もふもふの銀猫は公爵令嬢に恋をする

松石 愛弓

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父を説得

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「父上、私は旅に出ます!」

実家の執務室の扉を開けるなり、サファーロは意気揚々と宣言した。

「サファーロ、用件は部屋に入ってから言いなさい。旅に出ることは、もう決定なのか?」

 旅に出ようと思う、ではなく、出ます!と言われ、ペリゴール辺境伯爵はサファーロの決意の強さにあきれていた。

 可愛い我が子が心配で旅になど行かせたくはないが、サファーロのやりたいことを阻止したいとも思わなかった。

「白竜の住む谷の湖にある宝玉を探しにゆきます。
 その宝玉の光を浴びれば、ある方の病を治すことが出来るかもしれません。
 父上、白竜の居場所に心当たりはありませんか?」

「白竜の谷?
 そういえば、竜の守る宝玉には不思議な力が宿っているとは聞いたことがあるが、詳細な場所までは分からないな。
 そんな、あてもない旅をするのか? 魔法学校はどうするんだ」

「卒業に必要な単位は取得済みです。出席日数も足りると思います。
 一刻も早く、宝玉を手に入れたいのです。悠長に卒業を待ってはおれません!」

 サファーロの熱意に、伯爵は旅を許可するしかなさそうだと諦めた。

「竜の宝玉が必要な方は、おまえの大切な人なんだね?」

「はい! 私の大切な方のおばあさまです。…と言っても、彼女は私には手の届かない方ですが…」
 
 ままならない恋に身をやつす息子を不憫に思う。せめて、息子が後悔しない生き方をさせてやりたい。

「旅先では魔物も出没する。命の保証は無いと思え」

「はい!私の我が侭を許していただき、感謝いたします」

「護衛は付けるぞ。私の言うことも聞きなさい」

「ありがとうございます。では、一人だけ、お願いします」

「ひとり? そんな少ない護衛で旅に出すほど、私は薄情な親ではないぞ!
 私兵を少なくとも7人は付けようと思っているのに!」

「辺境伯爵は隣国との戦いに常に備えていなければなりません。
 父上や領民を守る兵士を私の旅の護衛にするなど、もってのほか!」

「今、隣国とは上手くいっている。おまえに兵を回したとて、何の問題も無い!」

「私は大丈夫です、父上。ご心配いただき、感謝します。では、急ぎますゆえ、失礼します」

 サファーロは踵を返すと、足早に執務室を出て行ってしまった。

「精鋭の騎士を7人、サファーロの護衛に派遣する! ただちに後を追うのだ!」
「御意!」
 執事は急いで執務室を出たが、すぐに戻ることとなった。

「ご主人様! サファーロ様は瞬間移動されたのか、お姿がどこにも見当たりません!」
「行方が分からなければ探せ! なんとしてもサファーロを守るのだ!」
「畏まりました!」

 その時、窓の外に伝書鳩が現れた。
 嘴で窓ガラスを突き、開けろと伝えているようだ。

「サファーロ様の従僕、モーリスの伝書鳩でございます!」

 執事が急いで窓を開けると、伝書鳩は室内に入り、足首に結んである手紙を見せつけた。
 執事は伝書鳩から手紙を外すと、読み上げる。

『御主人様。サファーロ様の御身は、私の命に代えましても必ずお守りいたします。
 どうしても救けが必要な時は、居場所を水晶玉に送りますので、瞬間移動で救助をお願いいたします』

 ペリゴール辺境伯爵は、執事から手紙を受け取ると命令した。

「水晶玉をこの部屋に用意せよ。モーリスに、日々の状況を報告するように伝えるのだ!」
「畏まりました!」

 すぐに執務室を出ようとした執事は、窓の外を不安げに眺める伯爵の後ろ姿に足を止めた。

「御主人様。モーリスは魔力も剣術も長けた従僕。きっとサファーロ様を守り抜くと思います」

 その言葉に、ペリゴール辺境伯爵はハッと我に返り、執事の思いやりにふと微笑む。

「ありがとう…」



 その頃。
 サファーロはシャルルの実家、ノアイユ公爵邸のそばで佇んでいた。

「サファーロ様~! 待ってくださ~い! 私も行きま~す!」
 従僕のモーリスが全力疾走で追いかけてくる。

 モーリスは、サファーロと同い年の従僕。
 子供の頃は、剣術や魔法を一緒に勉強した。気心が知れた親友のような間柄だ。

「ああ、やっと追いつけた! 見つけられてよかったぁ~!」

 走り疲れたのか、ぜいぜいと息を切らせてしゃがみこんでしまった。

 心配になったサファーロが近づいて声をかける。
「モーリス、大丈夫か?」

 その瞬間、モーリスはサファーロの片足にがばっとしがみついた。

「一人でなんて行かせませんよ! 私がお守りするんです!」

 一度掴んだら離さないスッポン並みの吸着力に、サファーロは降参する。
「わかった、わかった!」

 サファーロはモーリスの隣に座り、握手を求める。
「よろしく頼む」
「はい!」

 二人は仲良く笑いながら握手を交わし、シャルルが現れるのを待つのだった。
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