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2章 アポカリプスサウンド
38話【悪いニュース】
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原国さんの言葉にみんな、固まる。
「それって……」
「夢現ダンジョンをクリア出来なかった大臣、議員が大半だったのです。与党議員、野党議員問わず、政治家だけでなく、警察官僚、裁判所員他、多くの国家を成り立たせる重要人物もダンジョンでの死亡、現実でも死亡したと報告を受けました。時間内クリアが出来ず、昏睡者も多数。生き残った国家の運営に携わる人々がそれぞれ各所に集まり、会議をしている状況です」
「夢現ダンジョンの選出基準て、何だったんだろうな……議員とかでダンジョン入りしなかったのはいるのか?」
武藤さんが囁くように言ってから、訊ねる。
「確認が取れている国会議員はほぼ全員夢現ダンジョンに入ったと見られています。入っていなかったのが確認されたのは、昨晩から本日早朝の間に眠らなかった議員だけです」
とんでもないことになってしまった。母はどんなに忙しくても選挙は必ず行く。少しでもマシな政治家を選ぶと言って。僕も成人したら選挙に行こうと思っていた。
その前に、政治……国家という形そのものを揺るがす事態となってしまった。
国家の崩壊。
統治を行うトップ集団が、一夜にして潰滅したに等しい。誰も想定しなかったそれが起きてしまっている。
一介の高校生でしかない僕にはそれがどれほど混迷を極めることなのかはわからない。
誰がどんな仕組みで、あの平和な日常を作っていたのか、僕は本当のところを知らないことに気付いた。
日常が変わってしまったことに現実感がない。
テレビやネットで見る、災害の後の復興のように、きっとなんとかなるような気がしていた。
だけど、それは平時のことだ。一地域の復興を行う、それを取り仕切る人たちがいてこそ。多数の人がいてこそ、成される。
それが崩れ落ちた。
そうなった状態を経験している人が、この世界にどれだけいるのだろう。
国家、統治という基盤がなくなったら、どうなってしまうのか僕には想像もつかなかった。
「それと海外でも……全世界で夢現ダンジョンによる死者、昏睡者……そしてダンジョンゲートの発生も確認されています。全世界でほぼ同時に、今までの社会が形成できなくなりました」
世界全ての、国という、社会というものが、こんなにもあっさりと……?
話の規模が大きすぎて、実感が湧かない。現実感がない。
まるで何かをリセットしたみたいだ、と思った。
作り直し。やり直し。考え直し。そんな言葉が脳裏をよぎる。
「ええと、それでこれから僕たちはどうすればいいですか」
それでも、僕たちが出来ることは多分ある。そのために集められたのだろうから。
「まずは渡せる情報を話します。その後、パーティーを再編成し、ダンジョンの攻略。今回もまた、時間との戦いです」
そう言って原国さんが説明を始める。
まずは蘇生術について。警察病院内の医師、看護師からの聞き取りで回復術師から蘇生師にまでレベルを上げた人がおり、蘇生術を試したが不発動。
遺体となった人のスマホの残り時間が0だったためなのか、どういった条件であれば発動するのかダンジョンに潜り検証中。
「私の血の蘇生術は使用不可状態です。条件を満たしていない、そういう感触があります」
有坂さんが言う。ダンジョンの中は血塗れだった。出血が存在しない場所では不可、ということだろうか。
「嬢ちゃん、これならどうだ」
武藤さんが袖をまくって腕を机に出し、ストレージから短剣を取り出して、机の上で腕を切る。
溢れる血が机に零れ落ちる。
「武藤さん!?」
「ダメです。回復しますね」
驚く僕の横で有坂さんが首を横に振り、回復魔術をかける。傷が塞がり、何もなかったように武藤さんの腕は元通りになった。
「血が在る状態が必要かと思ったんだが、違うか。死者の血でないとダメ、とかかね」
ふむ、と武藤さんが言う。突然の自傷行為にびっくりしたけれど、検証だった。
心臓にすごく悪い。
武藤さんにはこういう自分の身を切るのに躊躇がないところがある。
自分を大事にして欲しい、と思って顔を見ると頭をぐりぐり撫でられて
「回復魔術は使えるのな」
と、呟いた。
「回復魔術は使えます。欠損や内臓の損傷ですら回復させる。生きてさえいれば、回復が可能です」
「そうか……」
武藤さんの顔に希望が灯る。きっと15年前の事故から昏睡状態のお姉さんの回復が可能だと確信できたのだろう。僕もほっとした。
「ですので、警察病院内の回復師が怪我人病人を回復させてまわっています。が、ここで出てくるのはMPの問題です」
原国さんが話を戻す。
「確かに。MPが不足してしまいますね。どう対応するんですか?」
MP回復ポーションは覚醒者であればショップを使用することが出来る。が、それに使えるコインと魔石にも限りがあるだろう。
「ダンジョン攻略です。MPの切れたレベルが低い回復師のレベリング。そして夢現ダンジョン未攻略の医師、看護師を入れ、ダンジョン攻略をして回復師として覚醒、モンスターコインや魔石を収集。周囲の病院へ派遣し、そちらの病院でも同様に回復師を増やします。ダンジョンゲートがこれだけ多くあり、制限時間があることを逆手にとり、モンスターが街中に開放されてしまったとしても死ななければ戦線復帰可能な下地を整える。病院は広いですからね。入院患者が健康になれば基地、避難所としての運用も可能です。万が一のための自家発電装置もありますから」
なるほど。回復は要だ。
だけどそれは、現代医療が終わるということでもある。
回復術が全ての怪我や病気に効くのであれば、現代医療は歴史になり、役目を終えることになるだろう。
「原国課長、集めてきました」
2つの袋を持った、原国さんの部下である、共に夢現ダンジョンを踏破した森脇さんが入室する。
「森脇さん」
森脇さんは僕たちを見て微笑む。
僕の目の前に、重そうな袋がじゃらりと音を発てて置かれた。
「森脇くんに集めて貰ったのは、コインだ。スキルポイントコインとモンスターコイン。これで真瀬くんにはガチャを引いて貰い、全体の戦力を強化する」
「それって……」
「夢現ダンジョンをクリア出来なかった大臣、議員が大半だったのです。与党議員、野党議員問わず、政治家だけでなく、警察官僚、裁判所員他、多くの国家を成り立たせる重要人物もダンジョンでの死亡、現実でも死亡したと報告を受けました。時間内クリアが出来ず、昏睡者も多数。生き残った国家の運営に携わる人々がそれぞれ各所に集まり、会議をしている状況です」
「夢現ダンジョンの選出基準て、何だったんだろうな……議員とかでダンジョン入りしなかったのはいるのか?」
武藤さんが囁くように言ってから、訊ねる。
「確認が取れている国会議員はほぼ全員夢現ダンジョンに入ったと見られています。入っていなかったのが確認されたのは、昨晩から本日早朝の間に眠らなかった議員だけです」
とんでもないことになってしまった。母はどんなに忙しくても選挙は必ず行く。少しでもマシな政治家を選ぶと言って。僕も成人したら選挙に行こうと思っていた。
その前に、政治……国家という形そのものを揺るがす事態となってしまった。
国家の崩壊。
統治を行うトップ集団が、一夜にして潰滅したに等しい。誰も想定しなかったそれが起きてしまっている。
一介の高校生でしかない僕にはそれがどれほど混迷を極めることなのかはわからない。
誰がどんな仕組みで、あの平和な日常を作っていたのか、僕は本当のところを知らないことに気付いた。
日常が変わってしまったことに現実感がない。
テレビやネットで見る、災害の後の復興のように、きっとなんとかなるような気がしていた。
だけど、それは平時のことだ。一地域の復興を行う、それを取り仕切る人たちがいてこそ。多数の人がいてこそ、成される。
それが崩れ落ちた。
そうなった状態を経験している人が、この世界にどれだけいるのだろう。
国家、統治という基盤がなくなったら、どうなってしまうのか僕には想像もつかなかった。
「それと海外でも……全世界で夢現ダンジョンによる死者、昏睡者……そしてダンジョンゲートの発生も確認されています。全世界でほぼ同時に、今までの社会が形成できなくなりました」
世界全ての、国という、社会というものが、こんなにもあっさりと……?
話の規模が大きすぎて、実感が湧かない。現実感がない。
まるで何かをリセットしたみたいだ、と思った。
作り直し。やり直し。考え直し。そんな言葉が脳裏をよぎる。
「ええと、それでこれから僕たちはどうすればいいですか」
それでも、僕たちが出来ることは多分ある。そのために集められたのだろうから。
「まずは渡せる情報を話します。その後、パーティーを再編成し、ダンジョンの攻略。今回もまた、時間との戦いです」
そう言って原国さんが説明を始める。
まずは蘇生術について。警察病院内の医師、看護師からの聞き取りで回復術師から蘇生師にまでレベルを上げた人がおり、蘇生術を試したが不発動。
遺体となった人のスマホの残り時間が0だったためなのか、どういった条件であれば発動するのかダンジョンに潜り検証中。
「私の血の蘇生術は使用不可状態です。条件を満たしていない、そういう感触があります」
有坂さんが言う。ダンジョンの中は血塗れだった。出血が存在しない場所では不可、ということだろうか。
「嬢ちゃん、これならどうだ」
武藤さんが袖をまくって腕を机に出し、ストレージから短剣を取り出して、机の上で腕を切る。
溢れる血が机に零れ落ちる。
「武藤さん!?」
「ダメです。回復しますね」
驚く僕の横で有坂さんが首を横に振り、回復魔術をかける。傷が塞がり、何もなかったように武藤さんの腕は元通りになった。
「血が在る状態が必要かと思ったんだが、違うか。死者の血でないとダメ、とかかね」
ふむ、と武藤さんが言う。突然の自傷行為にびっくりしたけれど、検証だった。
心臓にすごく悪い。
武藤さんにはこういう自分の身を切るのに躊躇がないところがある。
自分を大事にして欲しい、と思って顔を見ると頭をぐりぐり撫でられて
「回復魔術は使えるのな」
と、呟いた。
「回復魔術は使えます。欠損や内臓の損傷ですら回復させる。生きてさえいれば、回復が可能です」
「そうか……」
武藤さんの顔に希望が灯る。きっと15年前の事故から昏睡状態のお姉さんの回復が可能だと確信できたのだろう。僕もほっとした。
「ですので、警察病院内の回復師が怪我人病人を回復させてまわっています。が、ここで出てくるのはMPの問題です」
原国さんが話を戻す。
「確かに。MPが不足してしまいますね。どう対応するんですか?」
MP回復ポーションは覚醒者であればショップを使用することが出来る。が、それに使えるコインと魔石にも限りがあるだろう。
「ダンジョン攻略です。MPの切れたレベルが低い回復師のレベリング。そして夢現ダンジョン未攻略の医師、看護師を入れ、ダンジョン攻略をして回復師として覚醒、モンスターコインや魔石を収集。周囲の病院へ派遣し、そちらの病院でも同様に回復師を増やします。ダンジョンゲートがこれだけ多くあり、制限時間があることを逆手にとり、モンスターが街中に開放されてしまったとしても死ななければ戦線復帰可能な下地を整える。病院は広いですからね。入院患者が健康になれば基地、避難所としての運用も可能です。万が一のための自家発電装置もありますから」
なるほど。回復は要だ。
だけどそれは、現代医療が終わるということでもある。
回復術が全ての怪我や病気に効くのであれば、現代医療は歴史になり、役目を終えることになるだろう。
「原国課長、集めてきました」
2つの袋を持った、原国さんの部下である、共に夢現ダンジョンを踏破した森脇さんが入室する。
「森脇さん」
森脇さんは僕たちを見て微笑む。
僕の目の前に、重そうな袋がじゃらりと音を発てて置かれた。
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