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第3章 エルダーフラワーのお茶をもう一杯
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「ねぇ、花穂さん――……の、女の子は、休日にはこんなにもたくさんのお店を回るものなの?」
「ん? そうだよ。一日中歩き回って、夜には足がパンパンになるの。ごめんね、連れまわしちゃって。疲れたでしょ」
「ううん、そうじゃないの。そうじゃないのよ……とっても、楽しいし嬉しいのよ」
「わたしも楽しい。やっぱりお買い物は女の子同士でなくっちゃね」
花穂は明るく笑い、ふざけてモアの手をぎゅっと握った。華奢な指が握り返してくる。
その感触に神経を集中させる。
女の子の手だ。細くて頼りない、だけどとても器用で料理上手な素敵な手。
今、モアさんはなんて言った?
人間の女の子はって……言わなかった?
そんなわけないか。だってそれは、人間ならば言うはずのないことなんだから。
花穂は浮かんだ考えを追い出して、モアも手をもう一度ぎゅっと握った。
「この先においしいパン屋さんがあったんだ。最後に行ってみていいかな。明日の朝食に買って帰ろうよ」
モアが頷いてくれたので、足の赴くままに歩く。迷いなく進んでいける。きっと、この先を曲がったら目当てのお店が……。
「あれ……ないな。閉店しちゃったのかな」
微かな記憶を頼りに辿り着いた先にあったのは、閉まったシャッターとテナント募集の張り紙だ。当てが外れてがっかりしていると、通りかかった女の子二人が親切に声をかけてくれた。
「そこにあったパン屋さんなら、移転しましたよ。すぐ近くなんですけど、店名が変わりました」
「確か……そう、ラウレア。ラウレアってお店です」
花穂はモアと顔を見合わせる。
偶然だろうと思いつつも、今朝方見た美女の面影が頭を過ぎった。
女の子たちに礼言ったあと、マオからの頼まれ物と、別の店でパンを購入し、帰ることにした。
ラウレアの名を耳にしてから、モアは少し元気がなかった。
バスに乗っても無口で、窓から空を見上げている。薔薇色に染まる薄暮の空は確かに見とれるほど美しいけれど、心を占めているのはたぶん、別のことだ。
バスがだんだんとハーブガーデンに近づいてきて、モアは伏し目がちにそっと呟く。
「……美しい方でしょう。ラウレアさんって」
「うん。ショートカットが似合うって羨ましいなぁ。顔小さいし、上品な雰囲気で」
「お似合いね、マオさんと」
「えっ、そ、そんなこと……」
慌てて否定すると、ふーっと息をついてモアは唇の端を上げる。
「花穂さんは嘘が下手ね。目が泳いでいるわ」
「えっ、え……そうかな」
声が裏返る。誤魔化そうとしたことがかえってモアを傷つけてはしないかと、焦ってしまう。
「わたし、あなたのそういう正直なところ、好きよ」
微笑んだモアの顔はどこか大人びていた。幼げな面立ちでそんな達観したような表情をされると、なんだか痛々しく感じてしまう。
どうして、そんなに寂しそうに笑うの。
「ん? そうだよ。一日中歩き回って、夜には足がパンパンになるの。ごめんね、連れまわしちゃって。疲れたでしょ」
「ううん、そうじゃないの。そうじゃないのよ……とっても、楽しいし嬉しいのよ」
「わたしも楽しい。やっぱりお買い物は女の子同士でなくっちゃね」
花穂は明るく笑い、ふざけてモアの手をぎゅっと握った。華奢な指が握り返してくる。
その感触に神経を集中させる。
女の子の手だ。細くて頼りない、だけどとても器用で料理上手な素敵な手。
今、モアさんはなんて言った?
人間の女の子はって……言わなかった?
そんなわけないか。だってそれは、人間ならば言うはずのないことなんだから。
花穂は浮かんだ考えを追い出して、モアも手をもう一度ぎゅっと握った。
「この先においしいパン屋さんがあったんだ。最後に行ってみていいかな。明日の朝食に買って帰ろうよ」
モアが頷いてくれたので、足の赴くままに歩く。迷いなく進んでいける。きっと、この先を曲がったら目当てのお店が……。
「あれ……ないな。閉店しちゃったのかな」
微かな記憶を頼りに辿り着いた先にあったのは、閉まったシャッターとテナント募集の張り紙だ。当てが外れてがっかりしていると、通りかかった女の子二人が親切に声をかけてくれた。
「そこにあったパン屋さんなら、移転しましたよ。すぐ近くなんですけど、店名が変わりました」
「確か……そう、ラウレア。ラウレアってお店です」
花穂はモアと顔を見合わせる。
偶然だろうと思いつつも、今朝方見た美女の面影が頭を過ぎった。
女の子たちに礼言ったあと、マオからの頼まれ物と、別の店でパンを購入し、帰ることにした。
ラウレアの名を耳にしてから、モアは少し元気がなかった。
バスに乗っても無口で、窓から空を見上げている。薔薇色に染まる薄暮の空は確かに見とれるほど美しいけれど、心を占めているのはたぶん、別のことだ。
バスがだんだんとハーブガーデンに近づいてきて、モアは伏し目がちにそっと呟く。
「……美しい方でしょう。ラウレアさんって」
「うん。ショートカットが似合うって羨ましいなぁ。顔小さいし、上品な雰囲気で」
「お似合いね、マオさんと」
「えっ、そ、そんなこと……」
慌てて否定すると、ふーっと息をついてモアは唇の端を上げる。
「花穂さんは嘘が下手ね。目が泳いでいるわ」
「えっ、え……そうかな」
声が裏返る。誤魔化そうとしたことがかえってモアを傷つけてはしないかと、焦ってしまう。
「わたし、あなたのそういう正直なところ、好きよ」
微笑んだモアの顔はどこか大人びていた。幼げな面立ちでそんな達観したような表情をされると、なんだか痛々しく感じてしまう。
どうして、そんなに寂しそうに笑うの。
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