ルカとカイル

松石 愛弓

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変化した約束

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 ネズミさんが森の獣道を歩いていると、道の真ん中にチーズが落ちていました。

「わぁっ! 僕の大好物のチーズだ!」
 ネズミさんは大喜びでチーズを食べました。

「あぁ~、美味しかった♪」
 美味なチーズに満足したネズミさん。
 獣道には、まだまだたくさんのチーズが落ちていました。

「誰かがチーズを落として行ったのかな? このまま放っておいたらチーズが腐っちゃうし、ありがたくいただこう」
 ネズミさんは手持ちの籠にチーズを詰めてゆきました。

 チーズを拾うたび、ネズミさんはどんどん森の奥深くへと進んでゆきます。
 最後のチーズを拾った時、ネズミさんは大樹の前にいました。
 大樹の根本には大きな穴があり、2mくらいの蛇さんが大きな口を開けて、穴の中からニョロンと現れました。

「チーズはおまえを釣る餌だよ。おまえを食ってやる」
 あ~ん、と大きな口を開けた蛇さんは、嬉しそうに言いました。
 蛇さんの口は、ネズミさんを一飲みにしてしまいそうです。

「うわ~~っ!待って!お願い!僕にはやり残したことがあるんだ!それを全部やり終えたら、蛇さんの餌になるから!」
 一瞬で、蛇さんの体にぐるぐる巻きにされ、逃げ場を失ったネズミさんは必死にお願いをしました。
 目の前では、蛇さんの大きな牙が凶暴に光っています。

「やり残したことって、何だい?」
 蛇さんは意外にも、ネズミさんの話に耳を傾けました。

「やり残したことって…ええっと…あっ、そうだ! 昨日、買ったばかりの服にまだ袖を通していないし、紙芝居の続きも気になるし、母さんが僕の誕生日にケーキを焼いてくれるって言ってたからそれも食べたいし、友達の結婚式にスピーチを頼まれてたし、家の補修も頼まれてたし、妹と出かける約束もしてたし…」

 蛇さんは口を閉じて、ネズミさんの話を冷静に聞いていました。
「だから、やり残したことを全部やり遂げたら、大人しく蛇さんに食べられますから、今は見逃してください…」

(こんな言い訳をしても、きっと逃がしてはもらえない。僕は丸飲みにされるんだ)
 ネズミさんは諦めた気持ちで、目を閉じました。

「…わかったよ。でも、約束通りやり残したことを全部やり遂げたら、食べられに来るんだよ。それまで、毎日ここへ来て、その日やったことを報告するんだ」
「はい…」

 蛇さんがあっさり解放してくれて、ネズミさんは信じられないような気持でした。

(僕を信じるの? このまま逃げて、二度とここへ来ないかもしれないのに?)

 ネズミさんは獣道で拾った籠いっぱいのチーズを蛇さんに返して、家路につきました。

 
 それから、ネズミさんは毎日、蛇さんに会いに来ました。
 そして、やり残したことが増えたと言っては、なかなか食べさせてはくれないのでした。

 そんなある日、蛇さんは事故に遭いました。

 山で大きな怪獣に踏まれたのです。怪獣は足元をにょろにょろと移動していた蛇さんに気付かず、思い切り踏んでしまったのでした。

 ネズミさんがいつものように蛇さんの穴を訪ねてゆくと、蛇さんはぐったりと横たわっていました。

「ふふ。よかったね。もう私に食べられないで済むよ」
 蛇さんは苦しそうに話し始めました。

「私に食べられたくなくて、やり残したことが増えたって、いっぱい言い訳してたね。
 今だから言えるけど、私はネズミさんが生き延びるためにどんな言い訳をするんだろうって、いつも楽しみにしてたんだよ。
 ここに来ないで逃げることもしない。かと言って、食べられようともしない。そんな中途半端なネズミさんの言い訳を聞くのが面白かった。
 もう、嘘も言い訳もしなくていいんだよ。もう、ここにも来なくていい。
 ネズミさんを解放してあげるよ…」
 蛇さんは虫の息でした。

「何言ってるんだ!どうして医者を呼ばない?蛇さんがいなくちゃ寂しいじゃないか!
 僕の見え透いたつまらない嘘や言い訳を聞いてくれなきゃ…僕の楽しみが無くなっちゃうだろ!」
 ネズミさんは泣きながら叫んでいました。
 いつの間にか、蛇さんに会うことは、ネズミさんの楽しみになっていたのです。

「今すぐ医者を呼んでくる!おとなしく寝てろよ!」
 昔、食べられかけたことも忘れて、ネズミさんは雨の中を走ってゆきました。


 数日後。
 蛇さんはネズミさんの連れてきた医者のおかげで完治していました。

 血色も良く、鱗も艶々で、元気いっぱいの蛇さんに会いにきたネズミさんは覚悟を決めていました。

(もう、嘘や言い訳も通用しないだろう。食べられる約束を随分引き延ばしたんだ。やり残したこと、やりたかったことなんて、キリがない。今度こそ、約束を守ろう)

 ネズミさんは蛇さんの前に、持参した大きな皿を置き、皿の上に乗り、正座しました。

「どうぞ、召し上がれ」

 ネズミさんは目を閉じ、なるべく痛さを感じないように食べてくれるといいのだけど、と心の中で呟きました。

「…ふふっ。はははっ。何やってるんだい!やっぱりネズミさんは面白いね!」
 蛇さんが大笑いしてるので、ネズミさんはそっと目を開けました。

「私が命の恩人を食べるわけないだろ?」

 蛇さんの笑顔を見て、ネズミさんは腰が抜けました。
「あぁ…」
 へにゃ、と、緊張の糸が切れたネズミさんは皿の中に横たわりました。
 心臓がドキドキバクバクうるさく鳴っています。
 今度こそ、本当に食べられるかと思っていました。

「これからも、毎日ここへ来てくれるかい?」
「もちろん」

 蛇さんとネズミさんは、命が尽きるまで仲の良い友達でいたのでした。
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