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2章 アポカリプスサウンド
閑話 ――伏見宗旦視点――
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「自分で行くなら、何で俺を行かせたんですかね……」
ホテルの広々としたスイートルームのソファに座り、上司にボヤく。
キングサイズのベッドには、精魂尽き果てた男女の吐息が溢れる中、当の上司は全裸のまま読書を始めていた。
「君の話を聞いたらそそられたから」
視線を本に落としたまま、ばっさりと言い切った。
「武藤くんも真瀬くんも有坂ちゃんもとても楽しめそうな人間だったよ。自分のダメージを省みないのに、他人のそれにはとても感度がよかった。特に真瀬くんはいいね、腕を落とされても思考を放棄しなかった。仲間が腕を落とされても刺されても誰も混乱して取り乱さず、俺に対する警戒を続けていた。とても美しいよね、そういうの」
気まぐれな猫より性質の悪い赤髪の男は鼻歌交じりに「それに俺の固有スキルが通らなかった。面白いだろう?」と、本からこちらに目線を上げて言う。
「面白くは全然無いですね。まずは服を着てください」
ため息交じりに言うと、「眼福なのでは?」と赤い髪を揺らして笑う。
行動も言動も全く読めない。
「風邪はひかんでしょうけど、一応まだ人類なので羞恥心とか持ってて欲しいんですよね、俺は」
「何を今更」
けんもほろろである。それもそうだ、この男はもとよりそういう性質の男だ。
人を誘惑して、堕落させるのが異様に、上手い。上手いなんてものではない。
堕落させ依存させ生き血を全てを啜り上げて生きてきた。元々人間ではなく吸血鬼だと言われても、信じたかもしれない。
世界がこうなる前から、この男はそうだった。
元は金髪に染めていた髪は、スキルを使い続けた所為ですっかり真っ赤になっている。
今まで啜った、人間の血の色のように。
ベッドに転がっている男も女も、この上司のスキルの餌食になった。
既に、彼の操り人形となった彼らは正気に戻っても、彼の命令には絶対服従する。無意識に、彼の望みを叶える行動をする。
のそり、のそりと起き上がると服を着て、ぞろぞろと部屋の外へと出て行く。
部屋を出た頃には、このキングサイズのベッドの上でされたことを彼らは覚えていないだろう。
ただ、夢見心地で、何の疑問も持たずに自分の部屋へ戻る。ダンジョンに踏み込み、スキルを得て帰ってくるものもいるかもしれないが、それは全裸で読書をするこの男の気分次第だ。
俺はその人形化スキルを使用されていない。
昔からの友人だからかもしれないが、それに胡坐をかけば俺も彼らの仲間入りを果たすことになるかもしれない。
それはこうなる前からずっと思っていたことだ。だいぶ人道を外れに外れた男ではあるが、特に憎めもしなかったし、腐れ縁のように友人関係は続いていた。
こいつの性愛に男女年齢の区別はない。誰かを気にいって執着をはじめたら最期、その相手を篭絡して骨の髄までしゃぶりつくす。
哀れに破滅する人間を、何故か隣で見つづけることになっているのが俺だった。
いや、愛という字はこの男には似つかわしくない。
欲望。何を手に入れても、満足せずに食い飽きるということも知らない。
貪欲、暴食、色欲、傲慢。そんな言葉がよく似合う。
「大体何しに行ったんです。左京さんが黙っちゃいませんよ」
「左京さんもちょっと怒らせたら楽しそうだよね、あの人。冷徹すぎて、何考えてるか全然わからないの面白いし」
「勘弁してくださいよ。あの人敵にまわしたら、俺もアンタも死ぬって言ったでしょ。俺のスキル舐めてんの?」
思わずそう口にしたと同時に、電話が鳴った。
嫌な予感しか、しない。
「はいはい、左京さんかな?」
止める前に受話器を上げて、スピーカーボタンを押して楽しげに話し始めてしまった。
「うちの者に手を出さないよう言ったのを、もうお忘れですか」
背筋が凍りそうなほど冷たい声が部屋に響く。
「忘れてないよ。殺してないし、犯してないし、壊してもないんだからいいでしょ」
「次はありません」
次に手を出せば、俺たちは殺されるだろう。間違いなく、電話先にいる男に地獄に叩き落される。
「わかったわかった。ねえ左京さん、あの子たち俺のスキル通らなかったよ。言っている意味、わかるよね」
そんな空気を読まない言葉に俺はこいつの口を無理にでも閉じさせたくなる。
こいつは、自分の命にも頓着しない。だから他人を平然と食い物にできる。
だけど、捕食者なのは、俺たちだけじゃない。通話の先の男も、また怪物だというのに。
スピーカーからはため息がひとつ。そして部屋が急速に温度を失っていく。
歯の根が鳴り、体が震える。急速な温度の喪失に心臓が鼓動を止めそうになると、ゆっくりと温度が元へ戻っていく。
死の一歩、手前。
「警告はしましたよ」
絶対零度の声と共に、通話が切れる。
「んええ、さっむい。やっぱさー、左京さんってキレてる時のほうがセクシーボイスじゃない?」
言って、元凶の男はようやく衣服を身につけた。
「バカかお前、マジで一遍死んだほうがいいんじゃねえか本当」
思わず学生時代の口調に戻ってしまう。いやでもそれはこのバカが悪い。
うっかり死ぬところだった。だから怒らせるなと言ったのにこのアホは。
「嫉妬?」
「しねえよバカ、 あの人は今のコレの元凶の1人だって何べん言えばわかるんだ。俺は命が惜しいっつってんの!」
人間の持つ悪徳と愚かさ全てを詰め込んだ男にこの言葉を吐き捨てる。もう数えることもできないほど言ってきた言葉を男は笑う。
「嘘ばっか」
「嘘ではねえが!?」
「嘘だよ、宗旦。君は命がかかってないと生きた心地もわからない。だから俺といるくせに」
ころころと悪女のように笑って。
「君も今の世界が楽しくて仕方ないんだろうにね」
囁きながら本を開きなおして、読み始める。
ひとりの少年が、誘惑者によって破滅していく、その本を。
俺は舌打ちをして、ベッドに向けて清浄魔術を投げつける。
せめてシャワーくらいは浴びて欲しいところだが、言ったところで聞きはしない。清浄魔術様様である。
彼は欠伸をひとつ噛み殺すと、部屋に向かってくる気配にも気にかけずごろごろと柔らかなクッションに埋まりながら読書を続ける。
キーが開く音と共にドアが勢いよく開き、少女が部屋へ飛びこんでくる。
「ねえねえ、聞いて聞いて」
勢いそのままに広い部屋を駆け抜けて、少女はベッドにダイブしてぽよんと跳ねると、楽しそうに言う。
「面白スキル手に入れちゃった!」
「へえ、いいね。どんなスキル?」
「好きな人をバラすスキル! 強制告白だって! アホみたいじゃない?」
「それは面白いね。宗旦に使ってみたら?」
「おいやめろバカ共」
バカの相乗効果は勘弁して欲しい。この少女もまた、男が人形化しない相手の1人。
とはいえこの少女もまた倫理感は同様にどこかに落としてきている。それは俺も人のことを言えた義理ではないが。
「宗旦にはキョーミないかな」
「それはそれでムカつくなクソガキ」
まだ中学生のこのガキは、あろうことかごろごろとしながら本を読むこの男の子供が欲しいと言って聞かない。
自分もまだ子供だという意識はないらしいが、まあガキってのはそういうモンでもあるし、この男にとって相手の年齢などは全く関係が無いのを俺は良く知っている。
この男と褥を共にすることは、最高の快楽と魂を引き換えにした悪魔との契約のようなものだ。
倫理感の欠片もない男が懐いた少女に全く手をつけないのも珍しいが、気まぐれで手をつけて捨てるかもしれない。
この男の行動だけは全く読めない。情報スキルをどれだけ使えても、理解はできないだろうしするつもりもない。
理解すればそれこそ気が狂うのではないかと思わせる邪悪さがある。
「だって宗旦の好きな相手なんてわかりきってるし。ライバルよね」
「誰が何のライバルだよ」
妙な誤解を受けて顔をしかめると、男が笑う。
「俺、お腹すいちゃった。宗旦、ごはん」
「俺はごはんではない。ルームサービスでも頼めばいいだろうが」
「宗旦を食べてもいいんだが」
「俺は良くない。舌噛んで死んだほうがマシ。はーお前らといるとしんどい」
机の煙草を手にとって吸う。肺を煙で満たす。
「宗旦」
煙草とライターを男へ投げつける。人が吸い始めると、欲しくなるらしい。
学生時代から変わらない。
「さすが詐欺師は人の機微を読むのが上手いね」
言って1本煙草を取って火をつけると、投げ返してくる。
「俺は詐欺師じゃなくて情報屋だっつってんだろ」
「相手が破滅する情報しか渡さないのに、よく言うよね」
この男の言う通り、俺は確かに、この男と同類ではある。人の破滅を見て、生きた心地を得る。そういう意味では同族かもしれない。
「お前も破滅させてやってもいいんだけどな」
紫煙と共に愚痴を吐けば、帰ってくるのはいつものセリフだ。
「そうしたくなったら、言ってくれればいい。その代償を俺も貰うよ」
結局のところ、なんだかんだ思うところはあれど、俺にとって『同じ人類』という枠にいるのはこの男だけだ。気まぐれで貪欲で人を破滅に導き世界を歩く。
その性質は周囲を破滅させながら、何故か当人だけはピンピンして笑っている。
腹を減らしたこの男の欲望は人を殺すし、この男の言う通り、俺の言葉も人を殺すのだ。
そして対等なのはお互いだけで、あとはにぎやかしのようなものだ。食べ飽きてしまえば残りがあれどもゴミ箱へ投げ捨てる。
俺たちの行き着く先は地獄しかない。
その地獄の存在が確定した今、俺たちは綱渡りを更に楽しく感じて、生きている。
きっと結局のところ、最後の最後に俺を殺すのは、この男だろうなと思いながら。
ホテルの広々としたスイートルームのソファに座り、上司にボヤく。
キングサイズのベッドには、精魂尽き果てた男女の吐息が溢れる中、当の上司は全裸のまま読書を始めていた。
「君の話を聞いたらそそられたから」
視線を本に落としたまま、ばっさりと言い切った。
「武藤くんも真瀬くんも有坂ちゃんもとても楽しめそうな人間だったよ。自分のダメージを省みないのに、他人のそれにはとても感度がよかった。特に真瀬くんはいいね、腕を落とされても思考を放棄しなかった。仲間が腕を落とされても刺されても誰も混乱して取り乱さず、俺に対する警戒を続けていた。とても美しいよね、そういうの」
気まぐれな猫より性質の悪い赤髪の男は鼻歌交じりに「それに俺の固有スキルが通らなかった。面白いだろう?」と、本からこちらに目線を上げて言う。
「面白くは全然無いですね。まずは服を着てください」
ため息交じりに言うと、「眼福なのでは?」と赤い髪を揺らして笑う。
行動も言動も全く読めない。
「風邪はひかんでしょうけど、一応まだ人類なので羞恥心とか持ってて欲しいんですよね、俺は」
「何を今更」
けんもほろろである。それもそうだ、この男はもとよりそういう性質の男だ。
人を誘惑して、堕落させるのが異様に、上手い。上手いなんてものではない。
堕落させ依存させ生き血を全てを啜り上げて生きてきた。元々人間ではなく吸血鬼だと言われても、信じたかもしれない。
世界がこうなる前から、この男はそうだった。
元は金髪に染めていた髪は、スキルを使い続けた所為ですっかり真っ赤になっている。
今まで啜った、人間の血の色のように。
ベッドに転がっている男も女も、この上司のスキルの餌食になった。
既に、彼の操り人形となった彼らは正気に戻っても、彼の命令には絶対服従する。無意識に、彼の望みを叶える行動をする。
のそり、のそりと起き上がると服を着て、ぞろぞろと部屋の外へと出て行く。
部屋を出た頃には、このキングサイズのベッドの上でされたことを彼らは覚えていないだろう。
ただ、夢見心地で、何の疑問も持たずに自分の部屋へ戻る。ダンジョンに踏み込み、スキルを得て帰ってくるものもいるかもしれないが、それは全裸で読書をするこの男の気分次第だ。
俺はその人形化スキルを使用されていない。
昔からの友人だからかもしれないが、それに胡坐をかけば俺も彼らの仲間入りを果たすことになるかもしれない。
それはこうなる前からずっと思っていたことだ。だいぶ人道を外れに外れた男ではあるが、特に憎めもしなかったし、腐れ縁のように友人関係は続いていた。
こいつの性愛に男女年齢の区別はない。誰かを気にいって執着をはじめたら最期、その相手を篭絡して骨の髄までしゃぶりつくす。
哀れに破滅する人間を、何故か隣で見つづけることになっているのが俺だった。
いや、愛という字はこの男には似つかわしくない。
欲望。何を手に入れても、満足せずに食い飽きるということも知らない。
貪欲、暴食、色欲、傲慢。そんな言葉がよく似合う。
「大体何しに行ったんです。左京さんが黙っちゃいませんよ」
「左京さんもちょっと怒らせたら楽しそうだよね、あの人。冷徹すぎて、何考えてるか全然わからないの面白いし」
「勘弁してくださいよ。あの人敵にまわしたら、俺もアンタも死ぬって言ったでしょ。俺のスキル舐めてんの?」
思わずそう口にしたと同時に、電話が鳴った。
嫌な予感しか、しない。
「はいはい、左京さんかな?」
止める前に受話器を上げて、スピーカーボタンを押して楽しげに話し始めてしまった。
「うちの者に手を出さないよう言ったのを、もうお忘れですか」
背筋が凍りそうなほど冷たい声が部屋に響く。
「忘れてないよ。殺してないし、犯してないし、壊してもないんだからいいでしょ」
「次はありません」
次に手を出せば、俺たちは殺されるだろう。間違いなく、電話先にいる男に地獄に叩き落される。
「わかったわかった。ねえ左京さん、あの子たち俺のスキル通らなかったよ。言っている意味、わかるよね」
そんな空気を読まない言葉に俺はこいつの口を無理にでも閉じさせたくなる。
こいつは、自分の命にも頓着しない。だから他人を平然と食い物にできる。
だけど、捕食者なのは、俺たちだけじゃない。通話の先の男も、また怪物だというのに。
スピーカーからはため息がひとつ。そして部屋が急速に温度を失っていく。
歯の根が鳴り、体が震える。急速な温度の喪失に心臓が鼓動を止めそうになると、ゆっくりと温度が元へ戻っていく。
死の一歩、手前。
「警告はしましたよ」
絶対零度の声と共に、通話が切れる。
「んええ、さっむい。やっぱさー、左京さんってキレてる時のほうがセクシーボイスじゃない?」
言って、元凶の男はようやく衣服を身につけた。
「バカかお前、マジで一遍死んだほうがいいんじゃねえか本当」
思わず学生時代の口調に戻ってしまう。いやでもそれはこのバカが悪い。
うっかり死ぬところだった。だから怒らせるなと言ったのにこのアホは。
「嫉妬?」
「しねえよバカ、 あの人は今のコレの元凶の1人だって何べん言えばわかるんだ。俺は命が惜しいっつってんの!」
人間の持つ悪徳と愚かさ全てを詰め込んだ男にこの言葉を吐き捨てる。もう数えることもできないほど言ってきた言葉を男は笑う。
「嘘ばっか」
「嘘ではねえが!?」
「嘘だよ、宗旦。君は命がかかってないと生きた心地もわからない。だから俺といるくせに」
ころころと悪女のように笑って。
「君も今の世界が楽しくて仕方ないんだろうにね」
囁きながら本を開きなおして、読み始める。
ひとりの少年が、誘惑者によって破滅していく、その本を。
俺は舌打ちをして、ベッドに向けて清浄魔術を投げつける。
せめてシャワーくらいは浴びて欲しいところだが、言ったところで聞きはしない。清浄魔術様様である。
彼は欠伸をひとつ噛み殺すと、部屋に向かってくる気配にも気にかけずごろごろと柔らかなクッションに埋まりながら読書を続ける。
キーが開く音と共にドアが勢いよく開き、少女が部屋へ飛びこんでくる。
「ねえねえ、聞いて聞いて」
勢いそのままに広い部屋を駆け抜けて、少女はベッドにダイブしてぽよんと跳ねると、楽しそうに言う。
「面白スキル手に入れちゃった!」
「へえ、いいね。どんなスキル?」
「好きな人をバラすスキル! 強制告白だって! アホみたいじゃない?」
「それは面白いね。宗旦に使ってみたら?」
「おいやめろバカ共」
バカの相乗効果は勘弁して欲しい。この少女もまた、男が人形化しない相手の1人。
とはいえこの少女もまた倫理感は同様にどこかに落としてきている。それは俺も人のことを言えた義理ではないが。
「宗旦にはキョーミないかな」
「それはそれでムカつくなクソガキ」
まだ中学生のこのガキは、あろうことかごろごろとしながら本を読むこの男の子供が欲しいと言って聞かない。
自分もまだ子供だという意識はないらしいが、まあガキってのはそういうモンでもあるし、この男にとって相手の年齢などは全く関係が無いのを俺は良く知っている。
この男と褥を共にすることは、最高の快楽と魂を引き換えにした悪魔との契約のようなものだ。
倫理感の欠片もない男が懐いた少女に全く手をつけないのも珍しいが、気まぐれで手をつけて捨てるかもしれない。
この男の行動だけは全く読めない。情報スキルをどれだけ使えても、理解はできないだろうしするつもりもない。
理解すればそれこそ気が狂うのではないかと思わせる邪悪さがある。
「だって宗旦の好きな相手なんてわかりきってるし。ライバルよね」
「誰が何のライバルだよ」
妙な誤解を受けて顔をしかめると、男が笑う。
「俺、お腹すいちゃった。宗旦、ごはん」
「俺はごはんではない。ルームサービスでも頼めばいいだろうが」
「宗旦を食べてもいいんだが」
「俺は良くない。舌噛んで死んだほうがマシ。はーお前らといるとしんどい」
机の煙草を手にとって吸う。肺を煙で満たす。
「宗旦」
煙草とライターを男へ投げつける。人が吸い始めると、欲しくなるらしい。
学生時代から変わらない。
「さすが詐欺師は人の機微を読むのが上手いね」
言って1本煙草を取って火をつけると、投げ返してくる。
「俺は詐欺師じゃなくて情報屋だっつってんだろ」
「相手が破滅する情報しか渡さないのに、よく言うよね」
この男の言う通り、俺は確かに、この男と同類ではある。人の破滅を見て、生きた心地を得る。そういう意味では同族かもしれない。
「お前も破滅させてやってもいいんだけどな」
紫煙と共に愚痴を吐けば、帰ってくるのはいつものセリフだ。
「そうしたくなったら、言ってくれればいい。その代償を俺も貰うよ」
結局のところ、なんだかんだ思うところはあれど、俺にとって『同じ人類』という枠にいるのはこの男だけだ。気まぐれで貪欲で人を破滅に導き世界を歩く。
その性質は周囲を破滅させながら、何故か当人だけはピンピンして笑っている。
腹を減らしたこの男の欲望は人を殺すし、この男の言う通り、俺の言葉も人を殺すのだ。
そして対等なのはお互いだけで、あとはにぎやかしのようなものだ。食べ飽きてしまえば残りがあれどもゴミ箱へ投げ捨てる。
俺たちの行き着く先は地獄しかない。
その地獄の存在が確定した今、俺たちは綱渡りを更に楽しく感じて、生きている。
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