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1章 夢現ダンジョン
27話【隣人】
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『このダンジョンには、一定地域の居住者約1000名をプレイヤーとして選出し、ダンジョンに挑んで頂いています。出来るだけ多くのクリア者を出せるよう、協力して進みましょう』
9階アナウンスは、ここにいる人たちは同じ地域に住む人たちなのだ、と言った。
良く考えれば、僕たち学生は気付けたかもしれない。みんな近隣の学校の制服を着ている。
選出の基準は何なのだろう。もしかしたら母もこのダンジョンにいるのだろうか?
不安が強くなる。
みんなも不安を感じているのだろう、ざわざわとしている。
それでも。
武藤さんたちと、9階攻略を開始するんだ。
今は不安に気持ちを割いている場合じゃない。
主発前に葉山さんが9階マップを見せてくれる。
僕らのスマホにも地図がフルオープンで表示される。
モンスターの配置も全て映っていた。
「本当にすごいスキルだね、葉山さんの攻略サイトスキル」
「君のスキルも相当だと思うけどなあ」
僕が言うと葉山さんがのんびりと言った。
そうだね、と言って笑い合う。
葉山さんは同い年だ。仲良く出来そうで嬉しい。
有坂さんとは違うタイプの美少女で、中性的ですらりとしてモデルのように背が高い。
ショートカットだけど活発というより、のんびりとした声で、とても穏やかだ。有坂さんとも気が合いそう。
もう1人の夜桜さんは余り喋らない。
艶々の綺麗な黒髪をみつあみにして、前髪で表情を隠すように俯いて葉山さんの影に隠れている。
人と喋ったりするのが得意じゃない子なのかもしれない。クラスにもそういう子はいる。
あまり彼女のペースを乱さずに、話ができるようになればいいな、と思う。
原国さんは僕らが攻略中、地域について全員から聞き取りをすると言った。
どの程度の地域なのだろう、確かにある程度は絞れていたほうがいい。
僕らは道中でメンバー間の地域を確認することにして、マップに表示される、出てくるモンスターや宝箱、その中身まで一通りチェックをした。
準備を整えた僕らは階段部屋から出る。
攻略も、あと少し。
*
走りながら、武藤さんが苦笑をして言った。
「近所の学生だな、と思ったら家もご近所さんだったとはなあ」
僕らの住む場所は驚く程、近かった。
自衛官の木村さんは駐屯地に隊舎があるが、実家が近所だという。
住所を言えば大体の位置がわかるほど、近い。
同じ地域の人たち。同じマンションやアパートに住む人もいるかもしれない。
都心なので、マンションも多く、近所づきあいも密ではないからわからなかったけど、ここにいる人たちは、誰とすれ違っていてもおかしくはない人たちだった。
道で、コンビニで、駅で、スーパーですれ違っていたかもしれない。そこで働く人だったかもしれない。
亡くなった人も、そうなんだ。
そんな見知らぬ隣人たちを思う。
多分原国さんたちの方でも、同じ結果が出ているはずだ。
通路のモンスターを倒し、最初の小部屋に到達する手前で、武藤さんが待ったをかけた。
「中に人がいる。ソロだ」
この状況で単独でいる。それは、つまり、中にいる人が危険人物である可能性が高い、ということだ。
ひとりで多くのスキルを持ち、武装、防具共に潤沢な可能性がある。
それでも、僕たちは集団で、かなりの強化をしている。
――渡り合えるはずだ。
ここで中の誰かをスルーすることはできない。みんなで移動中に分断され誰かが殺される可能性が残るのは余りに危険だ。
殺せば殺すほど力をつける相手なのだから。
それに、いくらソロで怪しいと言っても、この中にいる人だって死にかけている人かもしれない。被害にあって命がギリギリ助かった人かもしれない。森脇さんのように。
「一番HPが高い俺が先頭で行く。坊主、俺の後ろで気配遮断状態でスキル封印をいつでも打てるようにしといてくれ。ここで全滅しかかったパーティーなのか、PKソロなのか、あるいは仲間割れか。何も判断がつかねえ。嬢ちゃんは坊主の近く、いつでもかなしばりを使えるように頼む。木村さんたちは少し隊列を広げてすぐカバー出来るようにしてくれるとありがたい。宗次郎は下がって雛実ちゃんをしっかり守れよ、いいな?」
みんな頷くと、僕は武藤さんの後ろについて気配遮断を発動する。
他のみんなも、配置に着く。
全員に敏捷バフもかけられている。遅れはとらないはずだ。
「行くぞ」
武藤さんが口にして、扉を開ける。
小部屋は血塗れで、宝箱が開いている。
その側に男が1人、顔を伏せて壁にもたれるように座っていた。
「おいアンタ、大丈夫か?」
武藤さんが刀を構えて慎重に、静かに近づく。男は動かない。
もしかしたら、死んでいるのかもしれない。
だけど、嫌な……何かとても嫌な感じがする。
僕が咄嗟にスキル封印を使おうとした瞬間、男が動いた。速くて、目で追えない。
一瞬だった。
ドッ、と酷く不吉な、不穏な音がする。
「ぐ……っ、坊主、やれ!」
武藤さんの背から、大きな刃物が覗いている。
――刺された。
男は武藤さんを刺した武器を手放し、素早くまた移動しようとした。
それを武藤さんが捕まえるが、その力が急激に抜けた。
僕らの背後から、夜桜さんが闇魔術を放つ。それが弾かれた。
「嘘……っ」
小さく叫ぶ声、ドッと衝撃が来る。焼けるように、お腹が痛む。
僕は武藤さんと別の武器で、刺された。それに気付いた瞬間に、スキル封印を使った。
気配遮断が効かないことも想定すべきだったのかもしれない。
僕たちは、スキルの全てを知っているわけではないのだから。
最初から、最初からスキル封印を、使うべきだった。相手がだれであっても。
痺れる頭で思考する。
武力では、僕たちが勝っている。最初から相手を殺しにかかれば、武藤さんは刺されなかった。
だけど僕らは、あらゆる想定をした。それは間違いだったと思わない。だけど、足りなかった。
想定が、まだ、甘かったんだ。
男の動きが、遅くなる。木村さんたちが、制圧にかかった。
左のわき腹が、熱い。
刺された剣が抜け落ちる音と、血に肉が落ちる、どしゃり、という音がして、武藤さんが倒れた。
僕はストレージから慌ててHP回復ポーションを出し、武藤さんにかける。体がびりびりと痺れて、苦しい。
傷が回復していくのに、武藤さんは動かない。
目の前が暗くなる。
武藤さん、呼ぼうとして声が出ないことに気付いた。
有坂さんが僕を叫ぶように呼ぶ。
その声もたわんで聞こえた。
9階アナウンスは、ここにいる人たちは同じ地域に住む人たちなのだ、と言った。
良く考えれば、僕たち学生は気付けたかもしれない。みんな近隣の学校の制服を着ている。
選出の基準は何なのだろう。もしかしたら母もこのダンジョンにいるのだろうか?
不安が強くなる。
みんなも不安を感じているのだろう、ざわざわとしている。
それでも。
武藤さんたちと、9階攻略を開始するんだ。
今は不安に気持ちを割いている場合じゃない。
主発前に葉山さんが9階マップを見せてくれる。
僕らのスマホにも地図がフルオープンで表示される。
モンスターの配置も全て映っていた。
「本当にすごいスキルだね、葉山さんの攻略サイトスキル」
「君のスキルも相当だと思うけどなあ」
僕が言うと葉山さんがのんびりと言った。
そうだね、と言って笑い合う。
葉山さんは同い年だ。仲良く出来そうで嬉しい。
有坂さんとは違うタイプの美少女で、中性的ですらりとしてモデルのように背が高い。
ショートカットだけど活発というより、のんびりとした声で、とても穏やかだ。有坂さんとも気が合いそう。
もう1人の夜桜さんは余り喋らない。
艶々の綺麗な黒髪をみつあみにして、前髪で表情を隠すように俯いて葉山さんの影に隠れている。
人と喋ったりするのが得意じゃない子なのかもしれない。クラスにもそういう子はいる。
あまり彼女のペースを乱さずに、話ができるようになればいいな、と思う。
原国さんは僕らが攻略中、地域について全員から聞き取りをすると言った。
どの程度の地域なのだろう、確かにある程度は絞れていたほうがいい。
僕らは道中でメンバー間の地域を確認することにして、マップに表示される、出てくるモンスターや宝箱、その中身まで一通りチェックをした。
準備を整えた僕らは階段部屋から出る。
攻略も、あと少し。
*
走りながら、武藤さんが苦笑をして言った。
「近所の学生だな、と思ったら家もご近所さんだったとはなあ」
僕らの住む場所は驚く程、近かった。
自衛官の木村さんは駐屯地に隊舎があるが、実家が近所だという。
住所を言えば大体の位置がわかるほど、近い。
同じ地域の人たち。同じマンションやアパートに住む人もいるかもしれない。
都心なので、マンションも多く、近所づきあいも密ではないからわからなかったけど、ここにいる人たちは、誰とすれ違っていてもおかしくはない人たちだった。
道で、コンビニで、駅で、スーパーですれ違っていたかもしれない。そこで働く人だったかもしれない。
亡くなった人も、そうなんだ。
そんな見知らぬ隣人たちを思う。
多分原国さんたちの方でも、同じ結果が出ているはずだ。
通路のモンスターを倒し、最初の小部屋に到達する手前で、武藤さんが待ったをかけた。
「中に人がいる。ソロだ」
この状況で単独でいる。それは、つまり、中にいる人が危険人物である可能性が高い、ということだ。
ひとりで多くのスキルを持ち、武装、防具共に潤沢な可能性がある。
それでも、僕たちは集団で、かなりの強化をしている。
――渡り合えるはずだ。
ここで中の誰かをスルーすることはできない。みんなで移動中に分断され誰かが殺される可能性が残るのは余りに危険だ。
殺せば殺すほど力をつける相手なのだから。
それに、いくらソロで怪しいと言っても、この中にいる人だって死にかけている人かもしれない。被害にあって命がギリギリ助かった人かもしれない。森脇さんのように。
「一番HPが高い俺が先頭で行く。坊主、俺の後ろで気配遮断状態でスキル封印をいつでも打てるようにしといてくれ。ここで全滅しかかったパーティーなのか、PKソロなのか、あるいは仲間割れか。何も判断がつかねえ。嬢ちゃんは坊主の近く、いつでもかなしばりを使えるように頼む。木村さんたちは少し隊列を広げてすぐカバー出来るようにしてくれるとありがたい。宗次郎は下がって雛実ちゃんをしっかり守れよ、いいな?」
みんな頷くと、僕は武藤さんの後ろについて気配遮断を発動する。
他のみんなも、配置に着く。
全員に敏捷バフもかけられている。遅れはとらないはずだ。
「行くぞ」
武藤さんが口にして、扉を開ける。
小部屋は血塗れで、宝箱が開いている。
その側に男が1人、顔を伏せて壁にもたれるように座っていた。
「おいアンタ、大丈夫か?」
武藤さんが刀を構えて慎重に、静かに近づく。男は動かない。
もしかしたら、死んでいるのかもしれない。
だけど、嫌な……何かとても嫌な感じがする。
僕が咄嗟にスキル封印を使おうとした瞬間、男が動いた。速くて、目で追えない。
一瞬だった。
ドッ、と酷く不吉な、不穏な音がする。
「ぐ……っ、坊主、やれ!」
武藤さんの背から、大きな刃物が覗いている。
――刺された。
男は武藤さんを刺した武器を手放し、素早くまた移動しようとした。
それを武藤さんが捕まえるが、その力が急激に抜けた。
僕らの背後から、夜桜さんが闇魔術を放つ。それが弾かれた。
「嘘……っ」
小さく叫ぶ声、ドッと衝撃が来る。焼けるように、お腹が痛む。
僕は武藤さんと別の武器で、刺された。それに気付いた瞬間に、スキル封印を使った。
気配遮断が効かないことも想定すべきだったのかもしれない。
僕たちは、スキルの全てを知っているわけではないのだから。
最初から、最初からスキル封印を、使うべきだった。相手がだれであっても。
痺れる頭で思考する。
武力では、僕たちが勝っている。最初から相手を殺しにかかれば、武藤さんは刺されなかった。
だけど僕らは、あらゆる想定をした。それは間違いだったと思わない。だけど、足りなかった。
想定が、まだ、甘かったんだ。
男の動きが、遅くなる。木村さんたちが、制圧にかかった。
左のわき腹が、熱い。
刺された剣が抜け落ちる音と、血に肉が落ちる、どしゃり、という音がして、武藤さんが倒れた。
僕はストレージから慌ててHP回復ポーションを出し、武藤さんにかける。体がびりびりと痺れて、苦しい。
傷が回復していくのに、武藤さんは動かない。
目の前が暗くなる。
武藤さん、呼ぼうとして声が出ないことに気付いた。
有坂さんが僕を叫ぶように呼ぶ。
その声もたわんで聞こえた。
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