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第一章
運命のイタズラ
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「おはよう!瑞希ー!」
朝からハイテンションで声を掛けてきたのは、同僚の莉奈(りな)。
莉奈は私の顔を見るなり、
「うわっ、どうしたの?酷いよ?顔」
なんて、失礼なことを言ってくる。
「聞かないで…」
私はそれだけ告げると、山積みになっている仕事に取りかかった。
隣のデスクで、莉奈も仕事をしながらめげずに話しかける。
「聞かないでって言われて引き下がるほど、私さっぱりした性格ではないんだなー。残念ながら」
ため息をつく私に、莉奈は続ける。
「いい?ランチの時間、その酷く腫れた目の理由、聞かせてもらうからね?」
相変わらず強引な莉奈の言葉に、小さく笑って、もう一度パソコンに向かう。
ランチは近くのカフェへ。
カフェに着くなり、莉奈からの質問攻撃にあった私は、莉奈に昨日の出来事を話したのだ。
「はぁっ?結婚?晃平くんが?」
「笑えるよね…」
「全っ然笑えないし!」
莉奈にはやっぱり強がりだと分かってしまったらしい。
そうだよね…、こんなに辛いのに笑えるわけがなかった。
笑い話に出来るのなら私もそうしてしまいたい。
「…あんた、それでいいの?」
「いいも何も、私たちは三年前に別れてるもん。何も言う資格ないよ…」
晃平が帰ってきたら結婚するんだと、当たり前のように思っていた。
一度別れるのは、お互いが余計に寂しい想いをしないためだと。
「…なんか引っ掛かるんだよねえ」
そう言って莉奈が考え込む。
「どういうこと?」
「だってさ、考えてもみてよ。私が知ってる限り、晃平くんって、瑞希のこと本当に大事にしてたし、転勤がなかったら普通に結婚してたと思うの」
莉奈の言葉に、晃平と過ごした日々が次々と思い出される。
冗談言い合ってバカやって楽しくて、喧嘩もしたけど、それでもお互いに想い合ってた。
「転勤前に一度別れたのは、瑞希を想う晃平くんの優しさだと思うし、それなのにたった三年離れただけで、結婚しますって、そんな相手がそうそう見つかると思う?」
「でも、現に見つかってるわけだし…」
おかしい、それでもおかしい!と、頭を悩ませる莉奈に苦笑しながらも、晃平が結婚を決めた相手がどんな人なのか、知りたいような知りたくないような気持ちで、私はただただ悶々としていた。
ランチを終えて仕事に戻り、いつもと同じようにお客様の結婚式の打ち合わせを済ましていく。
こんな状態で、幸せそうなカップルを目の前にして辛くないわけがない。
それでも、私は私で頑張らなきゃ。
いつか晃平を忘れられる…
大丈夫、大丈夫…そう言い聞かせていた。
「相澤さん、今手空いてる?」
支配人に声をかけられ、顔を上げる。
「新規のお客様が飛び込みで来店されてるの。お願いしてもいいかしら?」
「はい、大丈夫です」
そう言ってサロンに足を運ぶと、そこには可愛らしく優しい雰囲気の小柄な女性が一人で来店していた。
「初めまして、担当させて頂きます相澤と申します」
「あ、宜しくお願いします」
にっこり笑った女性は、恥ずかしそうにキョロキョロとサロンを見渡す。
「こういった場所は初めてで、なんだか照れますね」
「皆さん、初めはそうですよ」
雑談を交えながら新規受付カードに目を落とすと、新郎名の欄には見覚えのある名前…
心臓がドクンと音を立てる。
〝新郎 佐野晃平〟
まさか…
電話番号も晃平のと同じ…
鼓動が聞こえてきそうなほど、ドクドクと速さを増していった。
「あの…?」
「あ、すみません。早速お打ち合わせを始めますね」
震える声を押さえる。
彼女の名前は、木田雪乃(キダ ユキノ)さん。
彼とはニューヨークで出逢って一目惚れだったという。
そっか、やっぱり晃平は、結婚するんだ…。
運命のイタズラとでも言うような、彼女との出会いに、私の心はついていくのがやっとだった。
朝からハイテンションで声を掛けてきたのは、同僚の莉奈(りな)。
莉奈は私の顔を見るなり、
「うわっ、どうしたの?酷いよ?顔」
なんて、失礼なことを言ってくる。
「聞かないで…」
私はそれだけ告げると、山積みになっている仕事に取りかかった。
隣のデスクで、莉奈も仕事をしながらめげずに話しかける。
「聞かないでって言われて引き下がるほど、私さっぱりした性格ではないんだなー。残念ながら」
ため息をつく私に、莉奈は続ける。
「いい?ランチの時間、その酷く腫れた目の理由、聞かせてもらうからね?」
相変わらず強引な莉奈の言葉に、小さく笑って、もう一度パソコンに向かう。
ランチは近くのカフェへ。
カフェに着くなり、莉奈からの質問攻撃にあった私は、莉奈に昨日の出来事を話したのだ。
「はぁっ?結婚?晃平くんが?」
「笑えるよね…」
「全っ然笑えないし!」
莉奈にはやっぱり強がりだと分かってしまったらしい。
そうだよね…、こんなに辛いのに笑えるわけがなかった。
笑い話に出来るのなら私もそうしてしまいたい。
「…あんた、それでいいの?」
「いいも何も、私たちは三年前に別れてるもん。何も言う資格ないよ…」
晃平が帰ってきたら結婚するんだと、当たり前のように思っていた。
一度別れるのは、お互いが余計に寂しい想いをしないためだと。
「…なんか引っ掛かるんだよねえ」
そう言って莉奈が考え込む。
「どういうこと?」
「だってさ、考えてもみてよ。私が知ってる限り、晃平くんって、瑞希のこと本当に大事にしてたし、転勤がなかったら普通に結婚してたと思うの」
莉奈の言葉に、晃平と過ごした日々が次々と思い出される。
冗談言い合ってバカやって楽しくて、喧嘩もしたけど、それでもお互いに想い合ってた。
「転勤前に一度別れたのは、瑞希を想う晃平くんの優しさだと思うし、それなのにたった三年離れただけで、結婚しますって、そんな相手がそうそう見つかると思う?」
「でも、現に見つかってるわけだし…」
おかしい、それでもおかしい!と、頭を悩ませる莉奈に苦笑しながらも、晃平が結婚を決めた相手がどんな人なのか、知りたいような知りたくないような気持ちで、私はただただ悶々としていた。
ランチを終えて仕事に戻り、いつもと同じようにお客様の結婚式の打ち合わせを済ましていく。
こんな状態で、幸せそうなカップルを目の前にして辛くないわけがない。
それでも、私は私で頑張らなきゃ。
いつか晃平を忘れられる…
大丈夫、大丈夫…そう言い聞かせていた。
「相澤さん、今手空いてる?」
支配人に声をかけられ、顔を上げる。
「新規のお客様が飛び込みで来店されてるの。お願いしてもいいかしら?」
「はい、大丈夫です」
そう言ってサロンに足を運ぶと、そこには可愛らしく優しい雰囲気の小柄な女性が一人で来店していた。
「初めまして、担当させて頂きます相澤と申します」
「あ、宜しくお願いします」
にっこり笑った女性は、恥ずかしそうにキョロキョロとサロンを見渡す。
「こういった場所は初めてで、なんだか照れますね」
「皆さん、初めはそうですよ」
雑談を交えながら新規受付カードに目を落とすと、新郎名の欄には見覚えのある名前…
心臓がドクンと音を立てる。
〝新郎 佐野晃平〟
まさか…
電話番号も晃平のと同じ…
鼓動が聞こえてきそうなほど、ドクドクと速さを増していった。
「あの…?」
「あ、すみません。早速お打ち合わせを始めますね」
震える声を押さえる。
彼女の名前は、木田雪乃(キダ ユキノ)さん。
彼とはニューヨークで出逢って一目惚れだったという。
そっか、やっぱり晃平は、結婚するんだ…。
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