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1章 夢現ダンジョン
31話【大きな財産】
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強い警戒を持って進んだ10階層は誰とも出会わず、あっさりと走破できた。
小部屋にも通路にもモンスター以外はいなかった。
そのモンスターも、武藤さんたちにとって敵ではない。
「坊主の共有者とかが強すぎだな」
とボス部屋前に辿り着いた武藤さんが笑った。
「森脇さんから貰った剣聖もですね」
にこりと笑い返す。
あとわずか、ボスを倒せば完全攻略になる。
だからこそ警戒を解かずに、階下まで戻る。
蘇生された人たちは、パーティーメンバーに今までのことを説明されたようで、僕らが戻ると御礼をたくさん言われた。
嬉し泣きをしている人もいれば、ここまでの道中の話を聞いて驚いていた人もいる。
蘇生術についても聞いていたようで、蘇生した彼らのコインも受け取り、ボスを撃破すれば、今知る限りの最高位蘇生魔術、血の蘇生術に足りるだけのコインが集まる。
僕たちは時間ギリギリまで蘇生をすることに決めて、脅威のなくなった血塗れのダンジョンを全員で走る。
全員がボス部屋に入り、扉を閉めた。
ダンジョンラスボスだというのに、変わらずボスを最速で倒すと、暗かったダンジョンの中がまるで電気がついたかのように明るくなった。
それと同時に奥の壁に黄金の豪奢な扉が現れて、ゆっくりと開いた。
その手前には今まで一番きらびやかな宝箱が出現する。
『10階ボス討伐おめでとうございます。この出口を出たらダンジョンクリアとなります。お買い物をお楽しみの上、お帰りください。どうぞ、よき目覚めを』
アナウンスに全員がわっと歓声を上げる。泣いている人もいる。
僕たちも安堵に、息を吐くと笑い合う。
「あなたたちのお陰で、生きて帰れる。妻子を泣かせずにすんだ、本当にありがとう」
「私の友達を助けてくれて本当に、本当にありがとう……」
「もうだめかと思ったけれど、本当に助かりました。ありがとうございます」
そんなふうに、みんなは僕たちにお礼を言い、1人、1人と出口を出る。
残りのパーティー内死亡者を蘇生させ、出口へ向かわせる。
トラブルを避けるため、PKをした人には蘇生が終わった直後に扉から出てもらった。
それまで、木村さんたちが彼らを護衛した。
彼らはPKをしたデメリットを受け、蘇生が効かなくなっている。
最後の最後で人が殺されるのは、絶対に嫌だった。
少なくとも彼らは、PKをしたことを深く反省してそれが過ちだと認めている。
取り返しのつかないことをしたのだからと開き直らず、償うことを諦めず、責められることも殺されることも覚悟して、ここまで来たのだ。
そして僕は、被害者を加害者にしてしまいたくない。
蘇生を受けて、文句を言う人もいたが、武藤さんが出口付近へ引っ張って行き、原国さんたちが説明をして有坂さんの邪魔をさせなかった。
僕は彼女の側で、蘇生された人に最初に声をかけ、誘導をし続けた。
森脇さんのパーティーメンバーは1人しか生き返らせることがでなかった。森脇さんが何故そうなのか説明をすると、泣き崩れる。
「ただの夢だと思ったのに」
そういい、しばらく泣いていた。
木村さんたちは先行していたため、残り時間も短く、そこまで見守ると、挨拶をして出口へ向かった。
葉山さんが「またねー」と手を振る。のんびりと楽しそうに。
木村さんと原国さんは少し2人で話をして、夜桜さんはあまり喋らないまま、頭を下げて葉山さんの後ろをついていく。
田村さんは宗次郎くんと雛実ちゃんの頭をやさしく撫でてから、握手をして木村さんと共にダンジョンから出て行った。
その後は血の蘇生術による蘇生が始まる。
僕と有坂さんの背後には、武藤さん。トラブルになりそうな相手をつまみ上げて移動させる警備員のような役割をしてくれている。
出入り口には原国さんたちが待機し、説明と誘導をしている。
有坂さんは休むことなく、取得した血の蘇生を使い、時間ギリギリまで蘇生を繰り返した。
有坂さんが蘇生した人数は、100人を超えた。
「ありがとう、有坂さん。みんなを助けてくれて」
僕がお礼を言うと、有坂さんを目を丸くした後、笑って言った。
「それは私のセリフだと思うなあ……真瀬くんがいなかったらこんなこと、出来なかったもの。ありがとう、真瀬くん」
MPポーションもつき、時間も残りわずか。森脇さんは既にダンジョンから出ている。僕らよりタイムリミットが短かったためだ。
最後に宝箱を空ける。
そこにあったの大きな卵だった。何の卵かはわからない。収納しようとしていないのに、それは僕のストレージに収まってしまった。
従魔の卵という名前のそれには、『孵化までの残り時間/50時間』と表示されている。
ランダムでアイテムストレージに収納され、孵化までは取り出せない。
従魔が生まれるとストレージの持ち主を主として絶対服従となる、らしい。
最後の最後でびっくりしたけれど、僕たちパーティーと宗次郎くん雛実ちゃんで一緒に、ダンジョンから出る。
振り向くと、背後で扉が閉まった。
そこにはもう、何もなかった。
正面に向き直ればショップが目の前にぽつんとある。
コインは殆どすっからかんで、本当に酷い目にあった場所だったなと思う。
あんなに他人を怖いと思ったのは初めてだったし、悲しいとも思った。
誰がを殺されることを本気で怖いと思ったのも。
だけど酷いことだけじゃなかった。
好きな人が出来た。頼れる大人がいた。慕ってくれる後輩たちも。
たくさんの人を有坂さんのお陰で救うことが出来た。
それは全て1つの大きな財産のように思えた。
最後にみんなでショップを覗く。
店員はおらず、タッチパネルに説明が並んでいた。
『ショップで使用できるコインについて。スキルポイントコインは1ポイントにつき10クレジット、モンスターコインについては銅1ポイントにつき10クレジット、銀は30クレジット、金は50クレジット』
『魔石は1点につき30~1000クレジットとしてショップ用点数に換金可能』
『武器装備アイテムなどもショップ用クレジットに換金可能』
『ショップで各種コイン、魔石をクレジット化可能。クレジットは現実世界の現金へ換金可能。1クレジットにつき1万円相当』
「ええ……これ……どうします?」
僕は共有ストレージの魔石を指差す。
コインはないけど、使い道のなかった魔石と武器はたくさんある。
「ううーん……現金化するにしても、目が覚めたらポンと枕元に置かれてる金とか……確定申告どうすりゃいいんだよ」
「確かに」
武藤さんの呟きに、原国さんが笑う。
ショップの購入一覧を見ると武器防具アイテムスキルとタブが並ぶ。
星4までのものがたくさん並んでいる。
「犯罪捜査に使えるスキルとかどうすかね」
武藤さんが原国さんにニヤリと笑う。
「証明が出来ないからダメですよ」
僕が半目でジャージの裾を引くと、原国さんが苦笑する。
「人には過ぎた力です。もう帰りましょう。これが本当にただの夢であって欲しいところですが」
たしなめるように、柔らかく原国さんが言う。
「でも僕は、忘れたくないな、みんなのこと。夢ってすぐ、忘れちゃうから」
ぽつりと言うと、武藤さんの大きな手がわしわしと僕の頭を撫でる。
「確かに確かに、高校生の新鮮ないちゃらぶ拝めるとはね、いい夢だったわ」
有坂さんが真っ赤になって「もう! ちが、ちがいます!」と膨れた。
違うのは残念だけど、有坂さんが可愛いのでよし。
有坂さんはどんな表情も、かわいいな。好きだな。
忘れたくないな。
でも本当だとしたら、たくさん人が死んだことが事実になる。
助け切れなかった人たちがいる。
たくさん、いるのだ。
自害した男を、思い出す。
どうしても、忘れられそうにない、最後の表情が脳裏に浮かんで消える。
「そうだ! 連絡先渡してみっか」
言って武藤さんが自分の指を噛み切る。その血でシャツを捲り上げた僕の腕に電話番号を書く。
「わ、ちょっと武藤さん!?」
「筆記具ないから我慢しとけ」
無茶苦茶をする人だ。確かに、血を使うくらいしか筆記は出来ないだろうけど。
「俺の番号も書いて!」
宗次郎くんが言う。僕の腕がひどいことになる。
有坂さんも驚いて、それから笑った。
うん、笑ってくれるならいいかな……?
「私への連絡は警視庁に電話をして下さい。刑事部特殊13課あてで」
「それ公私混同じゃねえかおっさん」
さらりと原国さんが言い、武藤さんがツッこむ。
「今回のことがただの夢でないのなら、いろいろと話が必要になります。武藤くんたちの番号は覚えましたので、何かあれば迎えに行きますよ」
僕の両腕は武藤さんの血文字でえらいことになっているのを原国さんが見て笑う。
電話番号を見ただけで暗記できるなんて、すごいなあ、と思っていると、
「さあ、帰りましょう」
そう、原国さんが僕らを促す。
僕たちはこうして、最後は笑い合いながら、悪夢のようなダンジョンから目覚めた。
その先に待つものを、知らないまま――
小部屋にも通路にもモンスター以外はいなかった。
そのモンスターも、武藤さんたちにとって敵ではない。
「坊主の共有者とかが強すぎだな」
とボス部屋前に辿り着いた武藤さんが笑った。
「森脇さんから貰った剣聖もですね」
にこりと笑い返す。
あとわずか、ボスを倒せば完全攻略になる。
だからこそ警戒を解かずに、階下まで戻る。
蘇生された人たちは、パーティーメンバーに今までのことを説明されたようで、僕らが戻ると御礼をたくさん言われた。
嬉し泣きをしている人もいれば、ここまでの道中の話を聞いて驚いていた人もいる。
蘇生術についても聞いていたようで、蘇生した彼らのコインも受け取り、ボスを撃破すれば、今知る限りの最高位蘇生魔術、血の蘇生術に足りるだけのコインが集まる。
僕たちは時間ギリギリまで蘇生をすることに決めて、脅威のなくなった血塗れのダンジョンを全員で走る。
全員がボス部屋に入り、扉を閉めた。
ダンジョンラスボスだというのに、変わらずボスを最速で倒すと、暗かったダンジョンの中がまるで電気がついたかのように明るくなった。
それと同時に奥の壁に黄金の豪奢な扉が現れて、ゆっくりと開いた。
その手前には今まで一番きらびやかな宝箱が出現する。
『10階ボス討伐おめでとうございます。この出口を出たらダンジョンクリアとなります。お買い物をお楽しみの上、お帰りください。どうぞ、よき目覚めを』
アナウンスに全員がわっと歓声を上げる。泣いている人もいる。
僕たちも安堵に、息を吐くと笑い合う。
「あなたたちのお陰で、生きて帰れる。妻子を泣かせずにすんだ、本当にありがとう」
「私の友達を助けてくれて本当に、本当にありがとう……」
「もうだめかと思ったけれど、本当に助かりました。ありがとうございます」
そんなふうに、みんなは僕たちにお礼を言い、1人、1人と出口を出る。
残りのパーティー内死亡者を蘇生させ、出口へ向かわせる。
トラブルを避けるため、PKをした人には蘇生が終わった直後に扉から出てもらった。
それまで、木村さんたちが彼らを護衛した。
彼らはPKをしたデメリットを受け、蘇生が効かなくなっている。
最後の最後で人が殺されるのは、絶対に嫌だった。
少なくとも彼らは、PKをしたことを深く反省してそれが過ちだと認めている。
取り返しのつかないことをしたのだからと開き直らず、償うことを諦めず、責められることも殺されることも覚悟して、ここまで来たのだ。
そして僕は、被害者を加害者にしてしまいたくない。
蘇生を受けて、文句を言う人もいたが、武藤さんが出口付近へ引っ張って行き、原国さんたちが説明をして有坂さんの邪魔をさせなかった。
僕は彼女の側で、蘇生された人に最初に声をかけ、誘導をし続けた。
森脇さんのパーティーメンバーは1人しか生き返らせることがでなかった。森脇さんが何故そうなのか説明をすると、泣き崩れる。
「ただの夢だと思ったのに」
そういい、しばらく泣いていた。
木村さんたちは先行していたため、残り時間も短く、そこまで見守ると、挨拶をして出口へ向かった。
葉山さんが「またねー」と手を振る。のんびりと楽しそうに。
木村さんと原国さんは少し2人で話をして、夜桜さんはあまり喋らないまま、頭を下げて葉山さんの後ろをついていく。
田村さんは宗次郎くんと雛実ちゃんの頭をやさしく撫でてから、握手をして木村さんと共にダンジョンから出て行った。
その後は血の蘇生術による蘇生が始まる。
僕と有坂さんの背後には、武藤さん。トラブルになりそうな相手をつまみ上げて移動させる警備員のような役割をしてくれている。
出入り口には原国さんたちが待機し、説明と誘導をしている。
有坂さんは休むことなく、取得した血の蘇生を使い、時間ギリギリまで蘇生を繰り返した。
有坂さんが蘇生した人数は、100人を超えた。
「ありがとう、有坂さん。みんなを助けてくれて」
僕がお礼を言うと、有坂さんを目を丸くした後、笑って言った。
「それは私のセリフだと思うなあ……真瀬くんがいなかったらこんなこと、出来なかったもの。ありがとう、真瀬くん」
MPポーションもつき、時間も残りわずか。森脇さんは既にダンジョンから出ている。僕らよりタイムリミットが短かったためだ。
最後に宝箱を空ける。
そこにあったの大きな卵だった。何の卵かはわからない。収納しようとしていないのに、それは僕のストレージに収まってしまった。
従魔の卵という名前のそれには、『孵化までの残り時間/50時間』と表示されている。
ランダムでアイテムストレージに収納され、孵化までは取り出せない。
従魔が生まれるとストレージの持ち主を主として絶対服従となる、らしい。
最後の最後でびっくりしたけれど、僕たちパーティーと宗次郎くん雛実ちゃんで一緒に、ダンジョンから出る。
振り向くと、背後で扉が閉まった。
そこにはもう、何もなかった。
正面に向き直ればショップが目の前にぽつんとある。
コインは殆どすっからかんで、本当に酷い目にあった場所だったなと思う。
あんなに他人を怖いと思ったのは初めてだったし、悲しいとも思った。
誰がを殺されることを本気で怖いと思ったのも。
だけど酷いことだけじゃなかった。
好きな人が出来た。頼れる大人がいた。慕ってくれる後輩たちも。
たくさんの人を有坂さんのお陰で救うことが出来た。
それは全て1つの大きな財産のように思えた。
最後にみんなでショップを覗く。
店員はおらず、タッチパネルに説明が並んでいた。
『ショップで使用できるコインについて。スキルポイントコインは1ポイントにつき10クレジット、モンスターコインについては銅1ポイントにつき10クレジット、銀は30クレジット、金は50クレジット』
『魔石は1点につき30~1000クレジットとしてショップ用点数に換金可能』
『武器装備アイテムなどもショップ用クレジットに換金可能』
『ショップで各種コイン、魔石をクレジット化可能。クレジットは現実世界の現金へ換金可能。1クレジットにつき1万円相当』
「ええ……これ……どうします?」
僕は共有ストレージの魔石を指差す。
コインはないけど、使い道のなかった魔石と武器はたくさんある。
「ううーん……現金化するにしても、目が覚めたらポンと枕元に置かれてる金とか……確定申告どうすりゃいいんだよ」
「確かに」
武藤さんの呟きに、原国さんが笑う。
ショップの購入一覧を見ると武器防具アイテムスキルとタブが並ぶ。
星4までのものがたくさん並んでいる。
「犯罪捜査に使えるスキルとかどうすかね」
武藤さんが原国さんにニヤリと笑う。
「証明が出来ないからダメですよ」
僕が半目でジャージの裾を引くと、原国さんが苦笑する。
「人には過ぎた力です。もう帰りましょう。これが本当にただの夢であって欲しいところですが」
たしなめるように、柔らかく原国さんが言う。
「でも僕は、忘れたくないな、みんなのこと。夢ってすぐ、忘れちゃうから」
ぽつりと言うと、武藤さんの大きな手がわしわしと僕の頭を撫でる。
「確かに確かに、高校生の新鮮ないちゃらぶ拝めるとはね、いい夢だったわ」
有坂さんが真っ赤になって「もう! ちが、ちがいます!」と膨れた。
違うのは残念だけど、有坂さんが可愛いのでよし。
有坂さんはどんな表情も、かわいいな。好きだな。
忘れたくないな。
でも本当だとしたら、たくさん人が死んだことが事実になる。
助け切れなかった人たちがいる。
たくさん、いるのだ。
自害した男を、思い出す。
どうしても、忘れられそうにない、最後の表情が脳裏に浮かんで消える。
「そうだ! 連絡先渡してみっか」
言って武藤さんが自分の指を噛み切る。その血でシャツを捲り上げた僕の腕に電話番号を書く。
「わ、ちょっと武藤さん!?」
「筆記具ないから我慢しとけ」
無茶苦茶をする人だ。確かに、血を使うくらいしか筆記は出来ないだろうけど。
「俺の番号も書いて!」
宗次郎くんが言う。僕の腕がひどいことになる。
有坂さんも驚いて、それから笑った。
うん、笑ってくれるならいいかな……?
「私への連絡は警視庁に電話をして下さい。刑事部特殊13課あてで」
「それ公私混同じゃねえかおっさん」
さらりと原国さんが言い、武藤さんがツッこむ。
「今回のことがただの夢でないのなら、いろいろと話が必要になります。武藤くんたちの番号は覚えましたので、何かあれば迎えに行きますよ」
僕の両腕は武藤さんの血文字でえらいことになっているのを原国さんが見て笑う。
電話番号を見ただけで暗記できるなんて、すごいなあ、と思っていると、
「さあ、帰りましょう」
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