ポケットに隠した約束

Mari

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第四章

迷い

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莉奈の様子に柚希はハッとした。
「莉奈さん、もしかして…」

莉奈はゆっくりと柚希に顔を向ける。
その時、衣装スタッフから「お待たせしました、どうぞ」と声が掛かった。
柚希は、仕方なく席を立つ。
莉奈の様子から、亮の話が晃平とその結婚相手だということを悟った柚希は、怒りにも似た感情が沸き起こっていた。



その日の夜、莉奈と柚希は居酒屋に瑞希を誘い出す。
一通り、亮から聞いた話を瑞希に聞かせたのだ。

「…そんな、まさか」
これは、何の話?そんな戸惑いしかない…

「ほらね!言った通りだったでしょ。なんか引っ掛かるって」
確かに莉奈はずっと言ってた。
どう考えてもおかしいって…

「お姉ちゃん、晃平さんは優しいから、怪我をさせてしまったことに負い目を感じてるんだよ!本当にこのままでいいの?」
「…柚希…」

柚希と莉奈はお酒も入っているからか、私以上に腹を立ててくれていた。


「おーい、あんまり瑞希を混乱させないでくれる?」
そう言って後ろから現れたのは隼人。
後輩と飲みに来たらしい。

「隼人!聞いてたなら、あんたもなんとか言ってやってよ!」
莉奈がそう隼人に投げ掛けると、隼人は一つため息をついて言った。
「ヤダ」
「はっ?」
既に酔っぱらってる莉奈は隼人に絡むが、隼人はするりと交わす。
後輩と席に向かいながら、隼人は答えた。
「怪我させたからって、他の女と結婚すんのは確かだろ。しかも、怪我させたっていうより、相手が勝手に怪我んだろ。断ることだって出来たはずだ」
「…」

隼人の言っていることにも一理ある。
もう、頭の中が真っ白になりそうだ…

莉奈と柚希も、隼人の言葉に黙り込み、シュンとしている…。


「莉奈、柚希…、ありがとね」
「瑞希…」
「晃平が雪乃さんと結婚してしまうのは確かだし、私が気持ちを伝えたところで、何も変わらないと思う…」
「お姉ちゃん…」
「でも、…このまま何も伝えないままでいいのか、私もちゃんと考えてみる」


居酒屋を出て寒さに身体を震わすと、自然と手をポケットに入れ片方だけの手袋に触れる癖も、白い息を追い掛けて空を見上げる癖も、晃平と離れていた三年間でついたものだ。
全部が晃平を想う気持ちに繋がっている。

今のままで無理に忘れようとしても、きっと私はこの先もこの癖が出ては晃平を思い出してしまうだろう。
自分の気持ちにケジメくらいは付けなきゃ…
そう思い始めていたのだった。


「ねぇ、もう一件行こうよー」
「莉奈…私たち明日も仕事だからね?」
「分かってるけどー…」
「莉奈さん、彼氏作らないの?」
「柚希ちゃん…それは禁句です!」

キャハキャハと賑やかな帰り道。
いつも何かと心配してくれる莉奈と柚希に感謝しながらも、まるで迷路に迷い込んだかのような自分の気持ちに一つため息を溢した。




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