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2章 アポカリプスサウンド
35話【武藤の姉】
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僕たちを乗せた車両が、警視庁の地下駐車場へと入ってく。
薄暗い駐車場の中には警察官があちこちにいて、黒い渦のようなゲートを囲み、非常線を張っていた。
大人3人くらいが同時に入れるくらいのサイズの、黒い渦。
これがダンジョンゲート。
「ダンジョン内の記憶が消えるってんなら、夢現ダンジョンでおっさんの持ってる情報出してくれもよかったんじゃねえか?」
ぽつりと武藤さんが問う。
「それも考えました。が、万が一があります。記憶は残れど能力がリセットしてしまうのなら、あなた方から多くの情報が洩れることになる。それがどう作用するか未知数でしたから。あらゆる想定をして、秘匿事項については君たちに告げなかった。立ち往生した市民にと君たちに略式部署名を公開するのが精々出せる秘密の一端だったのです」
出せる情報、出せない情報。
確かに、知っていればあのダンジョンで有利に働いたかもしれない、でも原国さんは言った。今までのダンジョンとは違うと。
逆に『知っていたから不利になった』という状況もあったかもしれない。
「それに出てくる高レアリティなアイテムなど……特に言えば蘇生魔術と蘇生アイテムですが……。それは今までのダンジョンには存在しなかったものです。特殊スキルや特殊職はありましたが、真瀬くんや葉山さんが持つほどの強力なものはなかった。それが不明な他プレイヤーにないとは言い切れない。悪用しようとするのであれば、いくらでも出来る能力です」
「早い段階でのPvPを警戒、俺たちも警戒していた理由がわかったぜ。なるほどな」
「ええ、何せ今までのダンジョンには『武器となりうる物を携帯している者』しか入れませんでしたからね。警戒するのもご理解いただけると思いますよ」
警察官、自衛隊、確かに武装を持った集団で法治国家における暴力装置でもある。一般人でもナイフや包丁を持って移動する人もいる。それらを配送する人や料理人、それから山で狩猟をする人。漁師。後は半グレなどの半社会的な人たち。護身用に武器を持っている人も少数だけどいるかもしれない。
僕らはエレベーターに向かって歩く。地下駐車場特有の匂いが鼻をついた。
ゲートは1つではなく複数開いていて、それに対応する慌しい周囲を縫って僕たちは原国さんたちの先導でエレベーターホールへ向かう。
「ここからは、夢現ダンジョンクリア者とそのご家族には別々に説明等を受けていただきます。エレベーターに別れて乗っていただきますのでご承知置き下さい」
エレベーターホールに着くと、原国さんが言い、そしてもう1人、運転手をしていた人が家族をまとめ始める。
「あの、危険はないんですか!? 娘はまだ高校生なんですよ!」
有坂さんのお母さんが叫ぶように言う。
「その辺りも含め、ご説明致します。警視庁内は安全ですので、ご安心ください」
運転手をしていた人が言うと、エレベーターが着く。
「敬命、無茶はしないでね。お母さんはアンタを信じてるよ」
母が僕に言い、そして手を振ってエレベーターへと乗り込んだ。
有坂家の人たちも、渋々だがエレベーターに乗る。
それを見送って、武藤さんが口を開いた。
「なあ、おっさん。うちの姉貴はどうなってる」
「別の警察官が警備についている。安心して欲しい」
武藤さんのお姉さんは、入院をしているとチャットで言っていた。
病気なのか、怪我なのか。どちらにしても入院していると言う事は、自力で生活がままならないという事だ。……心配だろうな。
僕の視線に気付いた武藤さんは、にこりと笑って
「うちの姉貴は交通事故で、ちょっと昏睡状態でな。もう15年その状態なんだよ」
そう、からりとそう言う。
「俺が作家になったのも姉貴がファンタジーが好きでよ。見舞いに行くたびにこんな話はどうだって話しかけたのをさ、起きたらまとめて読ませてやろうと思ってwebで描いてたら、仕事になったって流れでな」
「そう、だったんですね」
武藤さんの作品はとても面白い。面白いだけでなく、元気付けられるようなエピソードが多い。
それは、目覚めない姉にための話だったからなのか。笑顔で言う武藤さんの言葉がとても腑に落ちて、僕も微笑む。
「俺自身は体を動かすのが好きだから、毎日見舞いがてら病院まで走っててな。それでこの筋肉っつーわけだ」
ジャージの袖をまくり、わははと笑って力瘤を作ってみせる。
「まあ、俺が何を言いてえかっつーとだな、俺にとっちゃ、スキルが現実になったことは悪いことばかりじゃない。姉貴が回復するかもしれない、大チャンスでもあるっつーわけよ、個人的に言えばな」
そういって、神妙な表情をしていた有坂さんにウインクをしてみせる。
そうか、攻撃系だけじゃなく、回復、……蘇生だって出来てしまうのだ。有坂さんは。
彼女だけでなく、回復師系スキルを持つ人はいた。
確かにそれは、回復が見込めない人や、体の一部を欠損した人、その家族にとっては大きな希望だった。
有坂さんの表情が花のようにほころぶ。
それを見て思わず笑顔になってしまう。好きな女の子が花のように笑っているのが嬉しい。
エレベーターが到着し、僕らはその箱に乗り込む。
僕のガチャスキルも、今の未曾有の混乱を収めるための力になれるかもしれない。
多発しているダンジョン攻略の安全性を引き上げる一助に、なれるかもしれないのだ。
それでも、被害の規模や状況はわからない。
不安と希望が混ざり合う僕らを乗せた、エレベーターは軽快な音を発てて到着を知らせた。
薄暗い駐車場の中には警察官があちこちにいて、黒い渦のようなゲートを囲み、非常線を張っていた。
大人3人くらいが同時に入れるくらいのサイズの、黒い渦。
これがダンジョンゲート。
「ダンジョン内の記憶が消えるってんなら、夢現ダンジョンでおっさんの持ってる情報出してくれもよかったんじゃねえか?」
ぽつりと武藤さんが問う。
「それも考えました。が、万が一があります。記憶は残れど能力がリセットしてしまうのなら、あなた方から多くの情報が洩れることになる。それがどう作用するか未知数でしたから。あらゆる想定をして、秘匿事項については君たちに告げなかった。立ち往生した市民にと君たちに略式部署名を公開するのが精々出せる秘密の一端だったのです」
出せる情報、出せない情報。
確かに、知っていればあのダンジョンで有利に働いたかもしれない、でも原国さんは言った。今までのダンジョンとは違うと。
逆に『知っていたから不利になった』という状況もあったかもしれない。
「それに出てくる高レアリティなアイテムなど……特に言えば蘇生魔術と蘇生アイテムですが……。それは今までのダンジョンには存在しなかったものです。特殊スキルや特殊職はありましたが、真瀬くんや葉山さんが持つほどの強力なものはなかった。それが不明な他プレイヤーにないとは言い切れない。悪用しようとするのであれば、いくらでも出来る能力です」
「早い段階でのPvPを警戒、俺たちも警戒していた理由がわかったぜ。なるほどな」
「ええ、何せ今までのダンジョンには『武器となりうる物を携帯している者』しか入れませんでしたからね。警戒するのもご理解いただけると思いますよ」
警察官、自衛隊、確かに武装を持った集団で法治国家における暴力装置でもある。一般人でもナイフや包丁を持って移動する人もいる。それらを配送する人や料理人、それから山で狩猟をする人。漁師。後は半グレなどの半社会的な人たち。護身用に武器を持っている人も少数だけどいるかもしれない。
僕らはエレベーターに向かって歩く。地下駐車場特有の匂いが鼻をついた。
ゲートは1つではなく複数開いていて、それに対応する慌しい周囲を縫って僕たちは原国さんたちの先導でエレベーターホールへ向かう。
「ここからは、夢現ダンジョンクリア者とそのご家族には別々に説明等を受けていただきます。エレベーターに別れて乗っていただきますのでご承知置き下さい」
エレベーターホールに着くと、原国さんが言い、そしてもう1人、運転手をしていた人が家族をまとめ始める。
「あの、危険はないんですか!? 娘はまだ高校生なんですよ!」
有坂さんのお母さんが叫ぶように言う。
「その辺りも含め、ご説明致します。警視庁内は安全ですので、ご安心ください」
運転手をしていた人が言うと、エレベーターが着く。
「敬命、無茶はしないでね。お母さんはアンタを信じてるよ」
母が僕に言い、そして手を振ってエレベーターへと乗り込んだ。
有坂家の人たちも、渋々だがエレベーターに乗る。
それを見送って、武藤さんが口を開いた。
「なあ、おっさん。うちの姉貴はどうなってる」
「別の警察官が警備についている。安心して欲しい」
武藤さんのお姉さんは、入院をしているとチャットで言っていた。
病気なのか、怪我なのか。どちらにしても入院していると言う事は、自力で生活がままならないという事だ。……心配だろうな。
僕の視線に気付いた武藤さんは、にこりと笑って
「うちの姉貴は交通事故で、ちょっと昏睡状態でな。もう15年その状態なんだよ」
そう、からりとそう言う。
「俺が作家になったのも姉貴がファンタジーが好きでよ。見舞いに行くたびにこんな話はどうだって話しかけたのをさ、起きたらまとめて読ませてやろうと思ってwebで描いてたら、仕事になったって流れでな」
「そう、だったんですね」
武藤さんの作品はとても面白い。面白いだけでなく、元気付けられるようなエピソードが多い。
それは、目覚めない姉にための話だったからなのか。笑顔で言う武藤さんの言葉がとても腑に落ちて、僕も微笑む。
「俺自身は体を動かすのが好きだから、毎日見舞いがてら病院まで走っててな。それでこの筋肉っつーわけだ」
ジャージの袖をまくり、わははと笑って力瘤を作ってみせる。
「まあ、俺が何を言いてえかっつーとだな、俺にとっちゃ、スキルが現実になったことは悪いことばかりじゃない。姉貴が回復するかもしれない、大チャンスでもあるっつーわけよ、個人的に言えばな」
そういって、神妙な表情をしていた有坂さんにウインクをしてみせる。
そうか、攻撃系だけじゃなく、回復、……蘇生だって出来てしまうのだ。有坂さんは。
彼女だけでなく、回復師系スキルを持つ人はいた。
確かにそれは、回復が見込めない人や、体の一部を欠損した人、その家族にとっては大きな希望だった。
有坂さんの表情が花のようにほころぶ。
それを見て思わず笑顔になってしまう。好きな女の子が花のように笑っているのが嬉しい。
エレベーターが到着し、僕らはその箱に乗り込む。
僕のガチャスキルも、今の未曾有の混乱を収めるための力になれるかもしれない。
多発しているダンジョン攻略の安全性を引き上げる一助に、なれるかもしれないのだ。
それでも、被害の規模や状況はわからない。
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