剣士と桜

Mari

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後編

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さらさらと流れる風が

二人を包んだ


現実の世界に

起こり得ない出来事が

今、目の前に在る



さくらは

恐らくタイムスリップ

してきたであろう剣士を

置いては行けず

隣に腰を降ろした



「さっき、お咲って…」

「……俺の、大事な女だ」

「私に、似てるの?」

「あぁ…、瓜二つだ」


剣士は切なげに空を見上げ

話を続ける


「…病に倒れたことを

知っていながら

俺は、逢いに行けなかった」

「どうして…?」

「…お役目が、あったからな」


不意に剣士は

自身の手をじっと見つめた



「この手で俺は

何人もの人間を斬ってきた」

「……」

「その間に、お咲は……」



一粒の涙が

剣士の頬を伝っていく


さくらはそっと

剣士の手に

自分の手を重ねると

こう呟いた


「その分、あなたは何人もの人を

守ってきたんでしょう?」



ハッとしたように

剣士はさくらを見つめる


「……お咲も、そう言ってくれたな」



眉を下げ

寂しげに

それでも、笑う剣士に

さくらの心も和む



ひらひらと桜の花びらが

二人の手に舞い落ちると

さくらは続ける



「きっと、お咲さんも

あなたが強く

生き延びてくれることを

願ってると思う」



剣士は優しく笑うと

桜の木に寄り掛かったまま

また目を閉じた


「おめぇと居ると、なんだか

本当にお咲と居るみてぇだ…」



さくらは

穏やかな剣士の顔に

ホッとすると

つられて目を閉じる



まるで

寄り添うかのような二人を

ざわざわと桜の木が

包み込んだ







ふと目を覚ますと

剣士は一人きりで

桜の木に寄り掛かっている


さくらの姿は無い



辺りを見渡せば

おかしな建物も

鉄の橋も、鉄の猪もなかった



「…夢でも、見ていたか?」


そう呟くと

ほんのり暖かい掌の上で

桜の花びらが揺れる



「……さくら、か」


剣士は立ち上がり

桜の木を見上げた



「なぁ、お咲…

さくらはおめぇの

生まれ変わりかもしれねぇなぁ」



ざわざわと桜の木が

風に吹かれ音を立てる



「…おめぇの分まで

強く生きてやるからぁ

見ててくれるか」



優しく笑った剣士の顔に

もう迷いは無い





時は、室町時代


一人の剣士が

その名を世に知らしめた



〝あいつに勝てる者は居ない〟と

人々は口々に言う




「なぁ、さくら…

おめぇのおかげだ」



桜の木を透かして

剣士は今日も遠くの空を見上げた
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