てめぇ・・・」
「では私の案内はここまでですので。プロドディス様、あとはよろしくお願いします」
畳み掛けるように執事が言うと、サササっと風のように去っていってしまった。
事情を知らぬ「ちょ、待て・・・っ」と反射的に手を伸ばしたドワーフ・・・プロドディスの腕が虚しく空を切る。
周囲では訓練に精を出す兵士たちの掛け声があるにもかかわらず、ここだけが時が止まったかのように静まりかえった。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
なんとも言えない空気が流れ、静寂が空気を満たす前にシオンがコホンとひとつ咳を鳴らした。
「こほん!えっと・・・えっと?」
しかし、言葉が続かない。何を言おうとしたのか忘れたらしい。助けを求めるようにしてシオンはサエラは見つめるが、サエラはふいっと顔を背けてしまった。
「聞きたいことがあるって言ったの、姉さんでしょ」
「あ、そうでした!すいません、レギオンの人に話が聞きたいんですけど・・・」
それでも見捨てることができない。目的は知らないが、手段は知っている。
シオンはサエラの助け舟に乗っかった。そして、改めてシオンはプロドディスを見上げて頼み込む。
見知らぬエルフの少女に顔を覗き込まれたドワーフの戦士は、少々苦手そうに顔を歪めたが大きなため息を吐くと乱雑に頭をかき乱した。
「チッ。ってことはホールワードの野郎か・・・」
一連の流れで全てを察してしまったらしい。隠すこともせず表情に怒りを浮かばせるが、その矛先を我らに向けることはしない。
ただ何処かで発散はしたいらしく、足元の地面にヒビが走っているのを確認した。
「フゥ、あぁ、俺はプロドディス・ドミニク・・・ここのリーダーをやってる。聞きたいことがあるんなら・・・まぁ言ってみろ、無碍にはしねぇよ」
そう言いつつ、彼はたたずまいを直した。
正直、彼がここの戦士たちを率いている長だというのは予想はついていた。この男に宿る魔力が辺境伯やガルムに並ぶ、あるいは超えるほどの濃密で洗練された気配を感じ取ったからだ。
おそらくドワーフの半生の大半を戦って生きてきたのだろう。下手したら我の全盛期にいた勇者クラスかもしれない。
「シオンです!よろしくお願いします!」
「サエラ・・・です」
自己紹介もほどほどに、プロドディスは我らをテントの張られた場所まで移動させた。簡易的に設置してあるこのテントには医療器具も置いてあることから、おそらく訓練中に怪我をしたらここに運ばれてくるのだろう。
そんな目的を持つテントでも、良いことなのか悪いことなのかバンパイアロードの襲撃に遭ったゴードンの宿のように閑古鳥が鳴いている。
一応、プロドディスによる配慮なのだろう。まぁざわざわと人に集まられても困る。
規律が強いのか兵士たちの何人かが我らに注目していたのは見たが、さすがにあの場で傭兵団の団長と話していれば野次馬ができない保証はない。
別に聞かれても良いのだが・・・まぁ聞いてて気持ちの良い話にはならないだろう。
「ホールワードから話は聞いてる。お前らがバンパイアロード・・・ルーデスに襲われた被害者なんだろ」
折りたたみ式の椅子にどかっと座り、一般の椅子より脆いそれから悲鳴を出す。
一応辺境伯から情報はもらっていたらしい。バンパイアロードが元レギオンの団員で、エルフが被害に遭っていたということを。
執事に連れられていたのを見て察したらしい。シオンが肯定した。
「はい、襲われたのはわたしです。呪いを消すために、情報を集めてます」
「ほぅ、バンパイアロード相手にか?」
呪いを消すためにはバンパイアロードを倒さなければいけないというのは・・・おそらく知っているのだろう。挑発的な言動に、シオンはにっこりと微笑んで見せる。
「友人と知り合いが手伝ってくれますので」
そう言いながら我とサエラの頭を交互に撫でた。
「俺はレギオンの団長だ。知っていることはできるだけ答えよう」
プロドディスが言うと「言質とったり」と、シオンは早速といった様子で話を切り出した。三日前、メイズで行方不明になった同僚のために花を添えた男について、心当たりがないか尋ねる。
一介の兵士の特徴など言ったところでわかってもらえるのか不安だったが、その心配は杞憂に終わった。
「・・・ティムか」
そう言って、プロドディスは大きな声で彼の名を呼ぶと、ガシャガシャと鎧の擦れる足音が近寄ってくるのが聞こえた。
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