本当の貴方

松石 愛弓

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 ☆ エリオット視点




「アリシア嬢の心を傷付けて、謝りもせずに許してもらおうと思っているのか? 彼女に対して無礼が過ぎるぞ」
 
 切れ長の美しい瞳が僕を睨みつける。

 彼の纏う空気が、怒りに震えていた。
 アリシアの代わりにと、仕返し攻撃するつもりなのだろうか…?

 ただならぬ殺気を感じた僕は、思わず後退あとずさる。

 緊張感に包まれていたその時、後ろから肩をポンと叩かれた。

「やっぱり、ここに来ていたのね」

 やっぱりって…?

 僕は、そっと振り向き、恐怖に震える。

「うわ~~~~っ!?」

 僕の真後ろには、首に毒蛇を巻いたターニャと、護衛騎士数名がドヤ顔で立ち並んでいた。

「婚約破棄を無かったことにしてもらおうなんて厚かましいこと、エリオット様の考えそうなことだわ。ほほほのほ~!」

 ターニャが得意気に高笑いする。
 まさか、想定内だったとは!

「ふふふ。そんなに私を怖がらないで。はい、ウリボウ魔術師、出番よっ」
『はいっ!』

 元気よく返事をしながら、護衛騎士たちの後ろから現れたのは、イノシシの子供っぽい小さな可愛い生物。

 器用に横笛を吹き、妙な音色を奏ではじめた。

 ♪ピ~ヒャラ、ピ~ヒャラ、ピ~ヒャラララ~♪

 ターニャや護衛騎士たちはいつの間にか耳栓をしていて、アリシアは美青年の張った結界の中にいた。

 その笛の音色を聞いていると、僕はなんだか頭がボゥッとして、眠くなってきた。
 そんな僕を見て、ウリボウ魔術師は笛を吹くのをやめ、耳元で囁きはじめる。

『金鉱山に魔物討伐に行きたいよね? 行きたいに決まってるよ! すっごく行きたいだろ?』

 あっ。これ、催眠術だ! 気付くのが遅すぎた!

 僕はすっかり魔術師の催眠術にかかり、
「金鉱山を荒らす魔物はどこだ! 1匹残らず成敗してくれる!」と、心にもないセリフを叫んでいた。
 行きたくないと思ってるのに、体は行きたくてたまらない~。 くそぅ、ターニャの策略にあっさりかかってしまうとは!

「エリオット様、素敵~♪」
 本当にそう思ってるのか!と心の中でターニャに突っ込みながら、僕は護衛騎士に案内され、魔物討伐に向かったのだった。
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