動物たちの昼下がり

松石 愛弓

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祝福の雪

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 不思議の森に冬が来て、初雪が降りました。
 フワフワと綿のようにゆっくりと空から降ってくる雪は、とても幻想的です。

 ユキヒョウのヒョウタくん(5歳)は大樹の後ろに隠れながら、そっとユキヒョウのヒョウコちゃん(5歳)の姿を見つめていました。

「ヒョウコちゃん…今日もなんて可愛いんだ…。冬休みに入る前にもっと仲良くなって、休み中もヒョウコちゃんに会えないかなぁ…」
 今日も木の陰から熱視線を送り、萌えるヒョウタくんでした。

「そうだ! ヒョウコちゃんが喜ぶことをして、僕を好きになってもらえばいいんだ! そうと決まればこうしちゃいられない!」
 ヒョウタくんは、いそいそと不思議の森に入ってゆきました。

 しばらくして、森から出てきたヒョウタくんはヒョウコちゃんの家へ訪ねてゆきました。
 ♪ピンポ~ン♪
 インターホンを鳴らすと、「は~い」とヒョウコちゃんが家から出てきてくれました。

「あっ、あのっ、僕、ヒョウタ。ずっと君に憧れてて…友達になってくれない? これ、君のために森で収穫してきたんだ」
 ガッチガチに緊張しているヒョウタくんは、細枝で編んだ籠に多種類の果物を盛ったものと、ピンク色の可憐な花の花束を、ヒョウコちゃんにそっと差し出しました。

「まぁ…これを私に?」
 嬉しそうに微笑むヒョウコちゃん。

 しかし、次の瞬間、
「ケケケケケケケケ…」と不気味な笑い声がして、果物や花たちが宙に浮き、ヒョウコちゃんの周りをグルグルと飛び回り始めました。
 ヒョウタくんが収穫してきたのは、妖怪果物と妖怪花だったようです。
「ごめん! 僕、気付かなくて…」
「ヒョウタくん、ひどいわ!」
 パシ~ン!
 見事な平手打ちが入り、遥か彼方へ飛ばされてゆくヒョウタくん。
「ヒョウコちゃん…なんて力持ちなんだ♪」
 手形に腫れた頬を押さえ感動しながら飛んでゆく、ちょっとやばいヒョウタくん。なんだかとても幸せそうです。
 しかし、カッコウの巣穴に突っ込んで着地したとき、カッコウに説教され頭が冷えたヒョウタくんは、このままではヒョウコちゃんに嫌われてしまう!と気付いたようです。

 湖には氷が張っていて、スケートをしている動物たちがいました。
(こ…これだ! 今度こそヒョウコちゃんに好印象を与えなくちゃ!)
 ヒョウタくんは一生懸命スケートの練習をし始めました。
 滑って転んでは起き、何度も尻餅をついて、氷上のプリンスに弟子入りし、なんとか滑れるようになったので、ヒョウコちゃんに湖に来てくれるように頼みました。

「ヒョウコちゃん、見ていてね!」
 ヒョウタくんはこの日のために作ったヒラヒラキラキラの衣装を着て、颯爽と滑り始めました。特訓の成果か、次々と技が決まってゆきます。3回転ルッツ、3回転トゥループ、3回転サルコウ、3回転ジャンプの連続技を決め、
(僕って、今、ちょっとカッコイイかも?)と調子に乗ってしまうヒョウタくんでした。

 ヒョウタくんはフィニッシュにクルクルと高速回転し始めました。
 ゴリゴリゴリゴリ…
 同じ場所で回転し過ぎたせいか、湖の氷に穴が開いてしまいました。

 ドッポ~ン!!
 湖に沈んでゆくヒョウタくん。
(…かっこよく決めるつもりだったのに。ああ、僕ってカッコ悪い…)
 湖に沈みながら羞恥に震えていると、ヒョウコちゃんが湖に飛び込み助けに来てくれました。
 ヒョウコちゃんに抱えられなんとか湖面に上がると、ヒョウコちゃんは魔法で服を乾かし、体を温めてくれました。
「ヒョウタくんに悪意がなくて、一生懸命だってことは分かったわ。この間は、殴っちゃってごめんね」
 ヒョウコちゃんの優しい眼差しに、誤解が解けたことを喜ぶヒョウタくん。

「ヒョウコちゃん、また会える?」
「会えるよ。今度はもっと安全で温かいところで会おう」
「やったぁ♪」

 ちょっとドジで一生懸命なヒョウタくんの想いは、ヒョウコちゃんに届いたようです。
 ふたりを祝福するように、空からは美しい雪がキラキラと降り注いだのでした。
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