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第四章
卒業式
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そして迎えた卒業式。
私たちは三年間の高校生活を終えた。
これから新しい生活がスタートする。
しばらく恋はお休みして、勉強やバイトなど自分のことに専念しよう。
それが、昨日一晩考え込んで出した答え。
響のことも小林先輩のことも、一旦心の奥に置いて、高校卒業と同時に、リセットするんだ。
自分のぐちゃぐちゃな心を。
「あぁぁぁ、卒業式なんてあっという間だねぇ」
千夏が感慨深く体育館を見つめる。
式後の最後のホームルームを終え、私たちは玄関先まで来ていた。
周りでは、部活や委員会の後輩たちがそれぞれに三年生との別れを惜しんでいる人たちで溢れている。
その光景はものすごく寂しくて、だけどなんだか希望に溢れていた…。
千夏が靴を履きながら言う。
「この後、女子バレー部の後輩が30分くらい時間欲しいって言ってて体育館に集合するんだけど、奏も行く?」
「ううん、私は大丈夫。待ってる」
「そっか」
そんな話をしていると…
「奏先輩ー!」
男子バレー部の後輩マネージャーが花束を持って駆け寄ってくる。
「穂乃花(ほのか)ちゃん!」
「卒業おめでとうございます!」
「ありがとう」
花束を受け取ると、卒業という実感を一層強く感じた。
「あと、これ部員からの寄せ書きです」
これぞ男子!という、何とも言えない字が並ぶ寄せ書きに目を落とすと、オレンジ色のペンで書かれた〝響〟の文字に心臓がドクンと音を鳴らす。
今泣きそうになれば止められなくなる…、そう思った私は、あえて文章を読まないように慌てて視線を外した。
「他の部員もあっちに居るんですけど、奏先輩も行きましょうよ」
そう誘われるが、私の心はそんなに強くない。
まだ、響に会うには時間が必要だった。
会えばきっとまた、〝好き〟という感情が沸き上がってくる。
私の勝手な心の弱さだ。
「ううん、余計に寂しくなっちゃうから遠慮しとく」
「えぇ、そうなんですかー?」
残念そうに穂乃花が肩を落とす。
「穂乃花ちゃん、ありがとう。頑張ってね」
「はいっ!奏先輩も!」
「うん」
そうして穂乃花と手を振ると、タイミング良く千夏が女子バレー部の後輩たちに呼ばれる。
「奏、ちょっと行ってくる!待ってて」
「あ、じゃあ終わったら電話して。ちょっと最後に教室に行ってくる」
「うん、分かった!」
三年間過ごした校舎。
桜の花びらがヒラヒラと舞う中、私はもう一度来た道を戻った。
毎朝登校して靴を履き替えた正面玄関。
そこから右の廊下を歩いていくと、渡り廊下があり、その先に三年生の教室が並ぶ。
三年生の教室は窓側が中庭に面していて、落ち着く環境にある。
教室に入ると、そこにはもう誰も居ない。
ガランとした教室に私はもう一度足を踏み入れた。
窓際の私の席…
カタンと小さく音を立てて椅子を引くと、切なさが込み上げる。
放課後はここでいつも、響を待ってた。
あの頃が懐かしい。
中学の頃から一緒で、気付けばいつも響は側に居た。
自由奔放で、強引で、だけど人の心の痛みが分かる優しい人。
そんな響をいつの間にか好きになって…
彼女が居るから諦めようって何度も思って…
それでも、ここで言葉を交わす度に想いは膨らんでいった。
もっと…、もっと早くに諦めるべきだったんだ。
こんなに苦しくなる前に。
そっか…
私が今好きなのは、小林先輩じゃない。
もうとっくに、響だ。
響を好きでいることの辛さから、小林先輩の優しさに逃げようとしただけだったんだ。
揺れていた心の正体に気付いた瞬間、一つ涙が零れ落ちる。
すっかり緑色の葉になったもみじの木が、サァっと風に吹かれた…。
私たちは三年間の高校生活を終えた。
これから新しい生活がスタートする。
しばらく恋はお休みして、勉強やバイトなど自分のことに専念しよう。
それが、昨日一晩考え込んで出した答え。
響のことも小林先輩のことも、一旦心の奥に置いて、高校卒業と同時に、リセットするんだ。
自分のぐちゃぐちゃな心を。
「あぁぁぁ、卒業式なんてあっという間だねぇ」
千夏が感慨深く体育館を見つめる。
式後の最後のホームルームを終え、私たちは玄関先まで来ていた。
周りでは、部活や委員会の後輩たちがそれぞれに三年生との別れを惜しんでいる人たちで溢れている。
その光景はものすごく寂しくて、だけどなんだか希望に溢れていた…。
千夏が靴を履きながら言う。
「この後、女子バレー部の後輩が30分くらい時間欲しいって言ってて体育館に集合するんだけど、奏も行く?」
「ううん、私は大丈夫。待ってる」
「そっか」
そんな話をしていると…
「奏先輩ー!」
男子バレー部の後輩マネージャーが花束を持って駆け寄ってくる。
「穂乃花(ほのか)ちゃん!」
「卒業おめでとうございます!」
「ありがとう」
花束を受け取ると、卒業という実感を一層強く感じた。
「あと、これ部員からの寄せ書きです」
これぞ男子!という、何とも言えない字が並ぶ寄せ書きに目を落とすと、オレンジ色のペンで書かれた〝響〟の文字に心臓がドクンと音を鳴らす。
今泣きそうになれば止められなくなる…、そう思った私は、あえて文章を読まないように慌てて視線を外した。
「他の部員もあっちに居るんですけど、奏先輩も行きましょうよ」
そう誘われるが、私の心はそんなに強くない。
まだ、響に会うには時間が必要だった。
会えばきっとまた、〝好き〟という感情が沸き上がってくる。
私の勝手な心の弱さだ。
「ううん、余計に寂しくなっちゃうから遠慮しとく」
「えぇ、そうなんですかー?」
残念そうに穂乃花が肩を落とす。
「穂乃花ちゃん、ありがとう。頑張ってね」
「はいっ!奏先輩も!」
「うん」
そうして穂乃花と手を振ると、タイミング良く千夏が女子バレー部の後輩たちに呼ばれる。
「奏、ちょっと行ってくる!待ってて」
「あ、じゃあ終わったら電話して。ちょっと最後に教室に行ってくる」
「うん、分かった!」
三年間過ごした校舎。
桜の花びらがヒラヒラと舞う中、私はもう一度来た道を戻った。
毎朝登校して靴を履き替えた正面玄関。
そこから右の廊下を歩いていくと、渡り廊下があり、その先に三年生の教室が並ぶ。
三年生の教室は窓側が中庭に面していて、落ち着く環境にある。
教室に入ると、そこにはもう誰も居ない。
ガランとした教室に私はもう一度足を踏み入れた。
窓際の私の席…
カタンと小さく音を立てて椅子を引くと、切なさが込み上げる。
放課後はここでいつも、響を待ってた。
あの頃が懐かしい。
中学の頃から一緒で、気付けばいつも響は側に居た。
自由奔放で、強引で、だけど人の心の痛みが分かる優しい人。
そんな響をいつの間にか好きになって…
彼女が居るから諦めようって何度も思って…
それでも、ここで言葉を交わす度に想いは膨らんでいった。
もっと…、もっと早くに諦めるべきだったんだ。
こんなに苦しくなる前に。
そっか…
私が今好きなのは、小林先輩じゃない。
もうとっくに、響だ。
響を好きでいることの辛さから、小林先輩の優しさに逃げようとしただけだったんだ。
揺れていた心の正体に気付いた瞬間、一つ涙が零れ落ちる。
すっかり緑色の葉になったもみじの木が、サァっと風に吹かれた…。
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