ポケットに隠した約束

Mari

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第一章

複雑な想い

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翌日、オフィスで資料をまとめていると、隼人が声をかけてくる。

「…瑞希、客だぞ」
「え?今日は打ち合わせ入ってないけど?」
「…お前を呼んでくれって、来客」
「…来客?」

なんだか、隼人の機嫌が悪いように思いながらも席を立つ。


オフィスを出ようとドア付近まで来ると、隼人の腕が出入り口を塞ぐ…

「…え?なんで通せんぼ?」
「…居ないって、言うことも出来るけど?」
「はっ?何?どうしたの?」

隼人の様子に、いつものふざけた感じはない。


「……」
黙って私を見下ろす隼人。

「何…?」
「…なんでもねぇ」
そう言って、隼人は塞いでいた出入り口を空けてくれた。


サロンに向かうと、そこで私を待っていたのは…
晃平だった。

言葉が出ない。
会えて嬉しいはずの晃平。
だけど今はただただ困惑するだけで、昨日の雪乃の笑顔が一瞬で思い浮かぶ…

隼人が私を通せんぼした理由はこれだったんだ。
会えば辛くなるのが分かってて…。


「昨日、雪乃から聞いたんだ…。
俺たちのこと知らないとはいえ、まさか瑞希の職場に行ってるとは…。なんか、ごめんな」

そう言って、苦笑いする晃平。

「そっか…。
びっくりしたよ…受付カードに晃平の名前書いてるんだもん」

精一杯、笑顔を作ったつもりだったけれど、晃平の表情を見て分かる。
今の私、多分泣きそうな顔してる…。


「瑞希が、嫌だったら…なんとか別の会場にしようって、俺が言うから…」

優しいのか、無神経なのか、それさえ分からなくなってしまう言葉。
晃平が言葉を口にすればするだけ、晃平と雪乃さんの結婚を実感する。


「い、いいよいいよ!
ほら、私の売上アップに繋がるし!貢献してもらえて有り難いくらいだよ」

二人の間に流れる少しの間、その空気さえも息苦しい。


一瞬、俯いた晃平は、少し微笑んでこう言った。
「無理しなくていいから、嫌になったら担当変わってくれてもいい…」

サロンを出ていく晃平の後ろ姿…
目が離せないまま、視界がぼやけてくる。


さよなら、晃平。

口には出来ない言葉を、心の中で呟いた…



「だから、居ないって言えば良かったのに」
背後霊のように後ろから出てきた隼人がおかしくて、思わず笑った。
「気、遣い過ぎだよ。調子狂う。気持ち悪いんだけど」
冗談混じりに笑うと、
「はぁ?気持ち悪いって言うな。そこは素直に〝ありがとう〟だろ」
と、いつもの調子で返してくる。


晃平の残り香が漂う中、誰と話していても晃平の存在を感じてしまう。

忘れられる日は来るのか…
私の心の中は複雑だった。



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