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第四章
混乱
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卒業式、前夜。
「明日の卒業式、おめでとう!乾杯ー!」
「いや、それおかしいから」
「じゃあ…二人の大学と専門学校合格に乾杯ー!」
私は千夏に誘われて、カラオケに来ていた。
「あぁ、早いよー!お別れしたくないー!」
別れを惜しむ千夏に苦笑する。
千夏は卒業後、専門学校に進学。
私は大学に進学。
別々の学校へと進むわけだが、距離は目と鼻の先だ。
「会おうと思ったら会えるんだし、永遠の別れじゃないよ」
「分かってるけどー…」
あっという間の三年間。
色々あったな…
小林先輩と出会って、付き合って、別れが訪れ…
そして響を好きになった。
響との気まずさは未だに解消されない。
顔を合わせてもどこかお互いぎこちなく、会話はめっきり減ってしまった。
「ねぇ、奏」
唄う曲を探しながら、千夏が話し掛ける。
「奏はさ、小林先輩と響くん、どっちが好きなの?」
「…」
「彼女が居るとか、一度浮気されたとか、そういうの抜きで考えて、奏の素直な気持ちは?」
〝響〟だと即答出来るはずだった。
だけど頭の中は混乱状態で、自分の気持ちがよく分からない。
「…複雑だねぇ」
千夏は、答えられない私をじっと見つめて、心の声を読み取ったかのようにそう呟いた。
正直、色々ありすぎて疲れたのかもしれない。
傷付いたり、辛くて泣いたり、嫉妬したり、根拠の無い期待を持ったり…
そういった恋愛に、心の中はぐちゃぐちゃに壊れそうで、少し恋というものから離れて過ごしたかった。
「私、小林先輩の浮気の原因知った時から、自分の気持ちがよく分かんなくて…」
そう話し始めた私の言葉に、千夏は静かに耳を傾ける。
「響のこと好きだけど…、近付く程つらくて。小林先輩と一緒に居れば、ドキドキするのも確かだし…。こんな中途半端な気持ちで、どっちが好きかって言っても、どっちにも失礼な気がするの」
千夏は小さく微笑むと、「奏らしいね」と呟いた。
一時間程経った頃、私はドリンクバーに向かう。
そこで偶然にも再会したのは思わぬ人物だった。
「あれぇ?あなた小林くんの…」
「っ…」
思わず後退る…。
声を掛けてきたのは小林先輩があの頃浮気した相手だった。
「誰?」と、彼女の隣に居た男性が聞くと、
「あぁ、元彼の元カノー」
そう言って彼女は笑いながら答える。
苦手…
一番苦手なタイプ。
ここはさっさとルームに戻りたい…
だけど声を掛けられといて無言で立ち去るのも、それはそれで超イヤな奴じゃん、私。
うだうだと考えていると彼女は言った。
「あの頃はごめんねぇ?」
なんだそれ…
そんな軽く謝られても…
「いえ…」
短く答えると、彼女は一度目を伏せて予想外の表情を見せる。
それはなんだか、寂しそうな表情。
すると彼女はポツリと言葉を零した。
「小林くん、あなたのところに戻ってきた?」
「え…?」
「…言っとくけど、私だって振り向かせたくて必死だったし、付き合い始めてからも辛かったんだから」
彼女のその言葉が意外すぎて、言葉を返せずにいると、彼女は話を続ける。
「…一緒に居ても、あなたのこと思い出してたんじゃないかな。時々、あなたの名前で呼ばれたし」
思ってもいなかった言葉。
目を丸くした私に、彼女はため息混じりに笑った。
「結局は、私じゃ駄目だったってこと。まじ失礼よねぇ!まぁ、今はこうして彼氏も居るしぃ、もう過去のことだけどぉ」
〝じゃあねぇ〟と手を振りながら去っていった彼女を、呆然と見つめる私の頭の中は、もちろん大混乱だ。
語尾を伸ばして気だるそうに話す彼女の声が、言葉と一緒に余計に頭に残る。
今更、どうしろと言うの?
ドリンクバーの端で、私は一人悶々としていた。
「明日の卒業式、おめでとう!乾杯ー!」
「いや、それおかしいから」
「じゃあ…二人の大学と専門学校合格に乾杯ー!」
私は千夏に誘われて、カラオケに来ていた。
「あぁ、早いよー!お別れしたくないー!」
別れを惜しむ千夏に苦笑する。
千夏は卒業後、専門学校に進学。
私は大学に進学。
別々の学校へと進むわけだが、距離は目と鼻の先だ。
「会おうと思ったら会えるんだし、永遠の別れじゃないよ」
「分かってるけどー…」
あっという間の三年間。
色々あったな…
小林先輩と出会って、付き合って、別れが訪れ…
そして響を好きになった。
響との気まずさは未だに解消されない。
顔を合わせてもどこかお互いぎこちなく、会話はめっきり減ってしまった。
「ねぇ、奏」
唄う曲を探しながら、千夏が話し掛ける。
「奏はさ、小林先輩と響くん、どっちが好きなの?」
「…」
「彼女が居るとか、一度浮気されたとか、そういうの抜きで考えて、奏の素直な気持ちは?」
〝響〟だと即答出来るはずだった。
だけど頭の中は混乱状態で、自分の気持ちがよく分からない。
「…複雑だねぇ」
千夏は、答えられない私をじっと見つめて、心の声を読み取ったかのようにそう呟いた。
正直、色々ありすぎて疲れたのかもしれない。
傷付いたり、辛くて泣いたり、嫉妬したり、根拠の無い期待を持ったり…
そういった恋愛に、心の中はぐちゃぐちゃに壊れそうで、少し恋というものから離れて過ごしたかった。
「私、小林先輩の浮気の原因知った時から、自分の気持ちがよく分かんなくて…」
そう話し始めた私の言葉に、千夏は静かに耳を傾ける。
「響のこと好きだけど…、近付く程つらくて。小林先輩と一緒に居れば、ドキドキするのも確かだし…。こんな中途半端な気持ちで、どっちが好きかって言っても、どっちにも失礼な気がするの」
千夏は小さく微笑むと、「奏らしいね」と呟いた。
一時間程経った頃、私はドリンクバーに向かう。
そこで偶然にも再会したのは思わぬ人物だった。
「あれぇ?あなた小林くんの…」
「っ…」
思わず後退る…。
声を掛けてきたのは小林先輩があの頃浮気した相手だった。
「誰?」と、彼女の隣に居た男性が聞くと、
「あぁ、元彼の元カノー」
そう言って彼女は笑いながら答える。
苦手…
一番苦手なタイプ。
ここはさっさとルームに戻りたい…
だけど声を掛けられといて無言で立ち去るのも、それはそれで超イヤな奴じゃん、私。
うだうだと考えていると彼女は言った。
「あの頃はごめんねぇ?」
なんだそれ…
そんな軽く謝られても…
「いえ…」
短く答えると、彼女は一度目を伏せて予想外の表情を見せる。
それはなんだか、寂しそうな表情。
すると彼女はポツリと言葉を零した。
「小林くん、あなたのところに戻ってきた?」
「え…?」
「…言っとくけど、私だって振り向かせたくて必死だったし、付き合い始めてからも辛かったんだから」
彼女のその言葉が意外すぎて、言葉を返せずにいると、彼女は話を続ける。
「…一緒に居ても、あなたのこと思い出してたんじゃないかな。時々、あなたの名前で呼ばれたし」
思ってもいなかった言葉。
目を丸くした私に、彼女はため息混じりに笑った。
「結局は、私じゃ駄目だったってこと。まじ失礼よねぇ!まぁ、今はこうして彼氏も居るしぃ、もう過去のことだけどぉ」
〝じゃあねぇ〟と手を振りながら去っていった彼女を、呆然と見つめる私の頭の中は、もちろん大混乱だ。
語尾を伸ばして気だるそうに話す彼女の声が、言葉と一緒に余計に頭に残る。
今更、どうしろと言うの?
ドリンクバーの端で、私は一人悶々としていた。
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