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2章 アポカリプスサウンド
45話【わたしの王子様】
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「喧嘩しないで下さい武藤さん。彼女は大丈夫です」
僕はチャットの情報を確認し終えて、原国さんの指示の元、気配遮断をといた。
原国さんからの情報が正しければ、彼女には問題はない。
彼女の配信についても「広報に使いなさい」と命じた。
広報。使えるものは何でも使えということだろうか。
チャットで口外してはいけないことが箇条書きで送られてくる。
それと、広報して欲しいことについても。
「君は皆森さん、だよね」
僕を認識すると、彼女の喉がヒュッと鳴った。
3人だと思っていたのに、もう1人いたのがわかれば怖いかもしれない。
「僕たちは君の敵じゃない。大丈夫だよ」
「お、」
彼女は僕を見て、言葉を失う。
そんなに驚かせたのは悪かったな、と思い聞き返す。
「お?」
「王子様いたーーー!!」
「えっ!?」
皆森さんが僕に飛びついてくる。避ければ彼女が怪我をするので、受け止める。
「私と結婚してください」
「今武藤さん口説いてなかった!? ちょっと離れて」
「私の理想、もう離さないわーーー!!!!」
と叫んだ彼女をべろりと引き剥がしたのは有坂さんだった。
「真瀬くんが困ってるでしょ、やめなさい」
有坂さんと上平さんでなんとか暴走を食い止めている。
びっくりした。心臓に悪い。
「なあ坊主これ、どう収集つけたらいいと思う?」
半目で訊ねる武藤さんに僕はスマホを見せる。原国さんの指示。皆森さんの情報。それに目を通した武藤さんががっくりしてため息吐く。
「お互い頑張りましょう……」
「坊主、俺の正体アレに絶対バラすなよ」
「言われずともですね」
僕たちは頷き合う。
彼女は武藤さんの作品のファンで、一番好きな作品のジャンルは異世界恋愛ものだった。
恋に夢を見ている。
命をダンジョンにより拾い、今に希望を得た少女。
元気なのも、このテンションも、そうすることが今まで一切出来なかったのを取り戻すように。
いつのまにやら女子同士でふわふわとした会話が始まっていた。
きっとそれも彼女が憧れた素敵なものだ。
病室で、死を待つ少女の儚い夢が、血にまみれたダンジョンで叶った。
彼女のスキルは、『反射』あらゆる攻撃を相手に返す。
その特殊スキルで、夢現ダンジョンを生き延びた。
余命半年だった、今は跳ね回るほどの元気を持った少女の名は皆森涼香。
そして、PKKにより魔術そして武術スキルも取得している。戦力としては申し分がない人物でもある。
病院内に配備された原国さんの部下により、夢現ダンジョンをクリアした入院患者の情報は収集済みで、彼女もその1人だったのだ。
「皆森さん落ち着いたかな?」
「……やっぱり王子様なのね、私の名前を知っている、なんて」
「それは違うよ。何もかも違うから落ち着いて欲しいんだ」
「君のことは僕たちの上司が調べたんだ」
「個人情報を……? もしかしてあなたたち何かの組織だったりするの?」
「僕たちはね、この一連のダンジョン災害に対する特務捜査をしているんだ。このバッヂをつけている人はみんなそう。あと上平さんは現職の警察官。僕たちはレッドゲートを潰して、モンスターが出てこないように、ここに来たんだ。君にもスカウトの声がかかっているよ、どうする?」
「勿論答えはイエスよ。私、戦隊モノも好きなの!」
その答えを聞いて、僕は彼女にかけたスキル封印を解く。
こうして、ダンジョン攻略に皆森さんが加わり、暗い空気になる暇もないくらい、彼女は楽しそうに喋り倒した。年代の近い僕と有坂さんとの会話を一番楽しんでいるようで、僕たちは一瞬、日常を取り戻したような気すらした。
「敬命くんは彼女いないの?」
皆森さんはニコニコキラキラしながら聞いてくる。
「いないよ。でも彼女を作る気は、今はないんだ」
彼女を作る、という気持ちは僕には元々そんなにないけれど、今はそういうことに気持ちを割いていていい状況ではない。
有坂さんだってこんな状況で、パーティーメンバーからそういう告白をされても困るだろうし。
そんなことをしようものなら、彼女の答えがどうであっても、気まずいことになりそうだ。
「作る気出来たら、立候補していい?」
ニコニコと、それでも訊いて来る皆森さんはとてもかわいいけれど。
「ごめんね、好きな人はいるんだ」
「告白とかしないの?」
断られたというのに傷ついた表情をすることなく、皆森さんはきょとんとした。
「今は出来ない。こんな状況で自分の気持ちを優先は出来ないよ」
「そっかー。敬命くんはそういう人なんだね」
なるほど、と謎の納得をした皆森さん。何をどう納得したのかはわからないけど、傷つけることなく納得してくれたのならよかった。
そんなダンジョンを駆け抜けながらする、楽しいお喋り。
他愛ない会話。笑い声。
僕たちの世界にあったものたち。皆森さんがずっと欲していたものたち。
だけどここはダンジョンで、モンスターがいる。
廊下には血が敷かれ、今も誰かが傷つき、死に行く世界だ。
僕たちは2階層に足を踏み入れた。
アナウンスは、ない。ダンジョンからのアナウンスは夢現ダンジョンだけのものだったのだろうか。
先行者がいないことがわかっている僕らは、各階を走り抜けた。
彼女のリスナーに対して、武藤さんや上平さん、有坂さんが警告をたくさんしていた。
リスナーたちの反応を目で追いながら、あっさりと、僕らはレベル5ダンジョンを踏破した。
出口の前で、皆森さんが配信を切る。
そして、有坂さんが血の蘇生術を使うと、蘇生が出来た。
このダンジョン内で死者はいない。それでも蘇生は出来た、ということはダンジョンは何かで繋がっているのかも知れない。
僕たちの乗ってきた車で、上平さんが皆森さんと蘇生された人を連れ帰ることにしたため、今回有坂さんが蘇生した人数は少ない。MPにも限りがある。
ダンジョン内で聞き取りをすると、どうやら彼らは夢現ダンジョンでの死者らしい。
遺体はどうなっているのだろう、と思ったら原国さんからのチャットが飛ぶ。
「蘇生された死者の遺体が消失したことが確認できました。ダンジョンで死亡確定後に蘇生を受けると、現実にある遺体は消失。ダンジョン内で生き返るようです」
確認が早い。蘇生については、要人もダンジョン内で多数死亡しているので重要なのだろう。
東京タワー前と病院の駐車場にマイクロバスなどの車両を集めておくことと、各ゲートからそこまで誘導する人員の確保などもすると原国さんが告げる。
乗車できる最大人数に達した。
僕たちはこのまま徒歩で移動してレッドゲートを順序通り回ることになっているので人数には含まれない。何せ次のレッドゲートは病院の目の前の路上なのだ。
ダンジョン出口の扉を蘇生した人たちと抜けると病院の地下駐車場で、ゲートが消失する。
ゲートのあった場所の床と天井には、何かの模様が書かれていた。魔法陣のような何か。
スマホでそれを撮影して原国さんへ送信した。
僕らは、武藤さんのお姉さんのいる病室へと向かった。
家族と合流できていないのは武藤さんだけだ。有坂さんの回復術で回復出来れば、パーティーに加えてスキル取得後に保護も出来るので、ということで原国さんの指示だった。
「目覚めたら15年後、ってどういう気分なんだろうな」
「きっとびっくりしますよね」
いろんな意味でびっくりするに違いない。世界は15年経てば大きく変わる。それ以上の変化変質も起こしている、今だ。
それでも、皆森さんの喜びようを見ていた僕らは、回復さえすればリハビリも必要ないくらいの健康を取り戻せるのではないかと期待する。
駐車場からエントランスに向かう。そこには驚くような光景があった。
僕はチャットの情報を確認し終えて、原国さんの指示の元、気配遮断をといた。
原国さんからの情報が正しければ、彼女には問題はない。
彼女の配信についても「広報に使いなさい」と命じた。
広報。使えるものは何でも使えということだろうか。
チャットで口外してはいけないことが箇条書きで送られてくる。
それと、広報して欲しいことについても。
「君は皆森さん、だよね」
僕を認識すると、彼女の喉がヒュッと鳴った。
3人だと思っていたのに、もう1人いたのがわかれば怖いかもしれない。
「僕たちは君の敵じゃない。大丈夫だよ」
「お、」
彼女は僕を見て、言葉を失う。
そんなに驚かせたのは悪かったな、と思い聞き返す。
「お?」
「王子様いたーーー!!」
「えっ!?」
皆森さんが僕に飛びついてくる。避ければ彼女が怪我をするので、受け止める。
「私と結婚してください」
「今武藤さん口説いてなかった!? ちょっと離れて」
「私の理想、もう離さないわーーー!!!!」
と叫んだ彼女をべろりと引き剥がしたのは有坂さんだった。
「真瀬くんが困ってるでしょ、やめなさい」
有坂さんと上平さんでなんとか暴走を食い止めている。
びっくりした。心臓に悪い。
「なあ坊主これ、どう収集つけたらいいと思う?」
半目で訊ねる武藤さんに僕はスマホを見せる。原国さんの指示。皆森さんの情報。それに目を通した武藤さんががっくりしてため息吐く。
「お互い頑張りましょう……」
「坊主、俺の正体アレに絶対バラすなよ」
「言われずともですね」
僕たちは頷き合う。
彼女は武藤さんの作品のファンで、一番好きな作品のジャンルは異世界恋愛ものだった。
恋に夢を見ている。
命をダンジョンにより拾い、今に希望を得た少女。
元気なのも、このテンションも、そうすることが今まで一切出来なかったのを取り戻すように。
いつのまにやら女子同士でふわふわとした会話が始まっていた。
きっとそれも彼女が憧れた素敵なものだ。
病室で、死を待つ少女の儚い夢が、血にまみれたダンジョンで叶った。
彼女のスキルは、『反射』あらゆる攻撃を相手に返す。
その特殊スキルで、夢現ダンジョンを生き延びた。
余命半年だった、今は跳ね回るほどの元気を持った少女の名は皆森涼香。
そして、PKKにより魔術そして武術スキルも取得している。戦力としては申し分がない人物でもある。
病院内に配備された原国さんの部下により、夢現ダンジョンをクリアした入院患者の情報は収集済みで、彼女もその1人だったのだ。
「皆森さん落ち着いたかな?」
「……やっぱり王子様なのね、私の名前を知っている、なんて」
「それは違うよ。何もかも違うから落ち着いて欲しいんだ」
「君のことは僕たちの上司が調べたんだ」
「個人情報を……? もしかしてあなたたち何かの組織だったりするの?」
「僕たちはね、この一連のダンジョン災害に対する特務捜査をしているんだ。このバッヂをつけている人はみんなそう。あと上平さんは現職の警察官。僕たちはレッドゲートを潰して、モンスターが出てこないように、ここに来たんだ。君にもスカウトの声がかかっているよ、どうする?」
「勿論答えはイエスよ。私、戦隊モノも好きなの!」
その答えを聞いて、僕は彼女にかけたスキル封印を解く。
こうして、ダンジョン攻略に皆森さんが加わり、暗い空気になる暇もないくらい、彼女は楽しそうに喋り倒した。年代の近い僕と有坂さんとの会話を一番楽しんでいるようで、僕たちは一瞬、日常を取り戻したような気すらした。
「敬命くんは彼女いないの?」
皆森さんはニコニコキラキラしながら聞いてくる。
「いないよ。でも彼女を作る気は、今はないんだ」
彼女を作る、という気持ちは僕には元々そんなにないけれど、今はそういうことに気持ちを割いていていい状況ではない。
有坂さんだってこんな状況で、パーティーメンバーからそういう告白をされても困るだろうし。
そんなことをしようものなら、彼女の答えがどうであっても、気まずいことになりそうだ。
「作る気出来たら、立候補していい?」
ニコニコと、それでも訊いて来る皆森さんはとてもかわいいけれど。
「ごめんね、好きな人はいるんだ」
「告白とかしないの?」
断られたというのに傷ついた表情をすることなく、皆森さんはきょとんとした。
「今は出来ない。こんな状況で自分の気持ちを優先は出来ないよ」
「そっかー。敬命くんはそういう人なんだね」
なるほど、と謎の納得をした皆森さん。何をどう納得したのかはわからないけど、傷つけることなく納得してくれたのならよかった。
そんなダンジョンを駆け抜けながらする、楽しいお喋り。
他愛ない会話。笑い声。
僕たちの世界にあったものたち。皆森さんがずっと欲していたものたち。
だけどここはダンジョンで、モンスターがいる。
廊下には血が敷かれ、今も誰かが傷つき、死に行く世界だ。
僕たちは2階層に足を踏み入れた。
アナウンスは、ない。ダンジョンからのアナウンスは夢現ダンジョンだけのものだったのだろうか。
先行者がいないことがわかっている僕らは、各階を走り抜けた。
彼女のリスナーに対して、武藤さんや上平さん、有坂さんが警告をたくさんしていた。
リスナーたちの反応を目で追いながら、あっさりと、僕らはレベル5ダンジョンを踏破した。
出口の前で、皆森さんが配信を切る。
そして、有坂さんが血の蘇生術を使うと、蘇生が出来た。
このダンジョン内で死者はいない。それでも蘇生は出来た、ということはダンジョンは何かで繋がっているのかも知れない。
僕たちの乗ってきた車で、上平さんが皆森さんと蘇生された人を連れ帰ることにしたため、今回有坂さんが蘇生した人数は少ない。MPにも限りがある。
ダンジョン内で聞き取りをすると、どうやら彼らは夢現ダンジョンでの死者らしい。
遺体はどうなっているのだろう、と思ったら原国さんからのチャットが飛ぶ。
「蘇生された死者の遺体が消失したことが確認できました。ダンジョンで死亡確定後に蘇生を受けると、現実にある遺体は消失。ダンジョン内で生き返るようです」
確認が早い。蘇生については、要人もダンジョン内で多数死亡しているので重要なのだろう。
東京タワー前と病院の駐車場にマイクロバスなどの車両を集めておくことと、各ゲートからそこまで誘導する人員の確保などもすると原国さんが告げる。
乗車できる最大人数に達した。
僕たちはこのまま徒歩で移動してレッドゲートを順序通り回ることになっているので人数には含まれない。何せ次のレッドゲートは病院の目の前の路上なのだ。
ダンジョン出口の扉を蘇生した人たちと抜けると病院の地下駐車場で、ゲートが消失する。
ゲートのあった場所の床と天井には、何かの模様が書かれていた。魔法陣のような何か。
スマホでそれを撮影して原国さんへ送信した。
僕らは、武藤さんのお姉さんのいる病室へと向かった。
家族と合流できていないのは武藤さんだけだ。有坂さんの回復術で回復出来れば、パーティーに加えてスキル取得後に保護も出来るので、ということで原国さんの指示だった。
「目覚めたら15年後、ってどういう気分なんだろうな」
「きっとびっくりしますよね」
いろんな意味でびっくりするに違いない。世界は15年経てば大きく変わる。それ以上の変化変質も起こしている、今だ。
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