ポケットに隠した約束

Mari

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第二章

行き場のない想い

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数日後、晃平と雪乃さんが二人揃ってサロンへ来店した。
会場の正式契約だ。

二人が並んだ姿を見るのはこれが初めてで、思っていた以上に、チクチク胸が痛む。


「まさか、相澤さんと晃平がお知り合いだったなんて、思いもしなかったです!こんな偶然って、あるんですね」

嬉しいと言って喜ぶ彼女…


〝私も思いもしなかったです〟
結婚をするかもしれなかった人とその彼女の担当になるなんて…

どうしてこんなにも、無邪気なんだろう。
全く何も疑っていない純粋な笑顔に、複雑な想いをどこに向けて良いのかも分からなかった。



「瑞希さぁ、あんた、偉いよ」
オフィスに戻ると、莉奈が頭を撫でてくる。
「私なら絶対言ってるなぁ。結婚を約束してた人ですって」
「…お互いに相手が居なかったらっていう約束だったし」
そんな言葉も自分で言っておきながら、虚しくなるだけだ。

「それでも、悔しいじゃない!
私が知る限り、晃平くんは本っ当に瑞希のこと愛してたよ?ちょっとばかり不器用ではあったけどさ!」


分かってる…
私だって、ちゃんとそう思えてたんだもの。
だけど…
私がちゃんと忘れなきゃ、晃平もちゃんと笑顔でいられないじゃない。



「莉奈、私、晃平のこと忘れるよ。ちゃんと笑って、幸せになってねって送り出したい。だから…」
「…分かってる。分かってるよ」

もう何も言わないよ…
そう言ってくれてるように、莉奈はつらそうに笑った。


「…本っ当、バカだなお前」
「隼人…」

横目で一瞬私を見た隼人は、そのまま何も言わずオフィスを出て行った。
呆れられても仕方がない。

だけど、これが精一杯…




一方、隼人は煙草を吸うために外の喫煙所に出てきた。
瑞希のつらそうな表情を思い浮かべては、イライラがおさまらないのだ。


「あ…」
その声に振り返ると、そこには晃平の姿。
「あぁ、どうも…。彼女さんは…?」
「お手洗いに…」
「…そうですか」

なぜか少し気まずい雰囲気に、晃平も隼人もただ沈黙のまま煙草をふかしていた。


晃平は煙草の火を消すと、隼人に向き直る。
「瑞希は、平気そうですか?」

ただでさえイライラしていた隼人は、晃平を睨むように見つめて言った。
「平気そうに見えますか?あれ」

晃平はその言葉に何も返せなくなる。


「あんた、瑞希と結婚の約束までしといて、なんなんだよ。勝手に他の女と結婚するくせに、今更瑞希の前に姿現してんじゃねぇよ」

…コツ…

振り向くと、雪乃が困惑した顔で立っていた。


「…え、どういうこと?瑞希…って、相澤さん…?」
晃平と隼人の会話を聞いてしまった雪乃は、そのまま門外へ走って出て行ってしまう。

晃平は隼人を見ると、
「ごめん、確かにあんたの言う通りだな」
そう言って、雪乃を追い掛けた。


隼人は一人残された喫煙所で、頭を押さえ、2本目の煙草に火をつける…。





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