君と、もみじ

Mari

文字の大きさ
3 / 29
第一章

小さな期待

しおりを挟む
その日の放課後、いつものように教室で読書をしていると、同級生で元男子バレー部の笹田宏介(ささだ こうすけ)が入り口から顔を覗かせた。

「おっ、奏発見」
「宏介、どうしたのー?」
「どうしたのー?じゃねぇよ。お前電話番号もメールアドレスも変えただろ」
「あ…、ごめん六月頃に変えちゃった」
そう言って笑うと、
「引退してすぐくらいか」
宏介が教室に入ってくる。

「毎年恒例の〝三年を送り出す会〟の詳細が回ってきたんだけど、お前に転送するとエラーになるし」

〝三年を送り出す会〟は、引退した三年生チームと、二年生&一年生チームに分かれて試合をした後、そのまま体育館にお菓子やジュース、ケータリングが準備される恒例行事だ。
男子バレー部、女子バレー部合同の行事ということもあり、日時などの詳細連絡はわりとしっかりしている。

「そっか、すっかり忘れてた」
「教えろ、転送すっから」
「オッケー」
宏介に新しい携帯番号とメールアドレスを教えていると、背後に気配を感じた。

「何やってんすか」
教室の窓の向こうから響がぬっと顔を出している。
「うぉっ!」
宏介はビクッと肩を揺らしながらも、あまりのおかしさに笑いながら言った。
「〝三年を送り出す会〟の詳細を転送してんだよ」
「そんなこと言って、どさくさに紛れて奏ちゃんの新しい携帯番号ゲットしてるし…」
ため息混じりに響がそんなことを言う。

「奏、お前相変わらず響に愛されてんね」
「はっ?」
前々から響がこんな調子だからか、部内ではかなりの名物となっていた。


「響ー、練習サボんなよー」
そう言いながら宏介は教室を後にする。


「かーなーでーちゃん」
「…」
「俺にだけだと思ってたのになぁ」
「はい?」
「新しい携帯番号とメールアドレス教えてくれたの」

こいつはまたこんな期待させるようなことを…。
教室で話すようになった頃、携帯が繋がらないと押しに押されて教えた携帯番号とアドレス。
「…あのねぇ、そんなわけないでしょ」
「そんなの分かってるけどさぁ」
膨れっ面の響を目の前にして、嬉しいと思ってしまう私も馬鹿げてるよなぁ…と苦笑した。

「彼女居るくせに、何言ってるんだか」
「あぁ…、うん…」

あれ?
歯切れが悪い…。

「どうかした?」
「…気になる?」
「…いや、いいわ…」
「こらこら!」
聞けば、彼女への不満がタラタラと出てきた。
自由人な響にとっては、彼女からの束縛やルールなど、苦痛でしかないのだろう。

小さな期待が一瞬だけ心を占領したが、それでも、別れないのは〝好き〟という気持ちが残っているからだということも私は分かっている。
墓穴掘ったな…
彼女の話なんて、掘り下げて聞くことじゃない。
余計に苦しくなるだけだ。

「おっと…そろそろ休憩終わる。行くね」
「うん…」
「気を付けて帰ってよ?」
「うん」

一緒に帰ることが出来る関係なら、どんなに幸せだろう。
今日も素直な気持ちに蓋をしたまま、一人教室を出た。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...