ポケットに隠した約束

Mari

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第一章

プロローグ

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はーっと吐き出した白い息が夜空に浮かんで溶けていく。
冷たい冬の空気を感じると、やけに寂しくなるのは、忘れられないあの約束があるからだろうか…。
空を見上げては、あの日の約束を思い出すようになっていた。



今年30歳を迎える私、相澤瑞希(あいざわ みずき)は、ウェディングプランナーとして仕事に明け暮れる日々を過ごしている。

「ご飯、食べるの面倒臭いな…」


独り身の私にとっては、街のイルミネーションさえも切なく感じるこの季節。
一人分のご飯を作ることさえ、気が進まない。


コートのポケットに入れたままの、片一方だけの手袋が手に触れる…
「晃平…」
ぽつりとつぶやく名前…。
もう今となっては側には居ない人…。



三年前のクリスマスまで…
私には彼氏が居た。
佐野晃平(さの こうへい)。
クリスマスイブに電話で交わした約束…
『三年後、必ず戻ってくる。でも待たなくていい。
それでもしも、その時お互い相手が居なければ結婚しよう』

その翌日のクリスマスに晃平はニューヨークへと転勤してしまった。
時差があるからなのか、待たなくていいと約束したからなのか、あれから一度も連絡はない。

ねぇ今頃、何をしているの?
もう三年が経とうとしてるよ。
私は今も変わらず、晃平以外には考えられないよ。


トボトボと家路につき、玄関のドアを開けると…
「あ、いい匂い…」
大好きなクリームシチューの作りたての匂いが、部屋中に広がっている。

「おかえりー」
「ただいまー」


…え?
ちょっと待って…、私、独り暮らしだよね…?

おそるおそる、キッチンに目を向けた。
そこには、居るはずのない人の姿…


「こ、こここここ…晃平っ?」
「なんだ?お前はにわとりか?」
そう言って晃平が笑う。

懐かしい笑顔、愛しい声…
どうして、どうしてここに居るの?
夢を見ているの?それとも幻覚?
腰を抜かして床に座り込み、意味の分からない状況に頭を抱えていると、晃平がキッチンから出てくる。

「久しぶりだなー、瑞希」
ぐしゃぐしゃっと撫でてから私の頭に手を置くその仕草。
懐かしさで涙が溢れた。

「どうして…?」
言葉にならない私に、晃平は話し始める。

「昨日日本に帰ってきた。…瑞希に、最後に会いたくてさ…」
「…最後?…どういうこと?」

イヤな予感…
眉を下げて晃平が口を開く。

「瑞希…、俺、結婚するんだ…」


頭の中はその瞬間、真っ白になった。
全っ然、意味が分からない…。



「ごめんな…」

晃平の優しい声と、申し訳なさそうに笑う顔と、クリームシチューの鼻をくすぐる匂いだけが、私の頭の中を埋め尽くした。


ただそれだけを言い残して晃平が帰ると、一人静かな部屋で頭の中を整理する。

私たちは三年前のクリスマスイブに一度別れた。
晃平は、待たなくていいと言った。
だけど日本に戻ってきた時もしもお互い相手が居なければ結婚しようと…。


この三年の間に、晃平の時間は進んでた。
結婚する相手が他に出来たんだ…

それが全ての答えだと解った瞬間、涙はポロポロと溢れてくる。

「そっか…あはは…そっ、かぁ…」
涙が止まらない。
なんでだろう、なんであの日、ニューヨークに私も連れて行ってと言わなかったんだろう。

どうにもならない後悔。
好きで、好きで、大好きだった人。


イヤだ、イヤだよ…



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