ポケットに隠した約束

Mari

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第二章

雪乃の傷

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雪乃を追い掛けた晃平は、「説明する」と言って一旦彼女を落ち着かせた。

寒さの増す港の公園で、雪乃は晃平の言葉を待つ。


「転勤でニューヨークに行く前、俺は瑞希と付き合ってた」
雪乃は静かに耳を傾けたままでいた。

「日本に戻ってきてお互い相手が居なければ、結婚しようっていう約束をしてたんだ…」

雪乃はそっと、晃平の横顔を窺い見る。
その横顔はどこか寂しそうで、つらそうだった。


「じゃあ、もし〝あの時〟…」
「雪乃、その話は…もういいから」

雪乃が言い掛けた〝あの時〟…
それは、晃平の運命をガラッと変えてしまった日のことだった。

晃平は雪乃に微笑む。
「結婚式の準備、忙しくなるな」


雪乃は、戸惑いながらも「うん」と頷いた。



数日後、ドレスの試着に雪乃一人でサロンに来店した。
前の打ち合わせが長引いていた私は、衣装担当のスタッフに試着を任せ、遅れて顔を見せることになっている。

打ち合わせを終えて駆け付けると、一通り試着を終え、衣装担当のスタッフがフィッティングルームから出てきた。


「あ、相澤さん」
「ごめんね、遅れて。大丈夫?」
「はい。あの、相澤さん…」
「どうしたの?」
「木田様、肩が出ないドレスを希望されていて…、ただそういったデザインも数が少ないので決めかねているようで…」
「肩が出ないドレス?」
「…相澤さんも知らなかったんですね」

聞くと、雪乃の背中側の左肩には、大きく生々しい傷があるという。


「あの…」
フィッティングルームから出てきた雪乃は、一瞬私を見ると笑って言う。
「傷、隠れそうなドレスじゃなくても大丈夫です。無理言ってすみません」
「でも、…」
「いいんです。晃平も参列者も皆この傷のことは知ってますし、今更隠すことでもないですし」


そう言うと、靴を履きながら続ける。
「今度また、晃平と一緒に来てどうするか決めます。やっぱり彼の好みに合わせたいので」

雪乃が晃平の名前を口にする度に、チクチクと胸に刺さるような痛み。
それでも私は、平気なフリをする…
慣れなきゃ。
結婚式には、笑って〝おめでとう〟を言わなきゃ…


「そうですね、それが良いかと思います」
私、ちゃんと笑えているだろうか…。


「あの、相澤さん…」
雪乃にそう呼び掛けられ言葉を待つが、雪乃は俯いてしまう。

「どうしました?」
「…いえ、何でもありません…。
次の予約、今日で入れてても大丈夫ですか?」
「…はい、大丈夫ですよ」

雪乃が何を言い掛けたのか、この時何を思っていたのか、私には見当もつかなかった。



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