水野勝成 居候報恩記

尾方佐羽

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<勝成ゆかりの場所>

勝成ゆかりの場所(大坂夏の陣編2)

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◆水野勝成ゆかりの場所(大坂夏の陣編2)
[スペシャルゲスト:水野勝成さん(もちろん架空です)]

※この会話は架空ですが、起こったことはおおむね事実です。

◆武将スイーツ

 ーさて、先般に引き続き。1615年の「大坂夏の陣」につきまして、水野日向守勝成様(架空です)にお付き合いいただき、お話をさせていただきたいと存じます。

「おまえ、待たせるのう。この間で早馬ならば江戸から京に着いとるで。どこからじゃったか、誉田で伊達陸奥守(政宗)とのやりとりがあって、その晩は終わった」

 ーどうでしたか。陸奥守様の印象は? あの方は現代でも人気の武将です。私の子は小さい頃イタチマサシュウってつぶやきましたが……。

「(爆笑)おまえの子が傑物じゃ。わしのことは?」

 ー全く申し上げにくきことなれど、家にては、「かつなりくん」で通っております。何しろ刈谷(愛知)で「かつなりくんサブレ」が売っておりますゆえ……畢竟(ひっきょう)。ああ、日向様ゆかりのとんど饅頭(福山)は今もございます。

「おう、懐かしい。あれは小振りでいくつでも食えたのう。それなら、大御所(家康)安倍川餅などもあるんじゃろ?」

 ーもちろん。大御所様発祥で今もありますよ。あとは生せんべいとか、マドレーヌとか……もとい。日向様、夏の陣です。伊達陸奥守について……。

「そりゃ、はなっから気さくには話せんわ。陸奥守は大御所も丁重に扱っておったけえ、わしもそうしたで、人となりをよく知るまでには至らんよ。そもそも戦場じゃ、それが常なり」

 ー陸奥守の側近、片倉小十郎様もそのときにいましたか。

「ああ、おった。どちらかっちゅうと、片倉の方が険(けん)があったかもしれんのう。なぜ、こんな小隊に従わねばならぬのかちゅう不満はあったじゃろう。まぁ、わしら数千の寡勢じゃ、仕方のないこと」


◆忠直と忠輝 家康の孫と子

 ー「大坂夏の陣」の最終決戦は5月7日(旧暦)になります。ここで茶臼山(大阪市天王寺区)を囲むように関東勢の大軍が集結するわけですね。総勢は16万5000とも言われています。対する大坂方は5万5000、3対1です。これだけいれば、楽勝かと思われるでしょうが、そうではなかった。
 私にとっては、この5月7日の動きがとても難しかった。まず、家康本隊がどう動いたのか見えない。大坂方・真田隊の突撃を受けて移動したことしかわからない。日向様の動きは分かりましたが。

「それこそ、わしがわかるものかいや。とにかく、混乱しとった。もう茶臼山を臨む時点で大混雑じゃ。旗指物(はたさしもの)入り乱れ……というそのまんまじゃ。ひとつだけ、言うておきたいんじゃが、あの戦は関ヶ原からも15年経っとる。戦に慣れとる者はもう50をゆうに越えとる。若い者もたくさん出ておったが、皆わしらのせがれほどでしかない。戦働きなぞ分かるはずもないじゃろう」

 ーそれは、忠直様と忠輝様(松平、家康の孫と子)のことを仰せですか。あ、官名にしてない……。

「ああ、おまえの時代はそのほうが通るじゃろう。ええよ。若いのはその二人だけでなく、わしの子も同様じゃ。それぐらいの者が仰山おった。しかし、確かに忠直と忠輝は難儀なことじゃったろう」

 ー本編にも書いていますが、お二人については少し補足しましょう。忠直様は前年暮れの大坂冬の陣での失敗を大御所様(家康)に叱責されました。この戦でも前日の八尾・若江の戦いで十分に加勢しなかったと叱られています。それが茶臼山から大坂城の早駆けにつながるのですね。ああ、また叱られる、とまではいかないでしょうが。

「いや、それは多分にあるで」

 ーそして、忠輝様は前日、日向様の陣に加わっていましたが……遅かったんですよね、到着するのが。舅の陸奥守(伊達政宗)との絡みがありますしね。それも、大御所様に叱責……。この2つはふたりにとって将来に響く出来事になるわけです。まさか、父より伊達を取るかなどとは言われなかったと思いますが。

「いや、それも多分にあるで」

 ー2度同じセリフを仰いましたね。そうです。大御所様はお二人を重んじてはいませんでした。それがこの戦であらわになってしまうのです。そして奇しくも、この2日、待たされた日も含めると3日、日向様はお二人と関わることになりました。

「それも大御所の差配じゃろうがのう」


◆茶臼山、天王寺から突進

 ーとにかく、決戦は昼に火蓋が切られます。日向様の隊は忠直様の隊の後方、6番手に付きました。そして、先鋒隊が大坂方の真田(信繁ー幸村)・毛利(勝永)隊に崩される。押しよられているのを察知したのか、ここで5番手だった忠直様の隊が一気に突進を開始する。

「あれにはたまげた。そうじゃのう。まさかと思うたで。その流れでわしらも突進する羽目になる。あの場で止まることはできんかったよ。茶臼山ががらあきになっとるのも、掘(直寄)の使者が知らせてきとったし、もう茶臼山を突破していくしかないと。あれはえらいことじゃった。かかってくる者をひたすら切り伏せるだけじゃ」

 ー茶臼山・天王寺から大阪城までは1里半(6km)ほどです。平時ならば大した距離ではありません。1時間半ぐらいで歩けるでしょう。でも、このときは本当に長い長いものだったと思います。

「ああ、言う通り、長かった。茶臼山で倒れた兵も多くおったもんで、自軍を始終改めてはおったが。敵は前から来るか後ろから来るかわからん。どこかに潜んでおるやもしれん。なるべく固まっておらねば、やられるちゅう、本能ばかりがあった。あの時点で、先駆けしようなどとは思わんかった。意外だろうがの」

 ーいえ。その危惧の通り、前を走る忠直様の隊に明石掃部(全登ーたけのりー)の隊が襲いかかります。
 この時の進軍は現在の上町筋(うえまちすじ)か松屋町筋を進んでいたのだと思いますが、その途上で明石隊が出てきたのですね。もう大坂城が目の前……このときは今よりもっと目の前だったでしょう……というところで立ちはだかる敵に忠直様の軍勢は踵を返して逃げ惑います。
 日向様の一喝、あれは覚書を忠実におこしてみました。

「ああ、重畳至極(ちょうじょうしごくーこのうえなく光栄なさま)。越前勢(忠直隊)の気持ちはわからんでもない。しかし、先頭を走っとるのに逃げたらいかんで。のう」

 ーそこは本編を見ていただいて(PR)、日向様はそこを乗りきって大坂城の桜御門(現在の豊国神社の少し西寄り)にたどり着いて、旗を掲げます。そして後口になっていた越前勢を先に通すのですね。

「ああ、もう城内の兵もごくわずかであろうし、わしらは抑えに徹することにした。早駆けは曲事じゃと言われておるしのう」


◆神保勢全滅の悲劇

 ーでも……それでは終わりませんでした。この戦をずっとともに戦ってきた、大和の神保相茂(すけしげ)隊288人が襲撃されて全滅します。船場(せんば)の辺りだと言われています。

「……あれは……ただただ無念としか言いようがない。もう勝っておったんじゃ。死ぬ要なぞかけらもなかったんじゃ。それが……あれはわしの不手際じゃ。何ということを……」

 ーはい…………あの件については、私も細かく書きました。参考になるものがほとんどなくて、日向様もこの戦のあの件だけは遺しておられない。だからこそ、空白を埋めたい。そんな気持ちでした。

「ああ、ええんじゃないかのう。鵺(ぬえ)もな。はまりすぎちゅうぐらい、はまっとるわ。なにゆえ鵺を、伊達隊の前でわしにさせた?」

 ー不思議ですが、なぜあの謡曲(ようきょくー能)にしたのか、まったく覚えていないんです。謡曲じたいほとんど知らなかったのですが。見たのも書き上げてしばらくしてからですし。今でもよくわからないです。そうですね……神保様のメッセージでしょうか。

「そういうこともあるんじゃのう。
 あのとき、それぐらいしてもよかったかもしれん。馬を取り返したのはまことじゃが」

 ーいや、感心されたら困ります。
 神保隊の件は本当に残念なことでした。そして大坂城では淀の方はじめ皆さんが自害されます。そして、本当にたくさんの方が亡くなりました。黒田長政様はこの様子を屏風に描かせましたが、乱暴・略奪・殺戮……民衆も多く犠牲になっています。

「そうじゃ、あと……遺体の片付けのことまでは戦記には記さん。おまえが書いたことにはそれだけでも意味があるやもしれん」

 ーまたほめられてしまいました。自画自賛状態ですね。
 さて、日向様、長々とお付き合い下さって、本当にありがとうございました。

「もうないんじゃろうな?」

 ーえ、えーと、そう努めたいと存じます。

「それでは、拙者はそろそろ失礼いたす」


※本編「激闘! 大坂夏の陣」を合わせてご覧いただけると幸いです。

(続く)→ただしインタビューではありません。
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