14 / 31
第四章
笑い合う時間
しおりを挟む
ある日、晃平は仕事で大きなミスをし、処理に追われていた。
「晃平、お前がこんなミスするなんて珍しいな」
将太が手伝いながら口を開くと、晃平は苦笑する。
そんな晃平を見て、将太は言葉を続けた。
「…瑞希ちゃんとは結婚式の打ち合わせ以外で会ってないのか?」
晃平はピタリと作業を一瞬止めて答える。
「会えるわけねえだろ…」
「なんで」
「今更どんな顔して二人で会うんだよ…」
「…不器用な奴…」
将太はポツリと呟いて作業を進める。
夜、将太は接待の為先に会社を後にした。
残された晃平は黙々と処理をこなし、仕事を終えたのは21時過ぎ。
特に理由もないが、家にそのまま帰る気にならない晃平は、とぼとぼと夜の街を歩く。
ため息を一つついては、仕事でのミスや、雪乃との結婚式のことなど、自分の不甲斐なさを思い知らされた。
「…瑞希」
不意に呟いた名前。
瑞希と過ごした日々や瑞希の笑顔を思い浮かべ、こんな時、瑞希と会えたなら前向きにまた明日から頑張ろうと思えてたんだろうなと、以前の自分を思い出す。
携帯に残る、瑞希の番号…
晃平はその通話ボタンを押していた。
Trururu…trururu……
『はい…』
電話の向こうの瑞希の声が、晃平の耳に入ってくる。
『…晃平?…どうしたの?』
晃平は妙な安心感に、思わず目頭が熱くなって片手で両目を覆った。
「瑞希…少しだけ、会えないかな…」
『……』
無言の瑞希に晃平の胸は痛む。
〝やっぱり…〟と言葉を押し出そうとしたその時だった。
『今、どこに居るの…?』
電話の向こう、晃平の様子がおかしい気がして…
気が付けば、私は走ってた。
担当プランナーだとか、雪乃さんと結婚するんだからだとか、そんなのどうでも良くて…、ただ自分の気持ちのままに走っていた気がする。
側にいて、話を聞いてあげたい。
ざわざわとした人混みを縫って、晃平が待つ場所へと急いだ。
何の色気もないけれど、付き合ってた時によく二人で仕事終わりの一杯を楽しんだ立ち飲み屋台。
そこのおでんが大好きで、寒い中ハフハフ言わせながら心落ち着かせてたっけ。
「晃平…」
「…おっす、悪いな」
「…何か、あった?」
晃平は苦笑いすると「お前には隠せないか」と仕事の話を始めた。
ミスして落ち込むなんて、らしくない。
それでも、誰かに聞いてほしい時は決まって瑞希の顔を思い出す…
そう話してくれる晃平。
なんだかそれだけで、胸がドキドキと高鳴っていた。
「今日はありがとな」
二時間ほどゆっくり飲んで、晃平も少しスッキリしたのか、帰る時にはいつもの笑顔を見せる。
「どういたしまして」
二人、笑い合うプライベートな時間…
久しぶりの心休まる一時だった。
そんな二人を、偶然にも見掛けてしまった雪乃…
晃平の笑顔を見た瞬間、なんとも言えない嫉妬心が雪乃の中に溢れてくる。
同時に、あの日晃平に言った言葉が二人を苦しめているのだと悟ったのだった。
「晃平、お前がこんなミスするなんて珍しいな」
将太が手伝いながら口を開くと、晃平は苦笑する。
そんな晃平を見て、将太は言葉を続けた。
「…瑞希ちゃんとは結婚式の打ち合わせ以外で会ってないのか?」
晃平はピタリと作業を一瞬止めて答える。
「会えるわけねえだろ…」
「なんで」
「今更どんな顔して二人で会うんだよ…」
「…不器用な奴…」
将太はポツリと呟いて作業を進める。
夜、将太は接待の為先に会社を後にした。
残された晃平は黙々と処理をこなし、仕事を終えたのは21時過ぎ。
特に理由もないが、家にそのまま帰る気にならない晃平は、とぼとぼと夜の街を歩く。
ため息を一つついては、仕事でのミスや、雪乃との結婚式のことなど、自分の不甲斐なさを思い知らされた。
「…瑞希」
不意に呟いた名前。
瑞希と過ごした日々や瑞希の笑顔を思い浮かべ、こんな時、瑞希と会えたなら前向きにまた明日から頑張ろうと思えてたんだろうなと、以前の自分を思い出す。
携帯に残る、瑞希の番号…
晃平はその通話ボタンを押していた。
Trururu…trururu……
『はい…』
電話の向こうの瑞希の声が、晃平の耳に入ってくる。
『…晃平?…どうしたの?』
晃平は妙な安心感に、思わず目頭が熱くなって片手で両目を覆った。
「瑞希…少しだけ、会えないかな…」
『……』
無言の瑞希に晃平の胸は痛む。
〝やっぱり…〟と言葉を押し出そうとしたその時だった。
『今、どこに居るの…?』
電話の向こう、晃平の様子がおかしい気がして…
気が付けば、私は走ってた。
担当プランナーだとか、雪乃さんと結婚するんだからだとか、そんなのどうでも良くて…、ただ自分の気持ちのままに走っていた気がする。
側にいて、話を聞いてあげたい。
ざわざわとした人混みを縫って、晃平が待つ場所へと急いだ。
何の色気もないけれど、付き合ってた時によく二人で仕事終わりの一杯を楽しんだ立ち飲み屋台。
そこのおでんが大好きで、寒い中ハフハフ言わせながら心落ち着かせてたっけ。
「晃平…」
「…おっす、悪いな」
「…何か、あった?」
晃平は苦笑いすると「お前には隠せないか」と仕事の話を始めた。
ミスして落ち込むなんて、らしくない。
それでも、誰かに聞いてほしい時は決まって瑞希の顔を思い出す…
そう話してくれる晃平。
なんだかそれだけで、胸がドキドキと高鳴っていた。
「今日はありがとな」
二時間ほどゆっくり飲んで、晃平も少しスッキリしたのか、帰る時にはいつもの笑顔を見せる。
「どういたしまして」
二人、笑い合うプライベートな時間…
久しぶりの心休まる一時だった。
そんな二人を、偶然にも見掛けてしまった雪乃…
晃平の笑顔を見た瞬間、なんとも言えない嫉妬心が雪乃の中に溢れてくる。
同時に、あの日晃平に言った言葉が二人を苦しめているのだと悟ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる