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第五章
晃平の決断
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翌日、晃平の仕事が終わるのを雪乃は夕飯を作りながら待つ。
一人では心細く、咲良も一緒だ。
「んんー!美味しそう」
「ちょっとお姉ちゃん、まだ食べないでよ」
「分かってるって」
結婚が決まったにも関わらず、晃平が〝一緒に住もう〟と言い出さないことや、男女の関係を持とうとしないことなど、今まで考えないようにしてきたことが、ここ最近になってモヤモヤと頭の中を巡る。
このままじゃ駄目だと、咲良のアドバイスもあり、この先のことを考えて晃平とちゃんと話すことを決めたのだ。
ガチャ…
玄関を開ける音と共に、「ただいま」と小さく声が聞こえた。
「晃平っ…」
「晃平くん、お邪魔してまーす」
雪乃の声に被せて、咲良が顔を出す。
「咲良さん、来てたんですね」
「うん、ちょっと晃平くんと話がしたくて」
「…じゃあ、ちょっと着替えてきます」
晃平は昨日のことがあるからか、雪乃と目も合わそうとしない。
雪乃は一瞬心がめげそうになるも、〝今日はもう一度ちゃんと晃平と話すんだ〟と耐えた。
着替え終わった晃平が部屋から出てくると、
「晃平、昨日はごめんなさい」
と、雪乃は頭を下げる。
咲良は雪乃を見守るように、じっとその様子を見つめる。
「雪乃…」
晃平の低い声に、雪乃は肩を揺らした。
嫌な予感がよぎる雪乃は、話を反らすように声を上げる。
「晃平、話があるの!いつ頃から一緒に住めるかなぁって…!それ決めておかなきゃ、私も引っ越し準備進まないし…!」
一度、晃平は咲良に目を向けた。
「晃平くん、私も雪乃の姉として、ちゃんと晃平くんの気持ちを聞きたいな」
咲良は凜とした目でそう言って晃平の言葉を待つ。
その時の晃平の沈黙はたったの一分や二分だったのかもしれない。
だけど、雪乃にはやけに長く、時計の針の音だけが響いていたように思えた。
そして、晃平はゆっくりと口を開く。
「ごめん、俺は…、雪乃を幸せに出来ない…」
「晃…平…」
「あの日、俺はお前に命を助けてもらった…。その代わりに、一番大事な人を…幸せにすることを諦めた」
「……」
「だけど、いつも無邪気に俺に笑いかけてくれる雪乃を、幸せにしてあげたいって思うようになっていったのは、本当なんだ…」
「だったら…っ」
晃平は静かに首を振った。
「きっと、また同じことになる」
「同じこと…?」
「誰といても俺は不意に瑞希を思い出すし、忘れることはない。それできっとまた雪乃を不安にさせる」
「私なら、大丈夫だよっ…!」
晃平からの別れの言葉だと、終わりに向かっているんだと分かっていても、頭が追い付かない。
〝やめて…お願い、やめて〟
そんな言葉が雪乃の心の中をいっぱいにしていた。
「もう、自分の気持ちに嘘をつくことは出来ない」
「…別れるって、言うの?」
「ごめん…」
「…やめてっ!そんな言葉聞きたくないっ!」
雪乃は力の限り、テーブルに並べたばかりのお皿を払い除ける。
ガッシャーン…!
大きな音を立て、壁や床に散らばった粉々のお皿やグラス…
〝こんなはずじゃなかったのに…〟
震える両手で、溢れる涙でぐちゃぐちゃの顔を覆い、雪乃は膝から崩れ落ちた。
雪乃の泣く声だけが部屋に響く。
「…晃平くん、ごめんね。今日は雪乃連れて帰るね…。さっきの話、もう少しだけ待ってもらってもいいかな…?」
「…はい」
二人が帰った後の部屋で、晃平は一人壁に凭れて頭を抱えた。
どういう決断を下しても、結局は傷付ける…
何が正解なのかさえ分からなくなっていた。
カチャ…
晃平は割れたお皿の破片を拾いながら、先程の雪乃の様子を思い出す。
雪乃の気持ちを考えれば、いたたまれない気持ちでいっぱいだった…
一人では心細く、咲良も一緒だ。
「んんー!美味しそう」
「ちょっとお姉ちゃん、まだ食べないでよ」
「分かってるって」
結婚が決まったにも関わらず、晃平が〝一緒に住もう〟と言い出さないことや、男女の関係を持とうとしないことなど、今まで考えないようにしてきたことが、ここ最近になってモヤモヤと頭の中を巡る。
このままじゃ駄目だと、咲良のアドバイスもあり、この先のことを考えて晃平とちゃんと話すことを決めたのだ。
ガチャ…
玄関を開ける音と共に、「ただいま」と小さく声が聞こえた。
「晃平っ…」
「晃平くん、お邪魔してまーす」
雪乃の声に被せて、咲良が顔を出す。
「咲良さん、来てたんですね」
「うん、ちょっと晃平くんと話がしたくて」
「…じゃあ、ちょっと着替えてきます」
晃平は昨日のことがあるからか、雪乃と目も合わそうとしない。
雪乃は一瞬心がめげそうになるも、〝今日はもう一度ちゃんと晃平と話すんだ〟と耐えた。
着替え終わった晃平が部屋から出てくると、
「晃平、昨日はごめんなさい」
と、雪乃は頭を下げる。
咲良は雪乃を見守るように、じっとその様子を見つめる。
「雪乃…」
晃平の低い声に、雪乃は肩を揺らした。
嫌な予感がよぎる雪乃は、話を反らすように声を上げる。
「晃平、話があるの!いつ頃から一緒に住めるかなぁって…!それ決めておかなきゃ、私も引っ越し準備進まないし…!」
一度、晃平は咲良に目を向けた。
「晃平くん、私も雪乃の姉として、ちゃんと晃平くんの気持ちを聞きたいな」
咲良は凜とした目でそう言って晃平の言葉を待つ。
その時の晃平の沈黙はたったの一分や二分だったのかもしれない。
だけど、雪乃にはやけに長く、時計の針の音だけが響いていたように思えた。
そして、晃平はゆっくりと口を開く。
「ごめん、俺は…、雪乃を幸せに出来ない…」
「晃…平…」
「あの日、俺はお前に命を助けてもらった…。その代わりに、一番大事な人を…幸せにすることを諦めた」
「……」
「だけど、いつも無邪気に俺に笑いかけてくれる雪乃を、幸せにしてあげたいって思うようになっていったのは、本当なんだ…」
「だったら…っ」
晃平は静かに首を振った。
「きっと、また同じことになる」
「同じこと…?」
「誰といても俺は不意に瑞希を思い出すし、忘れることはない。それできっとまた雪乃を不安にさせる」
「私なら、大丈夫だよっ…!」
晃平からの別れの言葉だと、終わりに向かっているんだと分かっていても、頭が追い付かない。
〝やめて…お願い、やめて〟
そんな言葉が雪乃の心の中をいっぱいにしていた。
「もう、自分の気持ちに嘘をつくことは出来ない」
「…別れるって、言うの?」
「ごめん…」
「…やめてっ!そんな言葉聞きたくないっ!」
雪乃は力の限り、テーブルに並べたばかりのお皿を払い除ける。
ガッシャーン…!
大きな音を立て、壁や床に散らばった粉々のお皿やグラス…
〝こんなはずじゃなかったのに…〟
震える両手で、溢れる涙でぐちゃぐちゃの顔を覆い、雪乃は膝から崩れ落ちた。
雪乃の泣く声だけが部屋に響く。
「…晃平くん、ごめんね。今日は雪乃連れて帰るね…。さっきの話、もう少しだけ待ってもらってもいいかな…?」
「…はい」
二人が帰った後の部屋で、晃平は一人壁に凭れて頭を抱えた。
どういう決断を下しても、結局は傷付ける…
何が正解なのかさえ分からなくなっていた。
カチャ…
晃平は割れたお皿の破片を拾いながら、先程の雪乃の様子を思い出す。
雪乃の気持ちを考えれば、いたたまれない気持ちでいっぱいだった…
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