君と、もみじ

Mari

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第一章

心の内

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ミーティングは同じ体育館内で三年生、一・二年生に分かれて行われる。
女子バレー部も一緒だ。

元女子バレー部の千夏と一緒に学校へと向かいながら、私は、ずっと先程の響と彼女の様子を思い出しては、一人悶々としている。

響はなんで今日の試合に私を呼んだのだろう…


「奏、さっきのさ…、陽菜ちゃんだっけ?」
千夏が遠慮がちに話し始めた。

「会いたくなかったでしょ」
「…」
「いい加減、観念しろ。好きなんでしょ?響くんのこと」
「…うん」
「そっか。つらかったね、奏…」
今は一人になれば心を平然なままで保てそうにない。
千夏の、なだめるような優しい声に視界は涙で歪みそうなほどだった。



その後ミーティングも終わり、千夏と一緒に帰るために女子バレー部のミーティングが終わるのを待っていると、
「奏、そういえばこの前、小林先輩に偶然会ってさ、お前の連絡先聞かれた」
そう話を切り出したのは、同級生で元バレー部の中野雅也(なかの まさや)。

小林先輩は一つ上の元バレー部の先輩で、私の元彼だ。

「まさか教えてないよね…?」
「あ、やっぱり駄目だった?」
「…教えたの?」

今更、元彼と連絡を取り合う必要はない。
先輩は、大学で新しい彼女が出来たんだもの。
それで私は六月に振られたのだ。
やっと、やっと忘れられたのに、もう思い出したくもないのに…。


「中野先輩ー、そんな余計なことしないで下さいよー」
近くで談笑していた響が、膨れっ面で話に入ってくる。
「なんだよ、響。お前、やっぱり奏のこと好きなの?
可愛い彼女がいるくせにー。見てたぞ、今日の試合」
ニヤニヤしながら雅也がからかうと、響は何食わぬ顔で話を続けた。

「だって、小林先輩って、大学で浮気したっていうし、それで奏ちゃん振られちゃったんすよ?
今更連絡取り合ったって、奏ちゃん傷つくだけじゃないっすか」

〝好きなの?〟の答えにはなっていないものの、そうやって庇ってくれる響の気持ちが嬉しい。

「まぁ、確かになぁ。ごめんな、奏。俺、何も考えずに教えちゃって…」
「ううん、電話に出なきゃいいだけだから」


小林先輩か…

あんなにツラい失恋したのに…、なんだか不思議。
これも、響を好きになったおかげかな。
失恋した後、響と放課後に話すようになって、楽しくて、いつの間にか失恋した辛さも消えていた。

今は今で、響に片思いしてるし辛くはあるけど、それでも浮気されて振られるよりは幾分マシなのかもしれない。


「奏ちゃん?」
「えっ?あ、何?」
「大丈夫?」
私がボーッとしていたからか、響が顔を覗き込んできた。
「だ、大丈夫!」
不意に近付いた顔にビックリした私は、思わず身体を反らす。

その時、女子バレー部のミーティングが終わった千夏が走ってきた。
「奏、待たせてごめん!この後三年のバレー部でカラオケ行くことになっちゃった!奏も行く?」
「あ、ううん。私のことは気にしないで、行っておいで」
「本当に?…大丈夫?」
「うん」

千夏と手を振り帰ろうとすると、
「じゃあ、奏ちゃん俺と一緒に帰ろ。送るよ」
「え…」
「たまにはいいじゃん、青春っぽくて」
「…バカなの?」
「ひどっ」
突っぱねてみたものの、そのまま響と一緒に帰ることになった私の鼓動は、尋常じゃないほど高鳴る。

今日はドキドキしたり落ち込んだり、嬉しかったり…
本当忙しいな…
そんなことを思いながら、斜め前を歩き出した響の横顔を見て、私もまた笑顔が零れた。





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