もふもふの銀猫は公爵令嬢に恋をする

松石 愛弓

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あなたのためなら

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「答えたくありません」
 サファーロは、きっぱりと言った。

「…そうですか」
 そう言われたら、無理に聞き出すわけにもいかない。

「僕が前世で誰だったか、シャルル嬢に推理してほしいのです。
 そうすれば、答えが出るまで、あなたは僕の事を考えたり、気になったりするかもしれない。
 一瞬でも、あなたの頭の中を僕で占領したいのです」

 気障なセリフをさらっと言ってのけるサファーロに、赤面して俯いてしまうシャルル。

「魔法学校の授業も終わっている時間ですし、今日は息抜きしませんか?
 シャルル嬢の行きたい所へお連れしますよ。瞬間移動しますので、遠方でも大丈夫です」

 春風のように優しい雰囲気のサファーロを見ていると、なんだか懐かしい気持ちがこみあげてくる。
 確かに、前世で会っているような…。この雰囲気を纏っていたのは…多分…。
 でも、確信ではない。もしも違う人の名前を言ってしまったら、彼は傷つくだろう。
 そう思うと、迂闊なことは言えないと思うシャルルだった。

「…では、おばあさまにお会いしたいのですが、かまいませんか? 隣町なのですが」

 魔法学校で寮生活をするようになってから、祖母に会えなかった。
 子供のころ、いつも可愛がってくれた優しい祖母に久し振りに会いたくなってしまった。

「承知しました」
 サファーロに祖母の家の場所を説明し、魔法で転移する。

「シャルル嬢、顔色が悪いですね。心配なので、お屋敷の中まで付き添います」
「でも、男性をお連れしては祖母が驚きますし…」
「大丈夫です。女装もできますから」

 サファーロは一瞬で美少女に変身した。
 若干、強引な気もしたが、門の外で待っていてもらうのも悪いと思い、一緒に訪ねることに。

 祖母の家の呼び鈴を鳴らすと執事や侍女が出迎えてくれた。

「シャルルお嬢様、お久し振りでございます。大奥様も会いたがっておられました。どうぞこちらに」
「彼女は友達なの」
「ようこそ。歓迎いたします」

 門からエントランスまで、おばあさまの好きな薔薇たちが優美に咲き誇っていた。
 
 廊下を皆で歩いていると、執事が言いにくそうにつぶやく。

「実は…大奥様は最近、お体が悪くていらっしゃいます。もちろん、お医者様にも診ていただいているのですが…」

「そんな…おばあさまはどんな病気なのですか?」

「病気…というか、魔法で良くなるらしいのです。魔導士が言うには、白竜の住む谷の湖にある宝玉の光を浴びれば治るかもしれないと…」

「白竜の住む谷って、何処にあるんですか? どんな色や形の宝玉なのですか?」

「それは…私にはわかりかねます…」

 執事は己の無力さを残念に思い、詫びるように答えた。


 おばあさまの部屋を訪ねると、ベッドで休んでいて顔色も少し悪い。
 シャルルは心配で、ベッドに駆け寄った。

「おばあさま。シャルルです。お会いしたかった。お体は大丈夫ですか?」

 そっと目を開けたおばあさまは、嬉しそうに笑ってシャルルの手を握った。

「シャルル。会いたかったわ。あなたに会えて嬉しい…」

 痩せた手と握力の無さに、シャルルは大きな不安を覚える。

「おばあさま、白竜の住む谷の湖にある宝玉の光を浴びたら、おばあさまの体は良くなるのですか?」

 シャルルは、おばあさまの儚げな手をそっと握り返す。

「…わからないわ。そんな危険な所へ行っては駄目よ。シャルルには安全な所で幸せでいてほしい…」

「でも、おばあさま…」

「心配しないで。大丈夫よ…」

 大丈夫なわけなどないのに、大丈夫なふりをして微笑むおばあさまを見ているのがつらくて、シャルルは長居できずにおばあさまの家をあとにした。


 門の外へ出た途端、心配で足元をふらつかせ倒れそうなシャルルをサファーロが抱きとめる。

「シャルル嬢。僕が探してきます。白竜の住む谷の湖にある宝玉を」

 シャルルは信じられないという表情で、サファーロを見つめる。

「すぐには無理ですが、なるべく早く。明日の朝にでも出発します」

「…そんな…そこまで甘えられません! 私が行きます。
 サファーロ様には関係の無いことです。こんな危険に巻き込むわけには…」

「僕が、自分の意志で行きたいのです。
 シャルル嬢、あなたのためなら何だってしたい。
 あなたが宝玉を探しに行くなら、勝手に護衛しますよ」

 サファーロの熱意と熱い視線に、説得は無理かもしれないと思うシャルル。

 でも、彼を危険な目に遭わせるわけにはいかない。

 そう思いながらも、宝玉を見つける自信もなくて不安に揺れるシャルルを、サファーロは強く抱きしめるのだった。
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