君と、もみじ

Mari

文字の大きさ
29 / 29
最終章

響と、私

しおりを挟む
「…で?」
千夏がため息混じりに言い放つ。

「結局は一年も前から実は両思いだったと?」
そう言って和真は呆れ顔だ。

私と響は顔を見合わせて頷く。

お互いに気持ちを伝え合った後、私たちは外で待っていてくれた千夏と和真に報告した。
二人には随分と心配をかけ、やきもきさせたことだろう。
この一年のことを思い返すと、情けなくて恥ずかしくて顔を上げられない。
すると、千夏と和真が一度息をついて笑った。
「まぁ、良かったよ。やっと二人とも素直になれて」
「本当っ。俺なら彼女が別れてくれなくても、気持ちだけは先に伝えるのにさぁ。響、そういうとこ律儀っていうか何と言うかっ」


響の話によると、私の卒業後、響は陽菜に頭を下げたのだと言う。
〝奏ちゃんのこと中学の頃からずっと好きで、忘れられなかった〟と、正直に打ち明けたらしい。
陽菜は沈黙の後、〝告白する前から知ってた。だからいつも不安だった〟とついには別れを受け入れてくれたそうだ。


「よしっ、じゃあ今日は二人の奢りでカラオケでも行くか!」
千夏がそう切り出す。
〝カラオケ好きだなぁ〟と私は苦笑するが、今日ばかりは何も言えない。

「いいっすね!」
「いっそのこと、和真と私も付き合っちゃう?」
「えっ!」
「結構楽しいかもよー」
「はいっ」
「……いや、おい。冗談だから」
「えぇー、冗談にしないで下さいよー」

千夏と和真のそんなやり取りに笑いながら、二人の後ろを響と並んで歩く。

カラオケに向かう途中、もみじの並木道を見掛けた。
引き寄せられるように目が離せない。
響も同じように気付くと、
「奏ちゃんがいっぱい」
と冗談っぽく笑う。
「いや、それおかしいから」
と私も突っ込んだ。

会話や態度なんて、今までと何ら変わらない。
だけど…
どちらからともなく、そっと繋ぐ手からお互いを想う気持ちが溢れ出ていた。
響のぬくもりを感じると、〝ただの先輩後輩〟じゃなくなったことを実感する。
「奏……って、呼んでもいい?」
突然の響のその言葉に、湯気でも出るんじゃないかと思う程、顔が熱い。
響はそんな私を見て、プッと吹き出して笑った。
「顔、真っ赤!」
「ひ、ひどい!そうさせたのは響でしょっ」
「奏ちゃん、それじゃこの先持たないよ?」
「どういうことよっ」
「二人で居れば、多分奏ちゃんが真っ赤になるようなことばっかりってこと」
「っ…!」
駄目だ、心臓が持たない。
絶対からかって楽しんでる、こいつ。

「奏ちゃん、余計にもみじみたい。やっぱり好きだわぁ、もみじ」
そう言って、響は私の手を引いてまた歩き出す。


この先、きっと振り回される。
真っ赤になっては、それを響は楽しむのだろう。
でも、そんな毎日もきっと幸せに違いない。

響がいつももみじの葉を差し出してきていたからか、私の中で響ともみじは〝セット〟だ。
それと同じように、響と私もいつか二人で一つと思えるようになったらいいな。

そんな想いを抱きながら、響の隣で微笑んだ。









しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

カラフル

凛子
恋愛
いつも笑顔の同期のあいつ。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...