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人外編【恋と故意】

第3話 第三者

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 調査のために時間を要するとのことで、その日は帰宅した。
 どれくらいかかるのかは明確には提示されなかった。
 早ければ一週間。
 長ければ未定。
 そんなところだろうと、漠然と考えている、
 それと同時に不信感。
 大丈夫かな。
 最低の一週間だったら、私だって子済くんを見続けている。
 私が調べた方が早いんじゃないか。
 学校で子済くんを眺めながらそう思う。

 ああ、可愛いなあ。
 小さくて、ちょろちょろ動いて、皆に揶揄からかわれてる。
 頼まれたら断れない子済くん。
 持ち物が多すぎて持ちきれない子済くん。
 一生懸命動き回ってる子済くん。
 鼻をひくつかせて、尻尾をパタパタしてる子済くん。
 元気に生きてる子済くん。
 ああ、かわいい。すき。抱きしめたい。


「まーた子済のこと見てるの?」
「ぅえ!?」


 クラスメイトに話しかけらた。
 びっくりして変な声出た。
 そんなに集中してたのか、私。
 子済くんのことになると周りが見えなくなっちゃうから、今みたいに声をかけられるまで気付かないことも多いのよね。


「なんであんなのが好きなのか。未だによくわからないわ」


 クラスメイトは呆れたように言う。
 むっとしてしまう。
 けど、同時に安心する。


「いいのっ。私にだけ子済くんの良さがわかってれば」
「はいはい。ごちそうさまです。納得いくまで頑張りなさいな。……てか、あなたまた痩せた!?」
「あ……うん」
「もー! 無理なダイエットは体に毒よ! いくら好きな人が出来ても不健康になるのはだめ!」
「ご、ごめんって……これでも気をつけてるんだよ?」


 この子は、私が告白してフラれたことまで知っている。
 応援はしてくれるけど、協力はしないスタイル。
 ややこしくなくてむしろありがたい。
 この子は子済くんについては特に何も思ってないだろう。
 だからこそ安心して話していられる。


「全く。これ以上痩せたら承知しないわよ」
「うん。痩せるなら健康的にね」
「よろしい! ところでさ、あの噂、どうだったの?」
「あー……ううん、音沙汰なし。やっぱりただの噂なんじゃないかな」
「そっかー。本当だったら私も試してみようと思ってたのに。ざんねーん」


 噂、というのは『幸せ本舗・ハッピーエンド』のことだ。
 今回嘘をついたのにはちゃんと理由がある。
 ライターさんに、「ことが片付くまで、お店のことは他言されないようご注意を。まし広まってしまった場合、ご依頼は中断させていただきます。ご依頼が終わってからであれば、場所と社員に関すること以外はお話ししてくださって結構です」と言われたから。
 依頼を中断されるのは困る。
 ごめん!
 心の中で勢いをつけて頭を下げ、謝った。
 これも私と子済くんのためだから……!


「じゃ、じゃあ私、そろそろ部活に行くね! タイムが危ういから自主練しないと!」
「そっか。水泳部、大会近いんだったね。 がんばってね!」
「ありがとう! がんばる!」



 ―――――……




 二週間後。
 ライターさんからまたお便りが届いた。
 調査が終わったらしい。
 私はまた同じ道のりを歩み、同じお店の前にいる。
 何故『前』かというと、やっぱり異様な雰囲気にしり込みし、中々は入れないからだ。


「……子済くんっ」


 好きな人に関するものって、すごい。
 名前を呼ぶだけで行動できる。
 勇気が出る。
 何でもできそうな気がする。
 これが恋の力。
 もし、子済くんの何かを持っていたら。
 もし、子済くんが隣にいてくれたら。
 もし、子済くんとずっと一緒に入れたら。
 私は何でもできちゃう。
 それこそ、不可能なんてないって思えるだろう。
 はぁ、すき。
 早くあなたを抱きしめたい。


「いらっしゃいませ。お嬢さん」
「いらっしゃいませー!」
「……」
「こんにちは」


 今日は三人ともすでにいる。
 そして今日も、促されるがまま、立ちにくいソファーに腰掛ける。

 耳当てちゃんが飲み物を持ってくる。
 今日も紅茶だ。
 ライターさんは何かの書類をテーブルの上に広げる。
 目隠ししているのに見えているのだろうか。


「子済様について調査が完了いたしました」
「っ、どうでした!?」
「子済様の周辺を調査いたしましたが、怪しい人物はいませんね」
「……そう、ですか」


 勢いがなくなる。
 私と子済くんの邪魔をする存在はいない。
 それは嬉しい。
 けれど、ならばなぜ、子済くんは「難しい」と言うのだろうか。
 私は何か、子済に「難しい」ことを課してしまったのだろうか。

 目が霞む。視界が歪む。
 手に持ったコップの紅茶に、波紋ができる。


「怪しい人物はいませんが、親しい人物はいるようです」
「したしい、じんぶつ」


 したしい……?
 え、何……どういうこと?


「名前は卯崎うさき様。巳里様や子済様と隣のクラスですね」
「卯崎……」


 ……あいつか……!!!
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